舞台『喜びの歌』レビュー&コメント 大貫勇輔・中河内雅貴・安西慎太郎・鈴木勝秀

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漆黒の店に煌めくのは水槽。
語られるのはかつての革命。
焦がれるのは海の底。
有限だからこそ永遠に円環する原子。
たくさんの水、水、水。
美しい舞踏、しなやかな指先と爪先。
レコード、紙の本、ノイズとライト。
生きていくための、お金。
──── 手に入れた平穏は退屈?

劇作家にして演出家のスズカツこと、鈴木勝秀の新作舞台『喜びの歌』が8月24日(水)、DDD AOYAMA CROSS THEATERにて幕を開けた。
舞台は近未来の東京のどこかにある、店。

流れる曲はキング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」。
労働力はロボットに取って代わられ、金持ちは自然を求めこの地を離れ、残るのは貧しい者とあえて、ここで暮らす者ばかり。

ありとあらゆる「水」だけ、を売る店のオーナーに、大貫勇輔。
そこに通い詰め、美しい海に潜る日を夢見る若者に、安西慎太郎。
ふたりの会話が途切れた瞬間、舞台の端から端へと静かに通り抜ける、中河内雅貴は何者なのか……?
描かれたのは、三人の男を巡るサスペンス。
交わされる会話と会話、積み重ねられていく言葉たちが、やがて、意外な真実を浮き彫りにする。

 

鈴木勝秀の創る世界は、どこまでも緻密で繊細で静謐だ。
だからこそ、その空間に立つ俳優も、どこまでも緻密さと緻密さと静謐さ……そして、それらを打ち破り、打ち砕く暴力的なまでの熱、が求められる。
観客は、その一挙一動に目を奪われ、心を奪われ、その美しさ、に打ちひしがれる。

「明日、死ぬかのように生きよ」
「永遠に生きるかのように学べ」
「人は思っているようにしかならない」

繰り返される言葉は希望か、諦めか──。

 

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ゲネプロを終えての感想と、作品の台詞から「今、なりたいと思っている自分になっていますか?」と尋ねた。

大貫:スズカツさんは、自由な発想でいろんなことにトライさせてくれる演出家さんで、稽古は楽しく、毎日、気付きがありました。
 今、質問を受けて、僕自身も好きな台詞があるのですが、この舞台は観ている人によって響く言葉がいろいろとあるんだな、と思いました。観る者が今、人生の、どこ、を生きているかによって、耳に飛び込む言葉がちがうんだな、と。だから、どう感じてくださってもいいので、ナニカ、を持って帰ってもらいたいです。そんな願いを秘めながら、集中して、この瞬間を生きたいと思います。

中河内:僕は……なりたい自分、になれているし、目指していると信じています。同時に、人生の歩み方、人との接し方というのは、思い描いたものが必然と形になるものだとずっと思っていて、この芝居のなかでも、改めて、そうだ、と感じています。
 この舞台はきっと、毎日、変化します。ゲネプロを終えた今だからこそ、多くの方に足を運んでいただき、この空間に直接、ふれてほしい。それこそが、このストレートプレイを演じる意味だと信じています。

安西:ずっと、観客の居ない、この劇場で通し稽古を繰り返していたので、今日、観客が入ったことで良くなった部分、悪くなった……とは思いませんが、変化した部分を感じました。それらを初日に向け、新たに変えていきたいです。
 スズカツさんの解釈とはちがうのかもしれませんが、僕の、人は思っているようにしかならない、という台詞は、自己暗示も含まれていると思っていて、自分に言い聞かせるつもりで言っています。おもしろいと思う、泣く、あるいはよくわからない、とさまざまな感想を抱く作品だと思っていて、それが、この舞台の良さだとも感じています。

 

文/おーちようこ

最後に演出家から寄せられたコメントも、ここに掲載。

「今何歳であるかなんて関係ない」
企画当初、僕は今回の『喜びの歌』で、1996年に作った『セルロイドレストラン』(出演:古田新太、佐藤誓、田中哲司、他/ザ・スズナリ)のリメイクをしようと考えた。
『セルロイドレストラン』は、”カットアップによるテキスト作り”と”編集された演劇の上演”を試みた、個人的にとても重要な作品である。
舞台上では、ノイズと照明のフラッシュによって、過去と現在が同一空間内で、行ったり来たりする。今回もそれは同様である。だからといって、これは映像ではよくある手法なので、ご覧いただければ、ほとんど違和感を感じることはないと確信している。
『喜びの歌』のプロット展開は、基本的に『セルロイドレストラン』とあまり変わりがない。
だが、プランの段階で登場人物を3人に限定し、『セルロイドレストラン』には存在した女性キャストを排したことによって、自ずとストーリーに変化が生じることになると考えていた。だいたい、僕がこれまで書いてきたオリジナルは30本以上あるはずだが、プロット展開的には5パターンあるかないかだろう。
そしてテキスト(上演台本)を書き始めたのだが、なんといっても『セルロイドレストラン』は20年も前の作品である。自分自身も含めて、いろいろなことが現在と違う。最初はその”違い”にずいぶんと手こずらされた。自問自答……これじゃオッサンの戯言(たわごと)になりゃしないか?
だが、書き進めていくにつれ、”違い”ではなく、年を経ても”同じ=変わらない”部分に目が向くようになっていった。
人間社会の根本的な構造は、基本的には何も変わっていない。同時に、それに向き合う僕個人の考え方、価値観も……それは僕の中に深く広く根を張り続け、誰であってもそう簡単に抜き去ることができないものになっているようだ。
結果として、僕はテキストを書くことによって、現在の自分と深く向き合うという、いつもと同じこと経験することになった。結局、僕にはそれしかできない。そして、僕は自分と向き合うことが大好きなのだろう。
ただ最近では、それを若い世代の役者に投げつけるのが、かなりの楽しみになっている。
「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ……今何歳であるかなんて関係ない」

鈴木勝秀(suzukatz.)

語る通り、鈴木勝秀の創る世界はこれまでも、これからも、変わらない。
なぜならテント公演時代から観ている、ひとりの観客、が、これほどまでに打ちひしがれてしまったのだから。

 

 

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『喜びの歌』公式サイト 

【スタッフ】作・演出=鈴木勝秀 音楽=大嶋吾郎 振付=大貫勇輔
【キャスト】大貫勇輔/中河内雅貴/安西慎太郎

2016年8月24日(水)~28日(日)

・会場=DDD AOYAMA CROSS THEATER
・料金=全席指定7,800円

 

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