『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』開幕直前レポ! 4人が紡ぐ「今」だけの奇跡の空間がここに。

『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』
開幕直前、稽古場レポ&キャストコメント到着!

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2022年3月 都内稽古場にて収録
撮影・取材/おーちようこ

ある日の都内稽古場。
『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』の通し稽古見学へ。休憩時間に伺った、その空間は実に和やかだった。それぞれに水を飲んだり、談笑したりと、思い思いに過ごしている。しかし10分後。
「通し、はじめます」
瞬間、空気がぱん、と変わり緊張が走る。

す、っと稽古場の真ん中に立つ、木村伝兵衛部長刑事役の味方良介さん。
写真を手に古式ゆかしき黒電話でどこかに電話をしている、お馴染みの場面だ。続いて矢継ぎ早に繰り出される、膨大な台詞。
富山から赴任してきた熊田留吉刑事には今回、初参加となる高橋龍輝さん。若々しく青臭い、けれど熱く真っ直ぐに正論を吐き、吐きながら傷つく。
その姿をときに茶化しながらも懐深く見守る、味方さん。最年少の24歳から6年間、木村伝兵衛を演じてきた重みを感じる。
紅一点の水野朋子刑事を演じるのは、新内眞衣さん。昨年の2021年『熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~』に続き、今年も挑む、その姿は変わらず可憐、けれど、どこまでも本音を見せない軽やかさがむしろ切ない。
犯人、大山金太郎に挑むのは一色洋平さん。2017年『熱海殺人事件 NEW GENERATION』で脇を固めた自身が、今回、満を持してメインキャストとして登場する。

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途中、乱入する者たちはいるが基本4人だけで作り上げるこの作品。それだけに座組によって、毎回、生まれる空気が異なるからおもしろい。
今年は──とてつもなくパワープレイで泥臭いのに、ものすごく話がわかりやすい。それぞれの心情が、迷いが、大切にしているものが、よりはっきり視える。
なぜか?
と考えたときに、おそらくだけれど全員の解釈の方向がピッタリあっているのではないか、と感じた。

解釈のズレをも楽しむ、すれ違いが生むその軋みさえ、褒め言葉として「見世物」にしてしまう力がある演目だ、と私的には思うのだけれど。この、2022年版は通し稽古後にうかがったキャストのコメントで明らかになるが、とても「思いが通じている」感じがした──なんというか、ものすごい豪速球で、けれど、きれいに台詞がパスされ、受け止め、返していき、より増幅されていく……まるで本番さながら(実際に熱が入りすぎたのか、味方さんはある小道具を破壊しました)の通し稽古を目の当たりにして、そんな印象を受けた。

今回、奇しくも全員が同年代。味方さんが現在29歳、高橋さんは公演時には29歳に。一色洋平さん、新内眞衣さんは30歳と、それぞれが節目を迎える、この歳の、今年しか観ることができない『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』の初日には期待しかない。

通し稽古後、4人のキャストにお話を伺った。

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味方良介さん

──意気込みをお願いします。

 昨年の『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ』に続き、何回、ラストをやるんだ、と皆さんもお思いでしょう(笑)。これはもう辞める、辞める詐欺です!!!

──とんでもないです! 毎回、異なる座組で、新たな『熱海殺人事件』を観せていただいています。

 確かにいろいろな形で演らせていただけるのはうれしい限りです。ただ、僕の中では昨年で一区切りだと思っていたので、こうしてまた演れるのであれば初心にかえり、作品を見つめ直して、自分なりの発見をし、作り替えをしていきたいです。
 だからこそ「また味方が木村伝兵衛をやってるよ」ではなく、ちがうものを見せつけたいし、新たな座組だからこそ届けられるものはあるのかな…と。そういう意味では『熱海殺人事件』には常に可能性があると感じています。その可能性に賭け、その日その瞬間の一番力強いものを皆さんと共有できたら幸いです。

──最年少で『熱海殺人事件』に挑み、ご自身が経験と年を重ねるほどに、熱や若さあふれる無我夢中な「木村伝兵衛」から厚みを増し、懐の深さを感じる存在へと変わっている、と毎回、噛み締めています。

 そう感じてもらえたらありがたいです。初めて伝兵衛を演じた24歳の『熱海殺人事件 NEW GENERATION』から月日が経ち、今年30歳になります。それだけ年を重ねれば、自分の経験値も価値観も変わっています。様々なものが変わっていくなかで毎年『熱海殺人事件』に触れ、膨大な台詞を稽古や本番でどれだけ吐いてきたことか……だからこそただ吐くだけじゃなく、叫ぶだけじゃなく、今まで以上に言葉一つ一つを意識して、より鮮明に、より正確な方向へ言葉を届けたいです。
 そんな自分が木村伝兵衛として迎える今回は、高橋龍輝も一色洋平もパワーで推してくるタイプで、それらを丸ごと受けて、いなして返す……そんな楽しさがあります。また、昨年の『熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~』を終え、改修工事に入り新しくなった紀伊國屋ホールに立つのが初めてなのでワクワクしています。このワクワク感、そして緊張感を兼ね揃えた力強い座組みで作る、僕らの『熱海殺人事件』を観ていただきたいです。

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新内眞衣さん

──実は2016年上演『墓場、女子高生』のパンフレット座談会をまとめさせていただきました。そのときビンゼという役を演じていて。当時、乃木坂46としての活動のなか、演劇に挑む姿に感じ入りました。

 そう言っていただけるとうれしいです。私、実はあれから6年後も女優をやっているとは思っていなかったんです……なんか、やっぱり演じる、って難しかったな、と思いましたし。とくにビンゼは、個性的な女子高生のなかでとても普通の役だったから、どう演じていいのか迷いましたし、すごく難しかったので。でも桜井玲香ちゃんが、私の出演作のなかで「ビンゼがいちばん好き」って言ってくれるから、演っていてよかったな、って思います。

──異端のなかの普通、として在る役は貴重だったと感じました。そして今回は4人で舞台に立ちます。

 去年の『熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~』に続き、二度目の出演ですが、当時は無我夢中で余裕がなくて。でも今回は、余裕……は、やっぱりないのですが、皆さん役の心情を汲んでくださる方ばかりなので気持ちが乗せやすい、と感じています。

──通し稽古を拝見して、台詞や心のやり取りが視えるようで。毎回、座組によって変わることがおもしろいです。

 そういう経験ができることが楽しいです。同じ役を2回演るのが初めてなので、どうなるんだろうな? と思っていたら、全然ちがう感じになって新鮮です。稽古のたびに自分の心が動くのがおもしろくて、毎日が発見の日々でもあり、すごく刺激的です。
 水野朋子刑事と被害者のアイコも演じるので忙しいのですが、感じるのは、この作品が50年もの間、上演され続けている理由のひとつに、女性というか人間の姿が普遍だからなんだろうな、ということです。引き止めてほしいのに素直になれないとか、痴情のもつれで事件が起きるとか、今も変わらないな、と。

──通し稽古でまさに、今、金太郎とアイコがすれちがった……という瞬間があり。あまりの緊張感に息がつまります。

 そうですよね……あの瞬間、手をにぎることができたら……でも、握ることができない。その切なさというか、どこにでもある人間関係を描いていることが魅力なんじゃないかな、と思います。

──最後に一言、お願いします。

 演出の岡村俊一さんの舞台に出演するのは2作目ですが、毎回、心がギュー、ってなるんです。でも、そこに負けずに華麗に舞いたいと思います。4日間だけの公演ですがご覧ください。

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高橋龍輝さん

──オリンピックを題材にした、2015年上演の舞台『いつも心に太陽を』以来の、つかこうへいさん作品、それも『熱海殺人事件』へのご登場、うれしいです。

 こちらこそ! 出演できたことが素直にうれしいです。ずっと観ていた作品だったので、いつか演れたらいいな、と思っていたので。ただ、演るなら大山金太郎かな? と思っていて。周りからも「金ちゃん、いいんじゃない?」と言われていたのが、今回「熊田留吉刑事で」と言われて驚きました。
 僕が観たときは細貝圭ちゃんや石田明さんの熊田で、結構、年上の方が演じていたので自分にできるかな? と思ったんですが、今年、29歳になるし、いけるかな、と思って実際、やってみたら、ものすごく楽しくて!

──通し稽古でもその空気はバシバシ伝わってきました! 熊田刑事の青臭さというか、熱さというか、ともすれば甘酸っぱい感じすらして、座組がちがうとこんなにも変わるんだ、と感じました。

 そう感じてもらえたらうれしいし、本当に演っていて楽しいです、熊田は。熱いし、真っ直ぐだし、ちがうことはちがう、って言うし。けっこう、一回、ギアが入ると変な方向に突っ走っちゃうところもあるんですが(笑)。僕自身、こういう男が好きなんですよね。だからものすごく楽しくやらせていただいています。

──さらに現在上演中の『修羅雪姫-復活祭50th- 修羅雪と八人の悪党』に出演しながらの稽古です。

 大変です(笑)。『修羅雪姫』は昨年の再演だし、最初はやれるだろうと思っていたんです。でも、そっちの役も、こう……ためにためて、ゴーッ! って一気に燃え上がる役で、熊田も熱血なので予想以上にエネルギーを使っています。でも、だからこそ気持ちいいので、今から『熱海殺人事件』の本番も楽しみです。

──がっつり芝居をする姿を突きつける今回、ですが、一言、お願いします。

 ストレートな舞台は昔から好きで、でも舞台は毎公演、何年やっていても緊張します。ただ、それは普段の生活では味わえない緊張で、それが好きで、また味わえるかと思うと、わくわくします。
 だからこそ、この状況でも観に来てくださるお客様には感謝しています。舞台を通して、明日も楽しく強く生きていこうと思っていただける力を届けるので、観にきてください。

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一色洋平さん

──実は最初に一色さんのお名前を知ったのは、原嶋元久さんの取材時でした。その後、芝居2016年の一色洋平さんと小沢道成さんの二人芝居『巣穴で祈る遭難者』で衝撃を受けました。2019年には「舞台『刀剣乱舞』維伝 朧の志士たち」岡田以蔵役で登場され、その迫力に度肝を抜かれました。
 今回は2017年『熱海殺人事件 NEW GENERATION 』以来の『熱海殺人事件』への出演です。

 ありがとうございます。『熱海殺人事件 NEW GENERATION 』では乱入する役でしたが、実は僕、稽古では金太郎の代役に入ることが多くて。今回も出演されている大石敦士さんは熊田の代役で入ることが多くて、ふたりとも役の台詞が入っていたんです。
 そうしたら味方くんが「せっかく稽古してきたから、この4人の『熱海』をやろうか」と言ってくれて。一回だけですが、夜公演がある日の昼公演にスタジオを借りてくれたんです。そこで誰も観ていないけど、味方くん、文音さん、大石さん、僕で『熱海殺人事件』を演って。「この4人だとこんな感じになるんだね」と、まあ成仏ではでないですが、やりきった……という思いにさせてくれて。

──味方さん、カッコ良すぎです! 懐の深い、木村伝兵衛部長刑事そのものです……。

 はい。だから本当の意味で、味方くんは5年前から僕にとっての部長で、今年も甘えさせていただいていて。ようやく、こうして刑務所に送ってもらえるね、感慨深いね、という話をしていました。

──大山金太郎という人は、水野刑事に「容疑者ではあるけれど犯人にはなれないの」と言われた瞬間、観ているこちらの認識が一気に変わります。そうか、犯人になるためには金太郎の、覚悟?みたいなものが必要なんだ、と突きつけられます。

 あー……あの、本当にこの『熱海殺人事件』というのは痛いところを突いてきて。金太郎としては絶対に隠したいことがあって「自分は極刑で構わない。構わないから、その過程でなにがあったかは探らないでくれ」という思いでいるわけですが、まあ、それが一筋縄で行かないのが、この捜査室、という空間であり、木村伝兵衛部長刑事という人で。
 でも、実はこういうことって、もっと小さいサイズでいっぱいあるなあ、と思っていて。「もう、俺が悪い、でいいから放っておいてくれ」みたいな。でも、そこで「わかった、じゃあ、死刑な」ってポーンとハンコを押すんじゃなくて「立派な犯人として死んでいく」ということが「罪を償うことである」ということを教えてくれる時間であり、場所であり……それは大山としてはキツイけれど受け止めなければならないな、と思っています。

──その金太郎として紀伊國屋ホールに立ちます。

 特別なものですね……つかこうへいさん✕紀伊國屋ホール。これ、完璧な掛け算だと思っていて。劇場って、それぞれに独特の匂いがあるんですが、ことに紀伊国屋ホールには演劇の汗が染み付いている感じがしています。その劇場でこれだけ長く続いている演目に出演者のひとりとして名を刻ませていただけることがすごく光栄でうれしくて、芝居をはじめた12年前の僕に教えてあげたいです。

──最後に一言、お願いします。

 登場する4人それぞれの、誰に感情移入をするか……ということではなく、4人それぞれのナニかがわかる、という2時間だと思うんです。自分自身の自戒も込めて言うと、今って、人とぶつかると簡単に関係を切ってしまう癖がついていると思うんです。それはSNSのミュートとかブロックにも通ずるところがあって。でも、つかさんの作品ってたとえ首の皮一枚でもつながっていたい……という願いみたいなものを感じていて。あの膨大なセリフ量はぶつかりながらも関係性を持つための分量なんじゃないかな、と思うときがあるんです。
 だから死刑が確定するまでに、誰も離れようとしなかったし、離れないでいようとしてくれていたことが、厳しくもあたたかい時間だったな、と感じてくれたら、今、この時代に上演される意義があるんじゃないかな、と現代っ子ながらに思います。観終わったときに、言葉にするのは難しいと思うんですが、なにかを感じてもらえたらうれしいです。

 

公式サイト『新・熱海殺人事件 ラストスプリング』

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