舞台『K』第一章レビュー。二次元の質量

『K』舞台化、という報が駆け巡った時、「お、いいじゃない」と思いました。「抜刀!」と言いながら生身の役者さんが剣を抜く姿を思い描き、うんうん、舞台映えしそう、とひとりで頷いてみたりして。
 都合があえば行けたらいいな……と思いを巡らせて、同時に発表された「演出:末満健一」の文字に、椅子から転げ落ちそうになりました。
 末満さんの名前を知ったのは2013年『TRUMP』という舞台でしたが、その世界観と演出のかみ合い方に驚いて、DVDもいくつか見て、特に「呪いの姫子ちゃん」が好きで……。主催をされている劇団ピースピット (PEACEPIT) が休止となり、次は一体何をするのかなぁと思っていた矢先のことでした。耽美で、大げさで、そして切実な演出をする方だ、という印象です。そしてその演出と世界観は、ぴったりKのそれと合うのではないかと思って興奮しました。演出家さんで舞台を選ぶことはあまりしたことがなかったのですが、これはなんとしても行かねばと思い、チケットを取ろうとして。
 苦労しました……。
 きっと今後続編があった時のために、もう一度声を大にして言いたい、チケット取り、困難を極めました!!!
 絶大な人気のコンテンツに、有名な演出さん、そして超人気の役者さん(社役は当時仮面ライダー鎧武でも人気だった松田凌さん、狗朗役はテニミュ、忍ミュと漫画原作舞台に立て続けに出演、とっても輝いていた荒牧慶彦さん、他にも鈴木拡樹さんや植田圭輔さんなど、とにかく人気も実力もある方ばかり)……とくれば、激戦は必須だったと思うのですが、間違いなく私的に2014年ナンバーワンにチケット取りが厳しかった舞台です。最後の最後まで頑張ってなんとか、友達みんなで見ることが出来ました。
 特に初日、元々『K』が好きで、今回こういった舞台を初めて見る、という友人と一緒に見られて嬉しかったです。
 私は演出家の末満さんが好きでしたので、何の心配もなく、ただただ楽しみに観に行ったのですが、幕が開いたらびっくりするほど、原作への愛情に溢れた舞台でした。映像演出がほとんどなかったことは驚きでしたが、冒頭のキャストパレードがはじまった瞬間、このために来た! と思ったし、はためく大きな旗が炎に見えて、ああ、末満さん演出だ、と震えました。
 何より、縦横無尽に客席を駆け回るキャラクターの風と震動を感じた時、二次元の『質量』に触れた気がしたのです。
 決して安くはないお金を払い、記憶にしか残らない舞台を見るということ。そこには必ず、言葉にならない「情感」があるものですが、二次元が三次元に飛び出してきた時に、感動で震えました。平面でしかなかったものが、肉を持ち、息をして、鼓動を響かせる。それが、ただの、受取り手の妄想ではないということは、本当に、奇跡に近いことだと思います。
 キャラクターのひとりひとりが、愛らしさと恰好よさを兼ね備えたまま、眼前に踊り出てきた瞬間、私は隣に座る友達の手を握って、しっかりしなければ、ぼんやりなんて出来ない、目に焼き付けなければ、心に刻みつけなければ、と震えていました。
 もちろん、忠実であったがゆえに、そしてストイックに特殊な効果に寄らない演出であったがゆえに、三次元に表現するには難しい部分もあったのかもしれません。でも、その難しさも、観客の愛情が支えているような気がしました。人気があるということは、愛情が宿るということ。そういうコンテンツは、やっぱり強いです。その世界を再現しようとする人も、そして受け取ろうとした人も。真摯であるからこそ成功するのだ、と久々に一から作られた原作舞台を見ながら感激しました。
 大音声で流れる主題歌が世界を繋いで。
 向こうがこちらに来たのか、それともこちらが向こうに行けたのか……そういう、次元の壁を、跳躍する力を感じました。
 惜しむらくは……いいえ、この場合は、「幸福なことに」、この舞台は終わっていません。最初に見た誰もが「そんな!」と叫びたくなったことでしょう。あれほど原作を忠実になぞった物語は、盛り上がるだけ盛り上げて、忠実に、続きを次の章へ、託したのです。
 彼らの、物語の続きを、絶対に見たいし、きっと見るのだろうと、確信しています。続く続編への願いをこめて、「Kステ、面白かったよ」と私は言い続けようと思います。そして、GoRAの皆さんと会うたびに、「楽しみにしてるんですからね!」と囁くことにしています。本当に本当に、発表がされない作品に対しては、祈ることしか出来ませんが、その日がくるまで祈らせて欲しい、と思います。
 初日の帰り道、初めて舞台を見た友人と、「アニメ、またまとめて見たくなっちゃったね」と言いながら帰りました。
 舞台には、いろんな入り口があると思うけれど。これもまた、幸福な入り口だろうと思うのです。

公演名・舞台『K』
公演日・2014年8月6日(水)〜10日(日)
会場・六本木ブルーシアター

(『舞台男子と観劇女子』1号所収)

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