熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン 再演ではなく新作! 稽古場レポ+中屋敷法仁 多和田任益 鳥越裕貴 鼎談、到着
2024.7.3
2020年「改竄・熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン」から「改竄」が取れた理由(わけ)
初演は1993年、阿部寛さんのために書き下ろされた本作は、実に27年ぶり、つかこうへい氏没後10年となる2020年に奇跡の復活。
「改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」として、木村伝兵衛にこれまで「熱海殺人事件」で数多の役を演じてきた多和田任益さん、演出に中屋敷法仁さんを迎え上演された。
しかし、公演途中でコロナ禍に見舞われ中止に、再演となった2021年『改竄・熱海殺人事件』モンテカルロ・イリュージョン〜復讐のアバンチュール〜も中止となり、幻の作品となっていた。
そして2024年、紀伊國屋ホール60周年記念公演『熱海連続殺人事件』として、『熱海殺人事件 Standard』『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』上演決定!
今回、「改竄」の二文字がなくなった、その理由を知るべく稽古場に伺った。
登場するのは4人。
元オリンピック棒高跳び日本代表選手だった木村伝兵衛部長刑事役に多和田任益さん。
ある理由から伝兵衛を追う、新人刑事の速水健作役に嘉島陸さん。
女子砲丸投げ選手・山口アイ子殺害の犯人、大山金太郎役に鳥越裕貴さん。
そして、伝兵衛に思いを寄せる水野朋子刑事に木﨑ゆりあさん。
繰り広げられたのは、めくるめく歌謡ショー……のふりをした、ナニカ。選ばれた楽曲に、歌詞に、とてつもない想いが乗せられて、客席にぶつけられていく。
役者がセリフを吐く、動く、踊る、歌う、そこにシンクロするように演出家も動く、一緒にセリフをつぶやく──ここは、まさに創造の空間だ。
この日、行われた稽古は歌って踊る場面を中心とした稽古。そう、2020年当時の「改竄・熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン」と同じく、演出の中屋敷法仁さんが選ぶ数多の歌で劇中が彩られていく。
「でも、ただ選んでいるわけではなくて。歌詞の持つ力や意味をふまえて、この場面で、ここを歌ってほしい、と決めているんです。だから歌詞もセリフと思って聞いてもらえたら」
柔らかな笑顔で語る、その真意が気になる。
稽古終了後、中屋敷法仁さん、多和田任益さん、鳥越裕貴さんにお話を伺った。
観たらわかる
だから観てほしい
──公演決定、おめでとうございます!
多和田 2020年のキャストで再演できたら、と思っていたんです。ただ、うれしいことでもありますが、皆さん、忙しくされていて。紀伊國屋ホール60周年記念公演というこの機会に、中屋敷さんと鳥ちゃん(鳥越裕貴)と僕と新たなメンバーに、ゆりあちゃん(木﨑ゆりあ)と陸くん(嘉島陸)を迎えて上演できることになりました。
鳥越 この演目って、どれだけ仕事の経験を積んだか? よりも、どれだけ人間力を積んだか? で変わってくると思うんです。だから、本当にオリンピックじゃないけれど、何年にか一度は演りたいな、と思う作品です。だから、こうしてまた上演できることは感慨深いですね。でも、この作品はね、正直言って、オカシイですよ(笑)。
多和田 鳥ちゃんはオカシイ、オカシイ、っていうんですけど、まあ、本当にオカシイんですけど(笑)。でも、最高なんです。これはもう、本当に観てもらえればわかります。2020年に途中で中止になって、2021年も中止を受け、その思いを全部、叩きつける機会がようやくやってきたので、ぶつけます。
──今回、「改竄」の二文字が取れています。
中屋敷 このモンテカルロ・イリュージョン(以下、モンテ)は熱海殺人事件の20年後に書か上演されていて、改めてその意味を考えたんです。今回、特にスタンダード版と交互上演するからには、その差というか、いかにスペシャル変、というか、オカシイのか、ということを叩きつけたいな、とは思っていて。スタンダードな熱海からもあるけど、ここまで飛躍したものを、つかこうへいさんが残したという、その事実を見せつけるためにも上演を続けたい作品です。
ちなみに僕は「熱海殺人事件」をめちゃくちゃ勉強し尽くしてきたつもりがあって。だからこそ前回これまでは、初演のモンテをいかに僕なりの色にするか、ということを考えていました。ですが、今回は、なぜ、モンテが書かれたのか? とかいったことも含めてもっと手前から考えたくて、そう思ったら、改竄ではないな、となりました。
──特にモンテ版ではさらに人間関係が複雑に、木村伝兵衛と大山金太郎にも意外な縁が描かれます。
鳥越 そのために大山はみんなからボコボコにされるんですが、それがまた演じていて気持ちいいというか(笑)。まあ、そりゃそうだろうな、って思うけど、本当に些細なことから、あんなことになってしまう悲劇のような喜劇ってあると思うし。
なんというか、笑える切なさみたいなものを感じてもらえたら、と。で、なんでそうなってしまったかというと、補欠というか、控えというか、二番目である、という、どうしようもない哀しさ、苦しさみたいなものもあって。人間のいろんな側面が詰まっている作品だと思うんです。
中屋敷 つかさんの芝居にあるマジックみたいなものをたくさん使いたいな、と思っていて。本当に、ワンセンテンス、たった一行の言葉で関係性が全部ひっくり返ってしまうとか、言葉の真の意味が次のシーンになってやっとわかるとか、最初はただのギャグだと思って笑っていた言葉が実はシリアスな伏線となっているとか、観ている方々をじわじわと侵食していくような、凄みがある。熱海殺人事件という作品自体が、すでに魔法みたいな演劇なんですが、その熱海を観た世代が創る、その熱海を超えるような世界を残したいと思っているんです。
鳥越 僕は伝兵衛、速見、水野の3対1で、取り調べられる立場ですから、それはもう大変です(笑)。ともすれば、何だ、コイツらは! と観ている方々と同じ気持ちになる瞬間もあるんです。でも、そこからいかに引っ掻き回して撹乱していくか。その駆け引きみたいなものも楽しんでほしいです。
──今日の稽古でも前回同様、歌もたくさん歌っていますが、そこにも意味があるような細やかな演出を感じます。
中屋敷 そこはすごく考えています。なぜ、この曲なのか、この歌詞なのか、必然的な意味がなければいけません。もちろん気付かず、懐かしい曲だな、って聞いてもらってもいいんです。それが、あとから、あれってもしかして、こういうこと?……となってほしい。
多和田 なによりも歌って踊ることも楽しいんです。僕、シンプルに踊ることが好きで、歌も歌う機会もあったので、モンテにはそれらが詰まっていて、さらに、つかさんの作品も好きなので、ただただ僕の好きなもの詰め合わせセット、みたいな演目なんです。
中屋敷 わかるー。モンテの多和ちゃんは、ちょっと変だもん(笑)。僕が知ってる多和ちゃんとはちがうぞ、って感じる瞬間があるから。でも、観ているとだんだん、実はこれこそが多和ちゃんなんじゃないか? 今、本性がむき出しになっているな、と思ってしまうときもあって。
多和田 そんなことないですよ!(笑) いや、あるか……? ただ、この作品というか、全員の感情の矢印がすごく極端なんですよ。さらに、普段、絶対言わないような言葉、今の時代なら絶対にアウトな言い方や責め方がたくさんあって、いっそすがすがしい気持ちになれてしまって。
それはストレス発散できるとかではなくて、生身の人間が飾っている部分をかなぐり捨てて気持ちと気持ちでぶつかっているように感じられて、それがすごく気持ちいいんです。
鳥越 今回、新たに、ゆりあちゃんと陸くんが入ってくれて稽古していると、同じ台本なのに、全然、ちがうんですよ。俺、それがなぜなのかわかんなくて。今回もいろんな役で出演していただいて、長い間、つかさんに師事していた久保田創さんに聞いたんです。
そうしたら「つかさんの作品はその場、その瞬間に、その人から出てくるものを依り代にしているからね」みたいな話をしてくれて。だとしたら、人が変われば変わるよな。じゃあ、自分もきっとこれまでとなんかちがうモンが出てくるんだな、と思えて。それを試しながら、探りながらやってやる、と考えていて、今、そのことがすごく楽しいですね。
中屋敷 僕はつかさんにお会いできなかったのですが、つか作品の俳優さんを剥き身にさせるというか、追い詰めて格好つけさせない、みたいなところが大好きで。『熱海殺人事件』もですが、特にこの、モンテは設定がすごくたくさんあって、伝兵衛は刑事でオリンピック選手でバイセクシャルで、と設定を乗っけて乗っけて、いろんな方向から俳優本人の本性を炙り出そうとしているように感じていて。俳優さんにいろいろやらせることで、すべてを剥ぎ取って心のふれあいをさせる、みたいなことを演りたかったんじゃないかな、と思っているんです。
多和田 本当に「それ!」って思います……さらけ出さないと負けちゃうんですよね。スタンダードチームのように久保田創さん、河本祐貴さんといった力強い爆弾キャストが出てくれるわけでもなくて、最後まで演者は4人だけだから逃げ場がないというか。だ
僕ら演じる側に1枚、なにかカッコつけ……じゃないけど、かぶっているものがあると、役者同士でもわかるし、観ている方々にも伝わってしまうのかもしれない、という怖さがあって。今の中屋敷さんの話に、すごく納得する部分があって。だから、この作品は、苦しいけれど、おもしろいし、好きなんだなって、改めて思いました。
中屋敷 でも、今はまだですね。これから。
多和田 はい。まだです。でも、ここから一気に来ると思っていて。今は稽古を始めたばかりだから、お互いに手探りな状態ですが、これからどんどん初日に向けて上がっていくと思います! 鳥ちゃんの登場シーンとか、どんどん煽っていきたいし、伝兵衛としてみんなに火を付けて行こうと思っています。
鳥越 まあ、登場してからしばらく、僕は三人のコントというか、捜査シーンを眺めてますから、ゆっくり火をつけてもらいます。
多和田 いや、一気にぱーん! と行きます。でもね、鳥ちゃんは三人がかりでさんざん煽っているのに、そこにポンポンポンポン、次から次へと返してくる。それがナチュラルにできちゃう人。
その掛け合いも観てほしいです。とくに鳥ちゃんがね、また、三人それぞれが投げたナニカを全部を拾えちゃうんですよ。なんなら拾わなくて良いところまで拾っちゃう(笑)。だから、きっと目が足りないと思います。
鳥越 まあ、まあ、この作品はきっとそれくらいに過剰なのがちょうどいいよね(笑)。
多和田 確かに、全員が自分が演れることを模索して、全部、演っていますからね!
──最後に一言、お願いします。
中屋敷 あのー……僕、2020年のときにゲネプロ(最終通し稽古)でパソコンを閉じちゃったんです。いつもは画面のデータを目で追いながら観てるんですが、あのとき「あ、もういいや」って思えて。あとはずっと笑ってたんですよね。
多和田 あー、中屋敷さんだー、って。聞こえてましたねー(笑)。
鳥越 うん、すっごい聞こえてました。
中屋敷 実は自分の公演のゲネプロであんなに笑ったのが初めてなんです。なので、余計に中止になったことが悔しかったけれど、だからこそ今回、それを超えたいし、超えられると感じています。新たなキャストを迎えているし、曲数も増えているし、さらにパワーアップしているんですが、路線は変えることなく、よりオカシイ方向に向かって進みます。
多和田 公演すべてが中止になった2021年に3曲ほど増えているんですが、全然、増えた感じがしなくて。増えたことでむしろ、がむしゃらにやれていて、その曲や歌詞に納得がいっている自分もいて。やっぱり、中屋敷さんって天才なんだなって!
鳥越 わかる。すっごい気持ちが入る曲があって、それでより一層、気持ちが加速する場面もあるしね。
多和田 だから、なんだろう、もうなにも思わないで演れるというか。ただ、伝兵衛として在れるというか。変に気負うとかがなくなっている今が、すごく気持ちいいんです。
中屋敷 「改竄」を作ったときも、頭で考えるのをやめようよ、もう心と身体だけでやっていこうよ、と思っていたので、今回も、その振り切った姿を見てください。
鳥越 とにかく一度、観てください。初めて観る人も、きっと舞台のなんか、すばらしさみたいなものが伝わるので、皆さん、お誘い合わせの上で、ぜひ。なにかしら、どこかしらクセになる作品です。
多和田 なんか詐欺みたいですけど(笑)、難しく考えずに、一回、騙されたと思って浴びに来てください! 全身全霊で全てをさらけ出して、なんだったらもう、いろんなところから吹き出しちゃってる全部を受け取ってください。
中屋敷 一度、上演された演目ですが、決して再演ではありません。4年に一度のオリンピックみたいに、今回も、100%、金メダル目指して、毎公演、更新していきます。毎日、新作のつもりで演っているので、ぜひ、見に来てください。
満を持しての新作上演! 待ち遠しい初日は7月9日(火)。
2024年6月都内スタジオにて収録。
撮影・文/おーちようこ
紀伊國屋ホール60周年記念公演『熱海連続殺人事件』
『熱海殺人事件 Standard』
『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』
公式サイト http://www.rup.co.jp/stage/atami_2024.html
2024年7月5日(金)~ 22日(月)紀伊國屋ホール 各上演スケジュールは公式サイトへ。
『熱海殺人事件 Standard』
作:つかこうへい
演出:中江功
出演:荒井敦史 新内眞衣 富永勇也 高橋龍輝
『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』
作:つかこうへい
演出:中屋敷法仁
出演:多和田任益 嘉島陸 鳥越裕貴 木﨑ゆりあ