「デスノート THE MUSICAL」があぶり出す、人の愚かさと愛おしさ──村井良大の静かなる狂気がそこに
2020.2.1
現在、「デスノート THE MUSICAL」が東京・東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)上演中だ。2015年に初演、2017年に再演された「デスノート THE MUSICAL」は大場つぐみと小畑健によるマンガ「DEATH NOTE」のミュージカル作品で、音楽をフランク・ワイルドホーンが、演出を栗山民也が手がけていることで話題を呼んだ。今回の2020年版では引き続き栗山民也が演出を務め、キャストを一新。ここに「新生デスノート」が誕生した。
今作は夜神月を村井良大・甲斐翔真がWキャストを務めているが、観劇したのは村井良大版。
物語冒頭、法の裁きと人の善悪について疑問を唱える月は、少し正義感の強い、けれど、どこにでもいる高校生だ。しかし、死神リュークの気まぐれからデスノートを拾うことで、人生が狂う──いや、拾うだけでなく、「使ってしまえた」ことで、その一歩を踏み出す。耳に残る、印象的な楽曲はもとより、連なる歌詞が声となり、強い感情となり押し寄せる。果たしてそれは、「救世主キラ」として、どんな想いを秘めているのか……燃え上がる青臭い正義感なのか、偶然にも手にした万能感に酔いしれているのかは……まだ、わからない。
原作通りに物語は進むが、生身の人間が演じている、そのことがより熱を持ち、観る者の心を揺らす。ことに今井清隆演じる、月の父であり警察庁刑事局局長にして日本捜査本部長の夜神総一郎と刑事たちの歌声が客席に突き刺さる。己の命や愛する者の存在、職務への誇りと責任との狭間で葛藤し、進む道を選択する、その歌声が、姿が、圧巻だ。一方で、少しずつ変わりゆく兄を変わらずに慕う、西田ひらり演じる夜神粧裕月が愛らしい。柳咲良演じる弥海砂の「救世主キラ」に向けて放つ真っ直ぐな歌声は可憐にけれど、切実な想いを伝える。
飄々とした髙橋颯演じるエルとの切れ味鋭い頭脳戦や「正義」の定義を問うだけでなく、こうした家族の絆や、誰か思うはがゆさ切なさといった人間ドラマが描かれているのも本作の魅力であり、幅広い層が楽しめる理由だろう。
また人間たちにデスノートを渡してしまう死神たちもおもしろい。死神でありながら弥海砂の真摯な愛情に心傾けてしまうパク・ヘナ演じるレムと、月の行動をにやにやと揶揄しながらも見ているだけの横田栄司が演じるリュークは実に対照的。それぞれに己のデスノートを持つ相手と関わることで、個体差が浮き彫りになっていく。
それはこのミュージカルならではのラストでも象徴的に描(えが)かれる。原作と異なり本作だけの結末だが、その場面での夜神月がとてつもなく愚かであさましく、哀しく凄まじい。果たして、どんな声で、姿で、辿り着くのか……を、その眼で確かめてほしい。そして、リュークの酷薄な、あるいは「無」の笑みも。しん、と劇場に静寂が広がった瞬間、ああ、この結末に向けて、村井良大は「夜神月」を創っていったのだ、と思いが至り震えた。そうか、とっくに彼は壊れていたんだ。
終演後、それぞれに感想が飛び交うなか、「なんか、歌っちゃうよね」という会話とともに楽曲「キラ」のワンフレーズ「キ〜ラ、キ〜ラ」と口ずさむ観客がいた。決して軽やかな物語ではないが、終演後、楽曲を思わず口ずさんでしまう、ということは、ミュージカルとしてとてもすてきだな、と思いながら劇場を後にした。
文/おーちようこ
本作は2月9日までの東京公演ののち、3月8日まで静岡、大阪、福岡でも上演される。
「デスノート THE MUSICAL」
公式サイトリンク https://horipro-stage.jp/stage/deathnote2020/
2020年1月20日(月)~2月9日(日)
東京都 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
2020年2月22日(土)・23日(日)
静岡県 静岡市清水文化会館(マリナート)
2020年2月29日(土)・3月1日(日)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
2020年3月6日(金)~8日(日)
福岡県 博多座
脚本:アイヴァン・メンチェル
作詞:ジャック・マーフィー
翻訳:徐賀世子
訳詞:高橋亜子
演出:栗山民也
音楽:フランク・ワイルドホーン
出演:村井良大、甲斐翔真、髙橋颯 / 吉柳咲良、西田ひらり / パク・ヘナ、横田栄司、今井清隆 / 川口竜也、小原悠輝、金子大介、鎌田誠樹、上條駿、長尾哲平、廣瀬真平、藤田宏樹、本多釈人、松谷嵐、渡辺崇人、石丸椎菜、大内唯、コリ伽路、華花、濱平奈津美、妃白ゆあ、町屋美咲、湊陽奈、森莉那
※高橋颯の「高」ははしご高、濱平奈津美の「濱」は異体字が正式表記。
(c)大場つぐみ・小畑健 / 集英社