平野良さん連載コラム『忘備録(仮)』第3回 美術、音楽、衣裳の打ち合わせ。
2026.8.26
こんにちは。
俳優にして演出家、平野良さんのコラム『忘備録(仮)』当サイトにて連載開始!
新作上演に向けて「ある演劇が初日を迎えるまで、迎えたあと」を独自の視点でつづっていただきます。
「カインとアベル~兄弟寓話コレクション第一弾~」
『平家!兄弟』

第3回 美術、音楽、衣裳の打ち合わせ。
猛暑振るう真夏の都内某所で、美術プラン、音楽の方向性、衣裳の方向性の打ち合わせが行われた。一気にこんなに打ち合わせしてもきっと私の頭は回転数を上げられず、ついて行ける気がしなかったが、物事とは動き出さないと動き出していかないのだ。しかしながら作品を良くしたいという気持ちは紛れもなく持ち合わせている……つもりではいるので、打ち合わせ前夜にぼんやりと「いい演劇とは?」の思考の海を漂った。
心を動かすもの。
芝居、舞台美術、演出、身体表現、音楽、チームの必然性、共感、新しい価値観、憧れ……きっと全ての要素がうまく繋がっていくことが心を動かしていくのだろう。
今作の根幹はなんなのだろう。運命の無情さ? その中で光る幸福の発見? 人を想うことの大切さや重要性?……きっと考え続けて作っていくのだろうな。
打ち合わせは美術プランから始まった。今まではプロデューサー(以下P)と作家の赤澤ムックさんとの打ち合わせだったが、この日は初めて舞台監督の中西隆雄さん、美術の秋山光洋さんと照明の高山晴彦さんを交えての会議である。とはいえこの御三方は何度も私の演出を支えてくれているので初めての打合せ感はない。舞台美術は、Pとムックさんと前回の打ち合わせの時に、「なんとなくなんだけど、全部紙で出来た世界なんてよさそうじゃん?」と雑談はしていた。その意向はPから秋山さんに伝達されているらしいが、果たして秋山さんはどんなプランを提案してくれるのかドキドキワクワク。
と、おもむろに「こんなのはどうかな?」と図面というかラフ画? を展開する秋山さん。巻物をモチーフにしたシンプルながらも今作のテーマを射抜いたプランに興奮した。私が提案した全紙プランは、全ての紙に防炎処理をしなければならず予算がかさんでしまうらしい。考えてみりゃそらそうだ。舞台は沢山の照明があり、その熱で燃えてしまう可能性がある。失念していた。また一つ勉強。視野を広く持つことを教わった。
概ね秋山さんのプランを採用し、細かい仕様などの新たな提案をしたり、「この方向性であれば、こんな照明も良さそうだよね」と高山さんが可能性を広げてくれたりと、今後の展望に話は盛り上がるも、劇場に確認しなければいけないこともあるから、舞台監督の中西さんに確認してもらいつつ予算の整理なども含めて続きは次回打合せでということになる。美術打ち合わせの動き出しとしては上々ではないかと手応えを感じられる良き時間だった。
さて続いては音楽の方向性の打ち合わせ。今回初めてタッグを組む、こおろぎさんとの初顔合わせ。実は私が役者として参加した舞台『日本三國』の音楽も手がけていたので、全くの初めましてではないものの、お話しするのは初である。SNSのヘッダーが個性的なビジュアルだったので、ものすごくとんがった人物だったらどうしようなどと思っていたのだが、仏のような穏やかさの凪いだお人柄だった。この時点で、「カインとアベルがいる神の世界」と「平家兄弟の世界」のテーマ曲は制作してくれていた。神の世界はなんとなく西洋の曲調や管楽器のイメージで、平家はその時代その場所にしかない楽器やリズム感でとお願いしていたのだが、そのどちらも想像以上に素晴らしい出来で、曲から物語が飛び出してきそうだった。あとは今後どのようにして本編の楽曲を制作していくのかの摺り合わせ。こおろぎさんは、「台本のこの場面でこういうのが欲しいと言ってくれれば」とのことだが、他力本願の私は「こおろぎさんが、このシーンでこんな音楽が流れてたらいいなと思うものをどんどん勝手に作ってください」と我儘を爆発させた。
今作は音楽が流れている時よりも、音楽がなくなった時のインパクトで芝居を作っていきたいと今は思っている。きっとまたすぐに変わるかもしれないが。
あと音の出どころをはっきりとしたいとお願いした。すると、こおろぎさんは賞味期限ギリギリアウトの牛乳を口にした時のような、なんともいえない表情をした。それはそうか。音の出どころってなんだと意味がわからないだろう。私のいう出どころとは、急にどこからともなく音楽が始まるのではなく、実際にその場所から発生した音が繋がって音楽になりたいということ。具体的にいうとギターもないのにいきなりギターの音が聞こえたら、これはどこから出た音なんだと思わないだろうか。思わないか……どうなんだろう、私だけなのか。まあ全てとは言わないができる限り音は現実的なところから発生したいのである。こんなふんわりとした漠然とした我儘を滔々と話す私に、こおろぎさんは辟易したのではないか。不安だ。
しかし「まあ、やってみないことには分からないから、やってみます」と心強いお言葉をいただいた。これから一緒に制作していくのが楽しみだ。
最後に衣裳の方向性をオンラインで打ち合わせ。こちらも付き合いが長いEIKIさん。あまりオーダーすることもないくらい信頼しているので、「基本お任せします」と言葉通りの丸投げをする私。そして「はーい」と返してくれるEIKIさん。打ち合わせとは?を考える内容だがありのままを書くとこうなのだから仕方がない。ただ先ほど打ち合わせした美術プランを共有し、空間にあるエネルギーと、衣裳が発するエネルギーが喧嘩しないようなバランスは大切にしたいので、今後具体的にこんなのはどうかと資料が来たら、細かく相談、作戦会議をしていくだろう。
このように「舞台が出来るまで」を書かせていただいている私だが、私以外のところで舞台ができていっているのがお分かりいただけただろう。演出なんぞ大層な肩書きだが私はどちらかというと、一番最初のお客さんの感覚なのかもしれない。なのでこれからも、作品ファンの最古参として、皆さんにその魅力をお伝えしていこうと思う。
