手加減無し、全員が真摯に熱と力でぶつかり合い、まるで拳で語り合うような『熱海殺人事件』だった。ライオンチーム、ゲネプロレポート。
2026.2.14
つかこうへい十七回忌特別公演
『熱海殺人事件』ラストメッセージ
公式サイト http://rup.co.jp/stage/atami_2026.html










むしろ、とっくに壊れていたのは
大山金太郎だったのかもしれない
この日はライオンチーム(荒井敦史 村山彩希 百名ヒロキ 高橋龍輝)の初日に向けたゲネプロ。
とにかく全員が強い。
そして、全員がとてつもなくカッコいい。
佇まいが、気配が、誰一人、自身の行動に迷いがなく、潔く、清々しく。
なによりも、全員が舞台上にいることを心から楽しんでいるようだった。
手加減無し、全員が真摯に熱と力でぶつかり合い、まるで拳で語り合うような、熱海殺人事件だった。
(本記事は物語のあらすじに触れています。ご了承ください)
撮影・文/おーちようこ







これは、いち観客のレポであり感想だ、と前置きし。
現代的に見方を変えれば、犯人・大山金太郎は幼馴染の山口アイ子のストーカーで、自分こそが幸せにできると信じ、誘い出し連れ回し、怒りに任せ殺してしまう……字面だけ見ると、かなりヤバいヤツである。
なので、もしかしたら彼こそがとっくに東京という都会に飲まれ疲れ果て壊れていたのかもしれない。けれど、それを精神異常とかなんとか、とバッサリと切り捨てず、その心情を探る捜査へと物語は進む。
一方、アイ子は都会に疲れて堕ちた存在として描かれることがあるが、むしろ今回のアイ子ははしたたかに強く、東京という土地で生き抜くために、あがいていたのかもしれない、と思わせる。その命を身勝手にも奪ったことだけでなく、可能性を失わせたことが、金太郎の罪だったのではないだろうか。
そのアイコを演じるのは、AKB48を卒業後、革命ミュージカル『新・幕末純情伝』沖田総司役で舞台単独初主演を果たした村山彩希。
華がある、というのはこういうことだろうか。伝兵衛を慕いながら職務に忠実、気丈にふるまう水野朋子婦人警官として在りながら、マイクを手に歌い、踊る。当サイトのインタビューで、演出の中江功が「天才」と称した存在は、水野と被害者アイ子の一人二役ではなく、事件を追う警官が真相を追い求め、その必死さゆえに「アイコ」となり金太郎と向き合う。
けれど、一転、かつての思い出を語る姿は儚く可憐で、これは金太郎が見た白昼夢だったのではないか、彼女の本心だったのか、彼が望んだ姿だったのか、と惑わせる。



立身出世を夢見て、東京へと訪れる熊田留吉刑事と金太郎がぶつかる場面が熱い。
アイ子を殺した金太郎に「俺は愛する人は殺さん!」と熊田は叫ぶ。
残してきたユキエを捨てようとしながらも、自殺を心配する熊田。
アイ子を救えると信じながらも、殺してしまった金太郎。
見えないふたりの怒りがはじけて、バチバチと火花が散るようだった。
ただ、その根底には都会に焦がれる熊田の、金太郎への共感と憐憫もうかがえて。
金太郎を演じる百名ヒロキは、昨年8月、革命ミュージカル『新・幕末純情伝』の坂本龍馬役で、初日から千秋楽に向けての深化と変化がすさまじく。熱量に圧倒されたことが記憶に新しく。
その龍馬に続く、今作。先に出たインタビュー内で中江功がセリフの解釈を独自に発展させる力がある、と語った通り、今回の金太郎をどう読み解くのかがわくわくしていた。果たして、終始、自身を取り巻く環境や、そこで変わることができない己に対して怒りを抱えている、そんなふうにも見え。だからこそ、秘めた葛藤が見え隠れする。
そして、熊田を演じるのは高橋龍輝。
2014年の、つかこうへいダブルス『新・幕末純情伝』『広島に原爆を落とす日』に出演。私的にずっとずっと再演を望んでいる、2015年の舞台『いつも心に太陽を』(今回、爆弾役として出演の柳下大とW主演!)と、舞台上で見せる爆発的な熱量は常に苛烈で。
観るたびに、その異様な迫力に魅入られ「ブルドーザーみたいだな」と圧倒される存在だが、今回、とてつもなく活き活きとしていて、突き抜けてかっこよかった!……ことを、ここに記す。
同じく中江功が歴代でかなり上位に入る金太郎、と評された高橋が(そのときの金太郎の迫力もすごかった、と付記)、本気でぶつかり、全力で遊べる場所に出会えた喜びにあふれている、かのようにも見え、泣けそうになり。すごい、見たかったよ、待ってたよ、という心持ちに。





最後に、全力で称えたいのは、3人を包み込む、荒井敦史の懐の深さである。
当サイトのインタビューで「僕は全部、説明したい。反応したいし、やりたいんです」と語った通り、すべてを受け止め、真剣に向き合う伝兵衛がいた。美しい佇まいでありながら、泥臭く踏ん張りながら、強く、しなやかに、厳しく、優しく、ぶつかってくる彼らを受け止める。
お茶目な水野に翻弄され、怒りに燃える金太郎を導き、熊田を見守る、誰よりも汗だくになり、セリフを吐き、心を伝える。所作がきれいで、すらりと長い脚から繰り出される蹴りの打点がめちゃくちゃ高い。
やがて、捜査室から金太郎が去り、水野が去り、最後に残った伝兵衛と熊田が、これまでの熱と圧から一転、静謐な空間にふたり、煙草をくゆらす。
ふと、その孤独を思う。
この人は、これまでにどれだけ多くの人間の激情をぶつけられ、受け止めて、見送ってきたのだろうか。いつまで、それを良しとして、ずっとここに居続けるのだろうか。
いつか、伝兵衛も誰かに見送られる日がありますように(本人は望んでないだろうけど)。






幕が閉じ、噛み締める。
今観たものはなんだったのか?
これまでに観たことのない、けれど、よく知る『熱海殺人事件』があった。
この暴力的とも言える、情熱に満ちた俳優たちと初日を迎えた、中江功という演出家に僭越ながら、心から拍手を送りたい。
演劇は眼の前で繰り広げられる生身の人間の熱を客席で受け止め、ともに創り上げるエンタメだ。
だからこそ、同じ演目であろうとも、すべてがちがって、おもしろい。
本公演は2月17日に、チームユニコーン(荒井敦史 大原優乃 横田大雅 高橋龍輝)の初日を迎え、3月2日まで東京は新宿、紀伊國屋ホールにて上演中。
つかこうへい十七回忌特別公演
『熱海殺人事件』ラストメッセージ
公式サイト http://rup.co.jp/stage/atami_2026.html
















