「あなた、を、ていねいに扱うのは、あなた、しかいないんだ」──紅玉いづき、作家15周年の想いをここに

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朗読劇『よるのこえ』で最善席とコラボを果たした、作家・紅玉いづきさんのロングインタビューをお届けします。

15周年だからこそ
やれることを
全部、やりました

10年でも20年でもなく、15年、を節目とするところが、いかにも「紅玉いづき」らしい──今回、15周年企画の最後を飾る『15秒のターン』について、思いの丈を存分に語っていただきました。

取材・文/おーちようこ

 

──作家デビュー15周年、おめでとうございます。
 
 編集部からいただいた企画書に「15周年企画」と書いてあって、あっ、15周年なんだ、と気づきました。それが去年のことで『ミミズクと夜の王』を出し直しをしたい、と提案いただいて。
 ただ、最初は乗り気ではなかったんです。だって、すでにたくさんの方に読んでもらって、愛してもらった本ですし、当時のレーベルのなかでも先進的な表紙でもあったので、それを超えるものを作ることはできないだろう、と思って。でも、声をかけてくれたのが、『ミミズクと夜の王』をあの形で世に出す、と決めた初代の担当編集さんだったので。『ミミズクと夜の王』はこの編集さんの本でもあると思っているので、その方が願うことなら、応えようと思いました。

──結果、『ミミズクと夜の王』と姉妹作『毒吐姫と星の石』の完全版、青春小説集『15秒のターン』三冊連続刊行となりました。

 最初から三ヶ月連続刊行という話はあって、三冊目をどうしようか、という話になったときに、私は「青春の物語を一冊で出したい」と思ったんですね。そこで、雑誌掲載のみだった短編「15秒のターン」を収録したいと伝えたところ、現担当編集者がとても気に入ってくださって。
 そこに、まだ電子書籍になっていない短編「2Bの黒髪」と個人的に活動している少女文学館発行の『少女文学』に収録した「戦場にも朝が来る」、書き下ろしの「この列車は楽園行き」「15年目の遠回り」を入れて青春小説の独立短編集を作っていただきました。わたしにとってもご褒美の一冊です。

──『15秒のターン』は数字の15が題材です。

 これは電撃文庫15周年企画で、15を題材に、15年とか、それぞれの作家が短編を書いていくという競作企画の1本でした。ただ、雑誌掲載時は誌面を三段に分けて時系列でそれぞれの心情をつづり、重なる台詞だけそろえた……という凝った形だったので、1本の小説の形に落とし込むことはとても難しかった……! 悩んで悩んで、最終的に小見出しのように秒数を書き、登場するふたりが、その瞬間に考えたりり、振り返ったりした、時間経過を表しています。
 それに、確かに自分で書いた文章だけれど、13年前の、この煌めきがまぶしくてまぶしくて(笑)。これはもう、今はやれない……と思っていて。ただ、今やれないことができていた、ということは私にとっては価値があることなので、それがこうして文庫となって世に出る、ということは喜ばしいです。

──これまでに書いた小説を一冊に編む苦労はありましたか?

 一口に青春と言っても、書いている時代も、私自身の環境も大きくちがうし、当時の現代と、今の現代もちがう。それらをどう一冊にまとめるか、という点で構成というか編集をものすごく考えました。たとえば、携帯電話を持たせるかどうか? なくても違和感なく、読んでもらえるのか? といったことには苦心しました。
 さらに文庫を手にとってくださった方へのプレゼントとして、購入特典の新作SS(ショートストーリー)「開かれた世界」も書きましたが(2023年3月27日午前10時までダウンロード可)この一本で登場する人々を網羅してはいるけれど、厳密に言えばつながっていないんです。ある意味、パラレル。ただ、特典小説としはとても気に入っています。収録した小説は独立したお話だけれど、「インターネット」という電脳空間を介していたらこうしてつながっているかもしれない、という意味でのタイトルで、あれは読者の方々への私からの精一杯のプレゼントです。

──『ミミズクと夜の王』とコミカライズ3巻、『毒吐姫と星の石』、『15秒のターン』それぞれの新作SSは……読んでいて、たいへんにむずかゆく甘酸っぱい内容でした。お人となりを存じているので、お伝えすると……ものすごくがんばられましたか……?

 はい! 普通なら書かないことを書きました(笑)。ここまで描かなくても、みんなわかってるよね? というところをあえてお届けしようと思って、ものすごくがんばりました!!!


本としての面白さ、が
詰まった
『15秒のターン』

制服の女の子が表紙を飾る──けれど、難病ものでもパラレルものでも、タイムリープものでもない、まさに「紅玉いづき」が詰まった一冊だ。

 

──改めて収録作への思いを伺います。表題作については伺ったので「2Bの黒髪」について。

 これ、本当に忘れられない話で。『19』を題材にしたアンソロジーに書いたものなんですが、実は先に出した小説が全ボツになったんです。

──そんなことがあるんですか!?

 はい。あるんです(笑)。宝塚歌劇団が題材だとはっきり書かれているので載せられない、という編集部判断でした。私も書きながら、どうかなあ……と思っていたので、おっしゃるとおりです、ってなったんですが。ただ、もともと舞台は好きなので、それがのちの『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』(2015年 KADOKAWA刊)につながっているんです。なので、私の変遷のなかでは無駄にはなっていなくて、ちなみに、のちに少女文学館発行『少女文学』に「星の階段」というタイトルで収録し、供養しました。
 というわけで、急いで書き直さなくてはらならなくなり……自分のなかでいちばん速く書ける、得意なものを探し出して「紅玉いづきとしての最短ベスト」を出しました。

──ご自身が描く世界はある意味、閉塞した環境で、けれど全力であがく……といった心情を我が事のようにつづるので、心をがばっ! と引きずられてしまう読者が多いと感じます。

 あー……あの、私、読んでくださった方の感想を聞いたり、読んだりするのが好きなんですね。で、みんな、この小説を読むと、感想ではなく自分の話を始めるんです。「私が19歳のときにはね」って。

──感想ではなく、共感を語りだしてしまう。

 そう! 隣で読んでいた友人が、とつとつと「私さー、当時は予備校に通っていて……」みたいな話を始めちゃう。だから、「あなた、のなかの、わたし」みたいなものを、見せてくれた作品だったな、と思っていて、いただく感想がとても楽しい小説でした。
 これもかなり直接的に「インターネット」を書いていますが、世に出すのはぎりぎりだったなと思っています。今って、個人のサイトを作って定時に更新するよりも、投稿サイトが充実しているし。手をいれるかは悩んだんですけど、このままで……。自暴自棄と自虐の話で、そこが伝わればいいかな、と。実は、この一冊を通したテーマとして「自分を大事に扱うことの難しさ、大切さ」を込めています。とくに書き下ろしの「この列車は楽園ゆき」でストレートに出しています。

──そのテーマを選んだのはなぜでしょう。

 私が「女子高生」を書いていた時代から遠く離れてしまっていて、ともすれば、これが最後の機会かもしれないと思っていたので、伝えたいことはなんだろう、と考えて辿り着きました。でも、そういうことをストレートに書くのはかっこ悪い、とも思ってはいるんです。そこまで親切に書かなくても私の読者には届くだろう、と……ただ、きっといつか、こういうテーマの小説を私は書けなくなるだろう、とも思っていて。だから悩み苦しむ女の子たちに言ってあげたいことを書きました。
 きっと届いているとは思うけれど、改めて、最後かもしれないから「あなたをていねいに扱うのはあなたしかいないんだ」と。これが今回、いちばん、届けたかったことなので。

──続いて「戦場にも朝が来る」はソーシャルゲームが題材です。

 これも題材が題材なので、直さずに入れていいのかどうかは迷っていましたが、OKをいただき、さらに裏表紙のあらすじに「ソシャゲという虚無」と紹介されていたので、ああ、いいんだ、ってなりました(笑)。まあ、これがダメって言われたら、別に書き下ろせばいいかな、っと思っていたので。

──さらっと「書けばいい」というあたりが、作家です。

 まあ、そうでなければ作家ではないかなと……。これもまた少女たちが閉塞感のなか、最後に大きな決断をする、というお話であり、生きて戻って来る話です。
 これ、読んだ友人から「彼女たちはその後、どうなったのか?」とすごく聞かれるので、特典の新作SSに書きました。ふたりはまだゲームを続けているし、バイトで自分を削らなくてもよくなったけど、相変わらず自分自身をコンテンツとして回し続けている。そんな刹那的な彼女たちの生き方であり、互いに手を取り合って生きている姿を書きました。
 現代の「インターネット」、としてゲームの「ランカー」を描いていますが、かなり、赤裸々に書いちゃっているので(笑)、それらをまったく直さず収録できてよかったな、と思っています。

──刹那的ではありますが、活き活きとしているというか……後悔はない、と感じます。

 そうですね。この物語の決断の瞬間は、トップを走っていたアカウントが乗っ取られたときに「じゃあ、それを超えるためにいくらいるの?」と返すところかもしれません。きっと辞めることもできたと思うし、辞めるならこの瞬間だったのかもしれない。でも、続けることを選ぶんです。このときは「戦争」が題材だったので、ソシャゲの地獄はまごうことなく戦争だ、と思って書きました。
 清濁あると思うんだけれど、まあ、これが虚無か虚無じゃないかはともかくとして、倫理観のないことを肯定しないようには気をつけて書きました。そのあたりはチューニングに心を砕きました。

──書き下ろしの「この列車は楽園ゆき」について伺います……というか、この小説はこれまでの作風とは異なるアプローチを感じました。

 あー……正直に言ってしまうと、とても読みにくい小説だと思います。「とても食べにくいものを出してすまん」と願いながら「でも食べてほしい」と願って書きました。登場するふたりの距離も含めて、ページ数で言ってしまうと、225Pより先に、すごくいろいろなことが起こり過ぎて、私としてはそこから231Pあたりの、一気に加速するところを書きたくて。なので、ちょっとすごく珍しいバランスというか構成で、ぎりぎりで危うい感じがするというか……。

──びゅ! と進み、まさに「今」が描かれています。

 そう! 具体的に書いていませんが、ついにというか、結果的に、「コロナ」も出てきて。ここまで「人間」というリアルを書いたからには織り込まなければと思ったし。自然に出てきて自分でもびっくりしましたね。でも、そこはあまり悩みませんでした。
 ただ、「青春小説」と銘打った一冊から、この現代部分は大きく外れているな、と思ったので、編集から、ここ余計ですよ、邪魔ですよ、と言われたら削るつもりでいました。結果的に残ったのでよかったです。

──執筆時、ロケハンに行かれたそうですが、なぜか書き終えてからだった? とか。

 そうなんです! 書き終えてゲラを抱えて、その土地の友人のアテンドで、あちこち回りました(笑)。といっても、最初はどことも決めていなくて……ただ、登場するふたりの名前……高根と鳴沢は富士山の別名からとったんです。
 富士山が見える土地で、高校生が少し背伸びして東京に行ける場所で。そこは宇都宮かもしれないし浜松かもしれないな、とか考えながら書いていたので、書き終わってから、小説に登場した場所を探して歩きました。まず書かないと、どこを見たらいいのかわからないし……。でも、そしたら、あったんですよ。確かにあったんです。その場所が。あったんだけど……。それを明言してしまうと、共感を狭めることになってしまうかもしれないと思って、地名は特定してはいません。でも、あったんですよ。びっくりしました。こんなことあるんだなって。

──これは、挑戦だったと思いますが、こういった書き方をしたのはなぜでしょう。

 最後、だからです。もう、そろそろ、私は青春から遠ざかりすぎたから。書けなくなるだろうと。でも、今だからこそ書ける、と思ったし、書きたいことをストレートに放つ台詞に託して、言ってもらいました。今、悩めるすべての女子高生に届いてほしい、と願って。それはとても難しかったけど、書いた……ら、書けました。
 読者も受け取ってくれていると、感じています。私は割と書いたものに対して読者さんとのキャッチボールをうまくやれていると思っていて。なので、この話も投げたボールを受け止めてくれて、噛み砕いて食べてくれたと信じています。前半部分、おそらくは読みづらく退屈だろう、と私も分かっていながら書いていました。ただ、それは必要なものであり、停滞の時間を書かなければラストの疾走感を描くことができなかったから。

──読者を信じる、という覚悟を受け取りました。

 うん……軽やかで読みやすくて楽しい小説を書きたい、という思いもあるけれど、決してそれだけが評価軸ではないと思うので。とはいえ、どちらかといえば私は、シンプルでつとめてわかりやすい話を書きたい方なんですが。作家生活15年目を迎えて、やはりこういうものも書きたい……という欲求があり。今回は付き合って欲しい、と思いました。
 書ききったことで「私はこういうものも書けるんだ」と思うことができたし、読者の方の声ももちろんですが作家の仲間にもすごく評価してもらえて、先輩に「名作でした」と言っていただけたときはめちゃくちゃ励みになりました。

──ここまでお話を伺って、思うのは……失礼ながら「大人になったね」ということでしょうか。

 ああー! そう……だといいなあ。作家として先に進む、一歩となるといいなあ。だとしたら「行こう、鳴沢さん」と書けた瞬間、が私にとってのターン、かもしれません。だからこそ、最後の「15年目の遠回り」は本当にあっさり書けました。これは食後のデザートでもあり、同時に、私はまた、愚直に次の15年、書いていきます、というメッセージでもあります。
 そこまで含めて、書けたことで……ようやく、ようやくまとめることができました。今回、ともすればノットフォーミーな方もおられると思いますし、届かない、ということもあるかもしれません。けれど、私の15年の集大成であり、スタートラインです。どうか受け取ってください。

 

2022年6月収録

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●こうぎょく・いづき/1984年、石川県金沢市出身。金沢大学文学部卒業。『ミミズクと夜の王』で第13回電撃小説大賞・大賞を受賞しデビュー。閉塞した世界で逆境を跳ね返し、突き進む少女たちを描き続けている。現在、『ミミズクと夜の王』コミカライズも連載中、発売中。

 


紅玉いづきデビュー15周年記念企画アンコール!
「人喰い三部作」完全刊行決定!!
『MAMA 完全版』『雪蟷螂 完全版』今冬刊行予定

2022年3月からの連続刊行に続き、
今冬『MAMA 完全版』『雪蟷螂 完全版』の刊行が決定。
その他アンコール企画も現在準備中。詳しくは、MW文庫公式ページにて。

▼「紅玉いづきデビュー15周年記念企画」特設ページ
https://mwbunko.com/blog/news/entry-11277.html

▼MW文庫公式
https://mwbunko.com/

 

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