「新・熱海殺人事件」荒井敦史✕多和田任益 対談──この作品には俳優としてやるべきことがすべて詰まっている

 耐震補強工事と内装一新のため1月末に改修に入った新宿・紀伊國屋ホールのこけら落とし公演として発表された『新・熱海殺人事件』。初日を明日に控え、本日、一足先に会見と公演の一部が公開された。

「歴史ある作品で、ずっと演りたい役だったのでうれしいです。改装前、改装後という記念すべき公演で舞台に立てることに感謝して、それぞれの先輩が築いてくださったこの作品に恥じぬよう、往年のファンの方にも認めていただける、新・熱海殺人事件を届けたいです」と荒井敦史。「4年前に初めて熊田を演じさせていただき、また、こけら落としという機会に演じられることが光栄です。中江功さんが演出してくださったことで、作品に対して新たな解釈もできました」と多和田任益。
 会見後、昨年、ダンスパフォーマンス集団「梅棒」に加入した多和田が初振り付けしたというダンスシーンも含め、Wキャストが入れ替わり登場する場面が公開された。

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荒井敦史✕多和田任益 スペシャル対談到着!

 昨年、『改竄・熱海殺人事件』〈ザ・ロンゲストスプリング〉と〈モンテカルロ・イリュージョン〉で異なる木村伝兵衛を演じたふたりが、今年、木村伝兵衛と彼と対峙する熊田留吉として共演。果たして、彼らが思う熱海殺人事件、紀伊國屋ホールとは? にぎやかさのなかにも真剣さが交じる彼らが語るのは今、から未来へとつなげる覚悟。

 

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『紀伊国屋ホール』は特別な空間

──キービジュアルがものすごくかっこよくて、お二人が並んでいるとたいへんに足が長く……!
荒井:実際に長いんです!(きっぱり)
多和田:ぶっ……(吹き出す)
──失礼しました!
荒井:でも、実はこの撮影、みんなと直接顔を合わせていないんですよ。
──えっ!?
多和田:立ち位置のバミリはあったけどね。
荒井:だからキービジュアルを観て、驚いちゃって! すごく上手く組み合わせてもらっていて。ただ撮影当日、俺、先に撮っていた写真を見て「多和ちゃん、脚長っ!」って思ったから、片足をちょっとだけ前に出しちゃったもん(笑)。
多和田:いや、あなた、本当に足長いですよ!(笑)
──仲良しです。今回、「新」と銘打って『Dr.コトー診療所』『プライド』『教場』など多数のドラマを手がけた、フジテレビゼネラルディレクター中江功氏が初演出に挑みます。
荒井:今は通しながら、総合プロデューサーの岡村俊一さんが構成してくださって、出演経験がある多和ちゃんと僕とで初参加の役者に演ってみせるといったことをやっています。
 長年、テレビドラマを手がけてきた方ならではの視点で「これが、どう観えるか?」といったことをアドバイスいただきつつ、今は本当に立ち上げの時期ですね。
多和田:だからこそ、どうなるのか? 僕らもですが、お客様はきっとわくわくしますよね。
荒井:すごく楽しみで、新鮮です。
──57年の伝統を誇る紀伊國屋ホールの改装後こけら落とし公演ですが、おふたりにとっての紀伊國屋ホールとはどんな場所でしょう?
荒井:『熱海殺人事件』はもちろん、つかこうへい七回忌特別公演『新・幕末純情伝』(2016年)やいろんな作品で立たせてもらっている劇場です。観劇もしますが劇場独特の空気があって、ともすれば飲まれるというか……いい意味で「油断すんなよ」と言われている感覚があって。それは、今年はじめの紀伊國屋ホール改装前最終公演『熱海殺人事件 ラストレジェンド ~旋律のダブルスタンバイ~』でWキャストだった味方(良介)とも話していて。だから改装後がどうなっているか楽しみでもあり、恐くもあり……うまくチューニングしなくちゃ、とは思っています。
多和田:どう変わってるのか、気になりますね。僕自身もいろんな作品で観に行っていて。以前に立たせていただいたのは『熱海殺人事件 NEW GENERATION』(2017年)と少年社中さん第34回公演『MAPS』(2018年)と『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』(2019年)の三作品なので、やっぱり、つか作品のイメージが強くて。だから別の作品を観に行くと、なんだかちがう劇場に来ている感覚になって。
荒井:わかる……。
多和田:『熱海殺人事件』だからこその空気があるというか、それは出演するときも、観客で行くときも、なんですが。だからすごく特別な場所、という印象です。だからこそ、今回の『新・熱海殺人事件』を観てほしいんですが……なんかね……来てください、とも、言いにくいし。
荒井:まあ、俺は言っちゃうけどね。6月10日から21日まで、俺らはここに居るから! と。
──昨年3月上演『改竄・熱海殺人事件』で異なる木村伝兵衛を経ての共演ですが、当時のお互いの感想が気になります。
荒井:なんか俺の印象だけど、多和ちゃんってちょっとオカシイんですよ。(取材に立ち会っていた岡村さんが吹き出す)なんと表現したらいいのか……真面目なところが真面目だし、ふざけるときはふざけるし、オフるときはオフるし……すごくちゃんとやってるんだけど。あの、これは僕の個人的見解ですが、大きい人って動きが遅い傾向があって。
 でも、任益はものすごいキレッキレの速さで、しかも2、3本ぶっとんでる感じでくるから「こいつ、どうなってんの?」ってなる。普段はポケモン好きとかオタク気質を出すのに舞台に上がると豹変するというか、全然ちがう面を見せてくるので、いったいどれだけの顔を持ってるの? と、おもしろくて仕方ないんです。今日の通し稽古も初めてあわせたと思えないくらいしっくりきて「そういうふうに来るんだー」と感じいました。
多和田:うれしい……なんか、普段、楽屋裏で「ひでや〜、ひでや〜」って絡んで、ちょっかい出してくる人とは思えないほど、ちゃんとした感想を言ってくれてありがとう……。
荒井:本気だから!
多和田:じゃ、僕からも。あっちゃんとは僕がNEW GENERATIONで熊田を演っていたときに、日替わりゲストの「しんちゃん」役で客席から上げられて。それが初だったんですが、「僕、この人と絶対、どこかで共演する!」という直感があったんです。
 その後、改竄を演出される、中屋敷法仁さんの戯曲探訪「つかこうへいを読む 2019春」で一緒になって。それがとてつもなくおもしろくて、あっちゃんを観て「ああ、かっこいいなあ。この人は木村伝兵衛なんだな……」って思えたんです。だから早く紀伊國屋ホールで観たい、と思っていたら実現して。改竄で一緒に伝兵衛を演ると決まったときにすごくうれしかったし、実際に観て本当にかっこよかった……!
荒井:僕はモンテ初日前のゲネプロ(公開稽古)でたぶん、いっちばん笑ってました! ずっと言ってるけど、おもしろかった!
多和田:ずっと言ってくれてるよね。うれしい。

自身が考える「役」

──「木村伝兵衛」をどう解釈しているか、気になります。
荒井:僕が初めて観たのは、馬場徹さんの伝兵衛でしたが、とにかく「すげえ! かっこいい!」としかなくて……バカだから言葉にできないんですが、とにかく「すげえ」しかでなくて……。
 で、実際、演じることになってみたら、やっぱり具体的に説明はできないんだけど……ただ、ひとつひとつ細かいものを拾っていった、きめ細やかで密なものだからこそ、ガン!と来た、と思っていて……じゃあ、自分もそこを目指せたらな、と。まあ、あがいてますけれど……上手く言えなくてすみません。
──上手い説明よりも「荒井敦史」という役者がどう感じ、演じていることが伝えられたらいいな、と思います。
荒井:あー……だとしたら……演じる度に発見がある……もう、わかんないことだらけなんですよ。だから、ずっと探しています。一筋縄ではいかない人だなと思っていて、自分の中にあるどれかひとつを単純にお客さんに投げちゃうとちがうな、ってなる……説明するのが下手だから、やっぱり「わかんねえっす!」ってなっちゃう。
 去年の改竄も、今年1月の戦慄も決して余裕があったわけじゃないけど、まあ、自分なりの景色は見えているので……それを演じる、というか。
多和田:僕は去年、改竄でふたつの熱海があって、重ねるとこんなに木村伝兵衛の厚みみたいなのが出るんだ……ってすごく思ったんですよね。同時に二作品が上演されることで、より魅力が増すというか。
荒井:僕は、いろんな伝兵衛を観てきて、あえて拾わないことで、ほかが目立つ、ということもあるな……と思ったんだよね。でも、まず拾いたい人なので……。
 ただ「拾えるのに拾わない」のと「拾いたくても拾えない」のでは深みがちがうと思うので、あえて拾わないところにたどり着きたいけど……できるようになるのは死ぬ頃じゃないかなあ……だから、まずは全部拾うというか、ちゃんと全部、拾いたい、って思っちゃう。
多和田:あっちゃん、優しいから。
荒井:いや、行くときは、がーっ! と行きたいんだけど……ちょっとわかんないときに、パワーで、ばっ! で演じると自分のなかで「ん?」ってなっちゃうから。でも、それはそれで強さみたいなものが出ると思うから、そこを目標に起きつつも、やっぱりひとつひとつできるだけていねいにピースを集めていって最終形態にたどり着きたい! って感じです。
──とても真摯です。
荒井:あー、実はそれ、マネージャーによく言われます。それがいいとも言われるし、それが悪いとも。でもねえ……。
多和田:わかる、わかるよ……。拾った上で放り投げる、拾えるのに拾わないという、さらに先を目指してるわけだから、それは今すぐ答えがでることじゃないよね。
荒井:そう! だからね、俺、最近「続けることに意味がある」とようやく思っていて……28歳を目前にしてだけど! 誰になんと言われようと「好きだから演じる」とか「うわ、マジ、かっこいい!」って思った、あの感じとかを追いかけて続けたらいいかな、と!
多和田:やっぱ、あっちゃん、かっこいいよ。
──熊田留吉についてはいかがでしょう。
多和田:僕が演じる、熊田はいちばん常識人だと思っていて……今の段階で表すなら、「野心」かな。前回はそんなふうに俯瞰で観るところまでいけなかったんですが、改めて野心に真っしぐらに突き進むためにおかしな方向に行っちゃっているというか。その姿すら、愛おしく思えちゃう……というのは、実際、自分が演じて、客席でも観て、また演じて感じていることで。
 だから、今は素直に演ろうと思っています。作り込むのではなく、富山から出てきたばかりの熊田で在りたいというか。もちろん、作り込むことで見つかるものもあるのかもしれませんが、今の僕はあまり考え込まずにそのまま、演る、という感じです。

出発してみないとわからないのが『熱海殺人事件』

──共演者としてライバル心みたいなものはありますか?
多和田:実は、他の方の演技を観て自分と比べるということはしなくて。ただただ、自分が持っていないスゴいものを見せてもらえているなあ、と、毎回、楽しんでしまいます。
荒井:僕は……負けないぞ、という気持ちはどこかで生まれると思うんですが、まだまだそこまでたどり着けていない……というか。それは、任益だけでなく全員に対してで、だからむしろ、たどり着けるように僕らが引っ張っていかないと……。
 いや、引っ張るというのも、おこがましいな……ものすごく奥深い作品だと思うから僕自身、まだ探っているところではあって。今回、チームREDとチームWHITEと2組で切磋琢磨していけたら……と。あと、なにより俺と多和ちゃんと(松村)龍之介が最年長という事実に驚いていて……今回、これまで引っ張ってくれていた先輩がいないことに、背筋が伸びています。
多和田:わかる!
──そこが「熱海殺人事件」の楽しさでもあるかと。もともと若手役者のために書かれた戯曲で、風間杜夫さんをはじめ阿部寛さんから、馬場徹さん、味方良介さんと歴史をつないでいます。
荒井:でも、背筋は伸びていますが、僕ら、別に気負っていることもなく、すごく楽しんでいます。なにより熱海を演じさせてもらってから他の舞台の台詞が長いとか思わなくなったよね(笑)。
多和田:それはある! テキストとしては完璧じゃないですか。ある意味、熱海を演るかどうかで全然、ちがってくるというか……俳優としてやるべきことが全部詰まっていると思うんですよね。
──上演時ならではの時事ネタが織り込まれて、決してメディア化しないからこそのギリギリなアドリブが炸裂することもおもしろさのひとつですが、そこは怖くないのでしょうか?
多和田:……それが、怖くないんですよ。というか、怖くなくなりました。
荒井:わかる……というか熱海って出発してみないとわからないところがあるから。ここがおもしろいぞとか、ここを意識してやろうとか、全然、ないから! もう、毎日、ちがう。
多和田:だからこそ、全公演観たい……と、なるんだと思うんです。
──息ぴったりな、おふたりの共演がますます楽しみになりました。
荒井:なんだかんだで4月のFICTIONAL STAGE「亡国のワルツ」から二ヶ月くらい一緒だからね。僕らも楽しいですよ。
多和田:僕もシンプルにうれしいです。こうして、あっちゃんと演れることが。
荒井:僕的には1月に演って、どうにか僕自身のやり方で立ち向かえたかな、って思えて。ただ、全力を尽くしたけど、ちょっとたどり着けなかった感じもあって。でも、それは足りない舞台を観せたというわけでもないし、今回に向けての糧になった感じもしています。
 だから、初めて参加する役者にも「すげえ! 楽しい!」と感じてもらえたらいいかな、とも思ってます。というか、楽しくないとやってられないですよね……。
多和田:まあ、こんな苦しいこと、楽しくなかったらやれないですよ。
荒井:だから、みんなが楽しい! まで持っていきたいわけですよ。
多和田:よっ、座長!
荒井:その次はあなたでしょう。
──本作千秋楽から4日後に『改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン~復讐のアバンチュール~』木村伝兵衛が控えています。
多和田:まあ、僕は……完全にフルスロットルです。策を練るなんてことはできそうにないので。新熱海の稽古終わりくらいにモンテに頭を持っていかれてしまうかも……と思いつつ。でも、新熱海は心強い座長がいるから(笑)。
荒井:おい!
──最後に互いに一言、お願いします。
荒井:がんばろ!
多和田:あっちゃんぽい!
荒井:なんか、もう駆け抜けるしかないし。まあ、僕はゴールしますけど……。
多和田:僕はゴール、からのスタート!!!(笑)
荒井:きっと駆け抜けて先に行くだろうなと思うし。こういう奴らがいるんだぞ、ってところを、ばん! と提示できたらいいなと思うんで、そういう意味で、がんばろう、です。
多和田:あっちゃんは改装前と後の熱海に出演して。
荒井:任益は改装後、二作品の熱海連続出演! だからね。
多和田:さらに去年の改竄を一緒に走った仲でもあるし、当時、コロナの直前の状況で本当によく演れたなと思っているし……でも、ちょっと不完全燃焼でもあったので、今回、板の上で一緒に作れることが幸せです。
 熱海ができる、って役者としてとても幸せだし、これで二人でひとつ上に行けると思うし、後はいつか僕が水野朋子婦人警官を演るだけです!(笑)
──ものすごく観たいです……。
多和田:ずっと妄想しているんです。
荒井:だってさ! ずっと! 水野の長台詞を言ってたもんね! 熊田ではなく! でも任益なら結婚式へ向かうのに、ハーレーダビッドソンに乗るより走ったほうが速そうだけどね!(笑)
多和田:でも僕、あっちゃんの伝兵衛じゃないと演らないよ!
荒井:えー、ハイヒール履いたら、俺より高くなっちゃうよ!(笑)
多和田:そのときは一緒にヒール履けばいいよ!(笑)

2021年5月、都内稽古場にて収録。取材・文/おーちようこ

 

荒井敦史 あらい・あつし
1993年5月23日生まれ。28歳。(取材時27歳)
公式サイト https://www.watanabepro.co.jp/mypage/10000037/
公式ブログ https://ameblo.jp/atsushi-arai-we/

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多和田任益 たわだ・ひでや
1993年11月5日生まれ。27歳。
公式サイト https://gv-actors.com/

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新・熱海殺人事件
公式サイト http://www.rup.co.jp/shin-atami_2021.html

作:つかこうへい
演出:中江功(フジテレビジョン)
会場:東京・紀伊國屋ホール
期間:2021年6月10日(木)~21日(月)
出演:荒井敦史・多和田任益・能條愛未・向井地美音・三浦海里・松村龍之介

 

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