身体だけではなく、心をも取り戻す旅路──舞台『どろろ』が描くもの
本記事はレビューにつき、一部、内容にふれています。
舞台「どろろ」東京公演が先週の大阪公演に続き、この3月7日、東京・池袋のサンシャイン劇場にて初日を迎えた。同日、行われた舞台挨拶と公開ゲネプロのレビューをここに、お届けする。
西田大輔が脚本・演出を手がける本作は、手塚治虫原作によるマンガ『どろろ』の舞台版で、現在、アニメ版も放送中。物語は、鬼神によって身体の48カ所を奪われたまま生まれた少年・百鬼丸が、幼い盗賊・どろろと出会い、魔物退治の旅を続け、身体の部位を取り返していくダークファンタジー。
囲み取材で、アニメと同じく主演の百鬼丸を演じる鈴木拡樹は語る。
「とても愛されている作品だと、ひしひしと感じています。たくさんリメイクされていますが、今回、このリメイク版の舞台ならではの見どころは、登場人物すべてが、なにかしら、家族、という絆で結ばれている物語です。そこを感じていただけたら」
また、どろろ役の北原里英は「舞台の上では太陽のように照らしていけるよう、元気いっぱい舞台の上で生きています」と意気込みを語り、多宝丸役の有澤樟太郎は「舞台という生ならではの人間の迫力、その生々しさに注目してほしい。大阪4公演を終えて、とても良い勢いで進んでいるので、このまま東京、福岡、三重とさらに上げていく気持ちで最後まで精一杯最後までがんばります」と自信をのぞかせた。そして「鈴木さんのファンを公言している私なんですが……」と明かしたのは醍醐景光役の唐橋充。「原作の醍醐はただただ悪い男ですが、この舞台版では父として、どう関わっていくのかという視点で描かれ、百鬼丸の背景を深く彩る役どころです」と語り「鈴木さんの百鬼丸を見ているだけで、寂しくて切なくて、いろんなものを背負い込んで、ただただ純粋でダイナミックに優しいと感じています」とファンならではの思いを披露した。
最後に西田は、まず「手塚先生の『どろろ』という作品に携わらせていただいて本当に感謝しております」と謝辞を述べ、「今回、舞台である意味、を全員で考えて作りました。たとえば、使う暗転をあえて暗闇と考えて、そのなかで何かが起こっているのか……そういったことを訴えかけるようなシーンを、ひとつひとつていねいに形にしました」と語り「百鬼丸という存在ががどろろという太陽と出会い、全てを失っているなかで希望を手に入れるという物語になればと思っています」と作品に込めた願いを明かした。
ダンダンダンダン! と叩きつける音とともに赤子の泣き声があたりをつんざく。しかし生まれたのは父の悲願により全身を鬼神に捧げられ、手足どころか目も鼻も口も失われた子どもだった。
「これで生きているといえるのか……!」
その慟哭とともに、赤子は捨てられる。
しかし、その命を救う者もいた。
我が子だからこそ、我が国のために生け贄にした者。我が子だからこそ、決して手放すべきではなかったと悔いる者。あるいは実の兄だからこそ、その関係に憤り、あがく者。捨てられた命を救い、課せられた運命を知りながらも修羅の道に送り出す者。そして、あたたかく寄り添う者。そんな彼らの道行きに関わり、大切な存在のために、生きる、あるいは、壊れる道を選ぶ者たちが描かれる。
なによりも百鬼丸に目を奪われる。まるで「無」だった自身が顔を取り戻し、耳を取り戻す……ひとつひとつ身体の部分を取り戻した、その瞬間の変化に、はっ、とさせられる。物言わぬ背中が美しい、表情で、ひるがえるマントで、気配ひとつで「今」の百鬼丸の在りようを伝える。ことに耳を取り戻した刹那、響き渡るのは哀しみの悲鳴、それを聴いてしまった形相たるや──最初に聴いた、音、が、それ、だなんて、つらい。なんて演出だ。非道い、けれど、すごい。
しかし、そんな百鬼丸の救いが、どろろだ。底抜けに明るく前向きで、絶対に諦めない。母に会いたい一心で独り生き抜く助六(田村升吾)を叱り飛ばし、その背中を押す。
一方で、すべてを持っているからこそ、それゆえに苦しむ者もいる。国のため贄とされた子どもの後に、その国を支えるために生まれた子ども、多宝丸だ。隠された真実を追い求める彼が、やがて、父・醍醐景光から恐ろしい真実を告げられた刹那、の表情たるや……その絶望、驚き、哀しみ、混乱、すべての感情がさざ波のように客席へと広がる。国主として綺麗事だけではやっていけない、醍醐の葛藤が垣間見える瞬間でもある。
父の行いを責める多宝丸。しかし、その非難は、そのまま自身に降りかかる。「ただ己の善良さのためだけに国を捨てるのか! それができるなら、やってみろ!」と、己の立場を突きつけられる。
やがて、父と再会する百鬼丸も、自身の道を選択する。果たして、彼らの、辿る道はいずこへと続くのか……畳み掛けるように繰り広げられる、すさまじい殺陣にも注目だが、それのみならずアンサンブルダンサーによる流れる波やあやかし達、縫の方(大湖せしる)が執り行なう新嘗祭のシーンも実に美しく、その真中に立つ俳優たちの心の機微も、実に繊細に大切に作られていることも知れる。まさに舞台ならではの、『どろろ』の世界を受け取ってほしい。
上演時間は休憩含む、約3時間。東京公演は3月17日まで。3月20日に福岡・ももちパレス、23日に三重・三重県文化会館大ホールで上演。東京公演の千秋楽は全国の劇場でライブビューイングとともに、CSテレ朝チャンネル1で生放送も決定。
取材・文/おーちようこ
撮影/オフィシャル提供・最善席
舞台「どろろ」公式サイト
2019年3月2日(土)・3日(日)
大阪府 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
2019年3月7日(木)~17日(日)
東京都 サンシャイン劇場
2019年3月20日(水)
福岡県 ももちパレス
2019年3月23日(土)
三重県 三重県文化会館 大ホール
原作:手塚治虫
脚本・演出:西田大輔
脚本協力:小林靖子、吉村清子、金田一明、村越繁
キャスト
百鬼丸:鈴木拡樹
どろろ:北原里英
多宝丸:有澤樟太郎
賽の目の三郎太:健人
仁木田之介:影山達也
助六:田村升吾
琵琶丸:赤塚篤紀
寿海:児島功一
醍醐景光:唐橋充
縫の方:大湖せしる ほか
(c)手塚プロダクション/舞台「どろろ」製作委員会