「声」という武器を封じ、心から「三神宗一郎」を表現しました──逆2.5次元カバー! 浪川大輔ロングインタビュー

浪川大輔さんが表現する、医師にして作家の津田彷徨さんの新刊『ゴミ箱診療科のミステリー・カルテ』の天才医師・三神宗一郎とは?
「逆2.5次元」カバー✕浪川大輔✕星海社FICTIONS、登場。今までイラスト中心だった星海社のカバービジュアルの新機軸がここに。
撮影レポと書籍を彩る三神医師の写真を一部最速公開⁉ さらにスペシャルインタビュー、著者の津田さんからもコメントも! 盛りだくさんで、ここにお届け。

取材・文/おーちようこ

 

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「謎は退院(エントラッセン)だ」

 

漆黒の空間に、一脚の椅子。
天からは一筋の照明。
そのなかには、す、っと立つ白衣の男──三神宗一郎、として在る浪川大輔という役者、ただひとり。
開始の声とともに、シャッター音が鳴る、その瞬間、空間ががらり、と変わった。

綴られたのは「安楽椅子探偵」……医局で起こる奇妙な事件を自身が現場に出向くことなく、届けられたカルテや助手の報告だけを手がかりに解き明かす。今回、そんな天才医師「三神宗一郎」像を浪川大輔さんが解釈し、表現した。

撮影中も「三神医師は笑いますか?」「それは悪い感じ? 無邪気な感じ?」と次々に問いかける。答えるのは、このプロジェクトを立ち上げた担当編集者にして星海社代表取締役社長・太田克史さん。過去にも歴史ある講談社ノベルスの舞城王太郎さんデビュー作『煙か土か食い物』の蛇皮カバーの実現や、西尾維新さんのデビュー作『クビキリサイクル』で同じくデビュー前の新人だったイラストレーター・竹を起用し、今やスタンダードとなった絵師による文芸作品の小説カバーの先駆けとなった存在だ。その編集者がこのたび、新たな小説カバー文化創生に挑む──。

息を詰め集中し、ときに笑いが起こる。張り詰めた、けれど和やかな空間だ。現役医師として勤務する、著者・津田彷徨さんが撮影風景の写真を受け取り、休憩中に電話で喜びの感想を伝え、浪川さんが破顔する一幕も……やがて「三神宗一郎が推理する姿」を思い浮かべ、ふいに自身の頭を人差し指でとん、と突き。その瞬間がカバーの表紙を飾ることに。

3次元の映像化ありきではなく、先に描かれた2次元のキャラクターを演じるのでもなく、生身の人間が世に出る小説の登場人物を世界で初めて表現し、作品世界へと誘(いざな)う「逆2.5次元」カバー誕生の瞬間だった。

 

「声」という武器を封じて
世界で初めて「三神宗一郎」を表現しました

 

──「逆2.5次元」カバー✕浪川大輔✕星海社FICTIONSという企画で、現役医師にして小説家の津田彷徨さんの新刊『ゴミ箱診療科のミステリー・カルテ』の主人公、天才医師・三神宗一郎を表現されました。


浪川:姿かたちを似せるという〈視覚〉だけでなく「内面から『三神宗一郎』という人を表現してほしい」という依頼から生まれた挑戦は僕にとってもおもしろいことで、ありがたい経験でした。
「浪川大輔」ではなくて、三神医師として在る、ということは、やり甲斐があったし、自分がやってきたことを出せる機会でありつつも、これまでにないところを太田さんが突いてきたなあ(笑)、と愉しんでもいます。


──これまでも雑誌のグラビアなど誌面を飾られていますが、今回は新刊のカバーとなり全国の書店に並びます。


浪川:それがすごいことだなあ、と思っていて。これまでは、まず原作があってキャラクターの絵があってそれらがアニメ化といった映像化されることで、初めて僕が登場して役を演じる、世界観に入り込み歩み寄る、そういう形で発信することが多かったので。
 でも今回はその逆で、まず僕が初めに演じることで、皆さんに「三神宗一郎」という存在を届ける企画で、今の自分と年齢設定的にも近い登場人物を、誰も見たことのない姿で映る……という試みです。これはきっと新しいジャンルの表現なので、言語化が難しいんですが……小説のカバーとして最初に届ける……ということに、すごくわくわくしています。


──「三神宗一郎」を世界で最初に演じていただくことになります。


浪川:光栄です。さらに「声」という僕にとっての武器を封印しての表現も珍しい機会で。ただ、心はずっと動かしていたので「表現」って実はすべてつながっているんだな……と感じることもできました。なので、この一冊がひとりでも多くの方の目に止まって、手にとっていただけたらと願っています。


──その「表現」に対して自ら「浪川大輔」を演出しています。


浪川:そうですね。事前に資料もいただき、小説も読ませていただきました。さらに「どこに重きを置いたらいいのか?」という問いかけに対し、太田さんから「浪川大輔が出ています」ではなく「作品世界を示してほしい、伝えてほしい」と言ってもらえて、それがとてもうれしくて、表現できました。


──そのなかで、意識した部分はありますか? 撮影を拝見していると指先のニュアンスに込めた繊細さ、といったものを感じました。


浪川:「声」に頼ることができないので、指先とか表情とか使えるものはすべて使おうと考えていました。撮られながら、「三神宗一郎」はどういう人だろう、推理しているときはどんな顔をしているんだろう、カルテを見るだけで気付けるくらい洞察力があるなら常に感覚を研ぎ澄ませているんだろうな、とか。だったら常に隅々まで神経が行き届いているのかな、とか。
 逆に一息ついたときにはどんな空気をまとうのかな? と、一瞬、一瞬を想像しながら創っていました。しかもセットの中にあるのは一脚の椅子だけで、頼るものが少なく難しかったし、でもだからこそ工夫できることを考えに考えました。それと、だいたい僕が白衣を着るときって、コントのときが多いので(笑)。こんなにすてきな白衣を着ることも珍しくて、すべてがいい経験になりました。


──実は着ていただいた白衣は実際に津田先生が診療時と同じものを用意し、ネームプレートやバッチも実際のものをお借りしました。また、小説でもリアルな医療現場を織り込んでいるとのことです。


浪川:その熱意がいいですよね! 徹底して本気であろうとするスタッフの方がそろっているなかでの仕事はとても気持ちのいいものです。


目に見えないからこそ
自身のまとう空気を自在に操りたい

 

──「表現はつながっている」と話されていますが、日頃から心がけていることはありますか?


浪川:大切にしているのは空気感です。僕が小学生当時、児童劇団に入ったときに、みんなに「演劇ってどんなことをするの?」と聞かれて、最初は演劇がどういうものなのかわかってもらえなかったんです。でも、実際に観てもらって、作品の世界に入り込んでもらうことで、演劇の良さが伝わり、楽しんでもらえた経験があって。それは今も変わりません。最近多い無観客配信の舞台でも、たとえ客席に誰もいなくて、自分が映っていなくても、常に役として在ることが大切で、それが観る人を作品世界に招くことで、共演者も演じやすい空間を生むことだと思うんです。なので、そういう空気を創りたいです。
 ただ立っているだけでオーラがある、ただ黙って振り向いた瞬間になにかを発している……と感じさせる力のある俳優さんをたくさん見てきました。僕もそういう存在を目指しています。振り向いただけなのに、すごくまとうものがあるような……あるいは「あっ」って一言、発すると、周りの人は「えっ、なに?」ってなりますよね。その、「あっ」って発する瞬間みたいな空気の連続を創り出せたらいいなとか、そういうことを考えています。

 
──まとう気配を自在に操りたい?


浪川:向こうから歩いてくるだけで、「あ、こいつ強そう」って伝わるとか、気配があふれるみたいなことができるようになれたらいいなと。
 それは目に見えないものだけれど目指していて、実は声の表現も一緒なんです。よく、若い子にも話すんですけど「声の気配って目に見えないよね。目に見えないものを表現するって難しい。でも、それを伝えられるようになりたいよね」って。


──すてきです。そんなふうに表現された、今回のカバーを待っている方々に一言、お願いします。


浪川:ミステリー小説ですが、普段、ミステリーにあまり馴染みがなくても謎解きは好き、という方も多いと思うので、どんな事件が起きて解決されていくのか、楽しんでほしいです。
 小説を書いた津田先生、それを届けようとする編集者さん、そして楽しみに待ってくださっている読者の方がいる。そこに関わらせていただくからには、本気で臨まなければと思いました。エンタメってなんでもそうですが、本気でなければ伝わらないものだと思っています。僕がこれまでつちかってきたすべてを込めました。手にとっていただけるとうれしいです。

浪川大輔さんプロフィール

1976年4月2日 東京都出身。1985年に「劇団こまどり」に所属。12歳で映画『E.T.』の主演・エリオット少年吹き替えに抜擢。声優、俳優として幅広く活動。
最近の出演作は「ルパン三世」シリーズ(石川五ェ門)、「体操ザムライ」(荒垣城太郎)、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」(ギルベルト・ブーゲンビリア)など多数。

 

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著者の津田彷徨さんからもコメントが到着!

 

作家として少しズルをしたと思っています……なぜなら多くを語らずとも、三神宗一郎を演じる浪川大輔さんの姿を見てもらえれば、この作品世界と人物像が伝わるのですから。実際、作品が仕上がった段階で確信したことは、この作品のラストピースは浪川さんだったということです。

コロナ時代の安楽椅子探偵として、そして変わり者の天才医師として、三神宗一郎という人物をどのように表現するか……その試行錯誤を行っていた中、浪川さんが三神を表現してくださった瞬間に、白黒二色であるはずのこの作品の文章は華やかな彩りを帯びました。

ですが同時に、その華やかさに負けぬよう、そしてその色彩に力強さを与えられるよう今回の作品を描いたつもりです。令和の、そしてコロナ時代の医療ミステリーを描いた『ゴミ箱診療科のミステリー・カルテ』、ぜひ楽しんでください。

 

津田彷徨さんプロフィール

1983年、兵庫県生まれ。総合内科専門医。内科医として勤務する傍ら執筆活動を開始し、2014年『やる気なし英雄譚』(MFブックス)でデビュー。ほか『ネット小説家になろうクロニクル』(星海社FICTIONS)、『転生太閤記』(カドカワBOOKS)などの著作がある。
著書 https://amzn.to/377riij

 

今回の撮影を手掛けたのは、本サイトで連載され、今年2月の刊行された若手俳優のインタビュー集『舞台俳優は語る』に参加した江藤はんなさん。本撮影のディレクションは『舞台俳優は語る』の著者であり企画・構成も手掛けた、おーちようこ。今回のプロジェクトで久々に組んだふたりからの一言コメントもここに。

 

■江藤はんなさん

 変わり者の三神医師がどのような人物なのか、何を考えているのかを紐解こうとする時、小説の中では描かれていない時間や場面に想像を巡らせる必要があり、それはとても難しい作業でした。
 けれどカメラの前で浪川さんが演じ始めると、三神医師の外見だけではなく内面もが一気に立体的になっていくのを感じ、感動を覚えました。さらにこの人物を掘り下げていくことができるのではないか……とシャッターを押し続ける私に、浪川さんは粘り強く応えてくださり、今回のカバーが完成しました。

 

■おーちようこ

 これまで写真集やムック、スタイルブックと企画に沿って方向性を決め、撮影の下準備、資料集め、写真選定に構成、告知のリリース文案作成といった、いろんなことに関わってきました。でも、やっぱりお話を伺ってまとめる、という創作が好きなので、まとめて「ライター」を名乗っているわけですが、今回はそうして続けてきた経験をまるっと詰め込んでの全力な機会でした。
 そして、そんな経験のなかでも最大の賛辞として、浪川大輔さんは正しく化け物でした……シャッター音が鳴った瞬間、一変した空気に今も心がふるえます。愉しい時間に感謝して。

 

カバー写真スタッフ

モデル:浪川大輔
ディレクション:おーちようこ
撮影:江藤 はんな ( SHERPA+ )
撮影アシスタント 日下部真紀・市谷明美(講談社写真部)
ヘアメイク:鈴木和花
カバーデザイン:Veia
スペシャルサンクス:藤石知子(ステイラック)、松下卓也(講談社)

 

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星海社FICTIONS『ゴミ箱診療科のミステリー・カルテ』
津田彷徨/1,180円(税別)

アニメイトでは「三神の名刺風カード」特典付き販売も決定!
販売ページ:https://bit.ly/3iSueRT

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