舞台俳優は語る 第6回 郷本直也の「今」

『舞台俳優は語る』2020年2月書籍化決定
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th_舞台俳優は語る注文書(写真部分)

 

あなたの「今」を教えてください──舞台人の「今」を記憶する連載『舞台俳優は語る』第6回は郷本直也さんの登場です。

 

 2003年、23歳でミュージカル『テニスの王子様』青学(せいがく)・海堂 薫を演じ、舞台『弱虫ペダル』シリーズで金城真護を、今年、39歳で舞台「幽☆遊☆白書」の桑原和真を演じきった。縦横無尽にアドリブをかまし、ときに豪腕で舞台の空気をかっさらう──ある意味、怪優。そんな郷本直也さんは果たしてどんな思いで「俳優」という仕事と出会い、今、向き合っているのだろうか。

 

最善席_郷本直也

最善席_郷本直也

「お金を払いたい」という思いに驚きました

 

──23歳でミュージカル『テニスの王子様』(1stシーズン、以下テニミュ)の2003年初演から青学(せいがく)の海堂 薫を演じ、39歳を迎えた今年、舞台「幽☆遊☆白書」で桑原和真を演じました。
郷本:2.5次元という作品に関わらせていただいてからとても不思議な感覚なんです。もともと僕は大阪の小劇場から演劇に関わって、チケットを自分たちで手売りすることが当たり前だったんです。でも、2.5次元の作品では「お金を払いたい」と言ってくださる方が多くて、そういった文化みたいなものがあると初めて知って驚きました。でも、きっとそういった方々がいてくれたからこそ「2.5次元」はここまで一緒に大きく育ったんだと思うんです。
 僕がテニミュに出演していた当時も同じ思いの方はきっとおられたんだろうけど、続いたからこそ言語化されたと感じていて。だから、改めてものすごく感謝しているし、これが当たり前ではない、ということも考えるようになりました。何回も観るとかグッズを買うといった方々がいてくださることはすごく幸せなことです。
──そう感じてくださることがうれしいです。以前、別の方の取材で、人気原作の舞台に出ているとちょっと勘違いしそうになってしまう瞬間がやっぱりあるようで。
郷本:ああー、それはそれですごくわかります。僕らの後にテニミュに入ったキャストとも話したことがありますが、右も左も分からない状態で始めていきなり人気が出てしんどかった部分もあっただろうし、勘違いせずに自分を保つことは大変だったと思います。もちろんそれは自分も然りで。今話していて振り返ると、僕もそんな瞬間があったかもしれないですし。
──そのなかで舞台に立ち続けている郷本さんはなぜ、この世界を目指したのでしょうか。
郷本:今度、アニメにもなりますが、1988年の映画『ぼくらの七日間戦争』実写映画版がきっかけです。宮沢りえさんのデビュー作で、アニメでも声優を務められると知って感慨深いです……映画を観たのが小学生のときで、出たい!と思ったのが最初です。
──それでどうしたのでしょう。
郷本:中学生になってから大阪の劇団ひまわりに入りました。新聞で広告を見つけて「ここに入りたい」と親に言ったら、オーディションを受けさせてくれて。それで受かって、決して安くはない授業料だったと思いますが、お袋が僕がずっと貯めていたお年玉とかを集めて……と言っても実際に使ったかどうかはわからないんですけど(笑)、支払ってくれました。
 確か(大阪ひまわりの)第二期生だったと思います。映画『ぼくらの七日間戦争2』が上映されて、次があると聞いて、オーディションを受けたかったんです。ただ、新作が立ち消えになってしまい、僕の夢は頓挫してしまうわけです。でも劇団の仲間がやっていたシェークスピア作品やオリジナル作品に出会って、すごくおもしろくて刺激的だったんです。
──ご両親はなんと?
郷本:お袋は未だに「あれはわたしのミスでした」と言ってます(笑)。
──いい話です! 東京で活動を始めたキッカケは?
郷本:前後しますが、15歳のときにすでに身長もあったので大阪のアメリカ村で東京のモデル事務所にスカウトされて……舞い上がっちゃったんです。それで、劇団に報告したら「新しい事務所を立ち上げるから所属しませんか」と引き止めていただいて。もともと地元を離れる気もなかったので残りました。
 だから東京で活動するキッカケは「ミュージカル『テニスの王子様』という作品があるから、オーデションを受けないか」と勧めてくれた……実は、今、お世話になっているマネージャーです。
──なんと……二人三脚です。
郷本:10年くらい離れていた時期もあるんですが、結局、そうなりましたね。ただ、当時「俺は大阪の演劇シーンがおもしろいんやー」とイキって反発していたんです。でも、強く言われてオーディションを受けることになった。
 今でも覚えていますが、夜行バスで早朝、東京に着いて漫画喫茶に入って、オーディションの時間まで『テニスの王子様』を全巻読みました。「海堂 薫という役を受ける」と聞いていたのでイメージして臨んだら、見事、勝ち取りました!
──おめでとうございます! ただ、とてつもなく未知の世界に飛び込むことになったかと。
:そうなんです。テニミュがいったいどんなものなのか、お客さんが喜んでくださるのか、そもそも劇場は埋まるのか、とかまったくわからないところで、とにかくがむしゃらにやっていました。
 ただ、いろんな出会いがありました。僕以外にはミュージカル俳優の阿部よしつぐがいて、歌手のKIMERUがいて、舞台経験者もテレビドラマ経験者もいて……ものすごくいろいろな個がぶつかりあって作っていましたね。だって正解がわからないから。ただ、なぜかKIMERUの一言は絶対に正解だ、みたいな空気があって(笑)。
──現在、テニミュ初代のキャストが多く出演しているミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』(以下、青春)そのままです!
郷本:あいつは昔から、そうなんですよ。アニメ『テニスの王子様』の主題歌を歌っていたこともあって「わたしが『テニスの王子様』を知っている! わたしの言うことは正しい!」って。なんか説得力があるんだよなあ(笑)。だから、KIMERUが居たことは大きかったですね。
──もしかして初演当時、毎回、最後にKIMERUさんが実際にマイクを持って歌っていたのは……。
郷本:そう、本人が主題歌を歌っていたからです! だから、あそこだけは不二周助というよりもKIMERU本人なんですよ(笑)。
──結果、初演は人気を博し再演が決まりました。演じることは楽しかったですか?
郷本:んー……楽しむと言うよりは、やっぱりがむしゃらなままでしたね。ただ、いちばん大きく意識が変わったのは、演技して初めてまともに出演料をいただいたということです。
 初日は空席があって、これ、どうなるんだろうな……と思っていたのが、日に日に埋まっていって、とうとう当日券も取れない状況になって……という一連を最初に全部経験しちゃったので、再演って聞いても状況だけが進んでいて実感は全然ついていかず……「お客さんがたくさん入ってくれて喜んでくれた、よかった!」みたいなことはわかっていたんですが、それがどういうことなのか、この先どうなっていくのかとか考えることもなくて。ただ、公演を終えた後、実際に出演料を受け取ったときに、ああ、これって仕事なんだ……と初めて思ったんですよね。
──気付きです。
郷本:ただ、それでも僕は「大阪の小劇場が本場の演劇なんやで!」と思っちゃっていて……すごい頑固だったんです。マネージャーが「あなた、なに言ってるの? なぜ大阪がいちばんなの? ほかにやることがたくさんあるでしょ。プロならまず標準語をしゃべりなさいよ!」とこんこんと諭(さと)してくれたんですが、全然、耳に入ってなくて。たぶん、ちょっと履き違えていたんです。
 それで、マネージャーが劇団ひまわりを離れる前に僕をあるワークショップに放り込んだんです。忘れもしません……とても厳しいことで知られている、演出家の和田憲明さんのところで。毎日、怒られて台詞を一言もしゃべらせてもらえなくて。僕が演劇だと思ってなんとなくやってきたことを全部、覆されて、三ヶ月ほどでしたが本当にしんどかった。ただ、振り返るとそこで得たものはすごく大きくて、ひとつの台詞でもすごく考えて言うものなんだと学んだし、最後に発表会があったんですが、衣装は持ち寄り、小道具は自分たちで作っていて、稽古終わりに作業しながら、あ、俺、やっぱり、こういうことが好きだな、モノ創りに関わっていきたいな、と実感して続けることを決めました。

最善席_郷本直也

最善席_郷本直也

最善席_郷本直也

転機となった、舞台『弱虫ペダル』

 

──舞台『弱虫ペダル』(以下、ペダステ)について伺います。2012年の舞台『弱虫ペダル』からインターハイ篇のThe First Result、The Second Order、途中の番外編、箱根学園篇〜野獣覚醒〜から、2015年のインターハイ篇 The WINNERのすべてで金城真護を演じました。原作のインターハイ3日間の最初から最後まで続けていただいたことには感謝しかありません。
郷本:7年前ですか……僕自身も金城として最初から最後まで走らせてもらえたことに感謝しています。西田シャトナーという、ある意味「偏った演劇の人」かもしれませんが、その子どもの心のままで純粋にやってきた演劇が形になったという実感があって、この演出家と出会って、創り上げる日々は本当に新鮮でした。きっと、あのキャストだったからできたことだと、今でも思っているんです。
 小野田坂道役の村井良大くんはじめ、これが初の大舞台だった鳴子章吉役の鳥越(裕貴)に、テニミュを経験したくらいの今泉俊輔役のもっくん(太田基裕)と巻島裕介役の(馬場)良馬、田所 迅役の大山(真志)がいて。そこにシャトナーさんが無茶苦茶なことを言ってくるんですね。毎日「は?」って思いながらも全員で考えて食らいついていって、でも、さらにいろんな追加が出て。稽古終わり近くでキャラクターソングのラブ☆ヒメ『恋のヒメヒメぺったんこ』(以下、ヒメヒメ)を踊ることになり……最終日二日前に振り付けが決まって。みんな足がパンパンになって疲労困憊だったけど、踊ると決まったからには「じゃあ、練習するか!」って終電の時間を確認して「ギリギリまで踊るぞ、エンドレスヒメヒメだ!」って全員が歯を食いしばっていた。
──そのヒメヒメですが、踊るときに金城が「ライブじゃないのよ!」と絶妙に客席にツッコミを入れる、お約束が楽しくて。
郷本:あれは完全にアドリブです。
──そこです! 舞台「幽☆遊☆白書」初日会見の質疑応答で誰からも質問が出なかったときに、真っ先に「はいっ。郷本直也と申しますが、質問です!」と元気よく挙手して場を沸かせました。さらに舞台「銀牙 -流れ星 銀-」〜絆編〜で私が観劇した日に、いきなりアカペラで歌いだし客席を巻き込んで手拍子が起こり、とんでもないな! と思いました。
郷本:あー、いろいろやってますねえ(笑)。そうか、思えばペダステの頃からかもしれません。ただ、ペダステの不思議なところは原作はあるけれど、ある意味、自由というか、シャトナーさんが暴走を止めないんですね。関西の方なのでむしろ笑いを取ったらオッケー、お客さんが納得したならいいんだ、と。でも、なんでやりだしたかというと……僕、このとき最年長だったんです。だからちょっと、そういうところを背負おうみたいなところがあって。
 そう思ったキッカケがあって。ペダステの5年前、2011年に出演した「ROCK MUSICAL BLEACH No Clouds in the Blue Heavens」でテニミュから一緒だった森山栄治や土屋佑壱、永山たかしがいて、彼らがすごく舞台を楽しんでいたんです。でも、俺はまだ頭が凝り固まっていたから楽しむとかできなくて。でも、みんなの姿を観てうらやましくて、どうしたらいいのかな……と、ずっと考えていたんです。さらに同じ年に宮野真守と髙木俊のユニットSMIKY☆SPIKYのコントライブ第一弾『それかおじゃん。』に呼んでもらって……これがまた、すごかったんですよ。「俺、そういうの、全然、ダメだけど大丈夫?」って聞いたら「むしろ、それがおもしろい」って言われて、さんざん遊ばれて(笑)。だから僕自身、ずっとどうしたら楽しめるのかを考えていたんです。
──それがペダステで芽吹いた……?
郷本:徐々にだとは思うんですが、シャトナーさんが稽古場で「なんか、ないんかー!」って聞くんですが、そこで自分が、ぽん、と引き出しのきっかけになれたらいいなとずっと心がけていて。
 で、初演のゲネプロ(公開稽古)のときですよ。ふと客席の記者に対して「今、この人たち、無料で俺らのがんばりを観てるんだよな」って思ったら、つい「あんたたち、タダで観に来てるんだから味方になりなさいよねー!」って言っちゃったんですよ。そしたら大爆笑で。あれっ、大丈夫なんだ、ってなって。まあ、後からシャトナーさんから「キャプテン、あれはちょっと……」と言われて反省はしたんですが、なんか、こう閃いたんですよね。
──郷本節誕生の瞬間です。
郷本:そうですね(笑)。そこからです。本番でも、ヒメヒメで毎回、客席がキャー!ってなるので、思わず「なんなのよ! これ、ライブじゃないからね」って返したら、それがものすごく受けていつしか定番になっていました。
 僕、アドリブをやってるときにどこまで本筋から外せるか内心ひやひやしながら、でも、それすらも楽しみながら、本当にギリギリのところで、ひょい、っと戻すのがすごく好きなんです。そこで「なにあれ? 」って思う方がおられたとしても別にいいや、と。これ、仲のいい御笠ノ忠次とよく話しているんですが「100人のうち5人に笑ってもらえたらうれしいよね」って。それはとても演劇的な考え方で、作品のクオリティとしては100人が笑ってくれたほうがいいかもしれないけど、たとえ5人しか笑わなくても、舞台上の役者が心から楽しんでることが伝わったときに、5人の笑いが広がって90人くらいになる瞬間があるんじゃないかな、って。「この人、わけわかんないけどすごく楽しんでるな」っていう姿を楽しんでもらえたらいいなと思うんです。ただ、それが技術か、と問われたらわからないんですけどね。
──技術、だと思います。あとセンスや度胸とか?
郷本:確かに! で、それを鳥越が覚えてしまい、さらに広げていったという……(笑)。変な話ですが、もし僕がペダステで残せたものがあったとしたら、唯一そういう空気の操り方みたいなものかもしれません。
 普段、後輩になにかを残そうとはあまり思っていないんですね。僕はぎりぎり、先輩に酒の席で一気飲みさせられるような文化の最後のほうで、個人的にはそういうノリは後輩には残したくないと思っていて。ただ、先輩の、後輩に「お前、一発、やったれ!」という気持ちもわからなくもなくて。だから、そういう心意気は持ちたいけれど、まだまだ勉強中の身だから教えるなんておこがましいと思うなかで、もしも、少しでも残せたものがあったなら、この「攻めた感じの腕白さ」かなと。特に2.5次元はみんなかっこいいから、こういう力を身に付けたら、すごい武器にできるかもしれない、と思うんです。
──その力が存分に発揮されているのが、青春かと。テニミュ初演で共演した方々がそれぞれに腕を磨いて、また集(つど)っています。
郷本:あー、僕らも「親戚の集まりだ」って言ってます(笑)。これ、言っていいのかわからないんですが、なんだったらお客さまのためにとかより、まず自分たちが心から楽しもうとしています。そこでまた若い俳優たちが俺たちの腕白さを観て、感じて、受け取ってくれたらうれしいし。
──それを観るのが楽しくて。毎回、感嘆するのはギャグとシリアスの温度差と役者の方々の緩急自在さです。
郷本:舞台上で違う役やいろんなことをやらせてもらえるのは役者冥利に付きますね。なにより演出の川尻恵太が作り出す空間が、ものすごく本人の作風にぴったりだし、演じていて心地いいんです。で、川尻と御笠ノと僕が同い年で気が合って、よく演劇の話をするのがおもしろくて。
──どこで出会ったのでしょう。
郷本:川尻とは青春が初めて。御笠ノは2012年に、川本成さんが主宰する時速246億のvol.A『no.721』の脚本、演出に入っていて知り合いました。男の子ってまず、年が一緒、というところで打ち解けるんですよね(笑)。で、そのときの御笠ノの演劇の作り方がおもしろくて。
 必ず稽古の最初に全員で車座になって「最近、どう?」ていう一言から始まるんです。そこで全員が近況を話すことで人となりや語り口調がわかっていって、そこから組み立てていくといった作り方で、また一緒にやりたいなと思いました。
──舞台「幽☆遊☆白書」は御笠ノさんが脚本と演出を手がけました。改めて、ご自身が演じた桑原がすばらしかったです。
郷本:ありがとうございます……! うれしいことに本当にたくさんの方からそう言っていただいて、今、この年で桑原役を演じることができて、心からよかったなと思います。
 蔵馬役の(鈴木)拡樹ともペダステ以来の共演でしたが、すごく思い出深いことがあって。拡樹ってあんまり「これをやりたい」とか言葉にしないんです。でも、この公演中に珍しく「直也さん、出演している舞台のシリーズもの、何本くらいありますか?」って聞かれて。出演作を数えながら「なんで?」って聞いたら「いや、あの……幽白、続けたいですよね……」って言い出して。「うわ、そんなふうに思ってくれてるの?」ってうれしくて、びっくりしちゃって。
──びっくりした……?
郷本:はい。「舞台『弱虫ペダル』みたいに続くかどうかわからないところから、最後までみんなで作り上げるの、好きなんですよね」って言って。大千秋楽の挨拶でも「続けたい」って言ってたから、ああ、本当にそう思ってるんだな、って。でも、実はそんな話をするのが初めてだったんです。
 僕は今、39歳で、拡樹は34歳かな。「直也さんは今、その歳でいろいろな作品に出ていることがすごいなと思うんです。僕、最近、自分が40歳、50歳になったときにどうしているのか……とか、いろいろと考えるんですよね」って言われて、思わず「拡樹、どうした!?」って。俺からしたらすごく活躍してるのに、そんなふうに将来についても考えるようになったんだ……ってことにも、そういう思いを明かしてくれたことにも、ぐっ、ときちゃって、俺、泣きそうになっちゃった。以前共演した仲間とこうして再会して将来のことを話せることがすごく、いいな、って。
──すてきなお話です。

最善席_郷本直也

最善席_郷本直也

最善席_郷本直也

ものすごく足りないと知っている
だからこそ『レ・ミゼラブル』を目指します

 

──改めてお伺いしますが、役者として、続けていくぞ、と覚悟を決めた瞬間はありますか?
郷本:むしろ年々、続けていくのは大変なんだな、と実感しています。若い頃はもっと簡単に「俺は役者を続ける」って言葉にしていました。でも、だんだんと自分の足りないものを知っていくにつれボディブローのように効いてきて。
 ただ、この1〜2年で変化があって。これまで自分がやってこなかった、言われていたけど実は耳に入っていなかったことと少しずつ向き合うことを始めたので、ようやく、これを乗り越えたら役者としてずっと食べていけるのかな、と、前向きに考えられるようになりました。
──キッカケはなんでしょう。
郷本:いろいろあるんですが、大きなことではこれまで応援してきてくださったファンの方の声に背中を押してもらいました。今、不定期ですが『郷本直也 唄わせていただきます。』というライブをやっていて。これ、僕のイメージではないかもしれないんですが、実はテニミュ当時からミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウスのオーディションを受けていたんです。
──なんと!
郷本:ただ、どうもしっくりこなくて。言われて受けている感覚で、レッスンも真面目に受けてないし落ちて当然で、しばらく離れていたんです。でも30代になって意識が変わっていくなかで、また新たな気持で受けてみようかな……と思って、改めて作品を見返したときに、ジャベールがものすごくかっこよかったんです。
 生き方というか、在り方に心動かされて演ってみたい……と思って、ものすごく久々にオーディションを受けたんです。でも結果、落ちました。恥ずかしながら最初はもっと安易に考えていたんですが歌だけでなく、すべての力量が全然足りていないことを思い知らされて、スタートラインにも立てていないと気付いたんです。だから、あえて言葉にして追い込もうと「レ・ミゼラブルのジャベールを目指す」と周りに宣言したんです。
──潔いです。
郷本:ただね……それでも、僕、動けなかったんですよ。本当に情けないことに怠け者で。でも、ものすごく久々にバースデーイベントみたいなのをやる機会があって。なんか、30歳過ぎてからファンイベントみたいなのが照れくさくて。それでも、久々にやってみようか、じゃあ、歌を歌おうか、ってなった。
 それを聴いたファンの方が歌だけのライブを観たいと言ってくださって……でも、それも腰が重くて……ただ、俺みたいなもんでもそういうの求められるなら、と思って『唄わせていただきます』をやったら楽しかったんですよ。だけど同時にまったく歌えていないことも実感して、ボイストレーニングを始めました。でも、情けないことにそれも行かなかったんですよね、俺。舞台の出演を言い訳にして怠けていたんです。
──それが変化したときがあった?
郷本:はい、今年の始めです。あれ? このままだとやばいぞ、とふいに思ったんですね。それで1月が丸々空いていたので、2月にライブを企画して、そこを目指して入れられるだけのレッスンを入れました。
 でも実際にライブで歌ってみたら、レッスンでできていたことが全然できなくて。度胸が足りないとか、身体を追い込んでいないとか、ものすごく自分でわかってしまった……だけど、そこからまた、3月にうたプリシリーズ『Pirates of the Frontier』、5月にTRUMPシリーズ『COCOON 月の翳り星ひとつ』、7月に舞台「銀牙 -流れ星 銀-」〜絆編〜、8月に舞台「幽☆遊☆白書」と出演が続いて中断してしまって。だから、今、ようやく再開したところです。ただね、中断しながらも続けてきたことで、言われていることがひとつひとつ、すとん、と腑に落ちるようになったんです。それは自分の身体の動きがどう喉に影響しているのかとか、すごく他愛のないことですが、本当にようやく理解できるようになって……なんか20年近くかかっちゃったけど、ここからだなあ、と実感できたんです。だから今日、ここで、ジャベールを目指します、と改めて言葉にします。

 

最善席_郷本直也

最善席_郷本直也

人は変わっていくものだから
この先を見守っていてほしいです

──たくさんの作品に出演されていますが、2016年のミュージカル『刀剣乱舞』 〜幕末天狼傳〜について伺います。
郷本:物語にすごく救われました。歴史上の人物である近藤勇役の僕、土方歳三役の高木トモユキ、沖田総司役の栩原楽人は常に刀剣男士を際立たせるためにどうしたらいいか話していたし、ずっと一緒に行動していて、今も付き合いが続いています。
 得たものも大きくて、目の前で刀剣男士の若い俳優たちが成長していく姿を観るのは勉強になりました。歴史上の人物として一歩引いた位置で華となる役者の在りようを目の辺りにできて、与えられた役に対しての立ち位置みたいなものを考えることもできました。
──舞台「銀牙 -流れ星 銀-」〜絆編〜でも通ずるものがあります。
郷本:あー、そうかもしれませんね。坂元健児さんと平川和宏さんという先輩がおられましたが、僕が演じたベンはポジション的にも「座組をまとめてほしい」といった話もあったので、そこは心がけました。
 犬なので四足で動き回って、体力的に苦労がありましたが振り付けの辻本知彦さん(「辻」は1点しんにょう)が米津玄師さんの振り付けも手がけている方で、コンテンポラリーダンスのような動きをつけてくださって。すごく感性を大切にしていて、四足で動くにしてもしんどいと思うことがちがうんだ、といったブロードウェイのメソッドみたいなものを織り込んでくださったことがすごくおもしろかったですね。
──すてきです。「2.5次元」というよりも「演劇」として数多のメソッドや文化が現場に流れ込み、新たなものが生まれていく奔流を目の当たりにしているように感じます。
郷本:そう思っていただけるとうれしいですね。これからも2.5次元を含む演劇は進化していくと思うので、期待して観続けてほしいです。
──続いて、今年のTRUMPシリーズ『COCOON 月の翳り星ひとつ』について伺います。
郷本:「月の翳り」編と「星ひとつ」編、通してグスタフという役でしたが、これまた「グスタフを演じてくれてありがとうございます」とか「まさにグスタフでした」という声をたくさんいただきうれしかったです。今回初めてTRUMPシリーズに参加した身としては月と星の両方があることでグスタフの成長を演じることができました。ただ、これって観る順番や情報量ですごく左右されるんじゃないかな、とも思い、ちょっと悩んだりもしました……けれど、最終的にはそれがオリジナルのおもしろさだと考えて、この二作に於けるグスタフ像を作りました。
 二作あったことで細貝圭くんが演じるドナテルロとの関係を築くことができたし、圭くんとミケランジェロ役の鬼頭真也さんとのやり取りは演じていておもしろかったです。
──今日はとても大切なお話をたくさん伺いました。最後に取材を終えて、一言、お願いします。
郷本:まさに「今」の自分が、経験してきたことを話せたことがうれしくて、光栄です。これが数ヶ月前だったらちょっと良いことを言おうとしていたと思うんです。でも、すごく前向きにいろいろなことと向き合っている今、話す機会をいただきました。なので今日はとても素直に話せたし、丸ごと記事にしていただけると思うので楽しんでください。
 どんなタイミングでも人は変わっていきます、ということに尽きるというか……本当にすごいタイミングでの取材です。だから、これで初めて知ってくれた方、そして今までも観てきてくれた方には、この30代最後から変わっていくであろう郷本直也を見ていてください。それで「あいつ、サボってるぞ」って思ったら、言ってやってください!

 

2019年10月初旬、都内にて収録

最善席_郷本直也

最善席_郷本直也


郷本直也 ごうもと・なおや

1980年4月25日、大阪府生まれ。取材時39歳。

大阪で活動を開始。2003年、ミュージカル『テニスの王子様』青学(せいがく)・海堂 薫を演じる。以来、2.5次元から商業舞台に小劇場まで、ストレートプレイ、ミュージカルと幅広く活動を続けている。2020年3月には念願かなって『オペラ座の怪人』『キャッツ』を生み出したミュージカルの巨匠、アンドリュー・ロイド=ウェバーの傑作『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~』 日本初演に出演。

郷本直也 オフィシャルブログ『散歩道』 https://ameblo.jp/naoya-g-sanpo/
郷本直也Official Facebook https://www.facebook.com/gomoto.naoya/

所属事務所ナノスクエアtwitter @Nsquare_Prod

 

インタビューを終えて

 一度、ゆっくりとお話を伺いたい方でした。舞台での、褒め言葉としての暴れっぷりはもとより、出演作の囲み取材やゲネプロの場で常に場を盛り上げ、けれど出過ぎることなく主演を立てる姿に感嘆し、その豪腕と客観性、空気を支配する力に圧倒され、少しでも、その人となりに触れたくて、ご登場いただきました。
 取材当日、背、高い! 足、長い! 笑顔がチャーミング! とスタッフ陣が湧くなかで、郷本さんはグランドピアノを前に軽やかに一曲、披露。穏やかに熱く自身の思いを語ってくださいました。やがて取材終盤、す、と息を吸い、一瞬の間をおいて「レ・ミゼラベル」への思いをとつとつと紡ぎ、真っ正直に「今の自分は足りない」と明かす姿に驚きました。この原稿をまとめていた、ある晩、『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~』日本初演への出演を知り、心震えました。一歩、一歩、先へと進む、その軌跡のほんの一部かもしれませんが、こうして届けることができることが幸せで、この連載の意義であると信じます。

 

取材・構成・文:おーちようこ
撮影:武田和真
ヘアメイク:今井純子(Bellezze)

禁無断転載。掲載の写真、記事、すべての権利は最善席に帰属します。


ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』コンサート Rails Live 2019

「鉄ミュ」シリーズ初となるLIVE公演、ここに開演!

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公式サイト https://www.marv.jp/special/aoharutetsudou/

2019年10月30日(水)~10月31日(木)舞浜アンフィシアター
2019年11月3日(日・祝)~11月4日(月・休)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

原作:『青春鉄道(あおはるてつどう)』(KADOKAWA/コミックウォーカー、COMIC BRIDGE online連載中)
原作者:青春(あおはる)
脚本・演出・作詞:川尻恵太(SUGARBOY)
音楽:あらいふとし+ミヤジマジュン
振付: EBATO
キャスト:
東海道新幹線:永山たかし
西武池袋線・銀座線・常磐線:KIMERU
高崎線:郷本直也
東海道本線:鯨井康介
京浜東北線:高橋優太
りんかい線・山形新幹線:山本一慶
宇都宮線 稲垣成弥
北陸新幹線・西武安比奈線・丸ノ内線・横須賀線:渡辺コウジ
西武新宿線:橋本汰斗
秋田新幹線・千代田線:神里優希
IGRいわて銀河鉄道:岩 義人
長野新幹線・上越線:板垣李光人
西武秩父線:滝口幸広
西武西武園線:馬場良馬
西武狭山線:岩城直弥
西武有楽町線:橋本 星/土方柚希(Wキャスト)
山手線:髙木 俊
東武東上線・信越線:高崎翔太(※関西公演は映像出演)
上越新幹線:田中涼星(映像出演)

©青春 ©ミュージカル『青春鉄道』製作委員会

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