人生一度しか遊べない? ネタバレ厳禁、マーダーミステリーゲーム会に図書作家が挑戦! 完全レポをここに。
2023.7.27
この日、都内某所で開催されたのは「図書作家ばかりのビブリオマーダーミステリー会」。主催はこのほど株式会社「ツクリゴト」の代表にして作家の紅玉いづきさん。参加の縛りはただひとつ。図書を題材にした小説を書いた作家。かくして、我こそは! と集った好事家たちにより会は開催されたのであった。参加者は以下6名、そうそうたるメンバーによる推理劇が今、幕を開ける。
紅玉いづきさん『サエズリ図書館のワルツさん』
似鳥鶏さん 『レジまでの推理 本屋さんの名探偵』
北山猛邦さん『千年図書館』
三上延さん『ビブリア古書堂の事件手帖』
冬月いろりさん『鏡のむこうの最果て図書館』
萩原猛さん 株式会社オルクス代表/会場協力
選ばれたゲームは『罪と罰の図書館』で文字通り、1960年代の図書館が舞台の本格ミステリー。“現代薬学の父”と呼ばれた薬学者だった館長が三年前に開館した、この地には「読むと死ぬ奇書」が秘蔵されているという──そして、開館三周年を迎えた記念の日、事件は起こる。
内容は年齢、性別、職種も現実の自分とは違う、物語に登場するキャラクターになりきって、殺人事件を捜査するというもの。自分がどの役を選んでもよし、推理の発表で役になりきってもよし、もっと言えば己の証言に嘘と真実をまぜてしまってもいい? というから、おもしろい。
さらに一度、プレイするとすべてを知ってしまうため、二度と遊べない、のがマーダーミステリーゲームならでは。もちろん、プレイした後に他の経験者と語り合うもよし、自身がゲームマスターとしてにやにやと眺めるもよし。けれど、まっさらな状態で挑めるのは最初の一度っきり! という贅沢さ。では、なぜ、こんな愉快な会が開催されたのか? は、主催による言葉をここに。
紅玉いづきさんより
2022年の10月に会社をはじめました。会社をはじめたのは、長らく活動している同人サークル『少女文学館』の拡大を含め、いろんな理由からなのですが、会社になったからといって創作自体はなにも変わらない、というつもりで、でも、今回は、「変わってみたいな」と思ったのです。
「せっかく会社になったのだから、個人でやれないことを、やってみたい」そのひとつが今回の「図書作家ばかりのビブリオマーダーミステリー会」でした。
2023年5月、6月に東京創元社から『サエズリ図書館のワルツさん』を文庫化しました。その販売促進のために、ちょっと変わったことをしてみたい。そういえばあの人もこの人も、図書小説、図書館小説、本屋小説を書いているな、と周りを見回して、図書小説作家によるイベントが出来たらいいなと考えました。
ちょうど、起業のお祝いにマーダーミステリー『罪と罰の図書館』をいただき、これだな! と思って。ひとかたひとかた声をかけて、日程をあわせ、みなさんの協力を経て、開催となりました。
これはこの記事を読んでいるみなさんへお詫びなのですが「こういうイベントをするんだよ~」と言った友人達みんなから「配信をして!!」と叫ばれました。そこまでは、ネタバレ厳禁なゲームの性質もありつつ、力およばず、ご用意出来ずすみません(笑)いつかそこまで、イベントをつくれるようになれたら……と思っていますが、今回はその、最初の船出として、みんなでこんな楽しいイベントをしましたよ、というレポートをお届けさせていただきます。
本は個人的なものだと思っています。 創作も、そうです。でも、物語を楽しむって、誰かと行っても、すごく楽しい。そういう企画やイベントを、これからもつくっていけたらいいなと思っています。そう、せっかく会社になったのだから!
最後に、これは余談ですが、せっかく会社になったのだから、の企画の一環として、かつて制作したオリジナル小説同人誌『Gift』のクラウドファンディングもはじめました。楽しいことを、もっとたくさんしていきたいです。どうぞ、応援いただけたら幸いです。そしてぜひ一緒に、楽しんでいきましょう。
プレイヤーよりコメントをお届け。
紅玉いづき/司書長(男性 25歳)役
なんて愉快! なんて贅沢! こんな豪華なメンバーで、普段使わない頭をフル回転して、心を寄せてドラマを生きて、あの図書館の司書長を通過させていただきました。イベント主催としては大満足。司書としては、なかなかワルツさんのようにはいきませんでしたね。
冬月いろり/女学生(女性 21歳)役
マダミス初参加でした。ゲーム中はわからないながらも、物語の断片を探し、翻弄され、そうして終わった後の達成感はすごかったです!ありがとうございました! 結論、マダミスは思っていたより初心者にやさしい! でもきっと、慣れてくるともっと楽しい、と、思います!
三上延/修道女(女性 26歳)役
マーダーミステリーは初体験だったんですが、とにかく楽しかったです。もっと前から遊んでいればよかった。シナリオもとても面白かったですし、参加された皆さんも素晴らしい方ばかりで、初心者として最高のスタートを切れた気分です。ありがとうございました!
似鳥鶏/女医(女性 41歳)役
「雄弁は銀、沈黙は金」という諺がありますが、今日ほどそれが真であると思い知らされた日はありません。
喋れば喋るほど疑われる。犯人であるならゲームオーバー、犯人でない場合も犯人以上に容疑を引きつけるデコイになってしまい戦犯に。これがマーダーミステリーでよかったです。実際の事件だったら洒落にならない。楽しんだだけでなく教訓を得ました。もうちょっと落ち着こう……。
北山猛邦/記者(男性 46歳)役
初めてのマダミス、楽しかったです! メインの殺人事件よりも、サブストーリーがドラマチックに展開する結果になったのも、マダミスならではといったところでしょうか。いい経験ができました。
萩原猛/小説家(男性 50歳)役
最高に頭と想像力を使った、最高に楽しい時間を、ありがとうございました! ……しかし皆さん、想像してみてください。開幕早々、似鳥さんに笑顔で「萩原さん以外は現実に小説家だし、あえてあなたが『小説家』の役をやってみません?」と言われたときのプレッシャーを!
なんとかイマージナリー小説家を憑依させて臨みましたが、みなさんミステリー作家だからか、単に各位のご人格ゆえか、こんなに全員が信用できないマダミスは初めてでしたよ!!
ゲーム開始時、誰がどの役を選ぶのか? 和気あいあいと相談する、その空気がもう愉快! この時点では、まだ誰も、自身が犯人なのか、どう事件に関わっているのかさえ、わからないまま。わかっているのは職業と、なぜ図書館に訪れたのか? という理由だけ。
あえて自身に近い役を選ぶもの、むしろちがった役を選ぶもの……と十人十色。しかして似鳥さんが、まさかの「女医」を選び、徹頭徹尾なりきって、大盛りあがり! そこに負けじと演じ始める人々も!? ゲームが進むにつれて、会場はまるで推理劇かのように(笑)。
ルールもていねいに説明されていて、まずは自身の役の自己紹介からはじまり、配られた調査トークンの数だけ調査カードを手に入れて、推理開始。途中、気になる相手を呼び出し密談できるため、途中からは会場中を移動して、あちらこちらで秘密のやりとりが。進行する各パートで時間が区切られ、調査カードのほとんどが誰かしらの手に渡り、カード内には真相を解くための情報がすべて入っているにも関わらず、互いの思惑が入り乱れるせいで犯人を当てられるかどうかはそのときのプレイヤーたち次第! だからこそ、最初から最後までおもしろい。今回も、犯人がどんな結末を迎えたのかを知るのは参加者だけだ。
書くだけ、読むだけ、ではなく、テーブルの上からも飛び出して最後は感想戦まで、たっぷりと遊び倒した、にぎやかな一日となった。
取材・撮影/おーちようこ