NON STYLE、石田明、作・演出・出演の無音(!?)舞台『結-MUSUBI-』への想いと「今」、とその先へ。

 NON STYLE、石田明さんが脚本・演出を手がける『結 -MUSUBI-』が幕を開ける。2月4日〜6日は東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール、11日〜13日に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演される本作は、台詞がなく動きだけで森羅万象を表現するノンバーバル(言葉に頼らない)ステージ。しゃべることが生業(なりわい)の漫才師が贈る、未知の舞台について知るべく、稽古場へ。「今」を熱く語っていただきました。

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最近、「無音」の空間に出会っていないと思うので
心も一緒に休めて、うんと楽しんでほしいです

 

──ノンバーバルの舞台を演ると決めたのはいつでしょう?

 理由はいろいろあるんですが、もともとNON STYLEとして海外でライブをやってほしいという話があって。ただ、漫才は言葉を扱う笑いなので英語にするのはちがうなあ、と思っていて。さらに耳が聞こえないという方からお手紙をいただいて。僕らの漫才は動きがぱきぱきしていて、楽しめるといった内容で、そうか、確かに言葉がなくても伝わる漫才って作ったことがないな……と思って。
 そういったことが僕のなかに集まってきて、だんだんと考える機会が増えました。たとえば海外のパフォーマンスアート・カンパニー『ブルーマン・グループ』とかあるけど、それを俺がやるのはちがうなあ、と。作るならやっぱりコメディだろうし、日本ならではの内容にしたいと考えて形になっていったのが今回です。

──構想に4年かけた“NEW STYLE舞台”とのことです。

 構想4年と言っているのは、実際に韓国までノンバーバルパフォーマンス『NANTA』を観に行ったのが4年前だったからで、実はもっと前から考えていました。京都にある日本初のノンバーバルシアター『ギア−GEAR-』に見学に行ったり、『NANTA』制作スタッフの方々に時間をいただいて話を聞いたりしていたんです。
 そこで気付いたんですが、笑いのタイミングが漫才と同じだったんです。たとえば身体の動きだけでなく沈黙の扱い方とか客いじりというか、お客さんに参加してもらうとかで、これは普段やっていることだな、と。

──タイトルは『結 -MUSUBI-』。相撲部屋で繰り広げられる殺陣にボディクラップ、踊りあり、けれど台詞なしで挑む、笑える物語とのことです。

 相撲にちなんで、結びの一番、契(ちぎり)を結ぶ、団結する、努力が実を結ぶ、口を結ぶ、といった意味を込めました。なかでも僕がいちばん結びたいのは、舞台上と客席です。見えない壁を壊し同じ空間として結びたくて。お客さんも参加者であり出演者で共犯者、みたいな空間を作りたいんです。
 
──確かに沈黙が続くと、次はなにが起こるんだろう……? と思わず注視してしまい意識が引っ張られます。

 そうなんです。実は沈黙って笑いと相性がよくて。沈黙が続くと笑いが起こるとか、急に黙るとか、僕らも漫才でよく使うんで。最初、僕が脚本を書いたとき、スタッフの方々が「40分もないんじゃ……?」と不安になっていたんですが、僕は「2時間に収めるのも大変です」と思っていたくらいで。たぶん、稽古が始まったら出演者が全員、楽しくなって、いくらでも伸ばすことができちゃうだろうな、と。確かに台詞はないんですが、うめき声や思わず出ちゃう声はあって、特に吐息が多くて、そういった気配みたいなものの情報量はめちゃくちゃ多い作品です。
 だから台本はガイドみたいなもので、短いんです。稽古場で「このガイドをもとにどんどん遊んでいってくださいね」と伝えていて、稽古の始まりは僕が考えた全身を使って遊ぶオリジナルゲームをやって「このゲームは、あのシーンに使えますよ」っていう話をしています。今、十個以上あって、あまりにも楽しくて「これ、本番でやってみてもいいんじゃない?」という話で盛りあがっています。

──相撲部屋が舞台となったのはどういう経緯でしょう。

 最初は庭師の話を考えたんです。舞台上に日本庭園があって、いろんなことが起こる、という話で。海外もガーデニングという文化があるので共感してもらえるかな、とプロットを書いたんですが予算がかかりすぎるということで却下になりました(笑)。そこから考えていって相撲に辿り着きました。相撲は土俵の輪と仕切り線があれば伝わるし、四股を踏むとか動きもすごくわかりやすい。だから劇場でない場所でも上演できるな、と思って。
 同時に日本文化はすごくすてきですが、土俵は女人禁制とか、今の時代なら会話禁止とか、やってはいけないこともある。そういった事柄を逆に楽しんでしまう姿を届けたい。なので、見ているだけでおもしろい空間ができあがっていると思うので、なーんにも考えずに遊びにきてほしいです。さらにみなさん、昨今、「無音」というものに出会っていないと思うので、心も一緒に休めて楽しんでほしいです。

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台詞に頼ったエネルギーの飛ばし方を封じることで
生まれる空間がある

──話すことを禁止する、という状況での表現は出演する方々にとっても挑戦かと。

 万が一、コロナ禍でこの舞台が中止になったとしても、預かった出演者の皆さんにはうんと楽しんでもらって、なにかを持って帰ってもらいたくて、それは今の所、できていると思います。
「言葉で伝える」ことを封じたことで、これまで台詞に頼りエネルギーを飛ばしていたのを身体の動きや視線で伝えることへと意識していただいています。なので、たぶん次に新たな作品に入ったら、演じ方がめちゃくちゃ変わっていると思います……というか、これは自画自賛になってしまうんですが……。

──ぜひ! 聞きたいです。

 出演もしているので「ここからが締めるところですよ」みたいなことが作りやすくて、稽古でも僕が入ることでわかりやすくなるんです。みんな、自分が演ることに一生懸命で、どこに向けたらいいのかわからないときがあって。そこに僕が入ることで「この笑いを生むために、ここに注目を集めなくてはならない」とか「この動きにはこういう意図がある」といったことをわかってもらえて、わかって演じることで客席により伝えることができるんです。

──ご自身が目指していた俳優の八十田勇一さんのようです。以前の取材で2009年出演の『恋愛戯曲』で、八十田さんが稽古に入られたらものすごくわかりやすくなったことに驚き、そういう存在になりたい、と話していました。

 そうなんですよ! 僕はそういう場面に遭遇すると、これはどういうことなんだろう……と分析する癖があって。今回も台詞に頼ってしまうことを一切、排除することで、どうしたらいいのか? を分析して、ロジカルに説明できるようになりたくて。それはここ数年、特に意識していることです。

──それは、笑いの仕組みみたいなものをわかりたいから?

 むしろ「共有したい」ですね。お笑いをやっている人はなんとなく感覚でわかってるんです。だから、わかってる者同士だと「ああ、あれな」って伝わるけど、もっと全員に伝わるように言語化したいんです。ただ、そもそもプレイヤーだけやるなら言語化の必要はないけど、先々、作り手にもシフトしていきたいし、現在、NSC吉本総合芸能学院の講師もやっているので伝える言葉を持っているほうがいいし、演出でも「こんな感じで」というよりも説明できたほうが絶対にいいので。

──そういったことを意識するようになったのはいつからでしょう。

 ナインティナインさんのオールナイトニッポンに呼ばれるようになってから……ですね。2018年から岡村隆史さんが「石田のM-1の分析がすごい!」と企画を持ち込んでくれて。その前から博多華丸・大吉の大吉さんと岡村さんとで話す機会があったんですが、ラジオ出演も「石田ならできるよ」と言ってくれて……実際に出演したら、ラジオで岡村さんが本当に普通のことをめちゃくちゃおもしろく話しているのを見て、改めてすごいなと思って。
 その放送を聞いた本社から「お笑いの授業のカリキュラムを作ってくれ」と言われて、講師になって今に続いています。だから、僕の授業はすぐにネタを作らずに、半年くらい「笑い」についてかなり真面目に教えています。そういったことが集まって、今、いろんなことが実現していて、この先にもいろいろな企画がいっぱい待っています。今回の公演も、みんなが僕の脚本をどんどんおもしろくしていってくれているので楽しみにしていてほしいです。

──いろいろと行動していることがすてきです。

 僕はずっと、同期のキングコングの西野亮廣を見てきているので……比べて自分の自己肯定感が低くて、身の丈にあったことを小さくやることがいいと思っていたんです。でも西野の自己肯定感むき出しの感じというか、一歩の踏み込みの深さ、みたいなものに憧れがあったんです。
 あんなふうに、どん! と一歩踏み込んで「僕はここからどきません。動かすならどうぞ押し返してください」と構えてしまうと意外とみんな、ついてきてくれるもんなんだな、というのを間近で見て、そうか、と思って。それから「俺がやります」「俺が責任を取ります」といったことを言うようにしたんです。そうしたら、だんだんと任されることが増えて、ひとつ進むごとに「こんなに視界が開けんのか」と驚いて。ここ数年はそれを実感しているところです。

──西野さんとは2012年にサンリオピューロランドのメルヘンシアターでコントライブ『ナイスな奴ら』のプロデュース公演として、西野さんの絵本を題材に舞台『えんとつ町のプペル』を上演していました。

 当時の俺は現状維持と打開策ばっかり考えていました。ピューロランドならではの世界観で成立することでいいと思っていたら、西野はそこからさらに踏み込んだ演出をしたいと言っていて。でも俺は、いかに今ある設備で収めるか、ばかり考えていて。でも実現不可能だったとしても「やってみたけどできなかった」と「最初からやらない」では全然、ちがうから臆さず挑戦すればよかったと思っているんです。
 だから今はダメ元で、無理かもしれないけど提案しようと決めていて、会議で実際に提案すると、みんな、おもしろがってくれて「どうしたら実現できるか?」を考えて、そのための専門チームを立ち上げてもらえたりするようになりました。

──託す、ということができるようになった?

 そうですね。委ねる、ということを覚えました。これまでは自分のできる範囲で、できることをやろうとしていて。最悪のことだけを考えて最小限の演出プランを立てていたんです。でも、今は「俺はできないけど、こういうことをやりたい」と声にすることで、知恵を貸してくれる人がいて、力を貸してもらえて、さらに大きなことができるようになっていて。これは大きな変化です。

──ご自身が手がけてきた作品を通じて信頼関係が築けたということかと。これからがますます楽しみです。

 特にこの舞台『結-MUSUBI-』には僕のやりたいことが、ぎゅっ、と詰まっています。あまりにも楽しくて、このままだと上演時間が3時間にも4時間にもなってしまいそうですが(笑)。
 今はまず、この舞台を生で観てほしいし、なにも考えずに思いっきり楽しんでほしいです。最終的な目標はこの演目をずっと上演している常設劇場を作りたいので、待っていてほしいです。

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2022年1月 都内収録 撮影・文/おーちようこ

 

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結 -MUSUBI- 公式サイト https://musubi.yoshimoto.co.jp/
公式ツイッター @musubi_newstyle

 

2022年2月4日(金)~6日(日) 東京都 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
2022年2月11日(金・祝)~13日(日) 大阪府 COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

 

脚本・演出:石田明(NON STYLE)
出演:小野塚勇人、株元英彰、廣野凌大、杉江大志、中村里帆、久保田創、守谷日和、瀬下豊(天竺鼠)、石田明(NON STYLE)

石田さん取材動画&直筆コメントも到着!

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