第32回読売演劇大賞優秀演出家賞作品『養生』、初の全国ツアー開幕! 作・演出・美術、池田亮さんインタビュー

近づいたら悲劇、遠くから見ると喜劇、みたいな作品です。

 

11月1日に京都で初日を迎えた、演劇作品『養生』。
第32回読売演劇大賞優秀演出家賞に輝いたこの作品は、2024年、下北沢のザ・スズナリという小さな劇場でわずか4日間だけ上演され、注目を浴びた。
手がけるのは、同年『ハートランド』で第68回岸田國士戯曲賞作家の、池田亮さん。
『テラヤマキャバレー』(演出:デヴィッド・ルヴォー、主演:香取慎吾)をはじめ脚本家としてだけでなく、演出家、美術家としても活動している、自身が主催する舞台作品・美術・映像の制作団体、ゆうめい(yumei)は、今年、活動10年目を迎え、この新たな代表作『養生』でカンパニー初の全国ツアーに挑む。

 

あらすじ(公式サイトより)

「もどらない。」

美大生の橋本(本橋龍)と、大学生の阿部(丙次)はショッピングモールや百貨店の内装を行う夜勤バイトで出会った。正社員のことをネタに「卒業したら絶対ああならない」と陰で笑い合う。

数年後、二人はその夜勤の正社員になっていた。

阿部は家庭を持ち、辞めそうな新入社員の清水(黒澤多生)を教育する。作家を目指していた橋本は、著名作家となった同期が百貨店の人気ギャラリーで個展を開くことを知り、その広告設営を担う。

夕方から明け方の夜勤劇。

 

三人の男が感情をあらわに、あるいは抑えて、話し続ける。
その様子を真剣に見つめる、演出家。
立ち位置を確認しながら、言葉を問いかけては言葉を返す。

同じ場面でありながら、ちょっとした間で変わっていく。
丁寧に、丁寧に、言葉を編み、動きを決めていく。
ついには全員が稽古場の床に座り込み、その場で脚本に手を入れていく。
とことんまで語り尽くす、創作の場で、この演劇は生まれる。

 

ーーゆうめい、の由来はなんでしょう。

よく、「有名になりたい」といった意味で取られることが多いんですが、実はそんな思いは全然なくて。夕方の夕に明るいで、暗いところから明るくなっていくとか、幽霊の幽に冥界の冥で人が亡くなったあとの世界といった意味があると知って、それらすべてを含めて、平仮名で「ゆうめい」と付けました。ですが、10年、活動してきた今、どういう取り方でもよくなっています。実際はちがいますが、有名になることを追いかけている、でもいいし、「ゆうめい」という音で、なにを想起してもらっても、おもしろいから。

そう思えるようになったのは、活動が生活と地続きになって、見える景色が変わったからかもしれません。今、ゆうめいの構成員で、映像作家でアートディレクターの、りょこと夫婦で子ども三人を育てながら、演劇という事業をどう成立させるか? ということを、日々、考えることが僕の日常で。仕事も生活もすべて等しくて、そういった身の回りのことすべてが作品を創ることとリンクしていて、延長線上にある……そんな感覚でいるんです。だから、ここ最近は僕の経験から取り出したことで作品を創ることが多くて、2021年の『姿』では実の父に出演してもらって、虚構と現実が入り混じる、家族の物語を創りました。

ーー『養生』に登場するのは、一見、どこにでもいそうな、けれど、どこかギリギリの、ナニカの端境にいるような人たちです。

これも、僕自身の経験から生まれました。人と物の関係に興味を持って彫刻を専攻し、そこから墓石職人を目指すんですが、石を運ぶために腰を痛めてしまいまして。どうにもならなくなったときに、石は造形のために壊されるものなのに、その石によって壊れた自分がいる、そのことを作品にしてやろう、というのが演劇を始めたキッカケです。でも、お金がないときに夜勤のバイトを続けていると、お金のために働いているはずなのない、体を壊して治療費がかかってしまう、という本末転倒なことが起こるんです。その結果、残るものはお金じゃないもののほうが多かったりもする。

その後に関わることになるエンタメ業界では、自分の葛藤とかそういったものは一切出さずぬ、ひたすら作品を愛している人に向けて明るいものや感動するものを作っていて。それはそれで楽しんだけれど、実は現場の人は、みんな疲れていたりして。そういった相反するさまざまなことを経験することで、そこに在る人たちが抱えているものや、人と人との軋みみたいなものを描きました。

ーーご自身が作、演出、美術を手がける、三人芝居です。

本橋龍さんは俳優で劇作家で、演出家として演劇集団ウンゲツィーファを主宰していて、同じようにお子さんがいるという、すごく地続きのところにいて、とても信じている人です。黒澤多生さんは平田オリザさんの『青年団』所属でウンゲツィーファにも出演する俳優です。舞台監督でもあるので現場の空気も知っていて、そういう人に出てほしいな、と思ってオファーしました。丙次はゆうめいの構成員でずっと一緒に演劇を作っていて、三人とも出演するだけでなく、モノを創る現場の空気をリアルに知っていてくれる、心強い存在です。

その三人と、僕だけでなく、それぞれが日々、感じていることを形にしたいと考えました。脚本もかなり、当て書きに近くて、2024年の初演は本当に自分たちがやりたいことのために、上演したという感覚です。

ーーその作品が、第32回読売演劇大賞の優秀演出家賞に輝きました。下北沢のザ・スズナリという小さな劇場でわずか4日間だけ上演された作品が話題となり、この11月から再演、京都を皮切りに三重、福島、北海道、高知、そして神奈川と全国6都市で上演されます。

初めての試みですが、同時に責任も感じています。演出に脚立を多用しますが、これは予算とか搬入を考えてのことでもあって、たぶん数ある受賞作品のなかでもいちばんお金のかかっていない舞台美術だと思っています。全国ツアーだからといって特に予算を増やすこともしませんが、この空間演出も含めて評価されたと受け取っているので、よりクオリティの高いものを届けなければならない、ということは意識しています。

『養生』で舞台美術としての脚立と向き合っていると当時の夜勤の風景とか、すごく思い出すんです。そのときの脚立は作業のための道具でしかなかったけれど、それ以前の、彫刻をやっていたときは脚立を立体作品にすることを思いついて、素材として考えていました。ただ、当時の教授や周りから、その試みをすごく軽んじられた記憶があって、ずっと封印していたんです。でも、活動を続けているなかから、過去の経験も踏まえて作品を創りたいという思いも生まれ、消化できるようになって。だからこれは、理想と現実のギャップに苦しんできた自分たちの話でもあります。

ーーそもそも、なぜ彫刻だったのでしょうか。

ずっと陸上競技で走っていて、あるとき競技場内で走るのと、外で走るのとでは、感じるものが全然、ちがうと発見して。自分にとっては同じことなのに、置かれる場所や環境で感じることが変わっていく、その事自体に興味をもって、だんだんと人と物や場所との関係を考えるようになりました。

彫刻を選んだのは、自分で作るものでありながら置かれる場所によって受け止められ方が変わることが、当時の自分の感覚にマッチしていると感じたからです。演劇も、その延長線上にあって。改めて、僕は人と人、人と物、人と場所、といったものに興味があるんだと思います。

ーー最後に一言、お願いします。

近づいたら悲劇、遠くから見ると喜劇、みたいな作品です。なんか、ひどいんだけど、笑えてしまう、みたいな、お話です。今回の再演までの間、僕自身を含めて全員がそれぞれに過ごした時間があって、その分だけ経験に厚みが増して、今、すごくいい感じになっていると思っています。演じてはいるんですが、その人自身として、その場にいてもらっている感覚が強くて。稽古を通して話しながら脚本を変えてもいるので、再演ですが新作です。

目指しているのは、その瞬間、瞬間がずっとおもしろい、という作品です。だから、こんなことを言ってはいけないかもしれないんですが、客席があたたかくて心地よくて、本当に一瞬、船を漕いじゃうみたいなことがあってもいいと思っています(笑)。ちょっとくらい場面が飛んでも、おもしろくて最後まで愉しめる作品を届けます。

丙次・本橋龍・池田亮・黒澤多生

 

2025年10月稽古場にて。
取材・文・撮影/おーちようこ

 

ゆうめい10周年全国ツアー公演『養生』

2025年11月1日(土)〜12月28日(日)全6都市公演

公式サイト https://www.yu-mei.com/yo-jo2025

 

朝日カルチャーセンター 横浜教室

「人の心に響く言葉の書き方」

11月21日(金)19:00~20:30
教室、オンライン自由講座/見逃し配信あり

本インタビューの池田亮さんと本取材のライター、おーちようこさんの講座が開催されます。
ともに言葉を操ることを生業とする、ふたりが言葉との向き合い方を語ります。

詳細はこちらへ。

 

著: | カテゴリー:著・おーちようこ,レポート

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