つかこうへいのイリュージョンに活目! 舞台『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン 2025』山野萌絵レビュー
2025.12.24
つかこうへいのイリュージョンに活目!
山野萌絵
(本文には作品の結末が記されています)



観劇ファンポータルサイト「最善席」読者の皆様、こんにちは、こんばんは。普段はnoteにてさまざまなことを書いております、ライター/コラムニストの山野萌絵です。今回はフリーライターの、おーちようこさんにお誘いいただき、舞台『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン 2025』の観劇記録を執筆しております。
……といっても、私、つかこうへいガチ勢というわけではなく。2018年3月に『熱海殺人事件 CROSS OVER45』を観たことがあるものの、なぜ観に行ったかというと「味方良介が最前列のオタクとキスをしているらしい」という情報のみの野次馬精神であるからして、真面目につかこうへいを勉強してきたわけではないのだ。ちなみに、当時の感想を見返したら「味方良介の喋り方が精神病棟に入院していた時に同じ階にいた躁病のおじさんにそっくりだったことの方が気になって仕方なかった」と書いてある。これは味方良介が悪いという意味ではない。演技が非常に上手いという意味だ。
しかし、今回は演出が中屋敷法仁氏。私、中屋敷氏の演出が結構好きである。どれくらい好きかというと、以前、櫻井圭登氏のカレンダーイベントでサイン会があり、余った券を最後にまとめて出して結構な時間櫻井氏とお話した際に「新幹線の時間ギリギリでもないのに京都駅を全力で走る中屋敷氏のモノマネ」を披露してご好評をいただいたことがあるくらいだ(それは「好き」エピソードとしてカウントしていいのか?)。
ならば観に行かねばならない、モンテカルロ・イリュージョン。……モンテカルロとはどこなのか? あるいは何なのか? それは、知らないが。
予習のために、「熱海殺人事件」の内容はちゃんとおさらいしていった。しかし、見始めて気付いた。「モンテカルロ・イリュージョン」は無印「熱海殺人事件」とは、熱海で殺人が起こることしか共通点がない。全然違う話なのだ。予習は意味を為さなかった。これは、読者諸賢にはぜひ注意していただきたい。
中屋敷氏の演出の好きな点。なんといっても、照明のRGBの「R」と「B」、レッドとブルーの色合いが素晴らしいことだ。2022年の『本能バースト演劇 sweet pool』でも2025年の『ワールドトリガー the Stage』でも存分に照明で舞台空間に味わいを与えていたが、今回も非常に良かった。レッドの絶妙に深みのありそれでいて鋭い色合い、そしてブルーの冴えた使い方。中屋敷イズムと呼んでもよかろう。
例えば『本能バースト演劇 sweet pool』における、観た方ならご存知であろう「本能風呂」の場面。説明させていただくと、舞台上に透明の水を溜めた浴槽を置き、その中に本当に櫻井圭登氏が入る……という場面なのだが、鮮烈なレッドの照明を当てることにより語らずとも血を表現しているのだ。中屋敷氏のレッドの使い方は本作でも健在で、舞台後方に置かれたLED照明により特に印象に残る場面ではレッドを使い観客にシーンの重要性を示している。
多和田任益氏演じる部長・木村伝兵衛。本作ではバイセクシュアルということになっており、つかこうへいの戯曲なので仕方ないが、LGBT観に関しては見る人が見たらまあまあ怒りそうなものとなっている。しかし、これもある種の文化保存だ。劇場というのは自由な空間でなくてはならない。演る方も見て感想を言う方もね。
そして衝撃の事実が判明する。木村伝兵衛はオリンピックの棒高跳びの選手だったらしい。その上、鳥越裕貴氏演じる大山金太郎が事件を引き起こしたので日本選手団がモスクワオリンピックに出場できなかったとのこと。
……しかし、史実ではモスクワオリンピックのボイコットは冷戦が理由のはずである。モスクワオリンピックの話の後にロサンゼルスオリンピックの話をしているので、流れとしては史実に沿っているのだ。この世界線には、もしかして冷戦はなかったのか? 冷戦はないということは逆算していくと第二次世界大戦は史実とは違う終わり方をしていたのか? ということなら、なぜ日本国と思しき場所の警察組織でこの物語は繰り広げられているのか……?
終演後、おーちさんに尋ねてみた。
「だって、これはイリュージョンだから!」
イリュージョンらしい。深く考えてはいけないのだ。
容疑者・大山金太郎を演じる鳥越裕貴氏。私、常々鳥越氏に思っていることがある。会話劇をやってる時の鳥越氏が、一番輝いてるんじゃないですか? 鳥越氏の真髄はオフマイクの舞台である。地味に鳥越氏を初めて見てから10年、そう思います。
鳥越氏演じる金太郎は、時に熱情的でふざけているように見えて実は芝居全体の操縦桿を握っている役回りでもある。舞台に一人こういう人がいると場の全体が引き締まって見えるため、とても良い効果をもたらしている。例えば、補欠選手の悲哀を語る場面。悲しい話をしているはず……なのに妙に笑えてしまう。存在自体がナンセンスであるといえよう。
そして死刑になる木村伝兵衛。だが、なぜ死刑になったのか、やってしまったことと照らし合わせてもよくわからない。この世界に、永山基準はないのか? いや、冷戦がない世界なのだ。永山則夫もピストルで暴挙を繰り広げていなかったのかもしれない。これも気になったのでまたしても終演後におーちさんに尋ねてみた。
「やっぱり、イリュージョンだから?」
……イリュージョンなのだ。全ては。
しかしこの話、荒唐無稽なあらすじのように見えて意外と「アスリートの転落」を生々しく描いていたりする。いや、転落というより、本人にとってはそれが望んだ世界だったのかも? 他人事じゃないしな。売り専で働いて速水に貢いだ木村伝兵衛、普通なら後悔していてもおかしくないところだが、不思議と後悔している様子はないのだ。
「ホス狂い研究」を勝手に行っている身としては、なかなか刺さるものがあった。「男に狂う男」という、令和の世になってやっとSNSで可視化されるようになった類型を描いていた、つかこうへい氏。先見の明があるといえよう。
総評としては、鳥越裕貴氏と、後ろに設置されているLEDと思しき照明が輝いている。そういう舞台であった。会話劇がお好きな方には是非、おすすめ。
舞台『熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン 2025』は12月28日まで紀伊國屋ホールにて上演中。
