つかこうへい十七回忌特別公演 『熱海殺人事件』ラストメッセージ 稽古場レポ&演出・中江功氏からキャストへの想いと写真一挙掲載

 

つかこうへい十七回忌特別公演
『熱海殺人事件』ラストメッセージ

2026年2月14日(土)~3月2日(月)紀伊國屋ホール
公式サイト
http://www.rup.co.jp/stage/atami_2026.html#cast

同じ戯曲、けれど演じる者たちによって
その景色はくるくると変わる。

 

アイコが叫ぶ。「忘れたばい!」
演出家が返す。「その『忘れた』は何を忘れたの?」
金太郎が答える。「ちゃんと殺したよ」
演出家が返す。「ちゃんと、の言葉を大切にして」

演出家がセリフひとつ、動きひとつ、を確認していく。
「誰が、の誰は誰のことを思っているのか意識して」 「勢いで言わない」 「今、殺した、という瞬間に合わせて一歩を踏み込んで」 「言葉ではこう言ってるけど、本当はどう思ってるの?」
決して、こう動け、とは言わない。
言葉と心がちがう、そのことを伝え、どう表現するか? は演じるものに託される。
俳優もそこに応える。
「ここ、三発殴るところ、減らしてもいいですか? 今だと腕の流れのついでになりそうで」
もちろん自身の出番がないときも控えながら、やり取りに集中する。
幕が開いたら観ることはできないから、この場で先達の姿を目に焼き付けている。

ここは2月14日に初日を迎える、つかこうへい十七回忌特別公演 『熱海殺人事件』ラストメッセージの稽古場。 出演する役者は9人。

木村伝兵衛部長刑事役の荒井敦史
Wキャストで水野朋子刑事役の大原優乃(チームユニコーン)と村山彩希(チームライオン)。
同じくWキャストで犯人大山金太郎の横田大雅(チームユニコーン)と百名ヒロキ(チームライオン)。
熊田留吉刑事役の高橋龍輝
事件の捜査を撹乱、あるいは助ける「爆弾役」、久保田創柳下大、ダンスシーンの振り付けも担当している平塚翔馬

彼らが紡ぐのは、熱海で起こった殺人事件を巡る物語。
同じ脚本でありながら、毎回、異なる空間が生まれるのは、なぜだろう。
それは演じる人間が読み解く役への深さや角度が、もっといえば役者の仁(にん)にもよるだろう。もちろん演出家によっても同じ。
この日、別の仕事で大原さんは不在とのことで、ユニコーンとライオンの役をシャッフルしての稽古が行われていた。

これがWキャストのおもしろいところ。
「相手役を変えてみて発見はあった?」という演出家の問いかけに、大きく頷く俳優たち。
今回は全員が出演する十七回忌特別公演(2月20日)とシャッフル公演(25日・26日)も控えているからこそ、この試みももちろん演じる者たちの糧になる。

不器用すぎる金太郎の、愚かさを描くのか。
堕ちてしまったアイコの、純情を描くのか。
木村伝兵衛の人間への、深い愛を描くのか。
伝兵衛に尽くす水野の、健気さを描くのか。
立身出世を目論む熊田の、意地を描くのか。

届けられる物語を自由に受け取るのは、観客だ。

 

『熱海殺人事件』という作品は
やればやるほど発見がある

つかこうへい十七回忌を迎える今年、紀伊國屋ホールの風物詩とも言える、特別公演 『熱海殺人事件』ラストメッセージが上演される。
演出は木村拓哉さん主演の『教場』をはじめ数多くのドラマ、映画を撮る中江功さん。
映像の世界で活躍する自身が、なぜ舞台『熱海殺人事件』に挑むのかーーその魅力と今作に集う俳優陣について話を伺った。

ーー2021年『新・熱海殺人事件』、2024年に紀伊國屋ホール60周年記念公演『熱海連続殺人事件』Standardに続いて、三度目の演出となります。

中江:『熱海殺人事件』の歴史が長すぎて、二回ではかじった程度で、まだなにもわからないんです。だから、やりたい、やりたい、と言い続けて今年、ようやく叶いました。
今回三度目にして、なんとなくわかった……まではいかなくとも、理解は進んでいる感じはしています。でも同時にやればやるほど新たな発見もあって極めるのは難しい作品です。

ーー過去二回の公演を拝見し、中江さんの演出は初見の人に優しいというか、伝わる力が強いように感じます。

中江:そこは僕が心がけたことかもしれません。力任せで「なんかすごいものを観たな……」というエネルギーをぶつけることも大切ですが、お客様が物語をわからないまま劇場を後にする、ということはしたくなかったんです。
そのためには、まず僕が作品を理解しなければと思って、わからないことは、逐一、これまで作品を手がけてきた岡村俊一プロデューサーに聞きました。つかさんの演出は口答で伝えて、その場で組み立てる「口立て」だったということで、その場の空気や勢いも多かったと思うんです。でも、今の僕らは台本というテキストベースで進めているので、空気を大切にしつつも言葉にしてみて引っかかりそうなところは相談しています。

ーー時代に即して、そうして理解を深めていくことは脚本が後世へと生き延びることと感じます。舞台の演出で発見はありますか?

中江:発見だらけです。とくに驚いたのは、舞台の世界には僕の知らなかった魅力的な俳優がたくさんいたことです。役の理解が早くて深くて、みんな、どこに隠れていたの? と。なかでも木村伝兵衛部長刑事を演じていた味方良介くん、荒井くんには『教場』に出てもらいましたが、会えて良かったと思っています。

ーーすてきです。荒井さんは中江さん演出の『熱海殺人事件』で伝兵衛を演じ、高橋龍輝さんは犯人・大山金太郎を演じています。今回は、ふたりが伝兵衛と熊田留吉刑事として、Wキャストのヒロイン・水野朋子婦人警官と大山金太郎と挑みます。

中江:ひとつ目標に掲げているのは、荒井敦史の「木村伝兵衛」最長記録を僕が一緒に作って、見届けることです。荒井にはその力があると思っていて、毎回、自分なりの解釈でアプローチを変えていて、どんどん深化させている。それが三度目となる今回、さらにどうなっていくのかが楽しみです。
実はふたりで「いつか『飛龍伝』をやりたいね」とも話していて。でも、まずは荒井と僕の『熱海殺人事件』の完成を目指したいと思っています。

ーーとても楽しみです! ヒロイン水野朋子婦人警官Wキャストのひとり、大原優乃さんについて伺います。

中江:すごく真面目です。歴史がある作品に対して自分のものにするよりも、過去の『熱海殺人事件』を壊さないように、と演じているように見えます。でも、その殻を破ってほしい。
これまでに演じてきた全員がそれぞれの水野朋子で、ちがっていていいんです。自分だけの水野を見つけることが、一歩、新たな場所へと向かうキッカケになるはずで、すぐ隣にWキャストの村山彩希というものすごい存在がいるんだから、盗むものはどんどん盗んでほしいと思っています。

ーーその、村山彩希さんはいかがでしょうか。

中江:控えめに言っても、天才!……です。昨年、主演の沖田総司を演じた『新・幕末純情伝』を観ましたが、本人に会うと「えっ、こんなに小さかったの?」と驚くほど小柄なのに舞台ではすごく大きく見えていて。AKB48として大きな舞台に立っていたからか、存在感がすごくて、あまりにも舞台映えすることに驚きました。
稽古で毎回、異なるアプローチを見せながらも、己の正確性を保っていて、水野と水野が事件解決のために扮するアイコとで全然異なる表情を見せるんです。今回は『新・幕末純情伝』で共演した、百名ヒロキくんの金太郎とどんな化学反応を起こすのか、期待しています。

ーー大山金太郎Wキャストのひとり、百名さんについては?

中江:百名くんは変化球をたくさん持っていて、日々、成長を感じています。理解度が急速に向上していていろいろなことに挑戦してくるガッツがある。それだけにセリフの解釈を独自に発展させる力もあって、そこは受け入れつつも外れないよう調整して行きたいと思っています。
僕は、まともに視線も合わせることができない金太郎とアイコが熱海で初めて本音を吐く……その場面のいじらしさや卑屈さを、一歩、引いた感じで見せたくて。でも、百名くんは熱を押し出すのが得意なタイプで真正面からアイコにぶつかっていくんです。村山さんも力量があるからがっつり受け止めていて。僕が当初思っていた方向とはちがうんだけど、意外にもそこが噛み合っているので、これからどうなるか未知数です。そんな意外性もWキャストならでは、なので楽しみです。

ーーもうひとりの金太郎Wキャスト、横田大雅さんは15歳での抜擢と話題になりました(現在16歳)。

中江:実は、若すぎてやれるかどうかわからなかったので岡村さんと二人で会いに行って話をしました。そのときに「どうしても演りたい」という強い熱意を受け取りました。最年少ですが物怖じしない姿勢で挑んでくるし、率直で素直なんです。先日も「金太郎がアイコを殺した理由がまだわからない」というのでみんなで話し合いました。
ずっと、つか作品に関わっている久保田創とかがていねいに説明していたけど、実はものすごく核心をついた質問だったから、改めて「なぜ金太郎はアイコを殺そうと思ったのか?」というディスカッションが始まって、全員で考えてみる良い機会になりました。新たな人たちが挑戦するとこういう事が起こるんだな、と新鮮でしたね。

ーーわからないことを、わからない、と言える強さが眩しいです。そして高橋龍輝さんは?

中江:前回は大山金太郎役での出演でしたが、実は僕のなかでは歴代でかなり上位に入る金太郎でした。だから、今回はどんな熊田を見せてくれるかすごく楽しみです。ちがう役だから佇まいも変えてきて、伝兵衛と渡り合うカッコよさみたいな空気を作っています。今、ふたりがすごく良いコンビネーションで両輪となってくれていて、そのなかでWキャストの4人がのびのびとチャレンジしている感じです。
荒井の懐深さからか、とんでもない熱量で向かう龍輝を信じていて互いにぶつかりあうというよりも、荒井が龍輝に託している感じもして頼もしいです。同じ『熱海殺人事件』ですが座組によるおもしろさがあるので、これから稽古を重ねていって各キャストの個性にあわせた演出を僕自身も見つけて初日に向け作り上げていきます。

2026年1月稽古場にて。

中江功 なかえ・いさむ
テレビドラマ、映画を手がける演出家にして映画監督。
代表作に『Dr.コトー診療所』シリーズ、木村拓哉主演の『教場』シリーズなど多数。

撮影・取材・文/おーちようこ

以下、稽古場写真一緒掲載!

 

 

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