つかこうへいTRIPLE IMPACT『いつも心に太陽を』通し稽古で思うこと。レビュー

「つかこうへいTRIPLE IMPACT」(トリプルインパクト)『いつも心に太陽を』の通し稽古を取材する機会がありました。

そのレポートは、『舞台男子』に書きましたが、通し稽古のレビューをここに。

 

ああ、胃の腑をわしづかみにされてしまう……。
実際に胃をつかまれたことはないけれど、きっとこんな感じだろうな、と、いつも思う。
つかこうへいさんの作品は、なんだか息苦しくて、切ない。
きっとそれは登場する多くの人がマイノリティ(社会的少数者)だから。
社会的弱者じゃないの、社会的少数者。
決して弱者じゃない。
だから彼らは高らかに、己の思いを叫び、ときには慟哭する。
けれど脚本には台詞に対しての、動機は描かれない。
「そういう人」として発せられる膨大な言葉が書かれているだけ。その存在に動機付けをし、説得力を持って観客に伝えてみせるのは役者たちの役割だ。

『いつも心に太陽を』で、どこまでも美しい水泳選手シゲルを演じるのは、柳下大(やなぎした・とも)さん。
舞台前半、数多くのつかこうへい作品に参加している、武田義晴(たけだ・よしはる)さんを相手に一歩も引かず、数十分にも渡る、ふたりだけの場面を演じきる。
その丁々発止のやりとりは軽妙で、笑えて泣ける、正しく「見せ物」だ。
シゲルとともに、同じくオリンピックを目指す水泳選手の谷口を演じるのは高橋龍輝(たかはし・りゅうき)さん。ともに強化合宿参加選手に選ばれるべく、切磋琢磨するふたり。

通し稽古でシゲルを演じる柳下さんは誇り高く、谷口を演じる高橋さんはただただ無骨で、武田先生はひたすら滑稽でいじらしかった。そんな彼らを取り巻く人々も、それぞれに役に自身を投影し、役者としてそこにいた。
プライベートな暴露ネタ(?)がいきなり放り込まれ、慌てる役者の素顔がそのまま与えられた役と重なる。決して、その役者のために用意された役ではないのに、役と役者がとても近い。

つかこうへいさんはもういない。けれど、その人が遺した言葉を、今を生きる俳優が自身に近づけて、意味を持たせ、板の上で放つ、その空間はとてもとても濃密だった。

この芝居を観て、誰に心を添わせ、どう思うかは自由だし、観劇のルールはどこにもない。だから、これはどこまでいっても私感でしかないのだけれど、と前置きし。
初の通し稽古を取材した帰り道。
果たして自分が少数派に立ったときに、あんなふうにいられるだろうか? と考えた。日々、暮らしていく中で、そう在ることを選んだとき、立たされたとき、立たねばならなかったときの自分を振り返ってみた。そして、少数派になることを恐れて心を偽った日もあったな……とか。

だからこそ、最後の最後に放たれた台詞に心からうなずき、帰路についた。ひとりでも多くの人に劇場で聞いてほしい、と願いながら。

 

つかこうへい トリプルインパクト

 

*舞台概要

毎年2月に紀伊國屋ホールで行われる、つかこうへい作品の公演が今年も登場。「つかこうへい Triple Impact」と題し、『初級革命講座 飛龍伝』『ロマンス 2015』『いつも心に太陽を』の3作品を上演。

*R.U.Pプロデュース
「つかこうへいTRIPLE IMPACT」

『初級革命講座 飛龍伝』2月12日〜15日
『ロマンス 2015』2月17日〜22日
『いつも心に太陽を』2月24日〜3月2日

 

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