平野良さん新連載コラム開始。『忘備録(仮)』 第1回 始まりの記憶
2026.6.27
俳優にして演出家、平野良さんのコラム『忘備録(仮)』、当サイトにて連載開始!
新作上演に向けて「ある演劇が初日を迎えるまで、迎えたあと」を独自の視点でつづっていただきます。


第1回『始まりの記憶』
これは備忘録である。と同時に一つの舞台が出来上がるまでに起こる様々な化学変化や、のちに必然だったと言わしめる奇跡の正体を見つけるための軌跡である。
私は役者を生業としつつも、たまに演出のお仕事をいただく。そうはいっても学校で演出のノウハウも学んだこともなければ、どうしても生み出したいものがあるといった創作に向ける並々ならぬ情熱があるわけでもない。こういうと、なんとも怠惰で薄情者に聞こえてしまうかもしれない。しかし役者として色々な現場、作品に携わってきた身としての経験や、願望、見てみたい景色は人並み以上に持ち合わせえていると思う。そんな私が一体どのようにして一つの作品を世に出すのか? を追体験してもらえたら幸いである。
さて今回お話をいただいたのは、以前から歴史もののシリーズ作品などでご一緒しているプロデューサーからの提案で「新作を演りませんか?」という藪から棒なものだった。気になる新作の内容やテーマは「兄弟」とのこと。兄弟がゆえの絆や格差、血縁というしがらみ、才能、継承、そして愛情を用いて、人を描いていこうというものだった。
タイトルは「カインとアベル~兄弟寓話コレクション第一弾~」
なるほど、シリーズ化したい情熱を感じるタイトルだ。兄が弟を殺す原初の悲劇、そこを軸にさまざまな兄弟の物語を紡いでいくようだ。そして第一弾は平家の兄弟に光を当てる。この時代における兄弟はさぞ人の根源を浮き彫りにしそうだ。作家は、これまたよくタッグを組ませていただく赤澤ムックさんだということで、断る理由なんてどれだけ探索しても見つかりそうにないくらい面白そうな企画だ。即決である。
私はキャスティングやスタッフの招集などには基本一切関与しない。プロデューサーがみたい景色を最大限美しく顕現させたいという思いからだ。しかしながらこのプロデューサーは私のツボを押さえるのが得意のようで、スタッフは前シリーズでお世話になっているチームをそのまま据え置きだという。私は一度でもチームになるとそのメンバーに思い入れ、いや愛着、愛情、執着と言っていいほどの仲間意識を持ってしまうので考慮してくれたのだろう。この時点で私は幸せ者だ。4人芝居だというが、キャスティングはというと、主演・松田岳。内藤大希。昨年に手がけた歴史シリーズのメンバーだ。にやけが止まらない。そこへ私も加わるわけだが、最後の1人はなんと水夏希さん。私は今まで女性キャストがいる作品を演出したことがない。しかも大先輩ときた。初の試みである。男女で分けるつもりもキャリアの有無で演出が揺らぐようなことはもちろんないと思うが、ドキドキはするものである。役者として何度も共演させていただいたことがあり、その魅力や情熱、ストイックさを十二分に持ち合わせている水さんにたくさん甘えてしまいそうだ。これから稽古が始まってからのお話を乞うご期待。
ビジュアル撮影日。
現場に入ると既に岳と大希がメイクをしていた。久々の再会に頬が緩む。オファーを受けた次の話がもうビジュアル撮影? そのための打ち合わせの話はないのか? そう思われる方も多いだろう。しかしこのプロデューサーとやるときはいつもこうである。ビジュアル撮影はあくまでイメージの装いで本編とは全くとまではいかないが関係ないものを撮るのである。なのでもちろん私も現場に入って初めて「こういうのを着て今日は撮影するのかー」と呑気な感想を漏らすのである。この時点では演出家の割合0、役者100の立ち振る舞いだ。なのでいつも通り岳と大希と他愛もない話で盛り上がるのみである。ちなみにこの三人が集まるとなぜか筋トレや体の作り方の話になりがちである。普段穏やかで口数が多いわけではない岳も筋トレの話になると多弁になる。大希も毎度そこへ混じって「俺ももっと痩せたい」というテンプレの言葉を放り込んでくる。大希は末弟の役のはずだが顔周りに逞しい髭を蓄えていた。どうやら今進行中の作品の役作りで剃れないのだという。末弟には見えないがなんとも似合っている。言うなればヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンのようだ。カインとアベルの本番は剃ると言っているがあまりに似合っているので、こういう末弟がいたっていいだろうと思ってしまう。まあ一つの可能性として今は胸に留めておく。このようにその場その場で偶発的におこる事象で作品がどんどん変化していったりもする。
私も撮影のためのフィッティングを終え、メイクに入るかと思いきや、ここでプロデューサーとムックさんとの台本打ち合わせが始まるのである。普通に考えればどんなタイミングで打ち合わせしているんだと思うが、フレキシブルに時間の有効活用といえば聞こえはいいだろう。事前にもらっていたプロットを元に、このまま進めていいか、何か演出としての要望や展望があれば反映させていくというもの。まあ基本的に私は受け身人間なので、この時点では「お任せで」としか言わないのである。割合で言うと演出10、役者90といったところか。しかし新シリーズ、しかも小説や漫画が原作のわけでもないオリジナル作品の第一弾であるから、プロモーションの仕方などは話しておきたい。
劇場は渋谷にある「CBGKシブゲキ!!」。何度もお世話になっている素敵な劇場だが、サイズ的に物凄い仕掛けを仕込んだり、豪奢なセットを組んだりするのはトゥーマッチだ。なので攻め口は、まずは脚本的ギミック(これは今の所ムックさんに丸投げである)、そして照明などの色使いで視覚から観客の想像力、記憶を想起させること。最後に、そして今回一番重きをおきたいと現時点で思っているのは『音』だ。言語が発達する前から全世界でシンクロニシティ的に扱っていた音や音楽で世界を構築しようと思っている。なのでカインとアベルがいる神々の世界のテーマ曲、平家が生きる時代のテーマ曲を早々に作ってもらってプロモーションの一環として打ち出してほしいと要望した。第一弾として「こういうものをやります!」と断言してしまうより、一体何をやるつもりなんだろう? と思って欲しいわけだ。いつだって人は「?」に魅力を感じて興味をそそられるものだと私は思っている。恋にしたっていつも「?」から始まるものではないか。たくさんの方がこの作品に恋してもらえるように、ゆるゆると始動するのであった。
水さんはこの日、撮影ではなかったのでお会いできなかった。早く顔を突き合わせてよろしくお願いしますと言いたいものだ。
撮影後は節制のため一ヶ月食べていなかった大好きなラーメンを解禁した平野であった。
平野良(ひらの・りょう)
公式X @hiraryo0520 公式プロフィール

舞台『カインとアベル』
〜兄弟寓話コレクション〜VOL.1
「平家!兄弟」
【公式HP】https://www.cain-abel.jp/
【公式X】https://x.com/cain_abel_mmj
【公式YOUTUBE】ティザー動画 https://www.youtube.com/watch?v=druqQOeAOvs

