4月6日開幕 舞台『象』主演 安西慎太郎デビュー10年目の想い。初演出の小林且弥コメントも到着 直前動画も配信中!

舞台『象』主演 安西慎太郎
デビュー10年目の想い

撮影・文/おーちようこ

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4月6日に初日を迎える、舞台『象』は解散が決まったサーカス団、最後の日の物語。

それぞれの不安を胸に抱きつつも後片付けをする「びっくりサーカス団・ノア」団員たちは、業者に引き取られているはずの象のアドナイが、まだ居ることに気付く。そのための金を持って逃げたオーナーとは連絡がつかず、アドナイをどうするのか話し合いが始まる──。

主演の安西慎太郎さんが演じるのは、不遇の過去を持ちサーカス団に引き取られたクラウン見習いの青年・松山裕太。今年、役者10周年を迎えた自身は、果たして、どんな想いで挑むのか。「今」の思いを伺った。

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「うまく行かない」ということが
 好きなんです。

──4月6日に初日を迎える舞台『象』で主演を努めます。

 もともとは、2020年に一度、小林且弥さん演出で舞台の話があったんですが、コロナで中止になってしまって。だから、改めて、お話をいただいて、とてもうれしいです。る・ひまわりさんという会社と小林且弥さんという存在は、常に僕に点を打ってくれる存在なんです。初めて、る・ひまわりさんの明治座『る典』(2014年『聖☆明治座・るの祭典〜あんまりカブると怒られちゃうよ〜』)に出たときに、いい意味で「なんだ、このひとたちは!?」って驚いて。例えるなら『ドラゴンボール』の「天下一武道会」みたいな場所だな! って。いろんな技を持っている人がたくさんいて、また出たいな、もっと出たいな、と思わせてくれました。そこから『僕のリヴァ・る』(2016年 最善席記事はこちら)でストレートプレイのおもしろさを知って。
『る典』も『リヴァ・る』も且弥さんと共演しましたが、全然、ちがっていたんです! あ、この人、なんか、僕……だけでなく、いろんな人には見えていないものが見えているんだろうな、と感じていたので、演出……となったときにどんな世界になるんだろうと、ずっと気になっていました。且弥さんのすごいところは、例えば年末の明治座公演でちょっとした小ネタの打ち合わせをしているときも、小ネタなんだけど、見方をちょっと変えると全然、ちがうように見せられるんだな、っていう発見が常にあって、おもしろいんです。
 だからすごく楽しみだったし、且弥さんの脳内を覗く時間がもらえて、僕の脳内を覗いてもらえる機会を与えてもらったことに感謝しています。出会って、7〜8年経つんですが、まだまだ知らないことだらけなので。自分で言うのもなんですが、僕はちょっとヘンテコな奴だと思っているんです。でも、そんな僕に愛情を注いてくれていることがすごく感じられていて。だから且弥さんにも、る・ひまさんにも、今の自分の現在地をしっかりと見せることが「ありがとうございます」という気持ちを伝えることになるのかな、と思っています。

──とはいえ、舞台『象』はとても重いお話です。

 ……難しいです……。そもそも論ですが、演じるって難しいことに決まっている、というか。自分が自分を演じるのさえ難しいのに、他者を演じるって、余計難しいな、って。でも、だからこそ、僕が演じる「松山悠太」という存在を掴みたいし、掴めたら、もっと自由になれるのにと思っています。
 ただ、松山はあまり動かないんですよ。基本、じっとしている。でも、ずっと周りを見ている。なにも考えていないわけではない……台詞がない分だけ、いろいろ問われる役だなあ、と思っていて。ずっと舞台上に居るけど、しゃべらないんです。だから目線ひとつ、瞬きひとつに気を付けないと、ちょっとした動きに意味が生まれてしまう。さらに、これは且弥さんのオーダーだと聞いていますが、360度客席の舞台なので、僕らも、ですが、観ているお客さんも逃げ場がない……という舞台だと思うんです。

──役者10年目にして、とても演りがいのある作品ではないでしょうか。

 そうなんですよ! これは巡りあわせだと感じているんです。「安西慎太郎」がこれからも役者を続けていくために、必要なものを目の前に置かれて、それをつかめるか、つかめないか、でオマエのこれからが問われるぞ、という感覚があって。コロナ禍で最初に予定していた公演が延び、さらに演目も変わったことが偶然とは思えず、神様が落としてくれた、ナニカ、だと受け止めているんです。

──改めて10年経って、いかがでしょう。

 そうですねえ……うーん……こう言っちゃうと語弊があるかもしれないんですが、僕、初舞台の『コーパス・クリスティ 聖骸』(2012年)のときからですが、僕が「ダメだ」と思ったら、もう、そこで辞めるな、っていう感覚があって。
 それは演出家やスタッフさん、お客さんの評価とかではなく、演技の良し悪しとかでもなくて。自分自身の心持ちとして「これはない」って思ったら「終わりだな」となるだろうな、って。だから、この『象』が終わったら辞めるかもしれませんよ?

──申し訳ないんですが、この記事を読んでいる全員が「いや、安西慎太郎が役者を辞めるわけないでしょ!」って言うと思います。

 いや、それはそう! そうなんですけれど!(笑) でも毎回、本当にそう思っているんですよ……うーん。あのね、世の中にはプレイヤーはたくさんいるんです。本当にたくさん! で、そのなかには次の作品のこととか、将来のこととか考えている役者も当然、いると思うんですが、僕はバカだからそういうことができない。今、目の前にあることしかできない。
 もちろん辞めるまでに至らなくても「ダメだな」って思うこともたくさんあって、でも、そうやってきて、10年……そうか10年経ったんだ……10年、続けることができたんだ! っていう感覚でいます。

──そうして続けてきてくださったことがうれしいです。一昨年末、チャオ!明治座祭10周年記念特別公演『忠臣蔵討入・る祭』(2020年)を体調不良で降板されて、しばらくお休みされて、こうしてまた舞台に立っていただいてうれしいです。おかえりなさい。

 ただいまっ、す!

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──休まれている間、やはり芝居の事を考えていたのでしょうか。

 いや、正直言って、それどころではなかったです。ものすごくいろんなことを考えちゃって。ただね、一個あるのは、僕、もともと映画『ギルバート・グレイプ』を観て「役者ってすごいな。こんなふうになりたいな」って志したんですが、途中から「社会貢献したいな」って思うようになったんです。僕自身がすごく周りに迷惑をかけて助けてもらっているから、なにを返せるんだろう……と。例え数人に対してでも、なにか貢献できる仕事ってなんだろう、って考えたらやっぱり「役者」しかなかったんですよね。
 ただ、当然、役者を辞めることも考えました……でも最後に辿り着いたのは、誰かのためとかじゃなくて。ただただ役者の仕事が好きなんだ、ということでした。自分勝手かもしれないけれど、好きだ、続けたい、と。最終的にそれが残っちゃったんですよ。

──そう思われたのはいつですか?

 ……一昨年末に倒れて様子を見ながら活動を再開して……4月の、いよいよ動けるかな、ってなったときくらいかな。なんか実感したんですよね。「好きだ」って。でも、取材で「なんで好きなんですか?」とかよく聞かれるんですけど。

──ああー……ありがちですね。すみません。

 いやいや(笑)、あの……答えることが難しいわけではないんですが、理由を言葉にしちゃうのはちがうな、って。まあ「なんか、好きなんだよな」って。それでいいじゃない、と。

──確かに。昨年4月、ということは9年目にして「好きだ」とはっきり思えたことは大きかったのではないでしょうか。

 大きかったですねえ! あ、そうかい、安西くん! そうだったのかい、ってなったし。自分のなかで変わったこともあるし、変わらないこともあると気付いたし。
 あの……ずっと、変わらないとダメだと思っていたんです。常に変化しなくちゃいけない、進化しなくちゃいけないと思っていたんですが、実は変わらないことも大切なのかな、と思えるようになったんです。だから休んだ時間は苦しかったけど、じっくり考える時間でもあったかな、と。

──今日、その言葉が聞けてなによりです。

 今も稽古をやっていて、好きだなあ、と思います。もちろん上手く行かないこともたくさんあるし、なんでできないかなあ、とか悩むこともあります。でも、よくよく振り返ってみると初舞台からそうだったな、って。全然できなくて、悩んで、苦しんでいたな、と。それが10年経ってまたちがったステージで同じように悩んでいられることがいいな、って思えるんです。なんていうのかな……あの、上手く行かないことが好きなんです! やっぱり。

──すごい! 「安西慎太郎」らしい発言です。

 そうですか(笑)。でも、本当は上手く行ったほうがいいじゃないですか、人生も芝居もなにもかも。なのに、なんか上手く行かないんですよね。でも、それが好きなんだよな……って。

──失礼ながら、それはご自身があえて獣道に分け入っているからではないかと……。

 え? そんなこと! ……あるか、な……(笑)。

──あります! なんで、そんな険しい道に行っちゃうの? みたいな感じが。その「安西慎太郎」という有り様も含めて、応援している方が多いとも感じます。たとえば、安西慎太郎一人舞台『カプティウス』(2020年 最善席レビューはこちら)では、1時間半の一人舞台で3万字もの台詞を吐き、とんでもない空間を作り上げました。

 えっ、『カプティウス』(最善席インタビューはこちら)、あれでも台詞量を削ったんですよ! 最初は4万字超えてましたから。でも、1時間半に収めたくて、ああなりました。

──ちなみに一人芝居で1時間半、3万字の台詞なんてとんでもない! と舞台関係者が驚いていました。ちなみに、るひまさんの年末明治座公演で3万5千字くらいだそうです。

 あー……あの、本当はよくないんだろうけど、僕、いつも思うのは、できるか、できないか、じゃないんですよね。もちろん、できたほうがいいんですけれど、どうしても、やるか、やらないか、で、やりたい! と思っちゃうんですよね……。

──そこが「安西慎太郎」たらしめている、というか。やるしかない、でも辞めるかもしれない、と想いながら続いていることがすごいです。

 いやー、本当に改めて、続ける、ということの難しさを感じましたね。当たり前じゃないから。僕の場合は病気でしたけど、まず生きていく、があって、その上でなにかを続けていく、ということのすごさ、みたいなことも感じました。だからこそ、先にも言いましたが、10年目の今年、舞台『象』という場を与えてもらったことに対して応えたいんです。

──ここまでお話を伺って、改めて10年を数えての今後の展望……というか目標は? といった質問は野暮だなあ、と思いました。

 あー……展望……目標……ねえ……。まずはこれ、終わってみて、からじゃないですか。今は目の前のこれで目いっぱいで、他のことは考えられないので。ただ、終わったら、なにか見えるのかもしれません。

──ありがとうございます。最後に舞台『象』について、お願いします。

 共演者のみんながちがいすぎて! 個性的すぎて! おもしろいです! 人間ってこんなにもちがうんだ……って毎日、実感してます。だから、物語も大切なんだけど、今回の舞台はすごく個性的な役者さんたちが紡ぐ、言葉、というか、言葉を飛ばし合うだけでなく、そこに在る間とか空気も楽しむ舞台だと思います。それぞれの個性が役に反映されていて、このサーカス団ノアに集まっていて、社会のルール、ノアのルールがあって、みんなが生きていて…………うん、まとめられません! まとめられない。そんな舞台です。
 その上で松山のことだけ言うと、松山に共感できる人って、そんなに多くはないと思うんです……ただ僕個人の感想としては、このお話って現代社会とすごく重なる部分が多いと思っていて。世の中って目に見えるルールと目に見えないけど暗黙のルールみたいなものがあるじゃないですか。それはたぶんどこにでもあって、僕自身にもあるし松山にもあるんですよね。それが自分をがんじがらめにして動けなくしている。でも、それが最後に向かって少しずつ少しずつ軽くなって……あの結末の後、松山がどうなるのか、はわからないんですが、すてきな結末にしたいな、って思ってます。ひとりでも多くの方に観ていただきたいです。

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2022年3月末 都内スタジオにて収録

安西慎太郎 あんざい・しんたろう
1993年12月16日 生まれ
公式サイト https://g-starpro.jp/p/Shintarou_Anzai
Twitter @anzaistaff

初演出となる小林且弥さんにコメントをいただきました。

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僕にとっての「エンタメ」が、これです。

──舞台『象』は、なかなかに重いお話です。もともと候補の脚本は5本あったとのことですが、なぜ、この題材を選ばれたのでしょう。

 一度、コロナで中止になって、再度、演ることになったときに、同じコロナ禍だけど当時と状況はちがうわけで、だから同じ演目をやるのはちがうな、と思いました。で……これは、今だから言語化できるんですが、コロナでいろんなことが可視化しちゃったんですよね。実は不寛容な人って多いし、他者に対してカテゴライズしたがる。でも、それって不安だからで安心のためなんだろうけど、すごく寂しいことだと思っていて。
 それらについて発信する力を持っている人もいるけど、そうじゃない人が大半で。SNSがこれだけ普及しているから発信しているつもりでいる人も多いけど、実はそれって自分をごまかしているだけなんじゃないかとも感じていて。だから、一度、そういったことを演劇という形で描けたらと思ったんです。物語のなかで答えは出さないけど、そこにいる人たちの立ち位置は変わらないけれど、でも見方が変わるとか、実はちょっとだけ目指す方へ進むことができたらいいな、そんな舞台を作りたいな、と。それで、この『象』という演目を選びました。
 サーカスに関しては、他でも話していますが、今って、絶対にない、とか、絶対にある、ということがない。ある日突如として、絶対的存在が崩れてしまう、という経験を僕らはたくさんしてきていて、サーカスもそこにあったのに、突然なくなる、とか、そういうのがいいなあ、と思っています。

──演劇は常に事件たれ、と思っていて。この演目も、そういったひとつ、のように感じています。サーカス団の方々がまるで社会の縮図のようで、それぞれの立場や気持ちもわかるけれど、わかりたくないというか……。

 あの……もっと、観ている人に共感してもらえて、共有できる演劇を作ったほうが、僕らもこんなに苦しまなくてもいいんですが(笑)。でも、そういったものは僕でなくとも、手がける人々がいるので。なによりも、僕にとってのエンタメがこういう作品なので、事件、という受け取り方をしてもらえたらいいなとも思うし、なにかを受け取ってもらえたらいいなと思います。

──サーカスがある日、突然消える、というお話から、お芝居もそういうものだな、と感じました。でも、だからこそ、こうして公演を打って、それを観ることができる、という日常が実はとても幸せなことだな、と感じています。

 そうですね。やりたいことをやる、ということも、ある日、突然、できなくなってしまうかもしれない世の中になってしまったので、作って届ける、ということは大切にしたいですね。
 
──演出をしていて、ご自身が演じたい、ということにはならないのでしょうか。

 ならないですね。やっぱり、今回出演する役者ならではの良さがあるし、そのために集まっているので。僕は基本的に、役者っていうものは他者に絶対になれない、という諦めから入るのがいい、と思っていて。だから僕は演出しているけれどキャストの誰にもなれないし、例えば、この位置からこの位置に移動するときに、どう動いてもらってもかまわなくて。役はあるし台詞はあるけれど、舞台上でそれぞれに生きていてくれたらいいな、と思っています。
 かつ、それがどう客席に伝わるのかなと考えたときに、他者の力を借りるとか、自分の力だけなのかは考えてほしくて、そこが雑だったり、足りないとか感じたときは調整する、という感じです。でも、本当はその調整すらも最初は言うのをためらっていたんです。僕はあまり言われたくないタイプですが、実は調整するだけでなく、もっと言ってほしい、というタイプの役者さんもいる、ということもだんだんとわかってきたので、もう少し言うようになりました。
 今回は演出ですが、役者をやっているときと感覚としてはあまり変わっていなくて。やりたいことをやり、必要なことを得ている、という感じです。そもそも、5年後、なにをやっているかはわからないですから、今は初日の幕を開けることを目指します。

 

小林且弥 こばやし・かつや
公式プロフィール https://enchante-de.com/profile/katsuya_kobayashi/
公式ツイッター @cobakatsu1210

今を映す舞台『象』。
その世界を描くため、小林且弥という演出家に、安西慎太郎という役者はどう応えるのか──その目で確かめてほしい。
舞台を観た者だけが「笑え」の意味を知るだろう。

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舞台『象』
【日程】 2022年 4 月 6 日(水)~4 月 17日(日)
【会場】 KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
【脚本】 齋藤孝
【演出】 小林且弥
【出演】 安西慎太郎、眞嶋秀斗、鎌滝恵利、伊藤裕一、伊藤修子、木ノ本嶺浩、大堀こういち
公式サイト https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00611

『演出家・小林且弥 舞台「象」ドキュメント』
 舞台「象」が出来るまでの小林且弥の初演出密着ドキュメンタリー、「る・ひまわり」公式YouTubeにて連日配信中!

・Chapter1「演出家としての実感」(企画スタート直後に)
・Chapter2「俳優と演出家」(明治座での情報解禁)
・Chapter3「「観客との接地点」(劇場下見、公演準備作業)
・Chapter4「演出のはじまり」(稽古開始)
・Chapter5「舵取り」(稽古中)
・Chapter6「(タイトル未定)」(開幕直前)

 

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