舞台版「ドラえもん のび太とアニマル惑星」/鴻上尚史コメント&小越勇輝&樋口日奈 対談

Theater letter──不定期連載でお届けする、好きなものだけ集めた、舞台からの手紙。

 

 1989年に月刊コロコロコミックに掲載された「大長編ドラえもん のび太とアニマル惑星(プラネット)」が舞台となって登場する。1990年に映画化、2008年には鴻上尚史演出で舞台化、その再演となるのが本作。
 意外な座組で話題を呼んだ再演のキャスト陣から、のび太に挑む小越勇輝さん、しずかちゃんに挑む樋口日奈さん(乃木坂46)が登場。ふたりが見せる愉快な掛け合いをここにお届け。演出の鴻上尚史さんのコメントもあわせてどうぞ。

 

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写真は、3月3日に行われた、公開稽古より。
左から鴻上尚史 スネ夫役の陳内将 のび太役の小越勇輝 しずか役の樋口日奈(乃木坂46) ジャイアン役の皇希 チッポ役の佃井皆美

会見は和気藹々、公開稽古ではアニメのオープニング曲でもあるお馴染みの「夢をかなえてドラえもん」と、新曲「これで安心!探検セット」の2曲を披露した。

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 3月半ば、稽古場へ。
 そこにはドラえもんがいて、タケコプターを付けたのび太くんたちがいた────果たして、どんな世界が繰り広げられるのだろうか。

 

演出を手がける鴻上尚史さんに、小越勇輝さんと樋口日奈さんについて、一言いただいた。

鴻上尚史

 小越勇輝はすごく真面目。樋口日奈ちゃんが勇輝に関して、とてもいい表現をしていて……衣裳合わせのときに「浮かない顔」って言ってて、的を得ていておもしろかったんですね。そんな例えを思いついちゃう日奈ちゃんもすてきだけど、それを聞いた勇輝が「いつもの自分の顔です」と返していて。でも、その顔と気合が入っているときとの落差がものすごくて、驚くほどにちがう。それだけ舞台に立つときに熱がある俳優です。
 今、のび太として「かっこよさを封印しろ」と言っていて、でも「かっこ悪くなれ」ということではなくて。じゃあ、どうしたらいいのかというと「チャーミングであればいいんじゃないか」という話をしました。舞台を観る人、すべてにそう思ってもらえる存在になればいいんじゃないかと。今回、演出人生で初めて「かっこ良く踊るな」って言ったんだけど(笑)、もちろんカッコよく踊ることも難しいんだけれど、またちがうアプローチでチャーミングに踊る、チャーミングなのび太を目指してほしい。ただ、万人に愛される役ってものすごく難しいので、俳優としてはとてもチャレンジングなことをやっていると思います。
 日奈ちゃんもすごく真面目でしっかりしていて、それはやっぱり、普段、アイドルという環境にいるからだと感じます。根性もあるし、情熱もあるし、でも謙虚さも持ち合わせている。実は、しずかちゃんという役はとても難しくて、ともすればファンタジーな役なのでそれをどうリアルに見せるか、ということに真剣に取り組んでいます。お世辞でなく、本当にふたりともしっかりしていて真面目に努力しているので、初日までにどんな「のび太」と「しずかちゃん」が生まれるのか?を楽しみにしていてください。

 

小越勇輝&樋口日奈・稽古場対談

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ふたりが見せる、絶妙なコンビネーション!?

 

──小越さんの「のび太」役は、本作の制作を手がけるネルケプランニングの松田誠さんの推薦とのことです。
小越
:「のび太」役をいただいたときは「ドラえもんが舞台に!?」と、想像が付かなくて。ただ、お話自体はだいぶ前のことだったので、稽古が始まるまでなかなか実感がわかずにいました。でも、実際に稽古に入ったら、ぼーっとしてるところが似てるとか周りに言われて、まあ、似ているところもあるんだろうな、と思いました。
──「しずかちゃん」役については?
樋口:私は発表になる直前に、突然呼ばれて、お話をいただきました。実は「叱られるのかな?」と思って、ドキドキしながら話を聞いたら「ドラえもんが舞台になるんだけど、しずかちゃんの話がきてるよ」って言われて一瞬、頭が真っ白になりました。まず、ドラえもんが舞台に? 私がしずかちゃん? って。だって、まさか自分が演じるなんて……と。
──十歳という子どもの役で、誰もが知るキャラクターです。
小越:最初は十歳に見えるかどうかを気にしていたんですが、鴻上さんにも「少年」でいいと言われたので、もう考えないようにしています。若いとか、子どもとか、アニメを意識することなく、自分なりの「のび太」を作ろうと思いました。
樋口:私も考えていません。今は意識しないでお稽古するほうがやりやすいと感じています。ただ、大人の方に「しずかちゃんは初恋の人なんです」と言われることが多いので、みんなに愛されるしずかちゃんでいたいな、とは思います。
──小越さんはこれまで、天才や人ならざる者を演じる機会が多く、今回、のび太、という、失礼ながら情けない役というか広く共感を得る役に挑むことが興味深いです。
小越:……難しいですよね。今までの突き抜ける役もやっていて大変でしたが、「普通」というか共感される、憎めない愛される役を作り上げることに関しては……今はまだ迷っています。
 鴻上さんからは「チャーミングに」という言葉をもらいましたが、それも突き抜けないようにしたい。言葉の意味をヘンに解釈するのもダメだなあと思っていて。きっと家族連れの方をはじめ幅広い年代の方がご覧になると思うので、そのすべての方々に共感してもらえる役……と、言葉にするのは簡単ですが本当に難しいですね。
──先程、いただいた鴻上さんにコメントに樋口さんが普段の小越さんを「浮かない顔」と表現したとのことで、言い得て妙で思わず笑ってしまいました。
樋口:だって、本当にそうなんです。今回、初めてお仕事させていただくんですが、その前に出演された舞台を観せていただいたら、全然、ちがう顔で……すごい方だなあ、と驚いていたんです。でも、そうやって気が抜けている一面も見て、安心しました……人間なんだなあ、って。
小越:それ、最近、よく言われますが……もともと、ずっと人間なんですけど!(笑) ただ、よくしゃべるようにはなったな、とは自分でも感じていて。以前よりちゃんとコミュニケーションを取れるようになったかなとは思っています。
樋口:舞台の経験は学蘭歌劇『帝一の國』の白鳥美美子から、乃木坂46「墓場、女子高生」のチョロと、全然ちがう役をやっていたのが、今回、またちがう役で……でも、小越さんがすごく優しくて、いろいろアドバイスをくださるんです。
小越:実は妹と同い年なんです。だから、本当に妹みたいですごく可愛いんですよ。なにか言われると、すぐ頭を抱えて悩んじゃうから「お、どうした?」って、なる。困ってるときも「そんなのすぐにわからないよね」って。
──……小越さんが「お兄さん」っぷりを発揮しています。
樋口:そうなんです! すごい、お兄ちゃんです! それにすごく真面目でストイックな方なんです。ミュージカル『テニスの王子様』でずっと越前リョーマだったと聞いていて、キラキラしてるのかな、近寄りがたいのかなと思っていたら、全然、そんなことなくて……。
小越:まあ、普段はキラキラしてないからなあ(笑)。
──そんな、小越さんからのアドバイス(?)が気になります。
小越:いや、アドバイスではないです。投げっぱなしなんで。
樋口:……まだ、全然、できてないんですけど、「この台詞は捨ててもいいよ」とか……。
小越:えっ、それ、なんかマイナスなことじゃない!?(笑)
樋口:えっと……説明が難しい……。
小越:あー、だから「この台詞が言いにくい」みたいなことがあって。その理由を探したときに、この台詞だけで気持ちを考えるんじゃなくて、相手の台詞に答えがあるかもしれないから流れで見て、そのやりとりのなかではこの台詞は効いてないのかもしれないね、じゃあ、そういうときは気持ちの上で捨ててもいいんじゃない?っていう話をしたんです。
樋口:そうです!
小越:省略しすぎでしょ(笑)。
樋口:説明できないの、まずいですね(笑)……あの、これ、私が言ったことにならないですか……?
小越:まあ、そうしてあげてください。
樋口:はい! そうしてくださいっ。
──とても愉快な掛け合いなので、そのまま丸っと、記させていただきます。

 

舞台の上にいる限りは同じ仲間、です

 

──自分なりのキャラクター像は作り上げましたか?
小越:考えながら……ですね。この前、初めて粗(あら)通ししたんですが、通すことで見えたこともあるので、それらを大切に稽古のなかで組み立てていけばいいのかな、と。
樋口:通したことで安心しました。本当にちょっとだけですがわかったこともあって。それまで全然、見えていなくて不安しかなくて……私、すぐ顔が真っ赤になっちゃっていたんです。あまり人の顔を見ることができなくて、なぜか赤くなっていて。でも、だんだんそれがなくなって、楽しいなって思えるようになりました。
 演じることに関しては、乃木坂46に入ってから『16人のプリンシパル』を経験して……あの、これって全員で16役の台詞を全部、覚えるんですね。
小越:それ、なんか聞いたことがある!
樋口:ちょっと話したかもしれない! 全員が役を演じられるわけではなくて……一幕で自己アピールして、休憩時間に投票があって二幕で選ばれた人だけが立てるんです……すごく過酷だったけど、あれがあったから今があるし、演じることがおもしろいと思えるようになったから。改めて、乃木坂46としてがんばりたいな、と思っています。
──小越さんから見て、樋口さんはいかがでしょう。
小越:板の上に立つからには一緒だな、と思っています。アイドルだからとかは関係なくて、すごく真面目だし一生懸命に受け止めるから、応援したいなと思うし、自分ができることは少ないけれど、できることがあればやってあげたいな、とは思ってます。
 ただ、意見を押し付けたくはないんです。僕が言うことも「たくさんあるなかのひとつである」と。だから自分の意志を持ちながら、必要なものを取り入れながらやりな、って言った……お、これアドバイスじゃん。
樋口:だから、そう言ってます!(笑)
──すごくフラットな方です。なので、「アドバイスではなく、言いっ放し」なのか、と、今、わかりました。
樋口:そうなんです!「ひとつの意見として聞いてね」って言ってくれるんです。
小越:……いやなんですよね。言われたことに対して「そうしなきゃならない」とかなるの。囚われてほしくないし、囚われたくないし。今の時点でできることも限られてるだろうし、たくさん言っても仕方ないと思うし。
樋口:だからいっぱい学ぶことがあるんです。勇輝さんはいろんなことをたくさん考えているんだなっていうのも見ていてわかるようになったし。
 すごく心に残った言葉があって。私はすぐ自分のことでいっぱいになっちゃうんだけど、あるとき「自分がよく見えることは当たり前で、作品もよく見えるようにしたいよね」って。落ち込んでいるときも声をかけてくれたり、逆に放っておいてくれたりすることにも気付いて、ああ、すごく周りが見えている人なんだとわかって。私も周りを見ることはまだまだできないけど、自分だけでなく作品を観てもらえることを考えられるようになりたい、って思いました。
──良き先輩で、座長です。
樋口:はい。演技もすごくて、タケコプターで空を飛んでいるときに吹き飛ばされるときの動きとか本当に強い風が吹いているみたいなんです。
小越:あそこはね、舞台では吊られながらだから、どこまでできるかわからないんですが……。
樋口:あと歌声もすごくて、絶対にブレないんです。私、アイドルなのに驚いちゃって……だから最初は、なんでもできる人だと思っていたんです。でも、誰よりも早く稽古場にいるし、きっと裏では努力をたくさんしているんだな、でも、それを出したくない方なんだな、というのがわかって、見習わなくちゃ、と。
小越:……いやいや、僕もすごくがんばってるな、って思ってるし、知ってます。
──最後に互いに向けて、一言、お願いします。
小越:僕らだけでなくキャスト全員、仲がよくて、これからさらに深まると思うし、幕が開いてからもいろいろなことを発見できたらいいね。
樋口:私、普段、あんまり自分のことを話したり相談したりとかできなかったんです。でも今回、本当に勇輝さんやみんなにいろいろ話せるようになったので、もっともっといろいろ相談しちゃうと思いますが、よろしくお願いします。
小越:こちらこそよろしく。

 

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小越勇輝 おごえ・ゆうき
1994年4月8日、東京都生まれ。取材時、22歳。
小越勇輝 公式ブログ

樋口日奈 ひぐち・ひな
1998年1月31日、東京都生まれ。取材時、19歳。
乃木坂46 樋口日奈 公式ブログ

2017年3月半ば、稽古場にて収録。撮影・文/おーちようこ
(写真は3月3日に行われた公開稽古より)

 

舞台版「ドラえもん のび太とアニマル惑星(プラネット)」
公式サイト

3月26日(日)〜4月2日(日)/東京都 サンシャイン劇場
4月7日(金)〜9日(日)/福岡県 キャナルシティ劇場
4月14日(金)〜16日(日)/愛知県 刈谷市総合文化センター 大ホール
4月21日(金)〜23日(日)/宮城県 多賀城市民会館
4月29日(土)・30日(日)/大阪府 森ノ宮ピロティホール

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