2023年8月15日『熱海殺人事件』を読み解く50周年スペシャルトークイベ完全レポ。深すぎる質問、朗読、乱入も!?

2023年8月15日、『熱海殺人事件』という戯曲が誕生し、50周年を迎えた今年、その上演を続けている、紀伊國屋ホールにてスペシャルトークイベントが開催された。
司会を務めるのは、元・北区つかこうへい劇団、劇団員にして、脚本・演出も手がける、久保田創。お馴染みの流暢な口上に乗せ、キャスト全員、タキシード姿で登場。爆音で流れる、白鳥の湖のオープニング。凛として立つ荒井敦史を押しのけ(笑)、馬場徹の登場に会場が湧く。さらに、まさかのW大山金太郎が登場。果たして、今からなにが始まってしまうのか?
今さら、聞けない役者からの質問や、歴代の木村伝兵衛役ランキング、貴重な証言も飛び出した、濃厚な時間を丸ごと、お届け。

果たして『熱海殺人事件』とは
なんなのか?

全出演者と特別ゲストに馬場徹さんを迎え、つかこうへい氏没後2011年から13年に渡り紀伊國屋ホールでの『熱海殺人事件』をプロデュースし続けている岡村俊一さん、今回、総合演出で、2001年テレビドラマ版『熱海殺人事件』演出も努めた、フジテレビエグゼクティブディレクターの河毛俊作さんも登壇。

まずは全員から一言。
荒井敦史さん「参加できて光栄です。そして、ばーちょん(馬場徹)が出演してくださって本当にありがたく思っています。ただ、僕、毎回スペシャルイベントでは突き飛ばされてる側なんで(笑)。あ、今回も、そうなんだ、と思いながら演じてました」

多和田任益さん「今日は直前に、フレッシャーズ公演の北野くんと2人で一緒に歌う登場に変更させていただきました。なので、今日限りの共演です」

北野秀気さん「ホンマに直前に言われて、めっちゃ緊張しましたが楽しかったです。このまま、今日は楽しみたいと思います」

高橋龍輝さん「スペシャルトークショーということで、プライベートでも仲良くさせていただいてる、ばーちょんさんと一緒の舞台に立てることを嬉しく思っています」

新内眞衣さん「私は みんなよりも一足早く、スタンダード公演の千秋楽を迎えたので、自分の公演以外の水野役に会う機会がほんとになくなっちゃったから久々に会えてうれしいです。楽屋ですっごい盛り上がってしまって、楽しかったので、その空気のまま今日も楽しい時間を過ごしたいです」

佐々木ありささん「私はまだエキサイト公演で初日を迎えたばかりですが、こちらこそ、ものすごく楽しい時間を過ごしているので、今日はその、がちゃがちゃ感をお伝えしつつ、より楽しんでいこうと思っています」

小日向ゆかさん「フレッシャーズ公演に出演していますが、『熱海殺人事件』というとんでもないところに来てしまったな、という感想で。今日も直前に内容を知りました。明日のシャッフル公演も、まだ、なにをやるのかわかっていません(笑)」

と、ここで久保田創さんが三浦海里さんを飛ばし「最後に馬場徹さん!」と発言!?

三浦海里さん「あのー、僕は?(笑)……というか、今回は、こんなポジションで楽しく演らせていただいてます(笑)。今日もよろしくお願いします」

馬場徹さん「僕は10年前に出演させていただいていて、その後の公演も観させていただいていますが、本当に『熱海殺人事件』はおもしろいなと思っていて、進化し続ける作品だと感じているので、50周年記念のこの場に遊びにこれたことがうれしいです」

それぞれが抱く
『熱海殺人事件』への思い

北野さんは「大学の図書館で戯曲を読んで、その衝撃のまま憧れていたので、今回の公演で夢が叶いました」と出会いを。
佐々木さんは「初めて舞台を見たときには、ものすごいものを観たという印象しかなくて、実際に出演して、この戯曲が持つエネルギーに振り落とされないようしがみついています」と今の心境を明かす。
小日向さんは「受け取った台本があまりにも厚くて、重くて、パニックになり、さらに読んでパニックになって、稽古でもパニックになっていたんですが……舞台に立ったら、ものすごく楽しいです!」と変化を語る。
今回で三年連続出演の新内さんは「回を重ねるごとに理解度が深まるものの、毎回、難しくて、でも毎回、終わらせることができてすごく幸せだったなと感じています。でも、もう一回、挑戦するとなると、やっぱり、いつも心が苦しくて。
そこが熱海の魅力かな、って思いますし、毎回、皆さんに助けていただきながら本番をむかえることができて、いつも幸せだな、と思っています」と先輩らしい感想を。

これまでに熊田、伝兵衛、そして今回、大山を演じる多和田さんは「いろんな役を演らせていただいてるので、その都度、新鮮な思いです。ただ、回を重ねるごとに、自分の役じゃなくても、あ、こういう意味だったのか、みたいな理解があって。そのときにしかわからないことが毎回、あって、本当に何度も挑戦したくなる戯曲だな、と感じています」
そして、今回、2度目の熊田に挑戦した高橋さんはここで、意外な告白を。
「実は、昨年、つかこうへい十三回忌特別公演『新・熱海殺人事件』ラストスプリングと同時に『修羅雪姫』という作品にも出ていて。でも『熱海殺人事件』の台本も渡されて覚えることがいっぱいで……実は初めて、稽古場で大号泣しました。あまりの自分のできなさに、情けなくて。でも、今回はもう少し周りも見えてきたので、また違った熊田になっているかと思います」
続けて、『新・熱海殺人事件』(2021年)の大山に続き、今回、熊田に挑む三浦海里さんは「僕は新人と経験者の間にいる、中間の人間です(笑)。なので、初出演のときは本当に苦しかったです。普段、お酒を飲まないんですが、家で独りで飲んじゃったくらい追い込まれていました。
ただ、今回、また出演させていただいたことで、本当に少しですが『熱海殺人事件』という作品を深く知れたかな、と感じています。皆さんからいいところをもらいつつ、僕なりの熊田を作ろうとあがいています」

今公演を通して木村伝兵衛を演じる、荒井さんは「僕が初めて観たのは、それこそ、ばーちょんさんの『熱海殺人事件』でした。
もう、幕が開いた瞬間から、なんだ、これ! と思って、もうずっとわけもわかんないまま観ていたんですが、そのときから、もう演りたい! とずっと言っていたんです。だから今日が本当にうれしい!」
その言葉を受けて、馬場さんは「それこそ、僕も山崎銀之丞さんの木村伝兵衛を観て、そこから銀之丞さんの背中を追って、台詞回しまで真似するくらいで。ただ、それだと自分らしさが出ないな、と感じるようになって。毎回、そのメンバーでしか出せない空気ってあるな、と気付いて。4人が生み出すグルーヴ感みたいなものがそれぞれの『熱海殺人事件』になっていて、誰かが倒れそうになっても、みんなで支える。
そうやって、異なる座組ならではの『熱海』が生まれていくと感じているので、この先もいろいろな人たちが演じて、全然、ちがう『熱海』を50年と言わず、100年先まで続けてほしいな、と思いました」

4人で支えあって
ひとつの詩を歌っている

そして岡村さん、河毛さんが登場、公開質問タイムへ。

早速、小日向さんから質問が。
「本当は稽古場でお伺いすべきことなんですが、そこまで自分の余裕がなくて……」と恐縮しながらも「JALのシーンが難しくて。あの一連の流れはどこから来たのでしょう?」
ここは岡村さんが解答。
「あれは、風間杜夫さんが木村伝兵衛を演じているイメージが残っている頃に生まれたシーンです。当時、ドラマ『スチュワーデス物語』(1983年)で風間さんが教官役を演っていて、それがものすごい人気だったので『JALです』と言って伝兵衛が出てきたらおもしろい、と演り始めたのが最初です。
そこから、水野との恋物語の話が出たり、熊田の心を入れ替えるためとか、アイコが働く店を突き止めるために使おうといった台詞が稽古場でズンズンと張っていき、あのシーンになりました。
ただ、確かに唐突な『JALです』は、河毛さんからも『わかりにくいのではないか?』と最初に聞かれたので、今回、実はわかりやすくするため、後ろに飛行機の映像が出ています」
さらに久保田さんから補足。
「どんどん口だてで演出していくから、残っている文章だけだとわからないことがたくさんあるので、こういう機会はいいですね。もっともっと質問して」

続けて、新内さんからこんな質問が。
「私はずっと、伝兵衛と水野が突然、『好き好き離れたくない』と抱き合わなきゃならないんだろう? って疑問だったんです。
でも、それを稽古のときに岡村さんが説明してくださって、すごく納得がいったので、そこを今日、ぜひとも皆さんにも話していただけたら」
その質問に会場から拍手が。それを受けて岡村さん。
「あれはね、この作品のおもしろいところでもあるんだけど、大山に『お前、待ち伏せってことにしろよ』と伝兵衛が言うんだけど、そこで水野にサインを出しているんです。今から俺たちは結託して大山を騙すぞ、と。
そこから、ずっと騙して騙して、ホテルのくだりをやってさんざん追い込んで、大山が『もう待ち伏せってことでいいよ』と言ったところで、ふたりが『やったー!』ってなっているからなんです」
それを受けて新内さん。
「その説明を聞いて、ようやく、あの長いやり取りの結果、ここに辿り着くんだな、と理解できました」
さらに岡村さんが補足する。
「伝兵衛って実は正直なことを言っているシーンがほとんどないんです。他のことを考えながら、こいつをどうしようか、とか思いながら、ちがう言葉をしゃべり続けている。なので、あー、実は次のことを考えているな、というシーンが非常に多いので、ちょっと難解な役ではある、とは思います」
その言葉を受けて、演れば演るほど理解が深まると、馬場さんと荒井さん。

続いての質問は、三浦さんから。
「ホテルのシーンで、オートロックの鍵を開けるのは、なぜ、熊田なんでしょう? ただ、役としては『熊田』ではないので、毎回、緊張しちゃうんですよね」
これに答えたのは河毛さん。
「キャストが4人だけだから、常に誰かがなんとかしなくちゃならないんですよ。それがこの芝居の醍醐味でもあるんです。なかでもいちばん極端なのが、水野です。水野はアイコを演って、熊田が捨てようとしているユキエのイメージも背負っている。
なぜなら、これは最終的に熊田の愛を救う物語だと、僕は思っているから。最後に熊田だけがユキエの元へ帰って幸せになるわけで、そのためにみんなが頑張っているんです」
その言葉に一同、納得。そこで、久保田さんから馬場さんへ。「こんなふうに、つかさんに気持ちを聞くことはありましたか?」
との問いから、つかさんを知るふたりの思い出話が披露されることに。

馬場さんは「まったくないです。そんなことはできないです……というか、そんな余裕もなかったです。台本もらって、稽古場でどんどん台詞が増えていって、覚えることに一生懸命で。聞く、とか、そんなことができる技量もなくて。毎日、稽古場がものすごい緊張感で」
久保田さん「確かに張り詰めた空気でしたね。ばーちょんが真っ白い顔で稽古場の下手から出てきて、ずっとセリフをしゃべって、でも、ダメで下手に戻されて、また出てきてしゃべる、っていうのを繰り返していて」と振り返る。
馬場さん「一気にうわー、ってしゃべっていて。技術もないから過呼吸になるんですよ。だから顔色が真っ白になるんです。でも、その横でつかさんが台詞を言っていて、耳で聞きながら、同じ言葉がばーっと自分から出ているという……すごく不思議な体感でした」

貴重な話が披露されたところで『定本熱海殺人事件』(1881年/角川書店)に収録されたエッセイを、新内さんが朗読することに。

そこにつづられたのは『熱海殺人事件』への思い。
ふらりと旅に出た地方都市での公演での出会い。電話と机ひとつの小道具で、若い役者が汗をかき一生懸命に挑む姿に喜び、公演後の打ち上げの席に呼ばれることを断ってしまう自身の照れ。
演出家の楽しみは「台本を裏切られることである」という独白。いっそ、それぞれの土地を舞台にした殺人事件を上演してもいいのではないか、という問いかけ、といったものが詰まっていた。

朗読を終え、久保田さんから「書いてあることは結構、めちゃくちゃだけど、優しい文章ですよね。これ、本当のことを言ってますか?」と問いかけが。
河毛さんから「ある程度、御本人を存じているところでいうと、6割くらい嘘じゃないかな……(笑)。いや、嘘というか、照れ隠しかな、と。
ただまあ、あの人ほど『純情』という言葉が似合う人はいないと思うので。一方で、伝兵衛の台詞にあるように『俺より目立つな、俺より前に出るんじゃねえ』という人でもありましたね」

続けて、岡村さんから「河毛さんのおっしゃるとおり、あまり本当のことを言う人ではなかったですね。
大勢で宴会をやるんですが次々と帰していって、帰ったやつをちょっとけなして(笑)。それを繰り返して、最後はほんの2、3人だけ残ったところで、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ本当のことを言う……そういう感じの人でしたね。だからね、木村伝兵衛って、やっぱり、つかさんだなって思いますね」

さらに河毛さんから「それは本当にそう。あと『熱海殺人事件』は一曲の歌だと思っていて。たとえばQueenの『ボヘミアン・ラプソディ』みたいに、わけわかんない転調とか、なにを意味してるのかわからない歌詞とか、でも訴えたい心がある、ということは伝わる。
つかさんは若い頃、詩人になりたかったと書かれていて。だから詩の朗読みたいな台詞もあるし、そういった意味で普通の演劇とはまったく構造がちがう気がしています。ただ、それだけに役者さんの肉体と精神にかかる負荷がすごく大きい。
ただ、さっきも言ったように、4人しかいない。けれど、2時間の歌を4人で歌うと思えば乗り切れるんじゃないかな、と思って、私は演出していました」

4人でひとつの詩を歌っている、その言葉にしみじみとうなずくキャスト陣。先での馬場さんの「誰かが倒れそうになっても、みんなで支える」という言葉がよりしみる。
さらに河毛さんはテレビドラマ版『熱海殺人事件』当時に、あえてラストに木村伝兵衛の表情を映さず余韻を残す、すべてを伝えない、といった演出を試みたといった秘話も披露。作品世界を知るための貴重な時間となった。

続いて、熱海殺人事件50周年ランキングの発表が。
数多の俳優が紀伊國屋ホールで木村伝兵衛を演じてきた、その数字はデータ化されていないため、久保田さんが徹夜で数えたという俳優の人数は50年中、実に15人! その、力作はこちら。

第8位 石原良純さん 24ステージ
第7位 黒谷友香さん 26ステージ
第6位 馬場徹さん 29ステージ
第5位 荒井敦史さん 42ステージ
第4位 池田成志さん 51ステージ
第3位 味方良介さん 67ステージ
第2位 三浦洋一さん 69ステージ
第1位 風間杜夫さん 119ステージ

紀伊國屋ホール初演から木村伝兵衛を演じた三浦洋一さん、JALのシーンを爆誕させた風間杜夫さんはさすがの順位。黒谷さんがランクインも興味深く、『熱海殺人事件~売春捜査官2007~』といった作品で主演を務めたからで、ここでも時代によって進化を続ける本作の懐の深さがうかがえた。

改めて結果を見て、荒井さんが「僕の『熱海』はコロナ禍とともに始まって残念なことに中止がありすぎたのに42公演もやっていたのかと思うと感慨深いです。さらにこの公演の千秋楽まで駆け抜けて、記録を伸ばしたいです!」力強い言葉が。

ここでも過去の思い出話に花が咲き。
『熱海殺人事件』が話題になり、連日、満員御礼の日々が続いた結果、劇場収容人数の規制も今ほど厳しくなかったため客席通路はもちろん、なんと舞台袖にまで観客を入れて上演したというからすごい。
規制が厳しくなった後も、つかさんの太っ腹なはからいで、客席からあふれた人々のために劇場ロビーを開放し映像を流したこともあったとか。あっぱれ!
それが20年ほど前のこと。そのうえ、なんと多いときは年に3回、『熱海殺人事件』を上演していたこともあるというから、いかに時代が熱狂していたかが知れる時間に。

なお、この数字は紀伊国屋ホールでの上演数を数えたもので、多和田さんも演じた、阿部寛さん初演の「モンテカルロイリュージョン」版は渋谷のパルコ劇場公演企画だったので、今回のカウントには入っていないとか。「ただ、1993年〜1996年、1998年、2002年と再演され続けたロングラン公演だったため、それらを数えたら、おそらく150〜200公演はこえているのではないか」と岡村さん。
なお、舞台出演にあたり阿部寛さん、黒谷友香さんともに正式に北区つかこうへい劇団の劇団員として活動していたとか。

ここから懐かしの映像コーナーと銘打って過去作品の上演タイム。池田成志さん版、阿部寛さん版、馬場徹さん版と名場面が流れるが、なぜか馬場さん版ではオープニングに続き、某魔法学校映画をオマージュした捜査の場面が(笑)。
それを観た馬場さん「あれ、私ですか? 私、やった記憶がないんですけど(笑)。そんなにやってましたっけね。今、観て、びっくりしました……いやー、記憶ってなくなるんですね」と、とぼける一幕も。

ここで、三浦さんから「あの……こんな事を言ってもいいのか、わからないんですが、本当に、台詞の意味をわかっていなくても、なにか心にドン! とくるものがやっぱ、あるな、と。今、この短い映像を観ただけでも、ただただ、すげえな、と圧倒されました」と真摯な感想がこぼれ、客席もしみじみ。
多和田さんからも「阿部さん版で当時と同じ楽曲を使っている場面があるんですが、時代を経て、演出が変わっていっているな、と感じて、僕たちもこの『熱海殺人事件』の歴史を作っている一員なんだな、と改めて責任を感じました」と、未来へとつなげる思いを。

続いて味方良介さんの木村伝兵衛とタッグを組んで熊田を演じた、NON STYLEの石田明さんからのビデオメッセージ到着! と、思いきや? まさかの本人乱入(笑)。
全員、タキシード姿の舞台上へ私服での登場に、久保田さんが「今、イベントやってるんで、私服の人は帰ってもらっていいですか?」とイジりはじめ、早速応酬開始に。

「扱いがヒドい!」と石田さん。さらには岡村さんから直接、連絡が来たことも明かし。
「俺の予定は(所属事務所の)吉本を通して抑えてくれー! もう、今日は無理やり、予定をこじ開けて、駆けつけました!」その掛け合いに歓声と拍手が。
さらに次のコーナーが熱海殺人事件クイズと聞いて、もちろん参加。クイズ正解者にはなんと、河毛さんからフジテレビ台場のレストランお食事券がプレゼントされることに! がぜん張り切りだす舞台上。問題が出されるたび、ボケようとする石田さんVS本気でお食事券を狙うキャスト陣。

第一問は「初代木村伝兵衛の三浦洋一さんが初めて、役を演じたのは何歳だったか?」という問題に「22歳」という正解を本気で答える高橋さん、続けて「熱海の海岸を見下ろす熱海城を建てたのは、誰でしょう?」という問題に、歴代武将の名前があがるなか「実は新宿の会社」という意外な正解が。
結果、石田さんはまったくボケることができずに、まさかの終了!? そこで、ガチ切れ(笑)した? 石田さんからも突然に出題が。

「俺と! 味方良介が! 荒井敦史にキレていることがある! それは、なーんだ?」
ここで全員がボケ始める。
「石田さんの家に入り浸ってる?」
「それは前からじゃー!」
「三人でご飯に行くときに、荒井さんだけ払わない!」
「全員、払ってないわー!」
愉快な掛け合いの最後の最後に、しびれを切らした(?)荒井さんが自ら告白。
「俺が! 味方と石田さんがずっとセットで『熱海殺人事件』を演ってるから、味方と石田で『ハッピーセット』って名付けたら、新聞とかいろんなところに載っちゃったんだよ!」
それを受け、石田さん。
「以来、会うたびに『おい、どっちがポテトなんだよ!』って争ってるんだよ!」
という激白から、舞台上はお馴染みの、爆弾こと宅配便のお兄さんがハンコをもらいにくるくだりへ突入。
「最終的に、俺が男爵イモになっちゃったんだよーーーー!」と叫ぶ石田さんを、馬場さんがきれいに背負い投げ「また、お願いします!」と、ぽん、とハンコをもらって退場し、またもや客席は大喝采。

続いて、真面目な(?)コーナーへ。久保田さんから観客から届いた質問へ。
「ものすごいセリフ量ですが、皆さん、どのように覚えているのでしょうか?」
それを受け、馬場さん。
「河毛さんがおっしゃっているように、ちょっと詩っぽくなっているので、僕からすると覚えやすいんです。流れがあって、七五調っぽくもあるので、途中から自分で発音した台詞を録音して聞く作業を繰り返すことで、耳からも入るし、自分もしゃべるし、という覚え方をしています」
この発言に賛同するキャストも多く。
録音した台詞を移動中に聞く、あるいは本当に歌詞を覚えるように口ずさんで繰り返す。あるいはリズムを取って覚える、といった話も飛び出した。

続いての質問は「台詞のなかで、危うい言葉や差別的な単語が含まれていますが、これは、つかこうへいさんのどんな思いから書き残されたと思いますか?」に岡村さんから。
「単語の意味って時代によって、同じ言葉でも受け取り方がちがうんですよ。今、日本を騒がす事件の渦中にある単語や名称を聞いたら、どう感じるか? それまでは何でもなかった単語が意味を持って聞こえてしまう。だから、危ういと思うかどうかは『今、あなたがどう思っているか?』という心の問題なんです。
ある単語や名称に対して憎しみや怒りを覚えてしまう、という感情は常にひとりひとりの内側にある。それを表に出してしまうのが『演劇』なんです。これは『放送』だとできないことで、むしろ隠す方へ、より出さない方へと動いてしまう。ところが演劇の場合は、みんな出してしまう。出して、出して、出して、問いかける。
『熱海殺人事件』が書かれた時代に、職工という単語がどんな受け止められ方をしていたのか、その職工が起こしてしまった事件に対して、本当に職工が悪かったのか? みたいなことを問い続けることが、つかさんが筆名に『いつかこうへいに』という思いで名乗ったキッカケみたいなものが込められているんじゃないかな、と思います……なんか、真面目な話になっちゃいましたね」
その真摯な答に静かな拍手が。

続いて新たな質問で「熊田刑事が、富山から出てきた理由として汚職事件について語るが、貧困な環境にあった熊田が、政治について語る理由を知りたい」というもの。
こちらも岡村さんから。
「これは、どうしてユキエを捨ててまで出世したいか? という理由に動機としてもうひとつ上の敵が必要だったからです。地元で汚職事件を摘発した。でも、さらに大きな敵がいて、そのためにユキエを捨てざるを得なかったという思いを語らせたかったんです。
そこがないと、ただ出世のためにユキエを捨てるだけになってしまうので、河毛さんの『熊田を幸せにするためにもっと人間性を出したい』という演出から、今回はさらに動機を、加えています」
河毛さんも「岡村さんのお話どおりです」と答え、先程の「熊田が幸せになる物語」として演出したことへの解答にもなった。
最後にいよいよ、イベントも終わりに。最後に大山とアイコのシーンを熱演!

最後の最後に登場するのは、もちろん今作の木村伝兵衛を務める、荒井さん。1974年に上演された『熱海殺人事件』の初版、第一稿(!)に書かれていたという木村伝兵衛の最後の台詞を朗々と語る──。

それは、すべてを終えた木村伝兵衛の独白。
三面記事にもなり得ない事件についての思い、今、日本が大きく病んでいることへの憂い──本当の罪はなんだったのか、それらを吐きながら、静かに煙草に火をつける姿で、幕。

かくして、ここにめちゃくちゃ情報量の多かった、イベントレポを終わります。WEB掲載には長すぎる、とわかっていますが、届けずにはおられませんでした。
その時代ごとに単語の意味、情報が変容し続けす、この世界で人間の生きる意味を問い続ける、『熱海殺人事件』が願わくば、すでに観劇した方、これから観劇する方々に向け、ナニカが届くことを信じて、僭越ながらお届けする次第です。
もちろん、これを読まずとも、その目で一度でも観たならば作品の衝撃は十全に伝わるだろうけれど。

撮影・文/おーちようこ

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