心を残し、次へと行けない/行きたい人、の物語。時速246億「さよう、ならば、また、」川本成インタビュー
2024.3.30
告知は突然だった。それは「集合!」という強い一言のもと、経験不問のフルキャストワークショップオーディション。開催を決めたのはライブユニット時速246億主宰にして、俳優で声優、コメディアン、さらに脚本、演出も手がける、川本成さん。
昨年5月の告知から6月の締め切りまで、実に350通を超える応募が日本中から届き、そこから約200人との面接を経て、約100人とのワークショップ最終審査を実現。今年1月、ついに24名のキャストが発表された。果たして、そこに秘められたのは、どんな思いだったのか?
20年後の川本成の仲間を探すプロジェクトです
──なぜ、この企画を立ち上げたのでしょう。
川本 実は、当時、動いていた大きな公演が中止になって時間がぽっかり空いたんです。それが考えるキッカケとなりました。おい、川本成、これはなにかの示唆じゃないのか? と。今、話題で人気のある人たちとの仕事もおもしろいけれど、このままでいいのか、と。むしろ、俺が今やるべきことは、まだ出会っていない、初めましての人たちと出会う機会をつくることじゃないか、と。事務所が強いとか、数字を持っているとか、そういうことでなく、おこがましいかもしれないけど、なにかもがいている人と作品創りをやってみたらどうだろう……そうすることで、この先、川本成の仲間を増やせたら素敵じゃないか考えたら、とわくわくしちゃったので、すぐに動き出しました。そこへ至る想いは僕のnoteにつづったので良ければ読んでみてください。
──それが6月のことですが、実際、オーディションにかなりの時間をかけています。
川本 そうですね。結果、書類では350人ほどの方々に応募していただき、その中から2次面接審査で200人の方々と実際にお会いしました。そして更に最終審査100人の方々とワークショップオーディション。本当にいろいろな出会いがあって、やっぱり直接に会うって大切だなと実感した時間でした。はるばる、このために遠方からきてくれた人、いろんな職業の人、会った全員に物語があって、すべてが愛おしくて、毎回、オーディションの最後には感極まっていました。
限られた時間のなか、全力で自分の一瞬を出す、こちらも全力で受け止める。ものすごく最短の出会いと別れでした。それらがみっしりとつまった時間で、おまえは選ぶ立場なのに、なにを泣きそうになっているんだ、とみんなに思われたかもしれません。でも、それくらい刺激があったんです。
──そこから24人のキャストが決定し、今年1月、2024年春の新作公演「さよう、ならば、また、」が発表されました。
川本 最初はそれぞれが抱える悩みや実体験などをヒントに脚本を書こうかと思ったんです。でも、出会った皆さんの物語が印象的すぎて、かつあまりにも重たすぎて、すてきで、眩しくて。
それを借りてしまうのはあまりにも安易だと感じていたときに、「さようなら」が最後の挨拶ではなくて「左様、ならば、またいつか」という意味の接続詞だったと知り、出会いと別れ、そして繋がる、という事自体の物語を書こうと決めました。なので、告知のチラシもそれぞれが思い入れのある写真を集めて作りました。写真を選んだ理由もおもしろくて、公式インスタグラムに載せているので、読んでみてもらえたらうれしいです。でも、実は彼らが演じる登場人物は地縛霊なんです。
──脚本を拝読して驚きました! なぜでしょう。
川本 今回のオーディションにも通じる話ですが、地縛霊って思いや未練など、残した気持ちがあるから、ある場所にとどまっているわけで。つまり次へ行けない存在なんです。
出会いと別れ、新たな場所に行きたいと行動を起こした人、その人々がひとつの場所に集っている。燻(くすぶ)りながら、悩みながらも次へ行きたいと願う人々の物語であり、そういう人たちのための場所の物語であり、生きる、生きていかなければならない、という物語になりました。
──確かに脚本を拝読し、作品世界の設定ならではのしかけに、おおー、となり。いろいろな人が、自分を重ねて、何かを受け取るのではないだろうかと思える物語がありました。
川本 それは僕が萩本欽一という人のもとで学んだからだと思います。品格や質、実直さ、熱量など、人間力をまっすぐに届けられたらと思っています。さらに今回は、地縛霊になってしまった彼らの人生に、永遠の不良と言われた寺山修司さん、あるいは三島由紀夫さん、フォークや演劇、哲学など、ある年代や文化から醸し出されるいろいろなオマージュもちりばめているので、考察なども楽しんでいただけたら嬉しいです。
全員がなにかしら僕と接続しちゃった人たちです
──「さよう」と「ならば」の2チームに分かれての上演とのことですが、稽古を拝見して、同じ場面でありながら、チームによって立ち位置から演じ方、ともすれば役へのアプローチまで、あまりにもちがっていて驚きました。
川本 それがこの企画の面白いところでもありますよね。まったくの未経験者もいるので、演出家がミザンス(舞台上における役者の立ち位置)を付けたり、セリフの言い方や、感情を説明する方法もあると思ったんですが、それだけになるのは違うなあと。それぞれのチームで自身の役の解釈や疑問を投げかけあい、相手がなにを考えて、その言葉を放つのか? それらを互いにディスカッションして考え抜くなど、さまざまな方法を実験しながら演劇を作っています。
──まさにワークショップです! 実際にそれぞれのチームのディスカッションも拝見していると興味深く。実はこのとき、こう考えていたんじゃないか、だとしたら、このセリフの意図はまったく変わってくるのではないか? といった解釈が飛び交い、まさに「脚本を読む」レッスンをしているようで。さらにチーム同士も意識していることも感じられました。
川本 我ながら実に遠回りすぎる作り方をしていると思います。ともすれば演劇経験者にとってはじれったいやりとりかもしれません。でも、その時間が大切だと思ったんです。すでに稽古期間を経て、向こうのチームが良かったな、あの役がやりたかったな、とか思っている人もいるかもしれません。でも、決まったチームで自分がどうあろうとするか、を考えてほしい。そういう意味ではここは学校に近いのかもしれません。プロの学校ですね。
──確かに今回の川本さんの演出は、以前、最善席で取材させていただいた『バックステージ・オン・ファイア』とは少し異なります。わかりやすく、伝わりやすい言葉を選んでいることは同じですが、こうするとよりいいよね、という提案ではなく、それぞれの思考を即すようなヒントを手渡す、という感じです。
川本 最終的には自分自身でたどり着いてほしいんです。自分で考えて発信する力を養うことが、これからの20年、一緒にやっていける仲間をつくることだと思うから。なによりも、当たり前ですが、この瞬間は今しかないんですよね。それも常に変化している。そのなかで、我々は現実すれすれの隣にある、「演劇」という完全犯罪をやってのけ、見事に観客を騙し、共感してもらう、驚いてもらう。そのための共犯者でありたいんです。実は、そこに思いがたどり着いたときにこの脚本が書き上がりました。
──お話を聞いて、改めて両チームがこの物語をどう演じるかが気になります。
川本 だって、僕がキャストの全員を信じていますから。たぶんね、出演してくれる人々は、なにかしら、僕と接続しちゃった人たちなんです。だから、ずっと言っているのは、この公演は失敗しても、成功だ、と。だって実現することこそが大切で、全員が経験することに意味がある。作りたいのは、そういった価値なんです。だから演劇好きの人にも、初めて演劇を観るという人にも目撃してほしい。きっと、おもしろがってもらえる作品になると確信しています。
──最後に一言、お願いします。
川本 僕は今年の7月、50歳になります。僕と一緒に次の20年を遊んでもらえたらとても嬉しいです。
取材・文/おーちようこ
さよう、ならば、また、
舞台は廃校が決まった、とある高校の屋上。
そこには、ここからどこにも行けない、生徒たちが集っていた。
■ 日程 2024年4月13日(土)~21日(日)
■ 劇場 シアターグリーン BIG TREE THEATER
■ チケット料金【全席指定・税込】
S席8,800円(最前列)A席6,300円(当日6,500円)U-20席3,800円(観劇時20歳以下対象)
■作・演出:川本成
■出演(五十音順):青木萌、阿部大介、石田周作、一鷓優那、植万由香、大串有希、岡山誠、奥村優希、久保明日香、小泉茉鮎、冴人、境秀人、高橋みのり、富山華佳、成松慶彦、にゃんこスターアンゴラ村長、平岡美保、ふたろ、松川貴弘、馬淵香那、道本成美、山田桃子、横室彩紀、渡邉天斗
■公式サイト 公演詳細はこちらから。
■公式インスタグラム 現在、キャストのプロフィールやインスタLIVE配信中。
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