声優にして、イラストレーター「川上千尋」を創るモノ。誕生日&事務所移籍、記念ロングインタビュー。

saizenseki20230127

 川上千尋──声優として役を演じナレーションを勤め、朗読ラジオドラマやフリートークも披露。さらに、イラストレーターでもあり(本サイトに寄稿も)、自ら企画した朗読劇のプロデュースも手がけ、一緒に暮らす10羽のインコのグッズ制作とその活動は多岐に渡る。
 そんな自身の誕生日である本日、これまでとこれから、そして「今」を伺った。

川上宣材saizenseki20230117

saizenseki20230127okazaki

写真・イラスト/川上千尋
取材・文/おーちようこ

「川上千尋」を
カタチヅクルモノ

──初めてお会いしたのは、2014年12月に上演された、紅玉いづきさんの小説『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』朗読劇でした。朗読劇と言いつつも、生演奏が流れ、愛らしい衣裳でくるくると踊り、心躍る空間がありました。

 声優としての仕事を始めたばかりのころに舞台の話をいただいて。でも、まだまだ未熟だし、台詞を言いながら動くなんて、とてもできない! と断っていたら「じゃあ、朗読劇は?」と誘ってもらって。それならやってみたいことがある! と勇気を出しました。舞台美術に興味があって、プロジェクション・マッピングを使って壁に自分のイラストを投影するとか、空間を創ることをやってみたくて。
 そこで「演目はなにがいい?」と聞かれたので、『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』を挙げました。普段、書店で中身を見ずに気になった本を手に取ることが多いんですが、この本は、まず装幀に一目惚れして、数ページ読んで「好き!」ってなって、読むほどに世界に溺れてしまって……いつか朗読してみたい、って思っていたんです。そこで版元にご連絡したら、すぐにご許可をくださって。さらに紅玉さんが初日から何度も観劇してくださって、いろいろな方を誘ってくださって……びっくりしたし、演じられたことがうれしかったし、本当に幸せな公演でした。

──そのときにお誘いいただいた、ひとりです。

 観てくださって、ありがとうございます。紅玉さんとはそれが縁で、いろいろとご一緒させていただいていて。2021年2月には紅玉さんの小説『星の階段』(BOOTHにて音源発売中)を朗読させていただきました。実はこれ、紅玉さんが手がけられている合同小説誌「少女文学」2号収録の短編で。
 本を送っていただいて読むなり魅せられてしまって! 勢い余って、ずっと一緒に活動している「月猫とリュート」さんの曲を付けさせてもらい、スタジオで一発撮りした朗読音源を送りつけてしまいました(笑)……それを聴いた紅玉さんが、もっと多くの方に届けたいと言ってくださって。改めて収録しなおして期間限定で無料公開させていただきました。当時は、こんなに長くお付き合いさせていただけるとは思ってもいなくて、本当に縁ってあるんだなあ、と実感しています。

──2018年1月、『川上千尋単独朗読劇 星綵project』を上演します。 
 animateTimes配信中の『川上千尋StoryJukeBox』と番組連動企画『進化する美少女コンテンツ雑誌E☆2(えつ)』連載『星座少女』から誕生し、自身が手掛ける声とイラストとふたつのコンテンツを融合。イラスト✕朗読✕歌唱で織りなす世界が届けられました。

 これはもう、手作り感満載の公演で、できることを全部、盛り込みました。ただ、2回上演したところで続けるのが難しい状況になってしまって。いろいろな方法を模索しましたが、無理をして納得がいかない形で続けるよりも「ここまで、できたんだ」ということを誇ろう、と、なりました。本当につたなかったと思うけれど、今も「あの空間、良かったよね」と言ってくださる方がいて。とても幸せな経験だったし、自分にとって大きな糧となりました。

──いろいろな活動をされていますが、その根底となる「声優」を目指したのはなぜでしょう。

 他でも話しているんですが、親友に全力で勧められたからです。高校が私立の女子校で、中学からの知り合いが誰もいなくて。自己紹介の時間もずっと緊張していて、自分が話すことにめいっぱいで誰の挨拶も聞いてなかったんです。でも終わった途端にいきなり「声優になったほうがいいよ!」って、駆け寄ってくれた子がいて。「は?」って(笑)。
 彼女とは今も親友ですが、アニメが好きで声優さんにも詳しくて。なぜか「絶対に目指したほうがいい」と言ってくれたんです。私は、ただ自己紹介をしただけだったんですが、それで人生が一変しました。

──出会いです!

 はい。でも、私はアニメを観てはいましたが「声優」という概念がなくて。中学時代、アニメ映画のパンフレットに載っていた声優さんの写真を見せられてたことがあったんですが、その方が声で演じている、ということまで思いが至らず……ものすごく失礼なことに「この人、誰?」って。だから、彼女が教えてくれるいろいろなことにびっくりしてしまって。声優という職業があって、少年から大人、老人、ときには人ならざるモノまでを声で演じ分けられるとか、知らない世界が現れて。
 もともと絵はずっと描いていたので、なにかしら表現する仕事に就きたいな、という思いはあったので、このときは声優を目指すというより、仕事の選択肢が増えた、という感覚だったんです。でも進路を考えるうちに声優学校の存在を知り、朗読をしている同年代の方々と知り合う機会もあって、声で表現するっておもしろいな、って思うようになりました。

──そうして実現するからすごいです。声優としてデビューされて、思い出深い役はありますか?

 いろいろな役を演らせていただいていますが、たくさんの出会いへと導いてくれたのはアニメ『アイカツ!』の「天羽まどか」です。オーディションを受けたんですが、実は他の役もあったんです。でも、なぜか、ぱっと見た瞬間から、まどかしか目に入らなくて。それまではどちらかというと快活でボーイッシュな役が多かったんですが、まどかのふわふわなピンクの髪が可愛いなあ、演りたいなあ、と強く思ってしまって。
 だから事務所に呼ばれて、決まったと聞いたときは本当にうれしくて……喜びだけでなく、これまでがんばってきたことやつらかったことが一気によみがえって感情が爆発しちゃって、歩きながら涙が止まりませんでした。

──すてきです。実際に演じられて、いかがでしたか?

 収録はもちろんですが、すべてがとても楽しかったんです! アフレコ現場って収録終わりで即解散、ということが多いんですが、『アイカツ!』は食事会に行く機会が多く。キャストだけでなくスタッフの方々も丸ごと仲が良かったんです。なので、実はこの作品の最中にフリーになったのでアニメのスタジオ見学もさせてもらっちゃいました。

──なんと!?

 きっと事務所に所属していたら難しかったと思うんですが、今しかできないことをやろう! と決めて。ずっと絵も描いていたので、一度、作画の現場を見せていただけないかと相談したら、快諾していただいて。本当にお邪魔にならないよう、少しだけですが、そこで発見がたくさんあったんです。

──たとえば、それは?

 アフレコのときに見ていた線画の疑問とかです。色分けしてある部分があって、これはなにを意味しているのかな? とか、収録のときに、なんだろう? と思っていたことをいろいろと教えていただきました。
 これは私の場合ですが、アフレコの映像は線画のほうが好きなんです。まだ完成前だから自分なりに、たとえばもっと強く、とか演じたら少しは作品に反映されるかな? なんて思っていたので、アニメがどう作られているのか知りたかったんですね。知ることでさらに演技を深めることができるかな、とか。さらに色設計や彩色についても教えていただいて、すごく刺激をいただきました。

saizenseki20230127 2023nenga

思いを行動に
そして形へ

──軽やかに思い付いたことを行動に移し、活動へとつなげています。そのなかにはインコとの生活も。
 現在、空(そら)藍(あい)若(わか)翠(すい)鶸(ひわ) 天(てん)苗(なえ)露(つゆ)蒼(そう)竹(たけ)織(おり)の、実に10羽! と暮らしています。

 実はキッカケがあって。ある日、迷子インコが家にやってきて、祖母の頭に止まったんです! 家族でびっくりしちゃったんですが、その仔があまりにも可愛くてしばらく家で面倒を見ていたんですが、また旅立っちゃったんです。
 それで「インコ、可愛かったよねー」ってなって調べたら、手乗りにするにはヒナから育てると知って、譲ってくれるところに行ったんです。そうしたら、なんだかものすごく奥ゆかしく、でも健気にアピールする仔がいて「この仔しかいない!」ってお迎えしたのが、最初の空です。そこから一羽じゃさみしいよね、って増えていきました。

──そのインコ家族のカレンダーを作っています。

 これも、最初はささいなことがキッカケで。母が「空たちの写真がほしいね」と言うので「じゃあ、撮ろうか?」から「せっかく撮ったから、なにか作ろうかな」となって。考えたときに「カレンダーなら毎日、見てもらえるし、喜んでもらえるかな?」となりました。

──ひとつのことから、新たなことを次々と生まれていくことがすてきです。こうしたら、うれしいんじゃないか、喜んでもらえるんじゃないか、と広がるというか。

 あー……そう言っていただけるとうれしいです。インコのカレンダーも「作ったよー」とSNSでつぶやいたら、ほしいという方がいて、じゃあ、頒布しようと広がっていったので。だから、常にこれをやったら私も、みんなも楽しいんじゃないかな、ということは考えています。

──その視点はいつからでしょう?

 いつでしょう……なんだろう。やっぱり、最初の朗読劇から、かもしれません。今、できることはなんだろう、と考えて手を動かして、形にしていく楽しさを知ったというか。もちろん実現できないこともたくさんありますが、できたときの達成感や楽しんでもらえたという実感が力になっているのかもしれません。

──以前、ご自身が描いた線画のイラストを公開して、色を塗ってもらう、ということもされていました。

 コロナ禍で塗り絵がすごく流行っている、と聞いたので、私もなにかできないかな、と思ったんです。ちょうど、まどかの線画があったので、小さい子にも喜んでもらえるかな、とTwitterにアップしました……あー、そうか、そういうことを考えることがもともと好きなんですね。きっと。

──既存の枠にとらわれず、思いついたことをなめらかに行動に移す、という印象があります。なので、昨年9月に公式サイト公開で「川上千尋」が可視化されたように感じました。活動のすべてがつまっていて「創る人だ」とわかった、というか。

 だとしたら、うれしいです……! もともとイラストの連載のためのサイトでしたが、連載終了後に管理を引き継ぎました。友人がそういった仕事をしているので予算と希望を伝えて、今の形にしてくれました。SNSの発信は流れていってしまうから、ずっと活動をまとめたいと思っていたので、いい機会でした。この空間で「川上千尋」を知ってもらえたらという思いもあったし、コロナ禍で時間もあったのでこれまで創ったものとじっくり向き合えた楽しい時間でもありました。

saizenseki20230117inko

──そして、2023年1月、新たな事務所に移られました。

 Twitterでのお知らせにも書きましたが「ご縁に感謝と共に今まで以上に信頼のできる方々との再スタート」とある通り、本当に今まで積み重ねてきたことが大きな縁を結んでくれました。

──どんなご縁だったのでしょう?

 新たに所属することになった事務所は、先にお話したアニメ『アイカツ!』に関わっておられた方々が作られたんです。なので、私の活動もずっと知っていてくださっていて。番組終了後も集まる機会が多くて、ときには相談に乗っていただくこともあって。ただ、本当に巡り合わせでした。
昨年末に前の事務所でずっと面倒を見てくださっていた方が退職されることになって。私自身も進むべき道を考えていたときに、今の事務所の取締役の方とお会いする機会があって、「なら、うちにくる?」と言っていただいたんです……まさか誘っていただけるとも思っていなかったので、びっくりして。でも、即答でした。

──まさにご縁です。

 はい。気心も知れている方々ですし、私の性格も知っていてくださるので(笑)。なんというか……事務所に所属、という形ではありますが、どちらかというと仲間に迎えてもらったというか同志を得た、という思いでいます。
 これからはオーディションを受けさせていただくだけでなく、私自身が今後、どんな仕事をしていきたいか? を受け止めてくれて、一緒に進んでいけるというか。なので、今年はより、皆さんにいろいろな「川上千尋」を届けることができたらと。いえ、お届けします。待っていてください。

川上千尋 @chihiroKWKM / 公式サイト

saizenseki20230127kurumazaki

PAGE TOP