ゲーム配信を通じて出会う、ふたりが紡ぐ心の距離の物語 天羽尚吾・海老原恒和『NOW LOADING』開幕

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 ゲーム配信を通じて出会う、ふたりが紡ぐ心の距離の物語 天羽尚吾・海老原恒和が贈る、アーバン・ポップ・ミュージカル『NOW LOADING』開幕

観終わった後
どんな気持ちで家路についたか
僕たちに教えてほしいんです

舞台写真:黒瀬友理/文:おーちようこ

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 扉を開けると待っているのは、小さな、けれど心地よい空間が突然に広がる。真ん中には大きな回り階段が、上にはパオと呼ばれる遊牧民のテントが広がる。その周りをぐるり、と囲みソファーや椅子が並んでいる。灯りが落ち、ラフな部屋着で登場し、きょとん、と周りを見回すのはジョニ(天羽尚吾)。

「あれ、もう始まってる感じですか?」

 この瞬間、私たち観客はゲーム配信の視聴者であれ、観客として、この空間に観客を誘(いざな)われてしまう。

 物語は訳あって休職中のジョニの部屋から始まる。そんな彼の趣味はゲーム配信。しかし、その晩、配信に参加するはずだった相手にドタキャンされ、急遽、ゲームのバディを募ったところに、参加したいとTAI(海老原恒和)と名乗る誰か、から連絡が。
「最近仕事以外で全然人と喋ってなくて……」
 と口ごもりながらも、押忍! が口癖でゲーム初心者ということしかわからない相手と始まるネットを通して「だけ」の交流。ふたりをつないでいるのは、この回線だけだろうか──。

 ジョニは軽やかに台詞と歌を行き来する、通る声でときに大きく、ときにささやくように。

「明日の地獄を選んで」

 応えるようにTAIも歌う、話す、思いを届ける。

「始めませんか現実逃避行」
「踏み外そうか現実逃避行」

 歌声が心地良い、込められた想いが刺さる、等身大の言葉が空間を満たしていく。やがて、TAIの正体に思い至るジョニ。その瞬間の二人の表情が絶妙だ。果たして、彼らはゲームの最後に見ることができるという、朝焼けに辿り着くことができるのだろうか──。

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 会場となったのは、東中野のバーであり多目的スペース「驢馬駱駝(ろまらくだ)」。東中野の駅を降り、目の前の信号で山手通りを渡る。細い路地に入るとカラフルな壁画が見える。その細い入り口からエレベーターへ。9階、を押す、と真っ黒な扉が待ち構えている。普段はベリーダンスのショーやイベントスペースとして貸し出している、この場所だ、と決めたのは、今回、プロデュースと演出、そしてジョニとして出演も果たす、天羽尚吾。
 役者としてだけでなく、さまざまな企画を実現。本サイトで以前のインタビューでも創作への思いを明かした彼が、この公演のために、ここではない、どこか、を探して探して先輩に教わり、内見に訪れ即決したという。初日を控えて行われたゲネプロを終え、ふたりに話を聞いた。

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天羽「最初はソファーと机だけで考えていたんですが、あんなにすてきな階段があったら無視できなくなっちゃって。だから、あの階段の上は社会で、ゲーム配信を終えたTAIが戻っていく、という表現にしたかったんです。
 今日はあいにくの雨で雨音がしていますが、夜は夜景がきれいなので、夜公演は暗幕を取ってしまおうかな、とも思っています。そんなふうに外の気配を感じられる空間なのもいいな、と感じているんです」

海老原「この小屋独特の雰囲気がかなりあるので、それらと一緒に演る、自分の心を慣らしていく、という準備は必要でしたが、今日、初めて通して、また少し知 そんなることができました」

天羽「すてきな空間ですが、ちょっと淋しい瞬間もあって。照明が当たると、当たり前なんですが客席が見えなくて、でも、ちょっと息遣いとかが聞こえるときに、ジョニとして、あ、ゲーム配信を観ていてくれるんだ、って思うんです。
 逆に客席が見えているけどなにも聞こえないと真剣に見ていてくれるってわかってるけど、舞台上に居る自分がいい意味で、独りなんだな、と思うと淋しくなっちゃう。ただ、そこにTAIが居てくれるから、ほっとするて……というか。でも海老原くんは、試演会でも通し稽古でもゲネプロでも、なにが飛んでくるかわからないからこわい(笑)」

海老原「まだ少しね、いろいろ試してます。今日もちょっとちがう演り方をしてみたりと、それをお互いに手探りしながら創っているのが楽しいです」

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 顔を見合わせながら微笑む。昨年の1月から企画を立ち上げ、模索しながら進めてきたという本公演。なぜ、ミュージカルを作ろうと思ったのだろう。

天羽「もともとミュージカルが好きで学生時代にプロデュースしたこともあって。たくさんの作品に僕自身が元気をもらってきたから、今度は僕自身が観たいミュージカルを創ろう、と思ったんです。
 今、28歳なんですが、コロナ禍で同年代の周りの人々が休職しちゃったり、会社を辞めちゃったりしていて。同じように、なにか閉塞している人たちを救える、なんてだいそれたことは考えていないけれど、なにか届けたいな、と思ったんです」

海老原「今回、曲を創らせていただきましたが、ミュージカルが苦手、という人にも楽しんでいただけるよう、J-POPとか、身近な曲を意識して作りました。
 台詞が聞き取れるように、口ずさめるように、僕たちの日常と地続きにありたいと願って作った作品なので、よかったら、この時間を共有してほしいです」

天羽「今後、この作品をできることなら、キャラバンのようにいろんな場所へと旅して上演したいんです。
 だからこそ、最初のこのオリジンを目撃していただいて、感想をいただけたらうれしいです。どんな気持ちで帰路についたか、僕たちに教えてほしいんです」

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 あたたかい思いが込められた、本公演は、明日2月12日、そして、17日〜19日に上演。チケットほか詳細は、『NOW LOADING』』公式サイトまで。

『NOW LOADING』』

演出・プロデュース:天羽尚吾
脚本:相馬光
作曲:海老原恒和
作詞:天羽尚吾

照明:松本永(eimatsumoto Co.Ltd.)
照明オペレーター:渡邉日和(eimatsumoto Co.Ltd.)
音響監修:高橋秀雄
音響:徳永芽久(プロダクションN)
音響オペレーター:飛山哲朗
歌唱アドバイザー:モリモトマサミ
当日運営:菊池碧

映像収録・編集:福田遼(プロダクションN)
収録カメラ:田村日向子 西村広幸
録音・音声編集:徳永芽久(プロダクションN)
ビジュアル撮影:平野鈴
舞台写真:黒瀬友理
宣伝映像:KOTA Tsuruwaka / 鶴若仰太(Keystone film)

協力:フォセット・コンシェルジュ 平野鈴
協賛:株式会社アントラクト

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