あえて、革命ミュージカル、と銘打った『新・幕末純情伝』によせて。8月14日公演&トークレポ/おーちようこ

 

幕が開く。
どうして、僕らは出逢ってしまったのだろうかーー松任谷由実の『リフレインが叫んでる』に心をのせ、切ない想いを朗々と歌いあげる。
自身の運命をかなぐり捨てるように、苛烈に美しく、真紅の着物をひるがえし、己に唯一、残された名刀「菊一文字則宗」をふるう。
村山彩希演じる、沖田総司の舞う姿に、響き渡る歌声に、瞬く間に魅せられる。

そんなふうにつかこうへい戦後80年に問う、革命ミュージカル『新・幕末純情伝』は始まった。

描かれる舞台は倒幕運動が高まる、幕末。
登場するのは、川辺に置き去りにされ、己の出自も知らぬまま剣士として育てられた、沖田総司。
動乱の世で、身分や性別を問わず誰もが意見を届けられる「一票」を得るために新政府を目指す、坂本龍馬。
新たな時代を夢見て百姓から浪士となった、土方歳三。

この夏だからこそ
届けられるべき物語がそこにあった。

 

 

好きな場面がある。
それは龍馬が、往年のラジオ番組『ジェット ストリーム』の曲とともに、とんでもない長台詞を朗々と、総司に向かって吐くところだ。
今回、その役に挑む百名ヒロキは実に軽やかに、ともすれば笑ってしまうほどの青臭さと純真さで、心の底から理想を求め己の未来を信じ、夢いっぱいに晴れやかな笑顔を見せる。
なんて、まぶしい。

 

 

その恋敵、土方歳三を演じる、柳下大
2015年上演『いつも心に太陽を』当時のレビュー)で、美しく傲慢な若き水泳選手・青木シゲルとして客席を魅了した存在は今回、したたかさも汚さも兼ね備えた、泥臭く不器用な男として、総司に愛憎をぶつける。
「おかりなさい! 年月を重ねるって、すてきだ!」と万感の思いだった。

妹の総司への禁断の愛に身をこがす勝海舟を演じる細貝圭の、歪む顔が悲壮すぎて美しい。
じゃりじゃり……と砂を喰みながら、野心のままのし上がる桂小五郎を演じる、青木瞭は、己の劣等感をひた隠しに、けれど強い瞳で未来を信じる。
龍馬を影で支える岡田以蔵を演じる嘉島陸は、2024年『熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン』千穐楽レポ)で速水健作刑事を熱演。本作では、その熱さを内に秘め、抜き身の刀のような鋭さを見せる。
そして、岩倉具視を演じる杉山圭一の狂気が今作も爆発する。

 

 

総司を仲間として迎える新選組隊士たちの明るさが切ない。
久保田創、演じる新選組局長近藤勇が「新しい時代が見たいんだ!」と吠える。そのために、仲間と迎えた者を裏切ってでも、生き延びたいと見苦しく、あがく。
登場する誰もが愚かしく、人間臭く、情けない。
そこに在るのは、惑いながら、揺れながら、けれど、己の道を愚直に歩む者たちだ。

この物語を世に送り出した、つかこうへい氏は、そんな愚かさごと、あたたかく、彼らを見守っているんだろうな、と思いを馳せる。
シニカルに煙草をくゆらし「まったく、仕方のない奴らだなあ」と笑っているのかもしれない。

実はかつて、一度だけ、取材で話を伺ったことがある。
そのときも、北区つかこうへい劇団の劇団員がいかに、とんでもない量の焼き肉を食うのか、といった迷惑(?)話を「こいつら、金がかかってしょうがないんだよなあ」と嬉しそうに話されていた姿が印象的で。
きっと、人間が大好きなのだ。
だからこそ、脚本に込められた思いに全力で応えているであろう、板の上の人々は、あれほどまでに愛おしい。

 

 

終演後。
ぼろくそに泣きじゃくり、涙を拭いながらスタンディングで拍手を続けた、この日、「ミュージカルってなんだろう」というタイトルでトークイベントがあった。涙も引っこまぬうちに、これ、どんな気持ちで見ていいの? と思った、その内容は実に興味深いものだった。

登壇したのは主演で沖田総司役の村山彩希さん、土方歳三役の柳下大さん、新選組局長近藤勇役にしてナレーションも担当する久保田創さん、そして演出の岡村俊一さんとミュージカル部分の振り付けを手がけ、これまで木村伝兵衛部長刑事はじめ、つか作品に出演している多和田任益さん。

トークテーマから、今回の「新・幕末純情伝」はミュージカルなのか、という話を通して、その瞬間の心をのせる曲を歌い上げることはミュージカルなのではないか。という話から「そもそも、つかこうへいさんの台詞は日常会話ではなく、どこか調べに乗せて話すような感覚がある」という柳下さんの言葉にうなずく。

もとより、『熱海殺人事件』しかり『銀ちゃんが逝く』しかり、つかこうへい作品には歌謡曲がよく似合う。それが今回、より特化し、心をのせた楽曲がたくさんある公演なのだろう、と理解する。
村山さんは、振り付けの多和田さんに「絶対に『フライングゲット』は歌いたいんです」と宣言したとか。そんなふうに、どんな曲をどの場面で歌うか? を全員で試行錯誤して作り上げられた本公演は、改めて言葉にすると「ただただ圧巻で、つかこうへいを浴びたー!」だった。

本公演は8月24日まで。
公式サイト http://www.rup.co.jp/stage/bakumatsu_2025.html

 

 

その2日後。
今年12月に『熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン2025』上演が発表された。やったー! 戦後80年目の、つかこうへいは、まだまだ終わらない。

公式サイトhttps://www.gorch-brothers.jp/atamimonte_2025

 

 

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