『TRUMP』ゲネプロレビュー/紅玉いづき おーちようこ
孤独を孤高に変えて。
紅玉いづき
暗闇の廃城に、ひとりの老人が現れる。
2015年11月19日、Zeppブルーシアター六本木にて開幕した『TRUMP』東京公演は、そうして始まった。
『TRUMP』という演目が初めて上演されたのは2009年、大阪の小劇場でのこと。そこから再演を重ね、2013年にはワタナベエンターテイメントの男性俳優集団D-BOYSの弟的な存在、D2総出演により、Dステ12thとして好評を博した。
私が『TRUMP』と出会ったのも2013年。誘われるままに行き、わけもわからぬまま呑み込まれ、驚きとともに唖然としながら大阪まで通った。演劇をほとんど知らない私には、ずいぶんな劇薬だった。
舞台は、繭期と呼ばれる、人間でいう思春期を迎えた年若い吸血種(ヴァンプ)達が収容、教育されるギムナジウム(クラン)。そこで暮らす、人間と吸血種の混血(ダンピール)ソフィーと、ヴァンプ界の名家に生まれたエリートであるウルの交流、因縁と、血の宿業について描かれる。
タイトルともなっている『TRUMP』とは永遠に生き続けているとされる原初の吸血種『TRUE OF VAMP』のこと。もはや不死の力を失っている吸血種達が焦がれる、永遠の命。果たしてそれは、いかような存在であるのか。
物語は数千年の時を巡る。2013年にDステ版が上演された後、ハロプロの演劇女子部によりミュージカル『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』が、そして大阪の劇団Patchにより、『SPECTER』が上演された。これらはすべての脚本、演出を手がける末満健一のライフワークとして、『TRUMP』の系譜を汲む物語だが、知らなければ『TRUMP』を理解が出来ない、というわけではない。
今はまず、この『TRUMP』シリーズ始まりの物語を受け止めて欲しい。そしてそれに連なる物語を知ったならば、より深い没頭を得られることだろう。あの言葉も、この行為も。すべて、連なる物語があって生まれてきたものだったのだと。
進化、よりも深化。
最新『TRUMP』を目にして、何より感じたのがこの発展だった。それは、この作品の特徴的な入れ代わりシステムにも由来する。『TRUMP』は、物語の中で相対する2つのキャラクターを、2人の俳優が交互に演じる。「TRUTH」バージョンと「REVERSE」バージョンでは、ストーリーに違いはないが、キャラクターの解釈も印象も全く変わる。それにより、もたらされるのは広がりではなく深みだった。
かつて上演された脚本と、本筋が変わるような大きな違いはない。けれど上演中、「こう来るのか!」と何度も思った。特に2013年のDステ版でクラウス/アレンを演じた陣内将の演技の深まりは、見ている者が目眩を起こしそうなほどだった。同じ19歳で主演のソフィー/ウルを交互に演じる高杉真宙、早乙女友貴のヒリヒリとした真っ直ぐな演技を支える、実力ある俳優陣の演技も素晴らしい。
物語は、終わらないし変わらない。
何度再演を重ねても。「TRUTH」と「REVERSE」を繰り返し、間に配役がシャッフルされる「MARBLE」を挟んでも。けれど、今回の新生『TRUMP』を見て、あくまで個人的な感想だけれど、2年前に見た『TRUMP』よりも、ラストのシーンに希望を感じた。その希望の正体を、今はずっと考えている。
連なる他作に触れ、この物語のその後の断片も知り、絶望はより深まっているというのに。
深すぎる闇は、いっそ美しい。
円環はつながり、孤独を孤高にも輝かせる。
それはまるであたかも、夜空に光る星のようだった。
『TRUMP』という永遠に寄せて、どれだけの夜を。
おーちようこ
ああ、おそろしい。
そう、思った。
震えた。あるいは、奮えた。
ラストシーンを観た瞬間に、とんでもなく心が打ちひしがれた。
一体、なにに自分が傷付いたのか、その瞬間はまったくわからなかった。
けれど、
時間が経つにつれ、徐々にじわじわと、その理由を理解した。
これは、憧れと嫉妬、だ。
永遠に追うモノと追われるモノの物語に心を妬かれ、その果てしないときに思いを馳せ。
彼は、どれだけの夜を思い焦がれてすごすのか。
彼は、どれだけの昼を追うために/逃げるために、過ごすのか。
考えるだけで目眩がする。
今回、ゲネプロで上演されたのはTRUTH版だが、無邪気さゆえに奔放で、刹那に生きるアレンを演じる、武田航平が見せる笑顔の罪深さ。そんな彼のお目付け役として翻弄されるティチャークラウスを演じる陳内将の深く昏い執着に心を鷲掴みにされた。ゆえに、その執着が引き起こす悲劇、いや羨ましくて幸福すぎる、途方も無い希望、同時に生まれた深い絶望に、思いを馳せる。
終演後の囲み取材にTRUTHとREVERSEで対になる役を演じる、高杉真宙、早乙女友貴、武田航平、陳内将、平田裕一郎、末満健一が登壇した。意気込みを語る彼らが物語の構造ゆえ、己の役柄の説明にとても繊細にことばを選ぶ中、脚本と演出、そして出演も果たしている末満が「自分と深く関わる役を互いに演じることで、より役が共鳴し際立ちます」と役を入れ替わることへの深度について語り「特に今回は高杉真宙、早乙女友貴といった19歳のふたりが一層ひりひりとした演技合戦を見せていて、その熱に全員が惹きこまれています」と続けた通り、それぞれが影響しあい、競い合い、美しい循環を生んでいる。
……その演劇の様式も含めて、まさしく円環の物語だと思うのだ。
新たに届けられる『TRUMP』は11月29日(日)まで東京はZeppブルーシアター六本木にて、大阪は12月4日(金)から6日(日)までサンケイホールプリーゼにて上演。
ゲネプロ撮影/おーちようこ
『TRUMP』公式サイト http://napposunited.com/trump/
東京公演:Zepp ブルーシアター六本木
2015年11月19日(木)~11月29日(日)
大阪公演:サンケイホールブリーゼ
2015年12月4日(金)~12月6日(日)
作・演出・出演:末満健一
出演:高杉真宙/早乙女友貴/平田裕一郎/山本匠馬/田村良太/大塚宣幸/久保田創/森下亮/植田順平/日南田顕久/傳川光留/吉田メタル(劇団☆新感線)/岡田達也(キャラメルボックス)/末満健一/武田航平/陳内将
*3バージョン上演