「わからない、が、わからない!?」 梅津瑞樹さん主演『バックステージ オン ファイア』ってなんだ?
密着取材第1弾 グッズ撮影・初本読みレポート!
「わからない、が、わからない!?」
梅津瑞樹さん主演『バックステージ オン ファイア』ってなんだ?
撮影・文/おーちようこ
「なにがわからないか、わからないんです」
穏やかな笑顔で語るのは、演出を手掛ける川本成さん。それもそのはず、2022年12月25日(日)に前代未聞の舞台が幕を開ける。タイトルは、ライブストリーミング演劇『バック ステージ オン ファイア』。この日、都内スタジオで行われていたのは、主演の梅津瑞樹さんのグッズ撮影だった。
衣裳のスーツと役としての私服をイメージした姿とでカメラの前で次々と「演じて」みせる梅津さん。役どころは、とある地方都市の市民ホールで開催される市民文化祭の進行責任者・新井拓海。
描かれるのは当日の舞台裏。
文化祭を盛り上げるべく生配信を企画したものの……次から次へとトラブル発生! 遅刻する出演者、優柔不断な上司、行方不明になる小道具、事態をおもしろがるディレクター。ついには収拾がつかなくなり配信を打ち切ろうとするが──果たして無事に文化祭は終わるのか?
これらの様子を一台のカメラで撮影、リアルタイムで丸ごと全編、配信するという。つまり、梅津さんは出ずっぱりで舞台の袖から楽屋へとトラブルに対応しながらも、配信を続ける「新井」として走り回ることになるという。
セッティングの合間に渡された台本を改めて読み耽る梅津さん。イメージをふくらませているのだろうか、撮影された写真のモニターを見て、ぽつりと。
「『新井』なのに、かっこいい(笑)」
確かに!
というわけで、かっこいい(?)新井から、だんだんと困り果てる新井へとさまざまなポーズが飛び出すことに。果たして、どんなグッズが完成するのかは、お楽しみに。和気あいあいと、この日の撮影は終了。
あくる日。都内稽古場。
最初から最後まで通して、初の本読み。今回は舞台上での演劇ではなく、カメラを回しながら劇場のあちらこちらを移動して演じるので「模索しながらの稽古になりますが、まずは流れを覚えていきましょう」と川本さん。切りのいいところまでを読んでいくことに。
主演の梅津さん以外は、川本さんとアンダーの役者さんがセリフを読み上げていく……が、すでに本番さながらに感情豊かな掛け合いが! すごい。
新井として困ったり、嘆いたりするセリフ、ひとつ、ひとつに「掛け合いはそのまま、セリフの最後だけを相手に渡すことを意識して」「配信レポートでの明るさと、ぶつぶつと文句を言う素が出る瞬間とのギャップがあるといい」と川本さん。それらを受け、即座に抑揚を変え、感情を乗せ「新井」を創り上げていく梅津さん。
「新井はテンパる設定だから、セリフを噛むことがあってもいい。むしろ、トラブルが起きたらおもしろいし、そこを楽しんでほしい」とも。ところどころ移動する導線について相談しながら、感情の流れを確認していく。まさに今、この「場」で作品が生まれている。
途中、「バックステージを見せるわけだから、観客向けの配信開始を(作中の文化祭開演の)10分前にしちゃうってどうかな? 臨場感があってよくない?」と川本さん。
同席していた荒川ヒロキプロデューサーも賛成し、このアイディアは即採用。後日、配信時間が変更された。この軽やかさが心地いい。初めてのことだらけだからこそ、なにごともやってみて確かめる。すべては「おもしろい作品を届けたい」という想いから。
かくして、とても「初めて」とは思えない熱量で本読みは終了。この様子は録画され、実際の舞台となる劇場で現地チームがセリフにあわせて動き回り、カメラワークを調整するという。すべてが手探りで動き出した、この作品はどこに着地するのだろう──今から目が離せない。
レポに続き、本作を企画したプロデューサーの荒川ヒロキさん、演出の川本成さん、そして主演を務める梅津瑞樹さんの本読みを終えたばかりの「今」を、ここにお届けする。
地元、石川県から、おもしろい作品の発信を。
現在、石川県を拠点にしている荒川ヒロキさんだが、実は舞台やライブ映像演出も数多く手掛けている。
その活動は多岐に渡り、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」シリーズ、ミュージカル『刀剣乱舞』 にっかり青江 単騎出陣といった2.5次元舞台から、シソンヌライブ[onze]や舞台『死神遣いの事件帖 -幽明奇譚-』と実に幅広い。そんな自身がなぜ、この舞台制作を決めたのか?
──企画の立ち上げについて伺います。
いちばんは石川県にも、というか東京以外にもおもしろい演劇人はたくさんいる、ということを地元から発信したかったからです。同時にやっぱり未だにコロナで中止になる舞台もあるので、少しでもそのリスクを減らして演劇の公演をやれないか、と。
観客も「演劇の配信」という新たな文化を受け入れていますが、ただ無観客舞台を配信するのではなく、もっとちがう形があるのではないかと考え今回のライブストリーミング演劇を企画しました。そこで、映像演出の仕事をご一緒し、多くの舞台制作を手がけているネルケプランニングさんに相談したところ、一気に話が動き出しました。以前、劇団を主宰していたことはありますが制作は初めてなのでいろいろと助けていただいています。
ただ、僕は目標を決めて走り出すタイプではなくて。ぼんやりと「きっと、これは大変だぞ……」と思いながら、なんとなく模索していたんです。でも、だんだんと地方に拠点を持っていて、東京での経験があって、映像を扱うことができる、という強み持つ、自分だからこそできることがあるのではないか? と思えたので「やる!」と宣言しました。あえて言っちゃうことで、引き下がれないようにしたという感じです(笑)。
──初通し本読みを終えましたが、演出の川本成さん、主演の梅津瑞樹さんはいかがでしょう。
実は昨日までが不安のピークで、今日の本読みで完全に不安は払拭されて、今は安心しかありません。川本さんに演出をお願いしたのは、今回の作品に必要なことをすべて持っている方だからです。ご自身が脚本・演出だけでなく役者として経験があり、さらにTVにもご出演されてたりと生の舞台も映像も知っている方で、この作品を導いてくれる、と思ったんです。実際に今日もわかりやすくてていねいに進めていただき、稽古の進め方や課題を洗い出してくれて、とても心強かったです。
さらに梅津くんが「この作品がどういうものか?」を的確に捉えて、新井を演じてくれていることが伝わってきて、お願いできて本当に良かったと思いました。当初から、この試み自体をとてもおもしろがってくれていたので、ここから公演当日までにどう進化するのか僕自身も楽しみになりました。梅津くんも川本さんも変なことをどんどんやってくれるので、変な作品になると思います。
──こうして実際に動き出していかがでしょうか。
ちょっと話が飛んじゃうんですが、これまでの僕の人生のターニングポイントというか閃きがあって。ひとつめは19歳のときに下北沢駅前劇場で村上大樹さん主宰の劇団『拙者ムニエル』の『新しきペンギンの世界』という舞台を観たときです。そこでの映像演出に驚いて、舞台での映像演出はこれからきっと主流になると感じました。
ふたつめが EXILEの松本利夫さんの一人舞台『MATSUぼっち』に映像スタッフとして参加したときです。僕が観てきた小劇場の舞台と客層が完全に異なっていて。若い世代の、それも女性がたくさん観に来ている事実に驚きました。そこから2.5次元舞台に関わるようなって、2.5次元は演劇のメインストリームになる、と確信しました。
そして、みっつめがこの企画です。これをきちんと形にして届けることができたら、またひとつ、なにか、新たしい演劇の形になるんじゃないか、と感じているので、まずは全力でやってみたい。成功すれば新たな配信フォーマットになると思うし、失敗しても事例がひとつ増えることで後に続く人たちに伝える何かは残せると思っているんです。
荒川ヒロキさんTwitter @stackpictures
この舞台は成功しても失敗しても、成功です。
テレビアニメ『テニスの王子様』の河村隆役をはじめ、声優やナレーションとしても活動する川本成さん。しかして、その演劇経験のスタートは高校生当時、萩本欽一さん主宰『欽ちゃん劇団』の映えある1期生から。
そこで結成した、お笑いコンビ「あさりど」のツッコミも担当。現在は、劇団「時速246億」を主宰し脚本、演出、主演も果たすマルチプレイヤーだ。
──初本読みを拝見しましたが、演出の説明がものすごくわかりやすくて驚きました。
僕、しゃべる仕事もしているから「言葉で伝える」ということを大切にしているんです。しかもなるべく横文字を使いたくないんです。たとえば誰かに嫉妬する、という場面で「テンションをもっとあげて」と言うと、声を大きくする、動きを激しくする、という風につながりがちで、こちらの本当の意図が伝わらないことがよくあります。で、テンションの意味を調べると、ギターの弦を貼るとか緊張感という意味が近くて。
なるほど、横文字って伝える方も伝えられる方も実は使い方がわかっていない、みたいなことがあるんだなあと。だから、こちらもがんばって日本語を探して「嫉妬心を静かに燃やすような感じで」と言うと相手に手触りが伝わりやすい。日本語ってすごく奥ゆかしくて表現がたくさんあるから、できるだけきめ細やかに言葉を尽くして伝えたい、という思いがあるんです。
──そのなかで、今回、大切にしていることはなんでしょう。
そうですねえ……違和感、かな。ちょっとずらし、というか。たとえば新井が心情を吐露する場面がありますが、セリフって、そのぶつけたい相手に直接言いがちですよね。でも、実際だったら、ほんとにその人にいうかな、と。
本音って、関係ない人にポロッとこぼす。でも、本当に聞かせたい人は横にいる、みたいな事って日常であれば多いと思います。特に今回は演劇ですけど映像でもあるので、その辺りのずらし感も発見してみたいですね。
──さらに「本番は試合だ」ともおっしゃっていました。
本番はお客さんという存在がいるので、いくら稽古を重ねても、実際の『試合』はまた別の状態が必要だと思っています。個人的には演技や芸事の世界では、上手いか下手か以前に、良いか悪いか、があると思っていて。
たとえば個性派俳優として知られる方々は、演技の上手い下手よりも「この人だから観たい」と思わせる魅力がある。実はそのことこそが大切で。だから試合に臨む筋肉や度胸、思い切りの良さや、何か起きた時の対応力など、つまり人間力ってやつがものを言うなと。
──そこで、梅津瑞樹さんはいかがでしょうか。
とても頼もしいですねえ。今日も本読みの最後に「つかめたので、あとは(台本を)覚えてきます」って言ってくれて。俺、初の本読みでそんなこと絶対に言えないもん(笑)。今日の時点で感情の流れやその流れが変わるキッカケをつかんでいるし、ズレを戻す力もあるので、ああ、もう大丈夫だ、って思えました。
あとは、そうだなあ……その次の段階というか、段取りとセリフをしっかりと入れた上で全部をきっちり演るのではなくて、あえて適当さ、みたいなものもある、という状態に行けるといいな、と思っています。いい意味で、試合モードへの切り替えって事ですね。
──ご自身にとっても新しいことへの挑戦でもあります。
はい。これは師匠でもある欽ちゃんがよく言っていたことなんですが「成功するか失敗するか不安だ、っていうヤツがいるだろ。でも、失敗と成功が半々だとしても、その時点で50%は成功しているわけだから、あとはその割合を少しでも上げる努力をすりゃあいいじゃねえか」と。本当にその通りだし、そのポジティブさを見習いたいと思います。
とはいえ、それらを見届けてくれる観客の皆さんがいてくれないと舞台は完成しないから、この挑戦を見届けてほしいです。ハプニングすら前向きにもって行けるような、それも含めて全員で作品を繋いでゆくことを目指せればと。とにかく皆様あってのエンタテインメントですので、ぜひ事件の目撃者であり、参加者になってもらえたらうれしいですね。
川本成さんTwitter @Runarurunaru
いかに「新井」として振り回されるか、を愉しみます。
実は文筆業を志していたという梅津瑞樹さん。しかし、思うように表現できずに悩み苦しみ、演技で表現する道へ。飛び込んだのは80年代小劇場ムーブメントの一端をになった、劇団『第三舞台』主宰の鴻上尚史氏が若手中心に立ち上げた『虚構の劇団』だった。
そこで演じるおもしろさを知り、今も演技の幅を広げるべく数多の舞台に挑戦。その傍ら、文章も書き続け、この12月、30歳の誕生日に初の随筆集『残機1』を刊行。さまざまな表現を模索し続ける存在は、今回、どんな顔を見せるのだろう。
──最初から最後まで止めることなく一台のカメラで撮り続け、しかもすべて生配信されてしまいます。
その話を最初に伺ったときに、三谷幸喜さんの『大空港』という作品を思い出しました。空港を舞台にノンストップで撮り続けて、誰かがミスするとまた最初から撮り直す……という作品で、ものすごくおもしろいんですが、あんなふうになるのかな、と。
実際、今日、本読みをして、すごくやり甲斐があるというか楽しそうだなと感じています。ともすれば、むしろ多少、まちがっても止まらないし、むしろ、それを活かして演じることもできるとも思いました。
──どういうことでしょうか。
たとえば段取りがうまく行かないとか、なにかトラブルが起こったときに、急に僕が「新井」という役の仮面を脱ぎ捨てて「ったくもう! なんなんだよ!!!」とキレ散らかす(笑)、みたいなことでも成立するな、って。
──メタフィクション的な構造に持っていく?
そうです。観ている人が、実は作中作なの? 新井って猫かぶってたの? もしかして本当にトラブルなの? と撹乱されていくのもおもしろいかなと。でも、今はこんなふうに言っていますが本当に当日、なにが起こるかわからない作品だなと思っています。
ただ、僕自身はどちらかというと台本通りに演じたいタイプなので、遊びを入れるとしても役としての振り幅を大きくする、という感じです。特に今回は演劇的要素と映像的要素があるので、それらを使い分けることもできるから。
──たとえばそれは……?
ある場面に出くわした新井がびっくりするんですが、その演技をね……(突如、取材中の椅子からガタッ、と転がり落ちる)
──えっ!?(思わず周りもざわつく)
……っていうふうに演劇的にやってみせるとか。思わず腰が抜けちゃった、みたいな感じで。そういった細かい遊びは入れていきたいですね。ただ、僕は闇雲にアドリブを入れるのが苦手なんです。アドリブと称して好き勝手やることがおもしろいと思ってはいないので……。
──確かに。話は少しずれますが、劇団☆新感線さんはアドリブに見える場面も実はすべて演出されている、と聞いたことがあります。
わかります。役者の素が出て、思わず笑っちゃったみたいな瞬間もすべてを演じたいんです。たとえば朝寝坊したときに焦っちゃって、とりあえず水を飲むとか、変な行動をしちゃうじゃないですか。そういった混乱も取り込みたいし、もしも本当に失敗したとしてもいろんな逃げ道があるし、それすら楽しんでもらえるような時間にしたいと思っています。
──昼と夜の2回公演それぞれ、異なる楽しさがある舞台になりそうです。
絶対、同じにはならないです(笑)。さらに言うと、主演公演のときに「座長として」みたいなことを聞かれますが、今回、僕は一切、まとめる気がありません。むしろ「新井」として、周りの方々の胸を借り、とことん振り回される姿を楽しみたいし、届けたい。
まだ全貌が見えていなくて、カメラを通したときに僕らの演技がどう映るのかも想像できない段階なのですが、それらも含めて、クリスマスに未知の世界を堪能できるひとときを贈るべく、全力を尽くします。
梅津瑞樹さんTwitter @MizukiUmetsu
『バックステージ オン ファイア』配信情報
■チケット発売中!
■公演日程
2022年12月25日(日) 11:50 / 16:50(開場は開演の20分前)
アーカイブ期間:1月7日(土) 23:59まで
■販売期間
2022年12月1日(木) 10:00 ~ 2023年1月7日(土) 21:00
※配信終了日1日前の2023年1月6日(金)22時からはクレジットカード決済のみでの販売となります。
■配信チケット料金
※ご利用にはイープラスへの会員登録が必要となります。(入会金・年会費は必要ありません)
【一般販売】¥4,500(税込)
https://eplus.jp/livestreaming_engeki_backstageonfire/
【特典付きファンクラブ会員窓口】¥4,500(税込)
https://eplus.jp/livestreaming_engeki_backstageonfire/umetsu/
※申し込み時、梅津瑞樹ファンクラブ「梅津の潜む穴」会員番号(ニコニコID)の入力が必要になります。
特典①:購入者全員 小冊子「バックステージオンファイアの舞台裏(仮)」(後日郵送いたします)
特典②:購入者抽選「梅津くん使用小道具プレゼント」(当選者の発表は商品の発送をもって代えさせていただきます)
出演:梅津瑞樹 ほか
演出:川本成
協力:株式会社ネルケプランニング
共催:かなざわ演劇人協会/こまつ芸術劇場うらら
主催:バックステージオンファイア製作委員会
公式ホームページ https://backstageonfire.jp/
公式ツイッター @backstageonfire