新たな、舞台『近松心中物語』が生まれる場所から、豊田エリーさん、霧矢大夢さん、堀越涼さんの想いをここに。

独特な世界を紡ぐ、CCCreation Presentsの最新作は舞台『近松心中物語』。
稀代の戯曲家と謳われた秋元松代の名作に挑むのは、これまでもともにタッグを組んできた、あやめ十八番の堀越涼。
描かれるのは、飛脚問屋の養子・忠兵衛と遊女・梅川、傘屋の婿養子・与兵衛と妻・お亀のみちゆき。

1979年、蜷川幸雄の初演をはじめ、さまざまな演出家によって彩られてきた本作、今回は生演奏の楽隊に振り付けを迎えて上演されるという。
果たして、どんな空間が生まれてしまうのだろうか?

 

稽古場に伺うと、そこは創作への熱が渦巻く空間だった。
この日は出演者全員で脚本を頭から通して読んでみる、という日。
しかし、演出を手がける堀越さんは台詞ひとつ、ひとつに対して、問う。
「これはどういう意味なんだろう。ねえ、どう思う?」
それを受け、俳優たちも自身が演じる役だけでなく、登場人物について考え、解釈を披露する。それが自分の役だろうと、役でなかろうとも、だ。
なんて、おもしろい!

堀越さんはさらに語りかける。
「これは秋元先生が書いた戯曲だから、秋元先生に聞かないとわからないことがたくさんある。だから、みんなで考えましょう」
その言葉に俳優たちの思考が転がって見えない、けれど多くの思考が行き交う気配がうかがえる。
やがて、「……こういうことじゃないでしょうか?」と一人が話し出すと、堀越さんはにこにこと「そうか! そうかもしれないね。だとしたら、この台詞はどういうつもりだったんだろうね」と、さらに会話を転がし、弾ませていく。
演出と俳優、ではなく、ここでは誰もが創作者だった。

幾度も上演されている古典名作
その、物語の妙を、どう現代へ届けるのか

じっくり台詞と取り組んだ稽古の後。
飛脚問屋の養子、忠兵衛と道ならぬ恋に堕ちる遊女の梅川を演じる豊田エリーさん、もう一方の修羅を逝く傘屋の与兵衛とお亀夫婦の母、お今を演じる霧矢大夢さん、そして堀越さんの鼎談をここにお届け。
己の思いを貫く女と家を思い厳しくあろうとする女、異なる女を演じる俳優が、この日の稽古で感じた「今」を伺った。

 

霧矢 皆さんのアイディアを求められているとおっしゃっていて、思いついたことを言ってもいいのだと思ったし、実際に言えるような流れを作ってくださっていることが楽しいです。
みながみな、自由に意見を言えて、そこに対して演出家が誰よりも話して、動いてくださるので、自然にいろいろいなことを考えて意見を言いたくなってしまう。そんな状況を作っていただいていて、エネルギッシュなゲームをしているようでとても刺激的です。

豊田 すごいエネルギーで引っ張っていただいている感覚です。この作品は古典の名作ですが、それを現代に置き換えると伺っていたので、もっとリアリティがある方向性かなと想像していました。でも、稽古に入ってみて、確かに現代に置き換えてはいるけれど、根底にあるのは変わらないんだな、と感じています。
今日の稽古でも、堀越さんは「当時は平均寿命も短くて、死というものがより近いところにある人たちで。だからこそ、より際立つ生きる活気みたいなものを出してほしい」とおっしゃっていて、心をどこに置いて演じるのか、とか、改めて受け取るものがたくさんありました。一人で考えるよりも広がりがあって、もっといろいろな発見があるんだろうな、とわくわくしています。

霧矢 確かに今日、私は母であり、店を預かる女主人として強気な感じで台詞を読んでいたのですが、稽古を通してくつがえされました。むしろ、まろやかなセレブというか、商人としての本心や信念を隠して微笑んでいる、みたいな方向はどうか、と言われて。実際に演ってみて、なるほど、と思えて、こうしていろいろやってみることができるのがすごくうれしいです。
キャリアを尊重していただいているとわかっているのですが、稽古場で出したものに対して意見をいただけないと少しさみしくなるときがあります。もちろん、出したものでいい、ということでもあると受け取っていますが、こうして切磋琢磨できる環境に飛び込めたことはとても大きな機会だと噛み締めています。

堀越 僕はむしろ、全部を話し合いたいと思っているので、意見を出していただけることがうれしくて!!! めちゃくちゃうれしいですし、楽しいです! 他でも話していますが、僕、一度はこの道を離れて、7年間、千葉の香取神宮参道にある実家の団子屋を継いでいて。縁あって再び、お芝居で生きていく羽目になった……というか(笑)、突然、演劇の世界にぽーんと放り込まれてから、まだ2年ほどなんです。
でも、皆さんは僕よりもずっと前からお芝居で生きていくことを選んで、決めている方々なわけで。だからこそ、リスペクトもありますし、こうして集まっていただいたからには皆さんが全力で楽しめるようにしたいし、もちろん僕も楽しめなくっちゃ! という思いがものすごくあるんです。とにかく風通し良く、全員が大きく息ができて、関係を紡いでいけることがパフォーマンスに良い影響を与えて、おもしろいものが生まれると思っているんです。

ーー今日の本読みでもメインキャスト以外の方々が、いろいろな役の台詞を読んでいました。

堀越 あまり決めてしまわず、その場で読んでもらうことが多いです。同じ台詞を可愛い声で読んでもらうのと、渋い声で読んでもらうのとでは印象がまるでちがうでしょ。それで、意外なおもしろさがあったり、発見があるから、そこも楽しんでほしいんです。
だから、今回の宣伝のビジュアルも、これまでの『近松心中物語』とはちがいますよ、という印象に一役買っていてくれて。たぶん、観たことのないものができてしまうんじゃないかな……と、この数回の稽古で感じているので、驚きにきてほしいです。ただ、あくまでも古典の名作なので、そこを無理やり現代風にしようとは思っていなくて、皆さんの力をお借りして、時代のずれを引き寄せて違和感なく届けたい。それがこれから大変でもありますが、すごく楽しいことだとも思っています。

霧矢 どきどきしてきました……(笑)。でも、そこを助けてくれるのが、きっと衣裳であり、今回、方言指導も入っていただきますが、言葉だと思うのです。その力を借りて、新たな物語を届ける、ということがものすごい挑戦だと思いますし、難しいことを託されていると感じています。

豊田 はい、私もひしひしと感じています。すごく挑戦しがいがあると感じていて、同時に果たして自分はどこまでできるのかな、とも思っています。さらに今回、身体表現が加わって、演じるだけでなく振り付けがあるとのことで。稽古のはじめに皆さんがダンス歴を話されていて、わたし、全然、ないな……と思ってしまって……。

堀越 あー、そこがまた、いいんです。今回、メインキャスト以外の方はオーディションで集まっていただいたんですが、意外にもおもしろいダンス歴というか、身体能力の持ち主が集まっていることがわかって。そこも、これからどういうふうに喧嘩して作っていこうか(笑)、と俄然、おもしろくなっているところです。

豊田 そういった意見のやり取りを聞ける場にいられることが、今回、とても得るものがある、と改めて思います。振り付けしていただくことが、自分が演じることに対しての助けになるだろうし、そこはすごくありがたいし、学びたいとも思います。

霧矢 私自身も、和も洋も経験がありますが、それらとはまたちがった身体の使い方を知れるかもしれない……そう思うと楽しみで仕方在りません。

『近松心中物語』だから
心中することがわかっている

堀越 今回、物語は決まっていて、最後は絶対に心中する、ということが既にお客様に伝わっているんです。
なので今、僕は、この物語がどこから始まったのか? を探っています。忠兵衛と梅川が出会った瞬間なのか? だとしたら、そこにどんな感情が生まれたのか? ということを大切にしたくて。

霧矢 すごくわかります。あ、今、恋に落ちた、という瞬間はとても大切だと思うのです……。

堀越 はい。そのふたりが出逢った瞬間、周りは酔っ払った若者が「次どこ行く?」みたいな話をしていて、客引きがいて、汚い世界が広がっているんだけど、その空間だけはとてつもなく美しい……みたいなことを表現したい。シェイクスピアの戯曲『マクベス』の「綺麗は汚い、汚いは綺麗」みたいな、どんなことにも裏と表がある、といったことを音楽でなのか、動きでなのか、台詞でなのか……は、まだわかりませんが、表現したいんです。
この戯曲は僕が書いたものではないので、稽古が始まったばかりの今、どこに辿り着くか皆目、わかりません。自分で書いている戯曲は執筆期間中、ずっと向き合い続けることができますが、今回は秋元先生がどういう想いで書いたかを推測するしかないんです。だからこそ、全員と創り上げたいし、最後の通し稽古で、初めて辿り着いた先がわかるのかもしれません。

豊田 そこに至るための一歩を、一緒に考えられることが豊かだな、と思います。実は初舞台が、藤田貴大さん演出の『ロミオとジュリエット』(2016年)で、物語が逆再生されていて、結末から始まって出会いで終わるというとても斬新な作品でした。でも、古典作品で、お話が知られているからこそ、そういった実験的なことができたと感じていて。
今回も古典だからこその、作品が持つ懐の深さを、ご一緒する方々と、どう遊んで届けられるのか? が、稽古が始まったばかりの今、この瞬間ですら、とても心躍っています。

霧矢 だからなのか、稽古が始まるとものすごくにぎやかなのに、始まる前はシーンと張り詰めてい て、そこはかとなく緊張感が漂っているんです。それが、これまで私が経験してきた作品の空気とはちがっていて。そういった空気も丸ごと楽しんでいる自分もいます。

ーー最後に、読者の方々には、ただひとつ、「観てください」だと、思うので、今、この時点での、それぞれに向けてのひと言をお願いします。

堀越 では僕から。霧矢さんとは、初めまして、ですが、すっごい優しくて話しやすい方で、なによりも柔軟に積極的に、この座組に参加しようとしてくださっていることがとてつもなくありがたいです。作品に於いても重要な役回りなので、その方が積極的にみなさんに声をかけてくださって、アイディアを出してくださることに静かに驚きつつ、とても心強いです。
豊田さんも初めましてですが、とても穏やかで、佇まいというか、まとう空気がすごくいいな、と思っています。梅川は遊女ですが、決して身分が高いわけでもなく、男を心中に引きずり込む魔性の女、とかではないので、豊田さんの、ひとりの人間として、今、ここに在る、その感じが、これまでにない梅川を生み出してくれるのではないか、と……とても楽しみにしています。

豊田 ありがとうございます。まさか、自分にこういう機会をいただくことがあるとは思ってもみなかったので……ただ、今はまだ大人しいんですが、馴染むともっと騒がしいかもしれません(笑)。堀越さんが言葉に対して説明されるときの、単語のチョイスの感性がものすごくしっくりくるのが心地よくて。梅川は遊女で、そこをどう見せるか? は、とてもセンシティブなことだと思うので、そこを大切に考えてくださっていることがわかって、本当に私にとっての挑戦だと思ってています。
大夢さんは、先程、話されていたように、ご自身の解釈で演じるだけでなく、与えられたヒントを瞬時に取り込んで変えて演じることができて、でも、その根底にある芯は変わらない、みたいなところが圧巻で、物語では関わることはないのですが、ものすごく勉強させていただいています……月並みな言葉ですが、どうぞ、よろしくお願いいたします。

霧矢 御本人を眼の前にして語る、って照れくさいですね……でも、お伝えさせていただきます。堀越さんは初めてご一緒させていただきますが、お話をいただいた企画の段階から「?」がいっぱいで、でも、だからこそ、おもしろい! と飛び込みました。実際に稽古に入った今も、初めてのことだらけで、それがとても新鮮です。
言葉のチョイスがすてきで、たとえ話がときどき脱線して、それがまたおもしろくて。年齢を重ねていくと、どうしても安全な方へと流れていきがちで、わかりやすいキャラクターを作ろうとしちゃうんです。でも、そこを「そうじゃないです」と言う。さらに「こう演じてください」ではなく「どう演じたいですか?」と問いかけてくれる。そのことに応えたいと思います。で、エリーちゃんはね、本当に可愛らしくて……。

豊田 わわわ……もう、そんなことを言われなくなっている年齢なので、うれしいです……!!!

霧矢 いえ、本当に、先程、堀越さんも話されていましたが、梅川は決して他者を圧倒するような存在ではなくて、でもヒロインであり、最後には心中まで行ってしまう……とても難しい役だと思うんです。でも、稽古をご一緒して、台詞を読んでいる姿に、存在感があって、すごく華がある方だなと感じていて。稽古を経て、それがどんな梅川へと花開くのか……すごく観たいです。

堀越 物語は、ただ1点、なんですよね。如何にして心中に至るかに向かって、ひとつ、ひとつ、ボタンをカチカチとはめていって、観客のボルテージがマックスになったときに、心中に辿り着く。そう仕立てていくためにはなにが必要なのか、全員で探っていきましょう!

稽古は始まったばかり。
彼らが紡ぐ、『近松心中物語』の幕開けを待ちたい。

2025年9月都内稽古場にて。
撮影・取材/おーちようこ

 

豊田エリー

公式サイト
https://loca.ltd/ellie-toyota/
個人サイト
https://www.instagram.com/ellie_toyota/?hl=ja

霧矢大夢

公式サイト
http://www.orangeblue-company.com/news/kiriya/

堀越涼

公式サイト
https://ayame-no18.com/member/horikoshi/

 

CCCreation Presents
舞台「近松心中物語

公式サイト】https://www.cccreation.co.jp/stage/chikamatsushinjyu/
【公式X(旧Twitter)】@ccc202007

作:秋元松代
演出:堀越涼(あやめ十八番)
出演:渡部豪太 豊田エリー 松島庄汰 木﨑ゆりあ 植本純米 霧矢大夢 ほか
楽隊:吉田能 福岡丈明 ほか
日程・会場:10月18日(土)〜10月26日(日) 神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
◎託児サービスあり 公演1週間前までに要予約・有料(2,000円・事前支払い)(マザーズ:0120-788-222)

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