劇的人生! 「おもしろい」を求めて幻空間を編集し続ける「まぼろし博覧会」館長・セーラちゃんってどんな人? 前編

劇的人生!

ライターの、おーちさんが「劇的!」と心揺さぶられてしまった人に会いに行くインタビューシリーズ、ゆるーく、ここに開幕です。

「おもしろい」を求めて幻空間を編集し続ける
「まぼろし博覧会」館長 セーラちゃん 登場!

 インタビュー後編はこちらから!

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 伊東で一度は訪れたいと言われる名所「まぼろし博覧会」。その館長のセーラちゃん──といえば知る人ぞ知る、存在。スレンダーな肢体に鮮やかな青色のボブカット、セーラー服で大きな旗を振り、お出迎えはもちろん、お見送りを欠かさない。果たして、どんな人なのだろう。

 その前に「まぼろし博覧会」の紹介を。2011年7月16日に誕生した、静岡県伊東市国道135号沿いに突如現れる私設テーマパークで、公式サイトには「キモかわいいパラダイス」にして「ニューカルチャーの聖地」とある。「敷地面積は甲子園球場や東京ドームのグラウンドと同じほど」という空間にありとあらゆる風俗全般が所狭しと並んでいる。

 出迎えてくれる、にこやかなおじさんのオブジェは2007年3月に閉館した伊勢の「元祖国際秘宝館」から譲り受けたもの。廃墟と化した温室に一歩入れば映画のロケで使われた実物大(!)の大仏を作り変えたという高さ15メートルもの聖徳太子の半身像が。隣には東京藝術大学の生徒から引取りを相談されたという、これまたどでかい卒業制作「牛頭馬頭神輿」が鎮座、まるでそれらを寿(ことほ)ぐかのようにマネキン人形が立ち並ぶ……と書くと、とても奇天烈な空間に思えるかもしれない。いや、確かに奇天烈な空間ではあるのだが、館内に設けられた各エリアには森羅万象が詰まっている。その多くはセーラちゃんが購入し、自ら選んで飾り続けているという──すごい。

 なかでも注目したいのは「昭和の時代を通り抜け」なる展示。年ごとに分けられた空間に世相を表すベストセラーの書籍をはじめ、店の看板、映画や広告、アイドルのポスター、レコード盤、懐かしい玩具や人形、ゲーム、遊技台とった数多の品がぎっしりと文化が雑多に、けれど整然と丸ごと収められている。そう、ここには庶民の風景があり、訪れた人、すべてがどこかしらに共感し心動かされてしまう、心躍る「場」なのである。

「まぼろし博覧会」の全容がわかる?
2分間コマーシャルをご覧あれ!

 

「やりたいからやる」
思い付いたら、即行動

「本であれ、博物館であれ、人にとって初めて観た瞬間の印象というか、ひらめきが大切だから、それを大切にしたい。どうしても常識に引っ張られてしまいがちですが、それを良しとはしないんです。
『セーラちゃん』という名前も『入って5分で精神崩壊する』というフレーズも誰かがネットで書いてくれて、それが広まったんですが、そう思ってくれたなら、それでいい、ここはそういう場所なんです」

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とつとつと語る、館長「セーラちゃん」にじっくりお話を伺いました。

──初めて「まぼろし博覧会」へ訪れたときに、なぜ、ここまでやれてしまうのか、その原動力が知りたくなりました。自身が発信するTwitter @maboroshimusume では常に新たな空間を創り、展示を続けています。

 やりたいから。子どもと一緒ですよね。思い付いたことを全部やらないと気がすまない(笑)。

──やる、やらない、の取捨選択はどのように?

 その場ですぐにやれることからやります。段取りを考えたり、整えていたら、翌日には「なんでこんなことをしなくちゃならないんだ」と冷静になっちゃって、おもしろくなくなっちゃうことって多いでしょ。
 なので思い付いたら、その辺の紙に、ぱっと書いておく。それを夜に見返して、できそうなことをやる。でも、それまでに興味がなくなって捨てちゃうこともあるし、未整理のままダンボールに入れてあるメモも10箱くらい放ってあります。

──思い付いたら即行動?

 はい。実用品を創るなら別ですよ。でも、そもそも「まぼろし博覧会」はそういう場所ではないから先人に学ぶことはなにもない。論理的にどうやったらできるか、は必要ですが、なにが失敗で、なにが成功かも関係ないので途中で変わっていっても自由なんですよ。

──変化すらも容認する。

 だって最初の目標通りに創るなんて怠慢だと思うんですよ。途中で、もっとこうしたほうがいい! とか思い付くはずだし、もっと良くしようと思って進むものじゃないですか。この場所も取得に10年近くかかったけど、それも、やりたいから進めていった結果です。
 もともと伊豆で「ねこの博物館」や「怪しい少年少女博物館」をやっているので、植物園があったことも知っていて。廃園になったときにほしいな、と思ったので、沖縄に移り住んでいた持ち主のところに通いました。なんといっても立地がいいでしょう。道路の先に突如現れる砦が水滸伝に出てくる梁山泊みたいで、いいな、と思っていたんです。だから人やモノが集うような場所にしたくて。

──思い付いたままに突き進んでいる……その発想の飛躍と行動力と社会性が同居していることがすごいです。実はセーラちゃんの存在を知ったのは1年半ほど前、Twitterで流れてきた投稿です。雨漏りで水浸しになった摩訶不思議な屋内で水切りモップを手にする姿に驚き、その一連の投稿を追いかけて、この人は誰? ここはどこ? と調べ始めたのが最初でした。

 雨漏りは……最初はどうにかしようと思ったんですよ。でも修理するにもお金がかかるし……いっそ、そのまま楽しんでもらおう、むしろ、ここは雨漏りしちゃいます、夏はものすごく暑いです、と言ってしまおうってなりました。
 たとえば夏の喫茶店にはクーラーがあったほうが快適ですが、おもしろいかどうかはまた別の話で。「ここは日本で最高気温ですよ」と言ったら「おお、そうか、行ってみよう」となるでしょう。

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当時の投稿より

──発想の転換です! 他のインタビューで実は出版社の社長でもある、という話題があり、出版を選んだのは発想だけで設備投資がいらないから、と語っていました。

 出版に関しては最初に多少のお金は必要ですが、売れる本を一冊、出せたら続けられるんです。では、売れる本はなにか? というと、実際に売れる、ではなく、周りが「売れそう」と思う本なんです。たとえば、売れた本の二番煎じをどこよりも早く出せば、その半分は売れます。
 そうするとマスコミが取り上げてくれる。マスコミって「売る」んじゃなくて、「売れてる」という情報は紹介してくれるから。ただ、その紹介も、実はあまり鵜呑みにしはしてません。だって本当かどうかわからないし。

──そういった視点はどこで養うのでしょうか。

 ……新聞を読むことでしょうか。家で何種類か取っていたので、子どもの頃から読んでいました。もちろん会社によって主義主張はあると思うんですが、幕の内弁当というか、ある程度、裏取りをした記事が掲載されている媒体なので、複数、読むことで世の中のことが自分なりのバランスを持って取り込むことができると思っているんです。

──そうして、自身の物差しを作っていった?

 そうですね。今は、情報が細分化されすぎていて、自分の興味のあることだけを追いかけることができますし、心地良いことだけを周りにおいておける。だから、他の価値観がある、ということに気付かず生きている人も多いと思うんです。
 極論を言ってしまえばスポーツに興味がない人は、生涯「野球」というものがあることを知らないかもしれない。

──確かに!

 趣味の世界だけに浸る人生も、それはそれでいいことだと思います。閉じた場所でフェイクニュースも信じて、好きなことだけで生きていく。それをよし、とする人もいるでしょうから否定も肯定もしないんですが、自分はちがうので。
 すべてを信じているわけではないですが、今、世の中でなにが起こっているのか? を知っているほうが、なにかをやろうとするときに手段をたくさん思い付けます。

──その実現への努力? が、とんでもないな、と。

 そうなのかなあ……でも、コツコツ努力することも嫌いなので、いかに楽をして、でも、周りをびっくりさせたいとは考えています。なので、そのための知識は必要だから、なにかをやろう、と思ったときに調べることはあります。ただ全部、やり方を知るのではなく、ひとつ得たら、あとは考える。考えていくことがおもしろいし、単に知識だけを詰め込んでも意味がないと思うので。
 そもそも、やることを先に決めたくないんです。以前、出演したイベントも内容は決めませんでした。だって決めたら、そのとおりにやらなくてはならないし、それって苦痛じゃないですか。決まってなければ、どうなってもいいわけで。もちろん公共良俗は守りますけど、うまくいくことを求められているわけではないから。

──どうにかできる、という自信がある……?

 え、だって別にしゃべるプロでもないし。ただ、みんな、困ってはいましたけど(笑)。それも含めて、本番でなにが飛び出すかわからないのが、いいじゃないですか。むしろ真剣にドタバタしていること自体がおもしろいし、そういう未知の体験で知らないことを知れる機会にもなる。

──その客観性と、やれてしまう度胸です!

 だって、そこに人生をかけているわけではないから。歌や踊りの道を歩んでいるわけでもないし。このときも「今から『まぼろし博覧会音頭』を作るから、みんな、歌ってくれー!」と言って、その場で全員でワンフレーズずつ思い付きで歌ってもらってつないでいきました。「リズムは取らないでね!」って言ったけど、誰かがひとつ取ったら、後はそれが続いちゃって、ああ、リズムを取らずに歌うって難しいんだな、ってわかった。でも、やってみないとわからないでしょ。
 なによりも、そういうのって下手でいいんですよ。だって上手い作品なんて世の中にあふれているわけで、うんと下手なほうが注目されるし、印象に残るから。職人さんが作ったものは確かに美しいし、それが求められている場所もあると思います。でもだからこそ、やらない。そもそも誰かに評価されたいと思った瞬間に、日和って迎合してしまう。でも、好きに勝手に作ったものを楽しんでもらえるのはうれしいですね。

──改めてお話を伺っていると実に理路整然とされていて、そこにとんでもない知識と行動力が伴っています。

 たぶんですが、世の中でできないことはないんです。だから、思い付いたなかから、やろうと決めたことがあるときは1枚の紙に描くといいですよ。まず、やりたいことを書いて、そこから、ばーっとヒントやキーワード、今すぐやれることを洗い出していく。
 思い付くまま落書きみたいなものをどんどん書いていくと、あ、これはできる、というものに出会ったり、気付いたりするんです。

──とてつもなく走り続けていますが、普段のスケジュール管理はどのように?

 一年間が一枚になっているカレンダーだけ持ってます。そこに予定が入ったときだけ、忘れたらいけないから書く。週末はだいたい、まぼろし博覧会に居るし、平日は東京で必要なものを用意しています。今はお正月に配るセーラちゃんの新作名刺や新しい看板を作ってます。

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──それはご自身で手がけている?

 いえ、作る人がいるので。ただ、それも、きちんと丁寧に、ではなくていいんです。むしろ、速さが大切です。たとえば取材を受けても、その大きさってわかんないんですよ。テレビでもネットでも。だから、見出しのように片っ端から並べる。それも速いほうがいいと思っていて。
 だから常におもしろそうなことをいっぱいやって、続けています。コロナ禍でもなにができるかを考えて、やっていく。小さいながらもそれらを発信し続けることが大事で、丁寧に作ったものを一個だけ出しても届かない。だいたい、不完全なほうが人間が見えると思うんです。

──一貫した思いがあり、常に前向きです。

 そうするしかないからね。終わったことを考えていてもなんにもならないし。だから過ぎたことには興味がない。これまでにどんな本を作ったかとか、売れたかどうかとかもよく知らない。「こうすればよかった」みたいなことはあるけれど、瞬間です。もちろん、朝、雨が降っていたり、寒かったりすると、気持ちが落ち込むこともあるけれど、それだって一瞬です。
 常に新たにできることがあるから。さらに作ってみないとわからないことがたくさんある。設計図を引いて、その通りに作る人はたくさんいるので別に自分がやらなくてもいい。それよりも誰もやらないことをやっていきたい。それだけを考えています。

──楽しませたがりで、おもしろがりです。

「セーラちゃん」もそのひとつです。これは他でも話していますが、ある時、イベントで「セーラー服おじさん」という方がいらして、おもしろいな、と思って、マネキンの衣装だったセーラー服を着てみたら、誰かが「セーラちゃん」と言ってくれたのが始まりです。
 そこからだんだんと「ああ、これは楽しんでもらえてるんだ」とわかって、もっと作り込むためにメイクや仕草を考えていったので、セーラちゃんはここで生まれた「キャラクター」なんです。ただ、やるからには徹底的にやりたいと思って、6年が経ちました。今はメイクに10分もかかりません。もちろん「気持ち悪いな」と感じる人もいると思います。でも、だいたい皆さん、帰るときには笑顔になってくれるんです。

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セーラちゃんのモノの見方、考え方に大いに刺激を受けた取材は貴重な時間でした。
近日公開予定の後編へ続く。

2021年12月収録
写真/セーラちゃんTwitterより掲載
取材・文/おーちようこ

まぼろし博覧会

〒413-0231 伊東市富戸字梅木平1310-1
公式サイト https://maboroshi.pandora.nu/
公式Twitter @_fushiginamachi

セーラちゃんTwitter
@maboroshimusume

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