舞台「幻の城」レビュー 美しくあれ、という病(やまい) /おーちようこ

もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ、第2弾
舞台「幻の城〜戦国の美しき狂気〜」開幕。

 

「美しい戦(いくさ)をなさいませ──」
 そう語る、こだわりは狂気にも見えるほど強く。

 

最善席 幻の城

 時は慶長20年(1615年)。
 諸国を巻き込み熾烈を極めた戦国時代、最後の決戦の地と化したのは豊臣勢唯一の砦となった大阪城。歴史に残る「大阪 夏の陣」と称される大戦の準備が進められていた。
「あの方しかいない……」
 打倒・家康のための総大将にふさわしいと挙げられたのは流刑人として八丈島に送られた、宇喜多秀家(鈴木拡樹)。かくして、真田幸村(山本匠馬)の密命を受け、忍びの根津甚八(細貝 圭)やかつての家臣、江島長門(石井智也)らは一路、島を目指す。
 しかし、そこで待っていたのは妄執に囚われ狂人と成り果てたかに見える老いた英雄だった……これは、己の美意識にこだわり抜いたひとりの武将・宇喜多秀家を巡る物語。

 

最善席 幻の城

最善席 幻の城

最善席 幻の城

 

 登場する者たちは皆、己の生きる意味を問い、揺れる。
 自身の腕の中で次々と息絶える仲間を目の当たりにし、なぜ己だけが生き残り続けるのか、己の生に意味があるのかと問う甚八。
 その姿に「俺たちの仕事は考えることではなく動くことだ。でなければ忍びなど務まらん!」と道具として生きる覚悟を放つ霧隠才蔵(染谷俊之)だが、その言葉はまるで己に言い聞かせているようでもあり、例えかつての同胞と刃を交えても斬り捨てる、と怜悧なモノであろうとする。
 彼らを八丈島へと運ぶ船主にしてかつて海賊だった望月銃之助(北代高士)はよりデカイことを成し遂げたいと飢(かつ)え、仲間にしてほしいと土下座する。一方、大阪城では武将として生きることを望む豊臣秀頼(井深克彦)はしかし、母・淀の方(星野真里)の懇願によりその思いを叶えられずにいた。

 その真ん中で、ただ独り迷いなく……ともすれば、狂気、に映るほどの強く激しい己の美意識を貫く宇喜多秀家が居た。この存在を演じ貫く鈴木拡樹がすさまじい。今年、30才を迎えた自身だが、髪を振り乱し狂乱する様は、恐ろしくもあり、哀れでもあり、時折、実は正気なのではないか? と思わせる様相は(おそらくは壊れる、ぎりぎりだったのだろうけれど)、あえて言葉を探すなら、畏怖、だろう。自身への貢物として八丈島へと連れてこられた、妻、豪姫と似た、おのえ(新垣里沙)をかき抱き、「わしはアレができんのじゃ……!」と咆哮する姿は、これまで演じてきた数多の役をくつがえす衝撃だ。

 

最善席 幻の城

最善席 幻の城

 

 宇喜多の深い憎しみを一身に受ける、徳川家康(山崎樹範)がまたすごい。要所、要所でコミカルに笑いを取る一方で、己が天下を取る意味を断言する声の力、立ち姿は圧巻の一言。まさに時の天下人としての、覚悟と威厳が場内に響き渡る。

 しかし、それすらも押さえつけ、人々に宇喜多秀家は吠える。
「たわけが! 生きるということの意味を履き違えている」
 かくして、舞台の上に生きる者たちはそれぞれに自身が信じる道へと向かう。大切な人のため身代わりに死を選ぶ者、潔く最後まで刀を棄てぬ者、さらに執着し生きる者。そして、過去を振り返り新たな一歩を踏み出す者……どんな道を選ぼうとも、そこに己が信じる美はあるのか? と宇喜多は最後まで問う。
 果たして、豊臣は本当に徳川に負けたのか? 家康がぽつり、とこぼした、豊臣になぜ勝てぬか?という己の思いに対して「きらきら光るものかなあ……」という言葉が印象的だった。

 ────この舞台をどう観るか? は、本当に自由で。好きな俳優を観たい、あるいは原作が気になって、とか、どう楽しむのかは、その客席の椅子に座っている人のもの。
 けれど、と思う。
 日々を送るなかで、チケット代と2時間半という対価を使い、あの空間を共有する方々が、なぜ自分は今、ここにいるのか? その理由、その先にある己の譲れない癖(へき)や美学、あるいはそれらの積み重ねこそが間違いなく自身が生きてきた証となることへ思いを馳せる、ことが瞬間でもあってほしい、と、僭越ながら一観客として願いました。
 いろいろな楽しみ方がたくさんあると思います。そのなかで、私は、宇喜多の、壮絶なまでの美しさへのこだわりと執着こそを、美しいと思い、その強い心にアテられて、ぐるぐると考えながら帰途につく夜でした。

撮影・文/おーちようこ 初日観劇

 

最善席 幻の城

最善席 幻の城

 

もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ、第2弾、舞台「幻の城〜戦国の美しき狂気〜」は、10月18日(日)まで、EXシアター六本木にて上演中。

公式サイト http://mottorekishi.com/
原作:風野真知雄『幻の城 大坂夏の陣異聞』/祥伝社文庫刊

脚本:鈴木哲也
演出:大関真
出演:
鈴木拡樹、細貝 圭、山本匠馬、新垣里沙、
染谷俊之、風間由次郎、井深克彦、北代高士、
武智健二、本間 剛、天月-あまつき-、寿里、石井智也、山崎樹範、星野真里 ほか

テーマソング:天月-あまつき- 「星月夜」

最善席 幻の城

 

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