つかこうへい七回忌の新作『引退屋リリー』私的レビュー/高橋美里

スターがそこにいる、それがテーマだ。

 

引退屋リリー 最善席

 つかこうへい7回忌特別公演と銘打たれた新作未発表戯曲「引退屋リリー」は、主演に馬場徹、ヒロインに人気海外ドラマ「Heros reborn」出演中で今作が初舞台となる祐真キキを迎えて上演が発表された。出演者はつかこうへい作品ではおなじみの山崎銀之丞、吉田智則。若手俳優からは町田慎吾、宮崎秋人、鈴木裕樹らが、舞台「AZUMI」「夕陽伝」からの続けての抜擢もあり、「つかこうへいの新作」「初演」という要素も相まってとても期待が高まる公演となった。

 舞台は敗戦から復興した日本。世界がベトナム戦争の衝撃に揺れるなか、自殺の名所とされる犬島を巡る物語となる。心中のため父に連れられ犬島に向かった女・玲子(祐真キキ)が、一人生きて帰ってくるところから事件は始まる。犬島の秘密を探っていた警視庁の刑事二階堂(馬場徹)は、心中事件の参考人として玲子に接触し、やがて戦後日本の歴史に隠された重大な謎へと迫っていく。一方で映画監督の山崎(山崎銀之丞)は玲子にスター性を見出し、彼女を主人公としたドキュメンタリー映画の撮影を始める。撮影は犬島の住人である慎之介(町田慎吾)やマコト(宮崎秋人)の協力を得て進むが、それを妨害しようとヤクザの亀田(鈴木裕樹)が現れる。現実と撮影が交錯していく中で、玲子は少しずつスターとして目覚めていく……。

引退屋リリー 最善席

引退屋リリー 最善席

 つか舞台の特徴である怒涛の長台詞はこれでもか! と、まるで客席を物理的に攻撃しているかのようだ。台詞に気持ちを乗せ、音にして、意味を持たせる。発声するだけでも大変そうなあの長台詞を2時間の上演時間中噛まずに語りきる馬場徹は今回も圧倒的。歴史に残るであろう今回の上演に関しては「主人公である二階堂を馬場徹が演じるという前提ありき」だったと演出家の岡村氏がインタビューで語っていたように、台詞がないシーンでも姿を追ってしまうほどに、そのスピードと熱と存在感で物語をひっぱり続ける。

 裕真キキは視線ひとつで男たちを魅了してしまう玲子という役柄だが、充分にその魅力を発揮していた。作中の映画においても観客を引き込むオープニングシーンとして語られる玲子登場の演出は、声も表情も見えない・聞こえない中、映し出されるシルエットだけ。それなのに舞台を観ている我々も釘付けにするほどだ。

 他の役者たちもそれぞれ役にはまった個性を見せている。町田慎吾は役柄のインパクトも大きいが、作中の重要な秘密を語る場面は特に注目だ。特技である身体をつかったダイナミックなパフォーマンスも必見。鈴木裕樹演じるヤクザの亀田は登場シーンで観客を引き込む。動きも台詞も荒々しいが、ゲネプロ後の囲み取材では「(亀田の)根っこの部分にある歪みや臆病なところがああいう形になるのではないかと思っているのでその面白さが出せたらいいなと思います。」と語り、その通りとても愛嬌があって憎めない。マコトを演じる宮崎秋人は「個人的にはマコトとしてなのか宮崎秋人としてなのかわかりませんが汗と鼻水はどれだけ流しても足りないなと思いました」と語ったように感情の全てをもって台詞の力を爆発させている。玲子への思いを吐露するシーンでは汗と涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらの熱演を見せる。そんなマコトにも思わず笑ってしまうシーンがある。「どんなことでも許される、それがスターなんです!」というくだり。マコトが突然「俺も許されてることありますよ」と言い始めエピソードを紹介するのだが……

 観劇した両日ともに、緊張した面持ちが印象的だったマコトの日替わりパート、初日は日替わりだと意識する間もなく緊張感が走り思わず笑ってしまうシーンとなったが、2日目の日替わりでは山崎が「緊張した顔しやがって! 稽古場からチャンスやってるのに一回もうまくいかない!」と笑いながらマコトの頭をはたく場面が印象的でした。マコト、山崎、舞台上でその2人を見守る二階堂との掛け合いなど、何が起きるかはお楽しみ。

引退屋リリー 最善席

引退屋リリー 最善席

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 役者が役を活かす――それは大前提なのだけれど、今作は役者として生きる人間、あるいは人間として生きる役者を描き、その本質を問う作品でもある。「傑作かどうかは足を運んでくれたお客さんが決めることだ」と、劇中で山崎が言う。おそらく初見ではこの物語の謎の全てを把握することは難しい。頭をからっぽにして席について1回目は全ての謎を抱えたまま帰路についてほしい。きっと2回目は冒頭のシーンから、「ああ!」という解決の驚きと喜びがある。

 これぞエンタテイメント、さあ、ぜひ劇場に足を運んで、未だかつて誰も見たことがない「つかこうへいの新作」がどんなものなのか、観て聴いて、感じてほしい。

引退屋リリー 最善席

引退屋リリー 最善席

引退屋リリー 最善席

本舞台は現在上演中、3月7日(月)まで

 

文/高橋美里(観劇日2/18、19、23、25、26、3/4 予定)
撮影/おーちようこ・中川實穗 2月18日ゲネプロにて

 

つかこうへい七回忌特別公演「引退屋リリー」

http://www.rup.co.jp/lily.html

作 つかこうへい
演出 岡村俊一
出演 馬場 徹 裕真キキ 宮崎秋人 町田慎吾 鈴木裕樹 吉田智則 山崎銀之丞
東京・新宿:紀伊國屋ホール 2016年2月18日(木)~3月7日(月)

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