舞台『Take Me Out』2025出演、玉置玲央インタビュー。「40歳、少しは演劇を散歩できるようになりました」
2025.3.16
本作は2003年に第57回トニー賞演劇作品賞、2022年に第75回トニー賞演劇リバイバル作品賞に輝いた問題作で、日本初演は2016年。
再演された2018年で、メイソン・マーゼックに挑んだ玉置玲央さん。
7年を経た今年、自身をはじめとするレジェンドチームとオーディションによるルーキーチームの二組で新たに上演される本作に向け、「今」の自身の在りようについて、伺いました。
ときに考え、ふわりと笑い、とつとつと紡がれた、ことば、をここに。
メイソンという役を通して
とてもいいクリエイションができた
ーー物語はメジャーリーグのスター選手、 ダレン・レミング(章平)の告白から動き出しますが、ともすれば人々の価値観の相容れなさが可視化されてしまう物語です。それだけに、初演当時よりも作品テーマについて観客の理解度というか解像度が進んでいるかもしれません。
それはあると思います。7年経って、より身近になった方もいれば、ともすれば遠くなった方もいると思っていて。だから、2025年の今、上演されるうえで、どう真に迫っていくのか? 逆に迫らないで繰り広げるのか? に僕も興味があります。初演から演出を手掛けている藤田俊太郎さんがどういう方針で進めていくのか、突きつけるのか、寄り添うのか、恐くもあり楽しみでもあります。
7年という時間はやっぱり長くて、たとえばコロナ禍があって人々の生活が激変して、世界的には戦争が始まって今も続いている。「戦争が始まる」ってとんでもないことじゃないですか。それらを経た、今のお客様がどう受け取ってくださるのかを本当に測りかねています。
ただ、その一方で、どう演じようと受け取り方はお客様の自由でいいと思うんです。けれど、演る側として僕らは明確に「ここを目指す」ことを定めることは重要なので、覚悟を持って取り組まなければならないかな、と思っています。
ーー公式サイトで発表されたコメントに「個人的にはメイソンという役が自分の演劇人生に於いて重要な役になっている」とありました。
そのメイソン・マーゼックは、ダレンの告白によるチームの混乱をよそに、会計士としてダレンと出会い、生まれて初めて野球に触れ発見したおもしろさを夢中で語る、ある意味、無垢な存在です。ですが誤解を恐れず、お伝えすると玉置さんはどこか人外といったイメージで……役とは遠い印象なので、そのことが意外でした。
人外……わかります(笑)。それについて説明すると、メイソンという役を通して、とてもいいクリエイションができたことがデカかったんです。もちろん、そこには作品のおもしろさであり、座組の豊かさもあったんですが、なんというか……自分がメイソンと寄り添えた感覚があったんです。
演劇を演るうえで役に取り組むって、圧倒的に自分とはちがうものにならなきゃいけないことのほうが多いんです。語る言葉や価値観、概念といったものが自分のなかになくとも、表現するために無理しなきゃならないこともいっぱいあるんです。もちろん、取り組むうえで一切、気にせず好き放題演ってもいいし、それが向いている人もいるんだけど、僕はそういうことをじっくり考えるのが好きだから、大真面目に向き合っちゃうんですよね。で、まあ、たいていは苦しむんですが(笑)。
でも、メイソンはちがったんです。これは今回、いろいろな取材で答えながらたどり着いたことなんですが、メイソンが語る野球の魅力や向き合う言葉が、自分の演劇に対する思いと同じだと感じられて、それが当時の僕にとって救いになった部分がいっぱいあったんです。
ーー救いとは?
メイソンを演じた2018年は、自分にとっては過渡期だったから。
ーー過渡期というと?
言ってしまえば、自分がこれから俳優として売れていくのか、そもそも所属している劇団(柿喰う客)を辞めるのか、俳優自体を続けていくのか……という思いにとらわれていたんです。
そんなときに、野球について楽しそうに語るメイソンに出会い、演劇もそうだなって思えたんです。もちろんすべてが同じではないけれど、メイソンを演じることにすごく手応えがあったんです。それまでもいろんな役をいただいてきましたが、あの当時、まさに自分の気持ちと重なって、とても大切な役になりました。
ーー結果、俳優を続けられています。7年経って、変化はあったのでしょうか?
先にも言いましたが、やはりコロナ禍の影響は大きかったです。演劇の価値をものすごく考えたし、同時に演劇も豊かだけれど、世界にはほかにも豊かなものがたくさんある、と知れた機会でもあって。
だから、大切な人と家族になりました。ずっと盲目的に演劇だけを愛していましたがコロナ禍でその演劇ができなくなって、「もしかしたら明日、孤独なまま死んでしまうかもしれない」と想像したときに、嫌だなと思ったんです。そのとき演劇のほかに大切なものはなにか? と考えたら「家族」という答えが明確に生まれました。
同時に自分にとってなにが大切かを考えるなかで、ずっと標榜していたことがあって。それは、たくさんの尊敬する先輩方は、あんなにも軽やかにお芝居に関わっているんだろう、ということでした。
ーーどういうことでしょう。
今もよくわかっていないんですが……先輩方が、演劇というものを特別視せず、こだわりなく取り組んでいる姿を、僕はずっと「演劇を散歩する」と表現しているんです。走るでなくガツガツと速歩きするでなく、ふらふらと好き放題に歩いている印象があって。
そんなふうになりたいな、なるにはどうしたらいいんだろう、と思っていたんですが、最近、ようやく自分もちょっとはお散歩できるようになってきたのかな、と思えるようになりました。それは、じわじわとした変化でしたが、自分がだんだん平坦というかフラットになっていけているというか、幸せなことに、いろんなことが当たり前なことになった、というか。
ーー経験の蓄積がそうさせている?
そうですね。いろんなことが見えるようになって、平静でいられるようになったというか。だから劇団の後輩が、かつての僕のようにがむしゃらに突っ込んでいく熱い姿を見て、うらやましいな、とも思うこともあります。ガツガツしているからこそ豊かになれることもあるだろうし、燃え続けていたほうがいい場合もあるな、でも、そうでなくてもいい、ということに気付けるようになったというか。
たとえば、昨年、出演した『朝日のような夕日をつれて2024』で、10年前の2014版で僕が演じた「少年」を(一色)洋平が演じていますが、稽古場で昔の自分よりも全然、冷静さがない様子が楽しくて。つい「もうちょっとシンプルに考えたら?」と言ったら、演出の鴻上(尚史)さんに「玲央、うるさいぞー。今は俺が演出してるから」って止められちゃって(笑)。あ、僕もこういう怒られ方をするようになったんだな、と愉快な気持ちになりました。怒られて愉快になるって変ですが、そんなふうに思えるようになったんです。
これしかやれないし
やりたくはないし
ーー3月には初のフォトエッセイ『では、後ほど』も発売されます。
写真は自分で撮ったり、撮っていただいたりもして、エッセイは40歳にちなみ、40本! 楽しく書きすぎてしまい、文字数が多すぎて、編集が大変になっておられるみたいです(笑)。こうして俳優とはまたちがった仕事の機会をいただけることも大きな変化です。転機だったと感じているのは、昨年のNHK大河ドラマ『光る君へ』です。藤原道兼を演じ、より多くの方々に知っていただく機会があり、そこから広がった分岐のひとつに、こういったお仕事をいただけた、と思っていて感謝しています。
同時に、お受けした理由のひとつに、僕自身が発するものに対してクオリティや豊かさ、おもしろさ、すてきさを担保する必要はあれど、こんなことを書いたら失望されてしまうんじゃないか、と言った不安を意識しなくなったこともあります。それだけ自由になったというか、フラットになったというか、活動フィールドが増えたことも大きいと思います。
ーー先程、見えるようになったというお話がありましたが、視点の位置も高くなったのではないか、と。
そうですね、俯瞰で見えることが増えたというか。実はここ一週間くらい、今現在の自分が、どう進歩……進歩というか、どこに向かいたくて、なにをやりたいのか、どうなっていきたいのか、みたいなことをものすごく考えているんです。
それは本当にたまたまそうなっただけで、考えるぞ! と始めたわけではなく、いろんなことが重なって、巡り巡って今、そういう時間が生まれたという感じで。でもその答えがすぐに出るかというと、そんなことはなくて、何十年後とかに出るかもしれない。でも、これまでもそういった試行錯誤を繰り返して、繰り返して、今やりたいことをやる、やりたくないことはやらない、ということに至ったんです。
ーーそうした覚悟みたいなものは、おのずと見る側にも伝わるのではないかと。
そうだと思います。にじみ出ると言うか、この気持ちは絶対板の上に乗るし、映像にも乗ってしまうかと。だからこそ、そこを核にして進んでいけばいい、と思えたんですよね。以前は、次のキャリアにつながるのかとか、お給金のことに惑っていたのが、ようやく迷わなくなって。
ただ、この先も生きるためにちょっとずつ、妥協、という言い方があっているかわからないんですが、あえて譲ることも出てくるだろうけど、今ただ、極力やりたいことだけをやっていきたい。40歳になって、そういうフェーズに入っているみたいです。
ーーその在りようを今回、お届けできることがうれしいです。俳優は、役として生きながらも求められる演出に対し、ここに立ち、こう動くということに応え、決められた台詞を覚えて言う、というように心身を自在に操る、とんでもない仕事です。
そう言っていただくと恐縮ですが……言葉を選ばず言ってしまうと本当にドM(笑)な仕事だと思います。でも、だからこそいつ辞めるともわからないな、と思いつつ、結局辞めないんだろうな、とも思っています。それしかやれないし、やりたくはないし、生業なので、続けるためにはどうしたらいいかとも考えていて。
そのためにはメンタルを整えることであり、プライベートを充実させることでもあり、それを糧に非日常というか、板の上で演じることをがんばることで、そのバランスを考えるための今、だと思っているんです。だって、僕、40年後の80歳で一人芝居『いまさらキスシーン』(2016年上演、無料公開中)を演りたいから。
ーー絶対、観たいです! その実現のために心がけていることは何でしょう。
散歩ですね。あとカメラ。今日も持ち歩いてますが、時間を作っては数時間写真を撮りながらあちこち歩いていて。
ーーそれがそのまま、ご自身の表現になっているのでは?
ああ、そういうこともフォトエッセイに書きました。自分がなにを大切に思い、なにを届けたいのか、そういったことがつまっています。これも玉置玲央なので、形になることがうれしいです。
ーー最後にひとこと、お願いします。
今日、とてもすてきな話をさせていただきました。先日、『朝日のような夕日をつれて2024』DVD発売に向けて、鴻上さんと僕らキャスト5人(玉置玲央、一色洋平、稲葉友、安西慎太郎、小松準弥)でオーディオコメンタリーを収録しましたが、そのとき、10年後に僕が50歳になって、鴻上尚史さんが76歳のときに、また演りたいですね、っていう話をしていました。僕、ぎりぎりやれると思うんですよね。ただ、鴻上さんが『朝日~』は時代が一個、変わるタイミングでないと上演が難しいという話をされていて。そういう意味では、2024年版に出演できたことは本当にタイミングでした。
そんなふうに時代の節目や僕自身の節目だと思えるときに、『Take Me Out』のような時代を映す作品に出演できることも巡り合わせだと思っています。このタイトルを藤田くんが「ここではないどこかへ連れ出してくれる」と紹介していて、この作品が僕にとってだけでなく、今回、挑戦する俳優にとっても、観劇してくださる方々にとっても、そんな機会になれるよう、できることをすべてやります。
プロフィール
1985年、東京都生まれ。劇団「柿喰う客」に所属。2018年に映画『教誨師』で第73回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞。舞台を中心に活動しながらも、ドラマ「恋する母たち」(20年)、「大奥Season2」(23年)、大河ドラマ「光る君へ」(24年)など映像作品にも出演し、注目を集める。
オフィシャルX(旧Twitter) @reo_tamaoki
2025年1月収録
撮影・取材・文:おーちようこ
舞台『Take Me Out』2025
【作】リチャード・グリーンバーグ
【翻訳】小川絵梨子
【演出】藤田俊太郎
【出演】
レジェンドチーム:玉置玲央、三浦涼介、章平、原嘉孝、小柳心、渡辺大、 陳内将、加藤良輔、辛源、玲央バルトナー、田中茂弘
ベンチ入り(スウィング):本間健太
ルーキーチーム:富岡晃一郎、八木将康、野村祐希、坂井友秋、安楽信顕、近藤頌利、島田隆誠、岩崎 MARK 雄大、宮下涼太、小山うぃる、KENTARO
ベンチ入り(スウィング):大平祐輝
【東京公演】2025 年 5 月 17 日(土)~6 月 8 日(日)
会場:有楽町よみうりホール
【名古屋公演】2025 年 6 月 14 日(土)・15 日(日)
会場:Niterra 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【岡山公演】2025 年 6 月 20 日(金)・21 日(土)
会場:岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
【兵庫公演】2025 年 6 月 27 日(金)~29 日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
(デイビー・バトル役は宮下涼太が出演)
【オフィシャルHP】 https://takemeout.jp/
【オフィシャルX(旧Twitter)】 @takemeoutJP