舞台俳優は語る 第2回 櫻井圭登の「今」

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あなたの「今」を教えてください──舞台人の「今」を記憶する新連載『舞台俳優は語る』第2回は、櫻井圭登さんの登場です。

 

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 お話を伺ったのは4月。風の強い桜の花びら舞い散る、ある日の都内スタジオ。2017年に初演を迎えた、ミュージカル「スタミュ」で主人公のライバルteam柊のリーダー辰己琉唯を演じる。その後、ミュージカル「スタミュ」スピンオフ team柊 単独レビュー公演「Caribbean Groove」の好評を経て、2019年5月、ついに新作本公演を迎えることに。

「本編のスピンオフが本公演を迎えられるなんて、奇跡のようなことだから」
 そう、笑顔で語る……けれど観客は知っている。その奇跡を起こしたのは舞台に立つ彼らのたゆまない努力と役への思いがあった、ということを。

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演劇に出会った、劇団☆新感線のDVD

 

──今日の撮影を終えての感想を伺います。
櫻井:26歳になったので、大人っぽい一面も撮っていただけたらと思って臨みました。どんな写真になっているのか、今から観るのが楽しみです。ただ、実は人前に立つことを目指していたわけではないんです。
──なぜ、この世界へ?
櫻井:もともと歌うことが好きで歌手になりたかったんです……でも、ものすごく漠然と、でした。誰かに見せたいとかではなく、ただ自分の部屋で勝手に歌詞やメロディを考えて歌っていたりと表現するのが好きだったんですね。
──歌手になりたいけれど、見せたいわけではない?
櫻井:あの、そこはすごく複雑な感じで……自分から人前に出ていきたいとは思わなかったんですが、でも、どこかで聴いていてほしいというか……なんですかね。思春期ですかね?(笑) 不可解ですよね。でも、その夢は諦めることになるんです。
──なぜでしょう。
櫻井:高校1年生のときに体育祭の打ち上げかなんかでクラスのみんなでカラオケに行ったんです。でも、僕は聴いているばっかりで……そこで、めちゃくちゃうまい人が3人くらいいたんです。一つのクラスに3人にいるなら、全校で、いや、全国でもっといるんだろうな……って落ち込んで、あっさり諦めました。
 ただ、やっぱり歌うことが好きで友だちとバンド活動をしていたんです……と言っても、部活でもなくライブハウスに出演するわけでもなく、放課後、スタジオに集まって好きな曲を演奏していただけなんですけれど……。
──どんな楽曲を演奏していたのか、気になります。
櫻井:結構、病んでる系です(笑)。パンク系で、オリジナルを作ったり、いきなり歌い出して、みんなであわせたり……パートは歌とベース弾いてました。あの低音がすごく好きなんですよね。
 あとはビジュアル系バンドの「NIGHTMARE(ナイトメア)」が好きでコピーしたり、ライブに行ったりして。みんなで集まって、歌って、楽しいな、っていう感じだったんです。
──そこから俳優を志す転機があったのでしょうか。
櫻井:高校3年生になって就職を考える時期が迫ってきて……改めて自分がなにをしたいのかものすごく考えたんです。でも全然、見つからなくて。それこそ、父と同じくサラリーマンになろうと考えたけれど、じゃあ、何の会社に入りたいんだ? と思ったときに全然、浮かばなくて……。
 それで、やっぱり、どこか世界の隅っこで良いから、表現できる場所はないかな……と考えて「演劇」というものに辿り着きました。
──テレビドラマや映画ではなく、演劇。どこかで触れる機会があったのでしょうか?
櫻井:高校の授業で、「劇団☆新感線」さんの「髑髏城の七人」のDVDを観たんです。当時は劇団のこととか、役者さんの名前とか細かく知らなかったけど、本当におもしろくて。
 普段、映像を観る授業って申し訳ないけど眠くなっちゃうこともあるんですが、そのときは夢中で観ちゃって、ああいう世界もあるんだな、役者って目指したらなれるものなのかな、って初めて考えて。どうせなら挑戦してみようって思いました。
──進路を聞いて、ご家族は?
櫻井:わりとやりたいことはやればいいんじゃない、という両親なので喜んで応援してくれて、そこはものすごく感謝しています。それで、まずは事務所に所属するものだ、と知って。
──そういった情報にはどうやってたどり着くのでしょう。
櫻井:それこそ、友だちがネットで検索してくれたりして……ですね。なので、事務所のオーディションを探して受けようと思いました。
──例えば、ジュノンボーイコンテストとか……?
櫻井:存在すら知りませんでした。知ったのは本当に二十歳超えてからで、それこそ共演している方がジュノンボーイ出身と聞いて、なんだそれ? って調べたら、こんなすごい賞があったんだ……となって。でも最初に知っていてもきっと僕は受からなかったと思うので、今の事務所のオーディションに受かって感謝しています。
──経験ゼロでの挑戦です。
櫻井:……はい、そうなんです(笑)。なんの経験もなかったんですが熱意だけを伝えて受け止めていただき、そこからすべてが始まりました。
 まず最初に演劇のワークショップに参加させていただいて、「感情を爆発させる」という授業で、泣く、笑う、といったことを実際にやって。初めて、ああ、役者さんって、泣いたフリとかではなくて、本当に感情を動かして泣く、笑う、と表現しているんだ、それが演技なんだ……と知りました。
 でも、僕は本当になにもできなくて、そのときはこてんぱんに叱られて。オマエなんか絶対にダメだ、とまで言われました。
──ですが、辞めずに続けた理由は?
櫻井:本気の舞台に立たせていただいたからです。ほさかようさんが主宰を務める演劇プロデュースユニット「空想組曲」に呼んでいただいて。2012年7月上演の空想組曲vol.9「回廊」という短いお話が一つの結末にたどり着く物語でしたが、プロの自覚についてもめちゃくちゃ考えさせられたし、とにかくたくさん怒られました……。
 ほさかさんとの出会いが、初主演となる浪漫活劇譚『艶漢』へとつながるんですが、ここで学んだ役者心というか、表現方法みたいなものは今でも取り入れていますし、舞台上で生きる、ということの根本を教わったというか……その役が表現する想いは実際に自分も経験して説得力を持たせなければならない、ということを自分に刻んでくれました。
──未経験で飛び込んだ世界ですが、役者としてやっていこう、と決めた瞬間はいつでしょう。
櫻井:何作か一緒に出演していた友人と大喧嘩になったんです。友人は大学卒業を控えて周りが就職活動を始めていることに対して不安を感じていて。このまま俳優を続けても食べていけるのか、生涯の仕事として選んでしまっていいのか、辞めてしまおうか……と悩んでいて。その迷いを聞いたときに思わず反対してしまって……喧嘩になっちゃったんです。でも、そんなふうに辞めることを止めるのは無責任なことかもしれなくて、ただ、迷っている気持ちも痛いほど感じていて、僕自身のことのようにも思えてしまって言い合いになっちゃって。
 二人でずっと話しているうちに友人が「続ける」って言ってくれて。そのときに「ああ……僕もやらなきゃな」って思ったんです。たぶん、あのときが腹をくくった瞬間だったな、と今、感じました。
──実は初めて櫻井さんを観たのは、2016年のミュージカル『ハートの国のアリス〜The Best Revival〜』です。なぜか、すごく目を奪われてしまい、パンフレットでお名前を確認して……と。なので、今日は感慨深いです。
櫻井:そうだったんですか……! ありがとうございます……あの、たぶん、まさにその頃です。周りに対して続けていく覚悟を見せなければ、と思って舞台に立っていたので、そういうのが伝わっていたのであればうれしいです。この作品がそれこそ、のちにミュージカル「スタミュ」を手がける、吉谷光太郎さんと出会えた作品でもあるので、とても印象深いです。
 吉谷さんが創る世界を初めて経験して、ものすごく戸惑うところがたくさんありました。とにかく客席からの見える絵がきれいで、そのための動きのキッカケも多くて、立ち位置一つ、台詞一つずれても崩れてしまうし、でも段取りではなく熱を持って届けなければならないという責任について感じました。

 

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座長、という存在の重みを思い知りました

 

──2016年に浪漫活劇譚『艶漢』で初主演となる吉原詩郎を演じます。
櫻井:ほさかようさんに呼んでいただいた、初めての大きな役でした。このときは……正直に言ってしまうと本当に大変でした。主人公で座長で、独特な世界観で、絶世の美少年、という役で……僕自身がそう見える存在にならなければならないと焦ったし、たくさんのことに押しつぶされそうになってしまって。でも、やるしかなくて。メンタル的にもヤラれていたし、ちょっとネガティブな部分が多くなっていました。
 ただ、冒頭からがばっと脱ぐ役でもあったので度胸みたいなものは身についたかもしれません……(笑)。でも、やっぱり初演のときは演じるだけで目一杯で、座長として周りを見渡すことができたかどうかというと……全然、足りなかったと思います。もちろん、そのときの全力ではあったけれど、ものすごく悔しい。できることなら取り返したいな……と今でも思います。それじゃいけないんですけどね。
──座長を経験して得るものはありましたか?
櫻井:自分が真ん中に立つという責任感を持って、まわりの方が少しでも挫けそうなときは真っ先に支える、ということを強く意識するようになりました。でも、それを発揮できたのは、2017年の浪漫活劇譚『艷漢』第二夜からです。
 同じ時期に『あんさんぶるスターズ! オン・ステージ』という作品に出演したことも大きかったかもしれません。いろいろなユニットが登場するなかで、僕はRa*bitsというユニットの紫之創として一人だけでの出演で。だからメンバー全員分の責任を追っているんだ、と、心が強くなった経験でもありました。僕、開演前にほかのユニット全員で掛け声をかけているなか、一人で掛け声かけてましたから(笑)。
──改めて迎えた浪漫活劇譚『艷漢』第二夜で結果を残すことはできましたか?
櫻井:はい! いちばん嬉しかったのは、共演していた周りの方々に「目の色が変わったね」とか「座長として付いていきたいと思わせてくれた」と言ってもらえたことです……そのときにいただいた言葉は今も僕の支えです。
──その後、吉谷光太郎さん演出で、2017年4月にミュージカル「スタミュ」に出演。音楽芸能分野の名門校・綾薙学園を舞台にスターを目指す高校生たちの熱い青春が繰り広げられます。
 櫻井さんは主人公・星谷悠太率いるteam鳳のライバルでスター・オブ・スターと称されるteam柊のリーダー、辰己琉唯を演じます。メンバーは北川尚弥さん演じる申渡栄吾、 丹澤誠二さん演じる戌峰誠士郎、高野洸さん演じる虎石和泉、そして星元裕月さん演じる卯川晶の5人。観劇当時からteam鳳を輝かせるため、ライバルとして対峙するteam柊はより輝いていなければならないんだなと感じました。
櫻井:それは吉谷さんにもすごく言われた部分で、演出でもいちばん考えてくださっていた部分です。僕らは「学年トップでカリスマ性がある」という存在だから、絶対にスキを見せないようにしようって、5人で話し合ったりもしました。
 僕らがそう在ることで、team鳳との違いが際立つんだからダンスは絶対にブレないようにしようね、って自主的に集まって深夜練習もして。ことに辰己はリーダーとして歌も踊りも完璧でなければならなかったので……プレッシャーは感じていました。僕とはかけ離れた存在でしたが、同じ表現する者という役として学んだことがすごくたくさんあったんです。だから、辰己と出会えたことはとても大きなことでした。
──ご自身とはかけ離れた存在、だった?
櫻井:もう全然、ちがいます。誰よりもオーラを放ち、空気だけで周りを率いて従わせるなんて……だから、ずっと「大丈夫かな?」と思っていたんです。でも吉谷さんに「自分自身が辰己のように自信に満ちた貫禄を持たなくちゃ」と言われて、その通りだと思って。まず僕自身が僕を信じなくてはならない、稽古場でも、そういう空気をまとえるようにならなくては、4人が自然とついていきたいと思えるような存在にならなくては、と心がけるようになりました。
 ……多分、4人も僕の思いを受け止めてくれた、と感じることができたので、だから初演がいちばんがむしゃらだったけど、いいスタートを切ることができたんじゃないかな、と思っています。
──すてきなメンバーです。
櫻井:はい! みんな、いいものを創るぞ、という思いが強くて。ともすれば全員、違うタイプなのに、同じ目標を持つことで奇跡的に重なったという感じがしていて。みんな、それぞれに得意なものも苦手なものもあるので、もちろん意見がぶつかることもありますが、同時にそれぞれ得意なことがあって、互いに引っ張ってくれるんです。
 例えば、歌は丹澤誠二さんや高野洸くん。ダンスは5人の見た目的な絵を作ってくれるのは星元裕月くんで、クオリティ的な部分は高野くん、お芝居の部分では北川尚弥くんと僕が常に5人がどう見えるのか客観的に意識しようね、という話はしています。だから、本当に奇跡のようにうまいバランスで、4人からもらえる刺激は大きくて。それこそ年齢関係なく吸収できるものはどんどん吸収していきたいと思っています。
──昨年の2018年にはその5人がメインとなる、ミュージカル「スタミュ」スピンオフ team柊 単独レビュー公演「Caribbean Groove」が上演され、今年、新作本公演ミュージカル「スタミュ」スピンオフ team柊単独公演『Caribbean Groove』が上演されます。
櫻井:前回はレビュー公演でしたが、今回は全編ミュージカルの新作なんです……でも、まさかそんな公演が実現するとは思ってもみなくて。お話をいただいたときはびっくりしました。同じ劇場に本公演として立てる、ということはものすごい喜びです。
──まずはレビュー公演について伺います。
櫻井:なにより初めての試みというところでわくわくしました。振り付けのただこさんをはじめ、ステージの見せ方をものすごく考えてくださったので、とにかくそれを信じて進んでいったという感じです。舞浜アンフィシアターのように盆が回る(回転舞台)ような劇場が初めてで、どきどきでしたけど、思いっきり演れました。
 見え方を確認して「ここではまだ表情を見せないほうがいいかな」みたいなことを考えるのが楽しくて。実際に観てくださった方々からも、楽しかったという声をたくさんいただいて、ああ、届いたんだんだな、って実感できました。
── 再び集まったメンバーに成長を感じましたか?
櫻井:感じました! すごく。それこそ僕が役者を続けるかどうか悩んだ22歳前後のメンバーも居て、みんな、それぞれに強くなって帰ってきたな、って思えて。尚弥は演技面ですごく信用しているんですが、洸の視点が変わったことをものすごく感じました。あ、ここまで見てるんだ、っていうことがあって。
──どういったところでしょう。
櫻井:この作品って歌とダンスとお芝居の融合が大切で、ことに正面芝居(全員が正面を向いて芝居をすること)のときとか「どこに目線の焦点を当てるのか?」といったことが重要になってくるんですが、あるとき洸が自然に「ここの場面は、どこに合せますか?」って真っ先に、ぽっ、と言ってくれて。そういった視点が一つ増えると意思疎通も早くなるから、ああ、みんな成長しているんだな、って。
──カーテンコールでは星元さんがアレンジしたというオフィシャルTシャツを着て登場されていました。
櫻井:そうなんですよ! 衣裳さんにも手伝っていただいて全員分、作ってくれて……それを着て挨拶できたこともものすごく幸せでした。ゆづ(星元裕月)はもともとプロ意識がすごくて見習うべきところがたくさんあったんですが、初演のときは10代で、洸とともに二十歳超えたんだ……って感慨深いです。だから、同じ劇場で上演できることでまた新たな発見や成長があると思っていて。次はこういう動き方ができるんじゃないか、ちがったアプローチができるかな、とか考えることが楽しみです。
──個人の役作りだけでなく、劇場の特性や5人全体について考える、という視点の高さはいつ得たのでしょうか。
櫻井:あー……あの、自分で「今、手に入れた!」と自覚した瞬間はないですが……ただ、作品って自分だけでは作れないから。会話、というか、そこにいる全員で作るものだから。相手のことは考えます。台詞を覚えるときにも、まず場面でなにを伝えたいのかを汲み取って、相手の台詞を先に読むようにしています。それを受けて、自分の気持ちを考えます。だから、もし、僕に周りを見る視点が入っているのだとしたら、それは今まで僕を鍛えてくれていた演出家の方々のおかげです。同時に座長をやらせていただいて、他の作品で座長を務めている方々の姿を観て、だんだんと……という感じです。
 例えば、昨年の2018年10月に出演した舞台「RE:VOLVER」で植田圭輔さんが座長を務められたんですが、その姿に感化されました。常に周りを見ていて気配りがすごくて、そろそろ僕もできるようにならなければ、と思うことばかりでした。
──その舞台「RE:VOLVER」は吉谷さんが戯曲も手がけたオリジナル作品で、実に演劇的演出がおもしろく。そのなかで、時間が行き来して過去の回想シーンに入る場面もありましたがどう気持ちを作るのでしょうか。
櫻井:最初に役としての気持ちの流れは絶対に作ります。そこから過去に戻る場面では、すぐに取り出せるようにはしておきます。
 ただ吉谷さんは必ず、その気持ちを取り出せるようなヒントを残してくれるんです。この人を観たらいいとか、あの場所を観たらいい、というふうに。それを信じて突っ走るだけなので、舞台「RE:VOLVER」は本当に楽しかったです……ことに植田さんはじめ共演した方々全員が恐ろしく突き抜けていて、稽古場ではびっくりすることだらけで。幕が舞台美術をいろいろな空間に見立てて、目まぐるしく場面も変わるし、キッカケも多くて、台詞も多くて、ものすごく大変だったけれど、ものすごくおもしろくて、この作品に立てたことが幸せでした。
──改めて、ご自身にとってミュージカル「スタミュ」はどういった存在でしょう。
櫻井:同世代の役者とこれだけがっつり組んで、一つの舞台を創り上げるという経験がすごく貴重なんです。みんなの意見を聞くと演劇に対しての考え方もそれぞれにちがっていて、新たな発見もあったりする。だから、そういう話ができたり、そういう場を与えてもらえたことが役者としての道を歩んでいるんだという実感にも思えて、とても大切なカンパニーです。この作品がなければ、今の僕はなかったと思います。
 いつでも芯にあるのは「俳優になりたい」と目指したときの熱い気持ちで、お客さまに夢を届ける、感動を届ける、ということを改めて実感しました。気持ちは変わらないものの、続けることで少しダレてしまう……ではないですが、意識しなくなっている部分も出てきてしまうところがあるんだな、と気付かせてもらえたのもこの作品で、僕の演じる姿を観て、同じようになにか新たな夢を持ってくれたり、挑戦したりしてくれるのかな、と思えたこともあって、初心に戻れた作品です。
──一つの役を演じ続けることはいかがですか?
櫻井:その時々の自分の環境も違うので、常に今の自分として同じ役を創ることができることが楽しいですね。辰己の場合は最初の頃はいかにして威厳やオーラを出すか、とか考えていたんですが、最近では逆にもう、なにもしない。ただ、そこに立っているだけで、そうした空気を出せないかなとか様々な方向からアプローチができるので同じ役を続けることは役者にとって得難い経験だと感じています。本編のスピンオフ作品が本公演として上演されることは奇跡に近いと思っているので、それが実現したことに感謝して、すべての熱を込めて全力で尽くします。
 だから、今回は新たに5人で創り上げたいんです。それぞれに力を付けてきたであろう「今の5人」で届けたい。会場を熱気で包みたいんです。これは僕の美学……というか常に目指していることですが、毎公演、僕のすべてを出しきりたくて。幕が降りた瞬間、座れるものなら座り込んでしまいたい……それくらい、全部を捧げてしまいたいから。

 

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演劇で日本をもっと良くすることができるんじゃないかな、って

 

──今日はいろいろなお話を伺いましたが、今現在、目標とされている方はおられますか?
櫻井:今、一人、目標としているのは、『艷漢』で兄の吉原安里を演じている、ミカシュン(三上俊)さんです。26歳になって30代に向かう今、ミカシュンさんのような役者になりたいな、あんな存在になりたい、と思っているんです。
──なぜでしょう。
櫻井:舞台上に登場した瞬間、作品の色がガラリと変わるんです。それくらい影響力がある……と言いますか、唯一無二の武器を持っていることに常に圧倒されるので、僕自身の武器を見つけなくてはならない……と今、本当に思っているんです。
 一度は「続ける」と腹をくくったし、もちろんそこは変わらないんですが20代後半に突入して、今、また、その次を考える時期になってきましたね。今、周りから「自分の武器を見つけろ」って言われるんですが……自分ではまだ、見つけることができていません。ただ、演じることが好きな気持は誰よりも強い、と思っています。じゃあ、その中での武器は? と聞かれたらいろいろな方向があるんですが、まずは自分が出演するからには作品がより前に進めるような役者でありたい、そんな存在を目指したい……という思いはあります。あれ? これ、武器はなにか、っていう話とちょっと違いますね……難しい……武器……。
──その「強い思い」が武器となるのではないでしょうか。
櫻井:……ありがとうございます。お芝居に対する思いは誰にも負けないつもりなので、そうかもしれません。今日、話していて、改めて僕がそう思えているのは初めて経験したカーテンコールからかもしれない、と気付きました。僕、慣れていなくてきょろきょろしちゃって、そうしたらお客さまの顔が見えて、泣きながら拍手をしてくださっていたり、全力で拍手してくださっている姿に、ものすごく心動かされちゃって……。
 共演していた先輩が、お客さまからいただいた手紙の話をしてくれたんです。ちょっと重い話なんですが「もう死んでしまおうと思っていたけれど、この舞台を観て生きていたくなりました」という内容だったと聞いて、そのとき、武者震いじゃないけど、ザワッとしたんです。あ、演劇って、人の人生を変えてしまうような力を持っているんだ。すごいな、と。だから、ものすごくおこがましいかもしれないんですが、演劇で日本をもっと良くすることができるんじゃないかな、って。だいそれたことだけれど、それくらいのことを思っちゃって。なので、この『Caribbean Groove』はもちろん、出演する演劇を通して、一人でも多くの人を幸せにしたいんです。
──すてきです。最後に一言、お願いします。
櫻井:僕の目標は、ただ役者を続けていくことです。それは生半可な覚悟ではいられないと思うし、今、眼の前にある役に対して、できることはすべてやりたいし、やるべきですし、今、僕がそう思えることは、きっと僕を育ててくれた環境のおかげだと思うので、周りの方々に感謝ですし、その恩返しをするためにも、まずは30歳まで、生き延びてやろうと決めています。

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櫻井圭登 さくらい・けいと

1993年2月8日(26歳)東京都出身 A型。
主な出演作に「あんさんぶるスターズ!オン・ステージ」紫之創役、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」ワールドツアー うちはサスケ役、浪漫活劇譚・歌謡倶楽部『艶漢』主演 吉原詩郎役、ミュージカル「スタミュ」シリーズの辰己琉唯役、舞台「RE:VOLVER」の壬浦役と舞台を中心に活躍中。
twitter:@SakuraiKeitoO

インタビューを終えて

 常に感じ入るのは、演じる、ということは確固たる技術があって、そこに心を乗せて言葉を伝えるということで、そのために途方もない努力がなされているということです。櫻井さんも当たり前のように、技術的なことだけでなく、姿形さえも変え、さらに情感を乗せることにすべてをかけている。観てくれた人が前を向けたら、元気を届けられたら、という仕事への情熱を受け取り、改めて、大切な思いを預かっている連載だと身が引き締まりました。
 取材後、「これから浪漫活劇譚『艷漢』第三夜の稽古です。今、身体もだんだんと絞っていて、ようやく50キロ台になりました」と笑顔で語り。現在、しなやかに見せるため筋肉を作りつつ、体重を落としているとか。あれだけ動き、台詞も多い役でありながら、見え方にもこだわり作り込むことに、スタッフ一同、驚いているなか「まだまだこれからです。今日はありがとうございました」と深々と挨拶されて帰って行かれた姿に、覚悟と凄みを感じました。

取材・構成・文:おーちようこ
撮影:為広麻里
ヘアメイク:Bellezze
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ミュージカル「スタミュ」スピンオフ team柊単独公演『Caribbean Groove』
公式サイト https://star-mumu.com/

 

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