『朝日のような夕日をつれて2024』稽古場へ。笑いが絶えず、けれど真摯に。新キャストで8月11日、開幕!
2024.8.6
稽古のはじめ、脚本を読み合わせし、役をつかもうとする役者たち。
ここは都内スタジオ。
本番の舞台さながらに、大きく傾斜した床が組み立てられた空間に、5人の役者が立っている。ここでは『朝日のような夕日をつれて2024』の稽古が行われていた。
この日は、まずダンス場面だけを通して確認する。なので、正面に鏡が並べられている。その細やかなダンスの振り付けに驚く。
ひとつ、ひとつの動きに意味があり、どういう思いで立つか、腕や足のどの筋肉に力を入れたら、どこが際立つか、その結果、体がどうしなって、どの角度まで曲がるのか、それが客席からどう見えるか、までを説明する。
「ダンスに物語がある」
「ただ、動くのではなく、見せつけて誘惑するつもりで」
「まだ、一生懸命さが勝ってるね」
振り付けを手がける川崎悦子さんから的確な指摘が飛ぶ。
その言葉を受け取り、理解し、即座に表現してみせる。
ぱーん、と飛び出す、少年役の一色洋平さんに「うん、わかる。でも、最初のに戻そうか」と鴻上尚史さん。どうやらいろいろなパターンを繰り返し演っていたもよう。
元気よく「はいっ!」と答える一色さんに、部長役の玉置玲央さんが「変更が多すぎる、って言った方がいいよ!(笑)」と一言。
誰からともなく「でた、中間管理職(笑)」と声がかかり「いやー、中間管理職としてはねっ、上司と部下の意見をまとめないとねえ!」と作中の、おもちゃ会社「立花トーイ」的世界観のまま、盛り上がる。
とても仲がいい。
休憩を挟み、印象的な冒頭の群唱の場面から。
初演から変わらず、YMOの「THE END OF ASIA」が流れ、5人が並び、囁くような声から次第に熱を帯びた叫びへと続く。
と、ここで鴻上さん。
「あわせることより、まずは自分のテンションでいって。劇場に入ったら、どちらにしろ気持ちが走っちゃうから、今のうちに自分の気持ちを確認しておいてね」
さらに稽古は続く。
「この一言で、舞台上の世界が変わる。観ている人の気持ちが動く。だから、今が(立花トーイとゴドーの)どちらの世界かわかるように」
怒りなのか、驚きなのか、セリフひとつ、ひとつに、この気持ちがあって、こういう意図である、と思考の流れを伝えていく。その意図を汲み、役者たちは感情をのせ、応えていく。そこで「声を大きく」といった指示は一切、ない。役者自身が噛み砕き発する姿を見つめている。だからこそ稽古場の空気にも敏感だ。
「ん? 今、そこ、なにかおもしろいことあった?」
と鴻上さん。
視線の先には玉置さんと小松準弥さんが。
それは立花トーイの世界、部長と社長の場面でのこと。
と、小松さんが一瞬迷いながらも正直に
「…………あのー、玲央さんがおならしました」
その言葉に玉置さんは満面の笑顔。
真剣な空気が一気にほぐれる。
きょとんとする安西慎太郎さん、笑いをこらえる稲葉友さん、気になりすぎて近づく一色さん。先日のインタビューでの鴻上さんの「玲央は自然児だから」の言葉がよみがえる。
本当に笑いが絶えない空間だ。
けれど、場面を通して演じる稽古に入ったとたんに一変。
空気が、ぴしり、と緊張する。
鴻上さんの言葉が飛び、役者たちが次々と反応する。
「筋肉の緊張を、演技の充実と勘違いするな」
「プランだけで押し切るな、相手が困惑するから」
「セリフを言い終わるときに動きが終わることを意識すると、もうひとつ表現としての力があがるよ」
「本当になにもない沈黙と、たくさんの言葉が満ちている沈黙はちがうんだよ」
「そう、この強さがこの場面では必要なんだぜえ」
それらを受け、役者からも次々と果敢に提案が飛び出す。
「ここで、相手を見た方がいいですか?」
「こっちに動いてもいいですか?」
そのすべてに「じゃあ、やってみようか」と演出家が受け、実際に演じてみる。その循環が心地よい。
さらに稽古は続く。
役者の立ち位置が変わるたびにセリフを届ける方向も変わる。語尾の変化で、ニュアンスが変わる。細かくて緻密な動きに気持ちを乗せていく。同じセリフの掛け合いでありながら、まとう空気が変わっていく。
やっぱり、役者ってとんでもない。
のめり込みすぎて続く稽古に、さすがに休憩を求める声が。
「じゃあ、15分間休憩!」との声に、「わーーーーーい!!!」
と転がるように駆け出し、一気に水を飲む玉置さん。
「おまえは小学生男子かー!」と鴻上さん。
汗だくの一色さん、稲葉さん、安西さん、小松さんが笑いながら後を追う。
こうして初日に向け、さらに稽古は続く。
開幕は8月11日。
紀伊國屋ホール開場 60 周年記念公演 KOKAMI@network vol.20
朝日のような夕日をつれて2024
チケット好評発売中。詳しくは公式サイトへ。
公式サイト https://www.thirdstage.com/knet/asahi2024/
【作・演出】 鴻上尚史
【出演者】 玉置玲央 一色洋平 稲葉友 安西慎太郎 小松準弥
東京公演:2024 年 8 月 11 日(日)~9 月 1 日(日) 紀伊國屋ホール
大阪公演:2024 年 9 月 6 日(金)~9 月 8 日(日) サンケイホールブリーゼ