作品の「質量」を浴びる 舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』 紅玉いづき
2019.11.21
暗い町に、雨が降っている。
私達は2.5次元舞台に、何を期待していくのだろう。
新しい作品との出会いもあるだろう。好ましく思っていた作品が舞台化されて、思わぬ琴線が刺激されて深みにはまる、そんな経験も幾度となくしてきた。
けれど、すでに好きな作品の、それもよく知っているメインストーリーの舞台化ということになれば、
様々な理由こそあれ、──それは、作品の「質量」を体感するためなんじゃないだろうか。
そんなことを舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』を見て、改めて思った。
『PSYCHO-PASS サイコパス』というアニメが好きだった。世界観もストーリーも好きだったが、何よりキャラクターが好きだった。
ごく個人的な事情であらゆる劇場におとずれる機会は減ってしまっていたけれど、この作品は見たいなと思い、ご縁もあって座席に座った。
終わって絞り出したのは、「やっぱり好き……」の一言だった。
舞台が好き、というのともちょっと違う。この作品が好き、という気持ちの吐露だ。
そして、好きな作品を「浴びる」ことが出来るって、なかなかない、とてもとても幸福なことだと心から思った。
質量があった。わたしの好きだった世界観があり、私の好きだった音楽があり、私の好きだったキャラクターがいた。そこに確かに存在していた。
人の背ほどもある警備用のドローンがなめらかに動き始めた時、これがこの世界だと思ってしびれた。当たり前だけれどそこにキャラクターが立っている。細い足で音を立てて。小さな手には余りある重いドミネーターを持ち、声を張り上げる。知っているはずの言葉を。よく覚えのある言い方で。そして……まったく新しく、確かに鮮やかな印象で。
何十回と聞いたあの音楽が大音量で流れ始めた時、なんと贅沢な舞台だろうと思った。そしてその贅沢さはこの世界観に似合いだと。
舞台は終始、どこか暗く、人の横顔には常に陰りがある。もっとはっきりと見たい。でも叶わない。
それもそこに、立っているからこそだ。映像ではない。あの、暗い町に確かに。
このエピソードをこう入れ込んでくるのか、という驚きはたくさんあったけれど、確かにストーリーラインは知っているものだった。じゃあ、知っているから見ないのかと言われたら、そんなのあまりにもったいないことだろう。
これは知っているからこその面白さなのだろうか、と少し考える。もちろん、作品を知らない人にもこの作品のよき入り口にはなることだろう。でも、当たり前だけれど私はもう、この作品を知らなかった頃には戻れないので、判断はつかない。ただ、劇場の座席に座って、わたしの好きなあの世界を「浴びる」ことが出来た、ということだけだ。
質量というのは画面越しには感じ取れない。だから、座席に座ることが最上であるのは疑いようもないけれど、東京千秋楽はニコニコ動画でも視聴することが出来る。
「知ってるからいいや」と思っている人は、是非ともこちらでご覧になって欲しい。
なぜならば、私が見たいので。この物語の続きを。知っているから。知っていてなお。
私が、このキャラクター達の質量をもっと、見てみたいので。
著:紅玉いづき
舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』
公式サイト https://pp-stage.com/
大千秋楽(11月10日 18:00開演) ニコニコ生放送にて独占生中継https://live.nicovideo.jp/gate/lv322461989
番組の冒頭部分は無料
全編ご視聴するにはプレミアム会員の登録が必要
タイムシフト期間:30日間
2019/12/10(火) 23:59:59まで
【期間・劇場】
公演期間:2019年10月25日(金)〜11月10日(日)
劇場:品川プリンスホテル ステラボール
【キャスト】
狡噛慎也:久保田悠来 宜野座伸元:真田佑馬 常守 朱:河内美里 縢 秀星:橋本祥平 唐之杜志恩:愛加あゆ 六合塚弥生:立道梨緒奈 チェ・グソン:磯野 大 泉宮寺豊久:大塚尚吾 王陵璃華子:藤本結衣 佐々山光留:細貝 圭 征陸智己:今村ねずみ 槙島聖護:前山剛久
【スタッフ】
脚本:亀田真二郎
演出:三浦 香
監修:虚淵 玄(ニトロプラス)
主催:舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』製作委員会
©サイコパス製作委員会 ©舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』 製作委員会