舞台俳優は語る 第4回 藤田玲の「今」

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あなたの「今」を教えてください──舞台人の「今」を記録する新連載『舞台俳優は語る』第4回は、藤田玲さんの登場です。

 

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 14歳。2003年放送の『仮面ライダー555』で最年少のオルフェノク、北崎役でデビュー。映画やテレビに音楽活動、舞台はストレートプレイ、グランドミュージカル、2.5次元と幅広く自身の居場所をしなやかに広げている。
「バッターボックスに立たせてもらったからには全力で打ち返すべきで、できれば、より高く、より遠くに」と、笑顔で語る。実にフラット、そしてまっすぐ。
 そんな藤田玲が30歳を迎えたこの秋、初となる単独主演舞台『私に会いに来て』に挑む──明かされるのは、自身が「今」へと辿り着く軌跡、とその先。

 

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14歳──ものすごい反抗期で尖っていました

 

──デビュー作『仮面ライダー555』の書籍を担当したので、当初から存じていますが、改めて今日はたくさん伺います。まずはこの世界の入ったキッカケをお願いします。
藤田:お久しぶりです。この世界には……実はずっと、いろいろなところからスカウトされていて。13歳のときに縁あって今の事務所にお世話になることになりました。
──確かに周りが、放っておかないかと……。
藤田:ははは(笑)。でも、当時はインターナショナルスクールに通っていたので親はめちゃくちゃ反対していたし、最初は俳優じゃなくてモデルになりたかったんです。なのに『仮面ライダー』のオーディションを、知らないまま受けに行くことになり……。
──知らずに!?
藤田:今思うと社長の作戦だったかもしれませんが(笑)。ただ、場所が東映で、ある映画の台本を渡されたので「映像作品だな」とは思っていて、ちょっと緊張していたんです。でも、一緒に受けた人が外国の方で、あまり日本語が話せなくて、それが「ライダー」って言ってるのが聞こえて、「あれ? もしかして……」ってなりました。で、僕も、この見た目だから「日本語はわかりますか?」って聞かれて(笑)。「はい! 大丈夫です」って、答えて、むしろ落ち着いて台詞が言えました。
──結果、『仮面ライダー555』に出演します。藤田さんが演じた北崎の、オルフェノクという怪人でラッキー・クローバーというエリート集団のなか、最年少にして無邪気で残酷……といったキャラクター性はご自身のイメージから誕生したと取材で伺いました。
藤田:ありがたいことです。でも、衣裳合わせで女性用のニットを着て、肩を出せ、って言われたときは驚きました(笑)。
 ただ、当時は役の設定にあらがっていました。もともと髪質が天然パーマで、それがいやでストレートパーマをかけていたのに撮影のたびにくるくるに巻かれちゃうから全力で抵抗していて、最後の方はストレートで毛先がちょっと巻いてるみたいになりました。今思えば、若さゆえです……尖ってましたね。
──ですが、この仕事を続けることを選びます。
藤田:だって学校は休めるし、ちやほやされるし最高だー! って思ってたから(笑)。もうね、ただのガキだったんですよ。他にやりたいこともなかったから、やるからにはちゃんとやろうと思っていたし、『仮面ライダー』っていったら、当時、若手俳優の登竜門だったから、俺、この先、すごいことになるんじゃないか、って思ったりもしていたし。
 でも自分のなかで天狗になっていた部分があったんですね。もちろん表には出していなかったけど、それを社長に見破られて叱られて、ものすごいケンカになりました。あのときに言いたいことを言うだけ言ったから今の関係があるんですが、ほんと、毎日のように言い合いしてたから。親にも相変わらず反対されていたので、続けるために芸能活動に理解がある学校に転入するとか、いろいろと環境を整え始めて……ただ、音楽は好きで続けていましたね。でも、そっちはむしろ社長に反発するためでしたけど(笑)。『DUSTZ』というロック・バンドを組んで「Takuto」と名乗り、僕の双子の弟という設定で活動していて。でも、それが徐々にファンの方にも認知されていってメジャーデビューできて、正式に認めてもらった……という感じです。
──反抗期です(笑)。
藤田:まさに(笑)。たぶん、もどかしかったんです。自分が選んだ道で上を目指しているのに、あがっていけなかったから。その現状を他のことのせいにしたくなくて。だから、全部、クリアにしてやろうって。できることを全部やってやれ、と、あがいていた時期でした。自分への苛立ちもあったと思います。
──一生、続けるぞ、と思った瞬間はありますか?
藤田:徐々に……ですね。だって、他のことをやっても全然楽しくなかったんです。むしろ、この仕事だけが楽しかったというか、他のことを考えられなかったから。でも、もしかしたら他にやりたいことに出会えるかもしれないから、いろいろな経験をしてみようと思って、一度、アルバイトをしてみたこともありますが、全然続きませんでした(笑)。
──だとしたら、早々に天職に出会えたということです。
藤田:いや、もう、それに気付けたのも事務所のおかげです。
──と、いった感謝を素直に言えるようになったのは、おいくつのときですか?(笑)
藤田:えー……そうくる?(笑) いくつだろう……2011年の『レ・ミゼラブル』帝国劇場開場100周年記念公演に出演したときかなあ。実は僕、『レ・ミゼラブル』のオーディションだと知らなくて受けたんです。
──『仮面ライダー555』と同じです……。
藤田:そうなんですよ! 書類審査が通ったから行ってくれと言われて。確かに、前の年にミュージカル『黒執事─千の魂と堕ちた死神』でドルイット子爵を演じていたけれども! ただ、あれは演出の福山桜子さんから「フランス語で歌ってみて」と言っていただき、自分なりにキャラクターを作り込む楽しさを知れたし、だから、あんな弾けた感じになっちゃったんですけど……(笑)。ただ、ずっと自分のなかで、歌は歌、演技は演技、という考えがあって。歌と芝居が一緒になっているミュージカルは、生意気にもちがうんじゃないかって思っていたんです。
 だからオーディション会場のスタジオで、エレベーターの扉が開いた瞬間、音大の声楽科卒といった方々が全力で発声練習している姿を見て、「あ、これは俺が来るところじゃない、場違いにも程がある」って帰りたくなっちゃった……ただ、そこで負けず嫌いが出ちゃったんです。なによりも当時、現場に付いていた別のマネージャーからも「これで仕事の幅も広がると思うし、受かってくれたらうれしい」と言われて、なんだか事務所の愛を感じてしまい……がんばったら、なんと受かったんです!
──おめでとうございます。参加していかがでしたか?
藤田:イメージと全然ちがいました。その世界のトップの人達がそろっているだけあって、稽古から全員、ものすごくかっこよくて、あ、俺、食わずぎらいだったんだな、ってわかって。その瞬間、俺、どれだけ軽い気持ちでオーディションを受けていたんだろう、今、すげえやべえところにいるぞ……と、突然、事の重大さに気付きました……。
 だから舞台への意識が大きく変わったのも、この作品です。先輩たちにものすごく助けてもらって俺自身もがんばったから立つことができたけど、実は毎日、プレッシャーに押しつぶされそうでした。朝、目覚めるとぼろぼろ涙が流れていて、起き上がることができなくて、稽古に行きたくない……でも、行かなくちゃ……ってなって。記念公演だったので、鹿賀丈史さんや鳳蘭さんといった錚々(そうそう)たる方々がおられて、余計に責任の重さを感じていて。ただ、この年、3.11の震災が起こって、一度、上演するかどうか? という話になって……あの、本当に今日、この場だからこそ思い出話として明かすんですが……ものすごく不謹慎なことですが、もしかしたら中止になるかも?……とか一瞬、思っちゃって。
──そんなに追い詰められていたんですか……。
藤田:だってもう、ご飯も食べられないし、日に日に痩せていくしで……ただ、最終的に『レ・ミゼラブル』は民衆を描いた作品だから、と、逆に追加公演が決まりました! でも、それはすばらしいことで、全員でなにかを乗り越える意味とか作品の背景や歴史を知ることで想いを乗せて演じる、といったことを学びました。
 さらに『レ・ミゼラブル』って歌いっぱなしだから、喉が鍛えられたんです。歌も歌いやすくなって、緩急をつけることを学びました。それまではバンド活動が中心だったからロックの歌い方しか知らなくて、瞬発力でどんどん強く、喉が潰れてもいいくらいな勢いで歌っていたのが、むしろ歌い続けるためにあえて力を抜くところも必要だと知って、それができるようになったんです。周りからも「歌、うまくなったね」と言っていただいて。だから、この経験をさせてくれたことに感謝して、反抗期は終わりました(笑)。

 

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初めて舞台上で台詞が飛びました

 

──舞台への意識が変わってからの、印象的な作品はありますか?
藤田:『レ・ミゼラブル』の次に出演した『愛が殺せとささやいた』です。がちがちのストレートプレイでしたが『レ・ミゼラブル』に続き、ボッコボコにされました。加藤和樹さんとW主演なのがうれしくて、でも、かなり重めの話でものすごく難しかった。僕、それまで「自分」をベースに役を作っていたんですが、このときは、「普通」の青年の役で、それが作れなかったんです。一見、どこにでもいるようで、でも実は壊れていることが最後に明かされるんですが、まず、その「普通」がわからなくて。
 そこで、鈴木拡樹が障がいを持つ弟役だったんですが、このときの拡樹がすごくて……! 俺、拡樹のデビュー当時、学園忍者アクションドラマ『風魔の小次郎』で一緒だったから、当時を知っているけど、どこでこんな演技を覚えてきたんだ……なんて化けたんだ……と驚いて。だからこそ、演出の岡本貴也さんが俺に対してもより高いところを求めてくれて、それがものすごく厳しかったんです。
──どう、厳しかったのでしょうか。
藤田:まず、普通に立つことができなかった(笑)。当時、ドラマ『牙狼〈GARO〉』で涼邑零という役を演っていたんですが、それがちょっと斜に構えた役だったこともあって、自分ではただ、そこに立っているだけのつもりでも、つい感情に任せて手が動いちゃったりして。実際にね、感情が高ぶったら人は動くんです。でも、舞台上では余計な動きはいらない。大げさに見えちゃうから。なのに動いちゃうから最終的に手錠をかけられてしまい……。
──稽古場で?
藤田:はい(笑)。手錠をかけることで、手が動くたびに自分で意識することができるので……で、なんと、これで治っちゃったんです!
──すばらしいです!
藤田:そして、そんな僕が今、MANKAI STAGE『A3!』で古市左京として摂津万里、兵頭十座たち若手俳優に手錠をかけているという……!
──おもしろすぎます!
藤田:ねー!(笑) でもね、本当にこの作品で自分の身体を隅々まで意識する、ということを学んで最終的にはお褒めの言葉をいただけて、とてもいい経験でした。舞台っていいな、やりたいな、と思えたのもこのころで。続けて、ミュージカル『ROCK OF AGES』に出演して、初めてスズカツ(鈴木勝秀)さんに出会いました。好きな曲がたくさんあって、キャストの方にも良くしてもらってすごく楽しい舞台でした。
 実は大学にも進学しましたが、結局、辞めて。青山学院大学に通っていたので、ドラマ『オレンジデイズ』みたいな出会いが起こらないかな、と思っていたけど、まったく起こりませんでした(笑)。たぶん、このころです。向かいたい方向を、自分自身で選べるようになって、続けていこうと思えたんじゃないかな。
──続けて印象深かった作品をお聞きします。
藤田:2013年の『殺人鬼フジコの衝動』という、これまたストレートプレイです。これがDV野郎の役で嫌なヤツだったんですが、稽古でずっと「どうも芝居に見えるんだよね」って言われて「本当に嫌なヤツに見えてほしい」と求められて。でも、相手役が新垣里沙さんで、髪の毛とか掴めないじゃないですか……って思っていたんです。でも、新垣さんがすばらしい役者で。僕、このとき初めて舞台上で台詞が飛んじゃったんです。
──なにがあったのでしょう。
藤田:その日、舞台上で初めてやったことがあって、それがすごすぎて。なんてすばらしい演技をしているんだ、この新垣里沙は……って見とれちゃって、一瞬、「あれっ、俺、今、なにしてるんだっけ?」ってなっちゃったんです。
──すてきです……よくないことですが、すごくすてきです。
藤田:それがすごく刺激になって、じゃあ俺もちがう角度で返してやろう、ってなって。卓球の試合みたいに、この球、ここ狙うと思うでしょ、でも実はスピンかけて、こっちを狙ってるんだよ! みたいな挑戦をして、それがまた帰ってくるのがすごくおもしろくて。そういった自由さを手に入れたというか、またひとつ舞台の楽しさを知ることができました。
──アドリブを楽しめるようになった?
藤田:ああ、そうかもしれません。
──ただ、実はアドリブは本筋に戻せる人しかやっちゃいけないもので……。
藤田:あっ、そうなんですよ! アドリブっていくら遊んでもきちんと戻す腕がある人しかやっちゃだめ! でも最近、投げっぱなしの人が多い!(笑) そういうときって実は誰かが戻しているんだぞ! ということもわかるようになりました。
──成長です!

 

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歌と殺陣は僕にとっての柱です

 

──印象的だったのは、Club SLAZY(クラブ・スレイジー)シリーズです。2013年、二作目の『Club SLAZY The 2nd invitation~Sapphire~』からOdds(オッズ)という役を演じます。この作品は物語だけでなく、歌って踊るエンターテインメントショウのおもしろさがつまっていました。
藤田:そう思っていただけたらうれしいです。僕らは歌はうんとかっこよく、お芝居はとことん真面目にふざけることを心がけていましたから。もしかしたらシリーズ通して同じ役を演じたのはこれが初めてだったかもしれません……とはいえ、最終的にはだいぶ性格は変わっていましたけど(笑)。でも、続くうちにどんどんみんなのキャラクターも固まっていったので、自分も愉しもうという気持ちが大きくなっていって。そのうちにみんなが遊んでいるところで自分がどこに入ったら気持ちいいのかもわかるようになって、そこに飛び込んでいけるようになったのもいい経験でした。
 米原幸佑くん演じるCoolBeans(クールビー)の師匠という設定でしたが、CoolBeansがすごくぶっとんでいたので、あれはきっと師匠である僕のせいだろうと思って作り込んだりました。あとは僕とZs(ジーズ)役のふっきー(藤原祐規)さんとW支配人になったのもうれしくて! 以前に共演した『マグダラのマリア』シリーズから、この人の演技が好きだなー、と思っていたんです。実は僕らのシーンってほぼ丸ごと託してもらっていたので、全部二人で相談して作っていて、それもすごくおもしろい経験でした。
──たくさんの出会いに恵まれています。
藤田:出会いといえば、2014年に柴田勝家を演じた舞台『戦国BASARA4』で演出を手掛けた西田大輔さんに出会えたことは大きかったですね。すごく人たらしで人の使い方がめちゃうまいし、褒め言葉としてすごく雑っていうか、ラフなんだけど(笑)、作るものがめちゃくちゃ芸術的でなんです。
 殺陣も独特でとにかく手数が多かったので舞台の殺陣という意味では演りきったという自信につながりました。『DUSTZ』としてアニメ『戦国BASARA4』のエンディングも歌っていたので、今も縁を感じている作品です。
──2015年には『最遊記歌劇伝‐Burial‐』で再び、鈴木拡樹さんと共演します。
藤田:再会したら拡樹はなんかもう、お釈迦さまみたいになってましたね(笑)。『仮面ライダー555』以来、唐橋充さんと久々にご一緒できたのも楽しかったです。あの方も変わらないというか、天然すぎて小道具を楽屋に忘れたまま出て滅茶苦茶怒られている姿を見て、ああ……唐橋さんはずっと子どものままなんだな、と(笑)。当時からとんでもない怪物だったので演技も好きだし、同じ作品でデビューした方と、再会して共演できることも楽しかったですね。
──続けて、ミュージカル『南太平洋』に出演されます。
藤田:『レ・ミゼラブル』以来、久々に東宝のミュージカルに出演させていただきました。太平洋戦争時の物語ですがアメリカが舞台の明るい作品です。
 主演が別所哲也さん、ヒロインが藤原紀香さんでしたが、金沢公演で、いきなり紀香さんから「今、なにしてるの?」ってホテルの部屋に電話をいただき、一緒に観光したんです。ものすごくフランクな方で「いいのかな?」と思いつつも、兼六園に行ったり美味しいものを食べたりして、すごく良くしていただきました。
──先輩と後輩の良き関係です。きっと、そういう経験は次へと続いていくのではないかと。
藤田:あ! 『仮面ライダー555』がそうでした。今や同じ事務所所属になった(笑)、仮面ライダーカイザ/草加雅人役の村上幸平さんが当時、オープンカーで東映の撮影所に来ていたんです。
──かっこいい……のですが、絵面を想像すると失礼ながらおもしろいです……。
藤田:役柄的に似合いすぎでしょ。わかります(笑)。でね、仕事終わりに僕らを乗せて高速飛ばしてドライブして夜景眺めて、ひとりひとり送ってくれていたんです。
──いい話です。
藤田:でも、ジュースを買いに行かされてましたけどね(笑)。ただ、それがすごくうれしかったから、僕も車で後輩を送って帰るようになりました。そこでいろんな話をしたり、リラックスしたりして。だから当時、よく送っていた植田圭輔くんが「玲さん、僕も車買いました!」って言ってくれて、今また後輩を送っている話を聞くとなんかうれしいんですよね。そうやってつながっていくものもあるのかな、と。で、この話をすると村上さんが「そうかあ?」って喜ぶんです(笑)。
──ではしっかりと書かせていただきます(笑)。いろいろな経験をするなかで、ご自身の柱になっているものはなんでしょう。
藤田:やっぱり歌ですね。あとは殺陣。『牙狼〈GARO〉』シリーズや『戦国BASARA』といった作品を通して自信が生まれました。変わったところでは舞台『メサイア―白銀ノ章―』で役柄にあわせてフランス語の鼻歌を歌いながら戦ってみたりして。だから演技が基礎にあるとして、歌と殺陣は僕にとっての柱です。
──ダンスはいかがでしょう。
藤田:苦手です! むしろ枷です(笑)。
──意外です。
藤田:昔からダメなんです……実はClub SLAZYも、よく見ると僕だけ踊ってないですから(笑)。
──『BOYBAND(ボーイバンド)』という、5人の男性ボーカルグループの歌って踊る作品に出演しています。
藤田:ああー。あれは歌う役だと聞いて、でも稽古に入ったらダンスがあって、ものすごく苦労して、珍しく稽古場で荒れちゃってました(笑)。でも、最終的にはなんとかなって、初日を迎えることができました。ただ、ダンスはほんとうに大変だったけど、共演者も平野良くん始め、みんなが仲良くて、大阪公演の後にメンバーだけで一泊して観光するくらい楽しんじゃいました。だから、いつかダンスも柱の一つにできたらいいな、とは思っています。

 

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2.5次元出身じゃないからこそ
良さを感じることがある

 

──2017年、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」~暁の調べ~でヤマトを演じます。
藤田:2.5次元の演劇が注目を集めていることは肌で感じていて、海外公演も予定していると伺ったので、この人気作の舞台がどう受け入れられるか肌で感じてみたかったんです。うちはサスケ役の佐藤流司くんとの初共演もうれしかったな。実は『牙狼〈GARO〉』シリーズを観ていてくれたそうで、以前に一度、会った以来だったから。2.5次元は初めての経験でしたが海外公演も客席がものすごく盛り上がって、確かに世界に通じるものなんだな……と実感しました。
──その後、ミュージカル『刀剣乱舞』 ~結びの響、始まりの音~で榎本武揚を演じます。
藤田:お話をいただいてから、榎本武揚についていろいろ調べました。ただ、調べれば調べるほど「土方歳三を死なせた人」と「今に続く民主主義を海外から持ってきた開かれた人」と相反する側面が見えてきて……だったら、演じるからにはすてきな人でありたいと方向を決めました。
 だって、土方さんは最終的に榎本と出会うことで日本の未来を託そうと思えたわけで。榎本自身も本気で新たな時代を切り開くと信じていたから。なので、いかにして土方さんに未来を見せられるか、ということを考えました。だから、ちょっと理想を求めた近藤勇にも近い感じで、明るくて開かれた世界の広さを知る人で在りたいと思いました。
──物語に於いての希望の人でもあった、と感じます。
藤田:だから僕の登場場面は明るくしたくて、ちょっと突き抜けた海外かぶれの人に作ったらおもしろいんじゃないかと思ったんです。そのキッカケは稽古で、演出の茅野イサムさんから「ここ、フランス語で話してくれる?」と言われたことで、あっ、じゃあ、それを思いっきりテンション上げて言ってみようとやってみたら、そのまま行けた。
 歴史は決まっているから、そのなかでまったく負なものを持っていないというか。純粋に未来を信じている、子どもみたいな存在で、あのどろどろとした時代に於いての光でありたいと考えました。そうしたら、なんと歴史上人物としてシリーズ初、ソロで1曲歌わせていただくことになるということに……。
──登場もド派手でにぎやかでした。
藤田:ものすごく大きな拍手をいただきましたね……うれしかったです。そこからいきなり歌い出すんですが、榎本としてとても自由に演らせていただいたので、毎日、茅野さんがにこにこしていることを目標にしていました。それはやっぱり、期待を感じていたからで、だからこそ絶対に応えなければならないと思ったからです。客席の空気も毎日ちがうから、同じものを持っていかないよう心がけていました。
──その思いは客席もしっかり受け止めていた……と感じます。そこを受けて、同じ年に、MANKAI STAGE『A3!』で古市左京を演じます。WOWOW放送時のキャスト座談会で「藤田玲さんはバランサーで心強い」といった話がありました。先達として座組を支えよう、ということは考えますか。
藤田:あー……なんだろうな、支えてやろうとかはなくて、やれることを全力でやるだけですね。メインキャストだろうが脇を彩る役だろうが変わらないというか……与えられた役をやるだけ。そこに対して、ちょっと超えることを目指す。まあ、やれるなら、うんと超えますけど(笑)。
 だって、バッターボックスに立たせてもらったからには全力で打ち返すべきで、できれば、より高く、より遠くに、ですよ。
──とてもフラットです。その意識はいつ生まれたのでしょうか。
藤田:あー……だってデビュー作の『仮面ライダー555』からして主人公ではなく、敵だったわけだし。でも、僕に、って与えられた役なら全力を尽くす。それは役に対してだけでなく、作品に対しても同じで、2.5次元もストレートプレイもミュージカルも同じで、そこはずっと変わらないですね。
──MANKAI STAGE『A3!』では、客席降りの演技を託されることが多いと感じています。観客は原作ゲームでの「監督さん」でもあり、その客席から舞台をつなぐ役目で、ともすれば作品世界の成立に関わる繊細な部分でもあります。
藤田:言われてみると、そうかもしれませんね。考えたことはなかったんですが、僕の役は外からやってくる存在で観客の方々と同じく彼らを見守る役でもあるからかもしれません。
 お話をいただいたときは若い俳優が多いなあと思ったし、原作ゲームの人気を知るうちに「え、俺、ここに入るの?」ってなったけど、実際に入ってみたらすごくおもしろくて。演技ができる役者がそろっているし、その役者たちの物語だから、演っていても実感することが多い。だから、2.5次元とか関係なく、ゲームを知らなくても観てほしい! って思ったし、2.5次元作品出身じゃないからこそ、よさを実感することがたくさんありました。
──例えば、それはどういったところでしょう?
藤田:誰よりも役を理解して誰よりもファンでありながら、お芝居を提供している、というに尽きるかな。すごく愛をもっているからこそ、表現できる世界だと思うんです。
 なかでもMANKAI STAGE『A3!』はゲームから入って初めて舞台に触れるという方が多くて、演劇への入り口になっていると感じます。だから、いろんな世界をつなげる可能性を秘めているんだな、と体感しています。新たなものが生まれていくっておもしろいですよね。
──新た、といえば今年6月、Rock Opera『R&J』で、ロミオと敵対するティボルトを演じました。シェークスピアの『ロミオ&ジュリエット』を題材にした作品は世界中にありますが、脚本と演出を手掛けた鈴木勝秀さんの超解釈による新たなシェークスピア作品が誕生した……と驚きました。
藤田:そう受け取っていただけるのはうれしいですね。佐藤流司に世界的ダンサーの仲万美ちゃん、陣内孝則さんという幅広い層のキャストで、おもしろくて挑戦がつまった舞台だった、と感じています。
──そこで気になることがあります。オープニングで全員が歌って踊るなか、ティボルトだけがひとり歯を磨いていたのが気になって!
藤田:あー、よく観てますね(笑)。あれはダブル・ミーニングでいろんな意味を込めています。まず自身の潔癖さ、それから周りへの嫌悪感みたいなものを伝えたくて。さらにダルいなー、と思っているとか、お前らなんか朝飯前だよと奢っている感じを出したかったんです。その上で、あの人々って煙草も吸わない、酒も飲まない、清潔な世界と言いつつ、実は全部キレイごとで。ロミオたちと敵対しているキャピュレット側もやり放題なので、それらに対して「俺はちがうよ」と思っているから歯を磨いていたんです。
 これはスズカツさんにも言ってないので、なぜ歯ブラシなのかは知らないと思います。ただ、当然、意図があってやっているとわかっていただろうし、理由も聞かれませんでした。
──その信頼関係が美しいです。さらにジュリエットに心惹かれてロミオを恋敵としている……のではなく、むしろロミオに執着しているように感じました。
藤田:ジュリエットへの恋心はまったくなかったですね。あの世界のティボルトはストイックで、閉塞していて、きっとロミオを対峙しているときこそが、唯一、自分らしい……それしか生きがいがない、という存在で、たぶん、誰も観たことのないティボルトだったと思います。でも、だからこそ限られた出演シーンで、よりインパクトのある存在にしたかったんです。なので、実は舞台上でいろんなことをしていました(笑)。
 そういう意味では自由にさせてもらっていたし、周りの方々がだんだんと僕の使い方をわかっていてくださっているというか(笑)、そういう役を与えていただけることは幸せですね。

 

舞台『私に会いに来て』は
新たな壁にぶち当たる匂いがしています

 

──10月に初単独主演舞台『私に会いに来て』が控えています。韓国で1996年の初演から再演を重ねて約20年間のロングランを記録した名作です。第72回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたポン・ジュノ監督の映画『殺人の追憶』の原作でもあります……が、単独主演が初なのが意外です。
藤田:いろいろな方に「初めて?」と驚かれるんですが、「藤田玲の初主演は新国立劇場小ホールで」という社長の長年の思いがあって立たせていただくことになりました。
──深い絆を感じます。
藤田:ずっと、かれこれ17年一緒なので、もう、ほとんど親子です(笑)。
──すてきです。本作はどんな物語でしょう。
藤田:僕が演じるのはキム・インシュンという刑事で、実際に起った未解決殺人事件を題材にした人間ドラマでサスペンスです。お話をいただいてから原作の脚本を読み、映画を観て、登場人物の背景や時代性、物語の深さに作品の強さを感じました。
 今回、日本で上演されるにあたり新たに恋愛要素も加わるということで、それにより救い、あるいは悲劇といった、この作品だけで浮き彫りになる関係が生まれるんじゃないかと思っていて、ものすごく濃い物語になる……という予感があります。ずっと舞台に出ずっぱりになるんじゃないか、という話もあって(笑)。そんな経験も初めてだし、ちょっと独特な人物なので、僕を知っていてくださる方にも初めて観てくださる方にも、これまでにない姿を見せることができると感じています。
──作品と向き合うスタンスは変わらないとのことですが、その上で初座長としての思いはいかがでしょうか。
藤田:主演ですが、全員で会話を積み重ねることで進んでいく物語なので、球でいうとストレートではなくカーブを投げ合うような現場にできたらいいなと考えています。僕が引っ張っていくというよりも信頼できるスタッフさん、キャストさんのなかで思いっきり泳げたらと。演出のヨリコ ジュンさんのもと、全員でディスカッションして作り上げたいです。
 20年ものロングラン……ということは、きっと上演されることに意味がある作品だと受け止めているので、そこに自分が挑めることが幸せで、だからこそ原作の世界観を大切に僕たちだからこそできる舞台を目指して、届けます。
──最後に一言、お願いします。
藤田:今日は本当にひとつひとつ、これまでの作品について掘り下げているなあ、と感じ入っています。この作品も僕にとってターニングポイントであり、それだけに覚悟が必要だと思っていて、いろいろな壁にぶち当たる匂いがぷんぷんしているんですよね……そういう作品って演っているときは本当に苦しいんですが、乗り越えることができたら、きっと今日のように語ることができる存在になると思っています。
 だからこそ今までファンの方々から受け取ったもの、作品から受け取ったものをすべて注ぎ込みたくて、実は今回、ものすごく久々に他の仕事を入れず、集中できるようスケジュールを組んでもらっています。『レ・ミゼラブル』では出演が決まってから事の重大さに気付きましたが(笑)、僕も成長しまして、今回は始まる前に心構えができました。だから、藤田に会いに来てください。

 

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藤田玲 ふじた・れい

1988年9月6日生まれ。東京都出身。取材時30歳。
2003年『仮面ライダー555』俳優デビュー。映像、舞台にとどまらず、バンド「DUSTZ」のボーカルRayとして幅広く活動。主な出演作に、ドラマ・映画『牙狼〈GARO〉』シリーズ、帝劇100周年記念公演『レ・ミゼラブル』、ミュージカル『刀剣乱舞』、MANKAI STAGE「A3!」シリーズなど。この9月には初の単独主演舞台『私に会いに来て』、続けて『Dear my パパ』、『ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト」~暁の調べ~』、MANKAI STAGE『A3!』~AUTUMN 2020~、また、2020年公開予定の映画『八王子ゾンビーズ』が控えている。

公式サイト https://fujitaray.com/
公式ツイッター @Ray_FJT

インタビューを終えて

 14歳のデビュー当時、取材に伺って以来、ずっと観ていた方が、30歳を迎えて初の単独主演舞台に挑む──と知り、なぜ「今」なのか、じっくりと伺う機会に恵まれました。当時、ご登場いただいた『仮面ライダー555』の書籍をお持ちしたところ、ぱっ、と破顔、ページをめくり……次から次へと思い出話があふれていく、そんな取材となりました。
 10代前半で生涯と思える道と出会い、歩み続けることがどれほどにすごいことか。語られる17年余りのなか、たくさんの葛藤や苦しみもあっただろう、と想像に難くなく。けれど、それらもぜーんぶ含めて、とんでもなくすてきなものがある、だからこそ、これっぽっちの迷いもなく先へと向かっていくのだなあ、と。語る姿と言葉を届けることができることは幸せで、この道を選んだ自分にとってもすてきなことだと噛み締めています。
 
取材・構成・文:おーちようこ
撮影:江藤はんな(SHERPA+)
ヘアメイク:今井純子(Bellezze)

禁無断引用、転載。記事、写真、すべての権利は「最善席」に帰属します。

「私に会いに来て」

公式サイト https://www.watashiniainikite.com/
公式ツイッター @wataai_St

2019年9月13日(金)〜16日(月祝)東京・新国立劇場 小劇場
2019年9月19日(木)・20日(金)大阪・サンケイホールブリーゼ

出演:藤田 玲/中村優一 兒玉 遥 西葉瑞希/グァンス(SUPERNOVA) /栗原英雄
大澤信児 高山猛久 田中 亮 畑中竜也 曾田彩乃 藤本かえで 髙石あかり/ Anna(ヴァイオリン演奏)
原作:キム・グァンリム
演出・映像:ヨリコ ジュン
上演台本訳:後藤温子

 

最善席_メインビジュアル私に会いに来て

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