舞台『この声をきみに〜もう一つの物語〜』稽古場レポ&高橋健介さんインタビュー

この記事は3月に上演を予定していた舞台初日前に収録したものです。
無観客で収録されたDVDや関連グッズは5月24日(日)まで公式サイトにて予約受け中。幻となった、けれど確かに上演されたこの舞台への思いをここに。

撮影・文/おーちようこ

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この声を君に01

この声を君に02

 

 稽古場で、全員が台本を手に、高らかに詩を読んでいる。まるで作品に登場する朗読教室そのものだ。「蝶」という漢字について「これって『てふ』、それとも『ちょう』って読むの?」と問いかけがあるかと思えば、とある詩のワンフレーズについて「重い感じ?」と誰かが言うと「ふるえている感じかな」「むしろ、こぼれそうな感じかも」と、それぞれに解釈を披露する。と、同時に全員が声を出し読んでみて「あ、きっと、これだ」と笑顔になる。

 朗読教室『灯火親(とうかしたしむ)』主宰・講師の向山士郎役の小野武彦さんが、書かれた詩の背景について話す姿が頼もしい。その横には真剣に聞き入り質問する、大学生で朗読教室の生徒・竹本圭人役の高橋健介さんの姿が。そんなふうに時間は過ぎて、やがて稽古が始まった。まずは切りのいいところまで通すことに。物語冒頭、主演のひとり、朗読教室に渋々と通うことになる、会社員・岩瀬孝史役の尾上右近さんが語り部として登場。最初にひとつだけ、注意を即す。それは携帯電話を切る、といったことではなく、自身が演じる岩瀬孝史について。それがどういう内容かは、ぜひとも本編を観てほしいが、とにかく、この岩瀬がおもしろい。「朗読」と出会うことで、変化していく姿を描いているのだが、彼が通うことになる、朗読教室の人々が実に個性的。

 授業開始の場面。運送業・井之上雅哉役の小林健一さん、専業主婦・新見雪乃役の 弘中麻紀さん、接客業・永井友加里役の林涼子さんたち生徒がそろい、全員で「あー、あー、あー、あー!」と発声する。その姿も、当然、演じる役として。立ち位置を確認し、動きながら、次々と台詞を言う。それらは、教室での詩の朗読とは空気が異なる。途中、講師のひとり、瑞野優作役の中島歩さんが務めるラジオパーソナリティの場面では、朗読とあまりにもかけ離れた愉快さに、思わず笑いがこぼれる一幕も。そう、言葉を発する姿が、場面によってこんなにもちがう。

 とある掛け合いの場面。あることを問われて答えるまでの「間」についてディスカッションが始まった。その「間」は答えることに戸惑っているから生まれたのか、答えを考えているから生まれたのか、それによって、空気が変わる。空気が変われば、演技も変わる──そこにどんな意図があり、どう解釈し、どう表現するのかは役者たちに託されている。そんなやり取りを前に、そうだ、これは「台詞を読む」だけでなく、演じる姿、さらに「朗読する」ことも楽しむ物語でもあるのだと、ふと気付く……もうひとりの主演にして講師・堀今日子役の佐津川愛美さんが語る「声のプレゼント」という台詞がとても心に残った稽古場だった。

 

高橋健介さんインタビュー

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新卒扱い終了、社会人四年目を迎える春
僕は「知らないんだ」ということを知る

──朗読と演じる、はちがうでしょうか。
高橋:ちがいますね。台詞、というのは、役として気持ちがつながっていて発せられるもので、朗読は誰かが書いた詩や小説といった文章だから、どんな意味があって、どんな気持ちを込めて読むのかは、また別です。
 さらに今回は、僕が演じる「竹本圭人」という役として、なぜ、それを読んでいるのか、どういうつもりで読んでいるのか、を乗せるので、これまでにない経験をしています。とくに尾上右近さんは歌舞伎の方で、声も通るし発声もできているところを、あえて下手に読むところから始まって、朗読に出会い、徐々にうまくなっていく……という演技をされているので、すごく難しいだろうな、と感じています。
──いろいろな文学作品が登場します。
高橋:実はこれまであまり本を読んでこなかったので……わからない単語も多くて。というか、本を読んではいましたが、漫画やライトノベルのようなものが中心だったから。それこそ作品に登場する、萩原朔太郎や太宰治、宮沢賢治といった古典文学は、名前を知ってはいるものの、自分から手に取るとことはあまりなくて……谷川俊太郎といった現代詩も全然、触れる機会もなくて。
 書店でも、そういった本が置かれている棚って奥の方だから、実は本の存在にすら気付いていなかった。だから、今、正直に言ってしまうと、意味を噛み砕くのに少し時間がかかっています。
──新たな出会いや発見があることはすてきです。
高橋:あの……僕は「知らないんだな」と知りました。今回、先輩の方々が多いのですが、ひとつの小説や出てくる単語について、皆さん、すでに基礎知識があって、共有して話されています。だから、付いていけるようになりたくて。もっといろんなことを知りたい。
 そういう意味では、同世代の共演者が多い作品の時は競うという意味での刺激がありますが、今回は、またちがった形で得るものが多いです。ことに「読んで伝える」ということについて、ものすごく考えています。僕らは「朗読教室」の生徒なので実際に本を手に読んでいるから、書かれていることはわかる。でも、それらを音だけで聴く、客席のお客さまにもわかるように伝えなければならないから、意味を考えて、発音も意識して、音を大切にする、ということと向き合っています。
──俳優というお仕事は経験がすべて糧になると思うので、未知の体験が楽しそうです。
高橋:……そういう仕事なんだなあ、と最近、つくづく思います。
──最近、とは?
高橋:いや、前は意識していなかった、というわけではないのですが、改めて実感しているというか。この春で大学を卒業して3年経つので、もう社会では新卒扱いにならないなぁ、って気付いたから(笑)。
──確かに! 「大学卒業後3年以内は新卒として扱う」(青少年雇用機会確保指針)わけですが、そういったことを意識している御方が、ここに……!?
高橋:いるんです(笑)。仮に今から転職したとしても、新卒扱いはされないし。むしろ、社会人4年目になるわけで、それだけの時間、今の自分が選んだ「俳優」を続けてきたんだ、と思ったら意識が新たになったというか……。
──ご自身の選択に対して、とても自覚的です。
高橋:それはあります。ずっと自分が生きていくうえで、どういう仕事をしたいか、どういう人生を歩みたいか、ということを考えていて。
 だから大学に進学したし、進学したからには辞めずに通おうと決めて、実際、忙しくても卒業したし。それがこの先、たとえ、異なる道に進むことになったとしても、選択の幅を広げることになると考えていました。
──実に客観的です! そして、結果、俳優という仕事を選び、続けています。
高橋:続けてきてしまいましたねえ……続けることができる環境にあった、ということも理由のひとつですが、選べる場所にいることができた、ということも大きいと思っていて。だからこそ「選んだ」からには、より考えるし、よりいろいろな経験を積んでいけたらと思います。
 そういう意味で、今回は、オリジナルの脚本かつストレートプレイで、演じる役として朗読する、ということをやっています。社会人4年目突入で、新卒扱いとしては最後の春となる舞台です(笑)。僕が演じる「竹本圭人」がなぜ朗読教室に通うのか、どんな声で何を読み上げるのか、物語だけでなく、朗読もあわせて、どうぞ観に……聴きにかな? 来てください。

saizenseki20200521

高橋健介 たかはし・けんすけ
ツイッター @kensuke_mr6
公式サイト https://takahashi-kensuke.com/

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2019-12-25 18.29.24

舞台『この声をきみに〜もう一つの物語〜』

出演:
尾上右近
佐津川愛美
小林 健一
弘中麻紀
小林涼子
高橋健介
中島 歩
小野武彦

脚本:大森美香
演出:岸本鮎佳(艶∞ポリス)
美術:門馬雄太郎
照明:西澤 孝
音響:古川直幸、野中 明(PROFIT)
衣裳:首藤和香子
衣裳助手:澤井俊二
ヘアメイク:瀬戸口清香(S-SIZE)
舞台監督:中西輝彦、内田純平
朗読監修:ウエムラアキコ(朗読稽古屋ことつぎ)
宣伝美術:山下浩介
宣伝写真:神ノ川智早
HP製作:メテオデザイン
宣伝:前木理花、浜口奈津子
票券:河野英明
制作:三浦 司
アシスタントプロデューサー:三浦奏子
プロデューサー:石橋千尋
主催・企画・製作:エイベックス・エンタテインメント
企画協力:NHKエンタープライズ
大阪公演協力:リバティ・コンサーツ、ABCテレビ
協力:松竹株式会社

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