舞台俳優は語る 第7回 村井良大の「今」
2019.12.5
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あなたの「今」を教えてください──舞台人の「今」を記憶する連載『舞台俳優は語る』第7回は村井良大さんの登場です。
新たな劇場、東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)の記念すべき、こけら落としシリーズ、『デスノート THE MUSICAL』に夜神月(やがみ・らいと)としてW主演。グランドミュージカルからストレートプレイまで幅広く活躍する、村井良大さん。自身の「今」は、「続けることを選んだからこそ、在る」と明かす、その思いをここに。
ミュージカルの世界に初めて触れて
もっともっと知りたいと思いました
──『デスノート THE MUSICAL』夜神月役のW主演、おめでとうございます。
村井:オファーをいただいたときは、まさか夜神月を演じることになるとは思いもよらなかったので驚きました。
発表になってから応援してくれている方にすごく喜んでいただいたことがうれしくて、だんだんと絶対にこの作品を成功させなくてはならない……という使命感というか、責任感みたいなものを感じました。
──ミュージカルは2015年『RENT』で主人公のマークを演じました。
村井:オーディションを受けたのは2014年でしたが、オーディションに呼んでいただいたことも初なら、グランドミュージカルに挑戦するのも初でした。それまでも歌う作品には出ていたんですがミュージカル俳優の方々とご一緒したときに、どうも僕自身とは畑がちがうな……という気持ちがずっとあったんです。
──どういったことでしょう。
村井:ミュージカルに出演している方々は歌って踊れてなんでもできる、という印象があって。それは僕が役者としてやっていることとは別だ、みたいな意識があったんです。ただ『RENT』の稽古に入ってみて……役者として僕が表現しようとしていること、みたいなものがミュージカルでも求められているのかな、と思えたんです。それは『RENT』という作品だったからかもしれませんが、僕自身が勝手に畑違いだと思い込んでいただけで実は同じなんじゃないか、と。
だから、このときに「ミュージカル」がとても身近に感じられたんです。それまでは高貴というか、格式が高い……というイメージがあって。でも、『RENT』のオリジナル演出家であるマイケル・グライフさんが「歌える人は、しゃべるように歌え」、「歌えない人は高らかに歌え」と言ってくれて、「なによりも中身が大事で、演技する力こそが大切。歌唱力の前にまず自分のメッセージ性、気持ちと役の役割をやってくれ」と教わって。ああ、それがミュージカルというものなんだ、と知ったというか、意識がすごく変わってもっともっと出演したくなって、より深く知りたいと思いました。あの時間には感謝しています。
自身が考える「夜神月」を演じる
そのことがとてつもなく愉しい
──制作の方の話によると『デスノート THE MUSICAL』の音楽を手がけたフランク・ワイルドホーンさんには、同じくご自身が手がけた日本初演2001年の『ジキル&ハイド』のような強さを求めたとのことです。この作品の持つ、尖った部分を出してほしい、と。
村井:ああ、だから全体的に尖っているんですね……それは、すごく感じました。
──歌詞も演出の栗山民也さんの思いが込められ、より哲学的になっているとのことです。
村井:確かに題材としては死生観や善悪について考えさせられる内容なので、観終わったあとにいろいろなものを持って帰っていただけたらと思います。
冒頭から自分の道徳観みたいなものがぐしゃぐしゃにされてしまうかもしれません。月のなかで「正義」ゆえに外れてしまう瞬間があって、ある意味、壊れていくというか……昔から壊れていく役、は好きなので今から楽しみです。狂気に染まっていく姿みたいなものや、ふとした瞬間に狂気を出すという演技も好きなんです。
──ご自身が考える、「夜神月」像をお聞かせください。
村井:「人間、として在る」っていうのがいいな、と思っています。普通に暮らす学生が、一歩、踏み外してしまう。その端境(はざかい)、変わってしまう瞬間を見せる、ということはすごく演じ甲斐があるというか、創り甲斐があるんですよね。デスノートを拾ったことで変わり、使うことでさらに変わっていってしまう。果たしてそれは正義なのか……ということを突きつけられてしまう。
……結末に関しても明確な答えがあるわけではないので考えてもらえたらうれしいし、答えを探すために繰り返し観てほしいです。「正義とはなんなのか?」という問いかけは、おそらく人が生きている限りは普遍なもので、だからこその今回の再々再演であり、この先も時代を超えて愛されていく作品であり、僕らがその礎を作っていくのだと思っています。
脳がひっくり返る現象で
いつもすべてが決まります
──2012年当時、ある舞台を終えた後に伺った取材で「つらすぎて、この仕事を辞めようと思った」と明かし驚きました。今は、どうでしょうか。
村井:今は生涯の仕事だと思っていて、年齢を重ねるほどにその思いは強くなります。でも、実はその後にも「ああ、しんどいなあ……辞めたい」と思っていた時期がありました。でも、ある日、東横線の電車に乗っているときに、ふっ、と「続ける」って思ったんですね。本当に突然、そう決めた。
──ご自身が役者を目指した動機と同じです。ある放課後、校門を出た瞬間に「役者になろう」と思ったとインタビューで話しています。
村井:あー、まさにそうなんです(笑)。誰かに出会って衝撃を受けたとか、なにか大きなキッカケがあった、ということではなくて、いつも急に決まるんです。
僕はこれを「脳がひっくり返っている現象」だと思っていて、思考が一気にぐるんとなる。このときも「あ、やっぱり続けていこう」と思っただけで、そこに理由は特にない。本当に「脳がひっくり返った」という表現しかなくて……理由を聞かれてもわかんない。でも、そう思ったことは確かなので、だから辞めなくてよかったな、と思っています。
──続けていただいていることがうれしいです。
村井:だけど、振り返ってみれば「辞めよう」とまで思い詰めることができたのも大切でした。たぶん役者なら誰しも一度は辞めることを考えた瞬間があると思うんですよね。なにも保証されていないし、厳しい世界じゃないですか。
それでも、なお続けよう、と思えたことは大きかったし、今日、ここにいることができるのも、あのとき続けると決めたからで。今年、デビュー十二年目になりますが、この時間が無駄じゃないな、と思える「今」がとてもいいな、と感じています。
──「辞めようと思ったことがある」という告白は、応援している方にとって衝撃的なことです。だからこそ「続ける」という言葉が胸にしみます。
村井:自分の言動が誰かにとっての支えになったり、影響を届けることができる、ということはとてもうれしい。
それは普段の言動だけでなく、出演した作品、もっと言えば演じた役で「なにかを受け取りました」と言ってもらえることも幸せです……すごく難しいんですが、人がどう思って、どう受け取るか、って、わからないから。「すごく響きました」という人もいれば「全然わかんない」という人もきっといるはずで。ただ、そこに届けるために最大限の努力を払うのが僕らの仕事なんです。
──自身の表現に対して、実直です。
村井:だから僕らが「『デスノート』ってこうだよね」と言い切るのではなく、そこに在る普遍的なものを観た人が考えて、感じてもらえたら……作品に関しては常にそう思っています。
夜神月としての正義があるはずで、その物差しがどう変わっていくのかを僕自身も考えながら演じていきたい。「正義」って単語を辞書で引いたら書かれている意味はひとつなんですよね。でも中身は人それぞれでちがうから。「正しい行い」と定義して、じゃあ「正しい」ってなんだろう、と。本人がそう思っていても周りが思っていなかったら、それは正しいことなのだろうか……といったことを僕自身も考えて演じていこうと思います。
演じるからには最初から最後まで
自分自身がまっとうしたい
──舞台『弱虫ペダル』から舞台『弱虫ペダル』インターハイ篇 The First Result、舞台『弱虫ペダル』インターハイ篇 The Second Order、舞台『弱虫ペダル』インターハイ篇 The WINNERと三日間のレースの最初から最後まで、主演の小野田坂道として出演していただいたことに感謝しています。
村井:だって、僕が作品ファンだとしたら途中で主人公の役者が変わるのが哀しいから。なによりも僕自身がアニメや漫画が好きなイチ読者だし、その役を演じることを大切にしているから。映画でも舞台でもシリーズ途中での俳優交代にはいろんな理由があるかもしれないけれど、ずっと観てきた側からしたら残念というか、一抹の寂しさはありますよね。
だから演じるときも原作をとことん大切にしたい。その話でいうと『デスノート THE MUSICAL』のビジュアル撮影のときにすごく驚いたことがあって……これは話してもいいことだと思うけど、ともすれば人によっては他愛ないことかもしれないんですが……。
──なんでしょう。
村井:今、髪が短いことからもわかるように、ウィッグで撮影したんです。で、このウィッグを作った方がとてもすてきだったんです。ずっとコミックスを見ながら「いやー、この時代の髪型なんだよね」って。「襟足が長くて少し重ためのボブで、まさに当時、流行っていた髪型だから、これを再現したくて……」と言っていて。ああ、そこまでこだわるのか、と。連載開始の2003年という時代を大切にして作ってくれたんだ、とわかって。
これはまさに創り手が作品に込めた思いで、リスペクトだな、とうれしくなりました。単に原作に近づけた髪型をただ作るのではなく「僕が作るウィッグで撮影するなら、作品が描かれた当時の時代性を織り込みたいよね」と考えて、試行錯誤する。それってまさしくプロだな、って思ったんです。
──確かに……!
村井:役者の仕事も同じで、プロ意識が問われることでもある、と思うんです。だから僕自身が役を途中で変わりたくないのも同じ。送り手として誇りをもって最後まで演じたい。そして「当たり前だよ」って思われるかもしれないんですが、やっぱり似ていてほしいんですよね。
これは僕が感じていることですが、作品のリメイクはアメリカがうまいと思うんです。ただ、『デスノート THE MUSICAL』は『デスノート』という作品を世界観そのまま丸ごとミュージカルとして上演するわけで。だとしたら登場人物の佇まいは原作に寄り添ってほしい。ただ、韓国版ミュージカル『デスノート』はLを演じたキム・ジュンスが感じたイメージが銀髪だったということで、きちんと許諾を取って上演されたと知って。実際に観たら世界観そのままにリスペクトを感じた本気のLだったから、僕も、僕の本気で夜神月を届けなくては、と思いました。
──その、本気、について伺います。オリジナルの作品でも同じ本気で挑んでいると思いますが、原作がある場合とちがいはありますか?
村井:あー……役に対して、本気、というのは変わらないですね。深度というか強度みたいなのも同じです。ただ原作とオリジナルでは最初の作り込みが少しちがうかもしれません。原作があるときはあまり最初から作り込まないというか、固めすぎるとよくないというか。柔軟さがなくなるというか。
でも、作らなすぎもダメで……その塩梅が難しい……それこそ、自分の正義の話になりますが、僕が「夜神月はこうだから」と決め過ぎちゃって「こんな表現はできません」とか言い出したらそれはやっぱりちがうので。まず演出家に求められたことに応えることがあって、それができてから求められたものと自分のなかでの表現をすり合わせて歩み寄って見せる、というのが僕らの役割だと思うんです。役を作り込むことと自分のエゴは別なんです。さらに、お客さんにどう見えるかはさらにちがうから……。
──役作りに迷うこともあるのでしょうか?
村井:あります……なので、そういうときは周りに尋ねます。正解はないし舞台に立ったらすべての責任は自分にあるんだけど、客観的に観て「今、自分はどうなのか?」を知ることには意味があるので。だから見え方を確認します……じゃないと、怖くて仕方ない瞬間もあるから。
──どういった方々に聞くのでしょう。
村井:共演者、あとは演出家ですね。役を探していくのは自分にしかできないことですが、舞台は一人で創るものではないから。周りの意見でがらり、と変わることもあって、自分のなかでの発見もあるから話すことは大切だと思っています。
なによりも生身の人間たちがひとつの空間でひとつの作品を創りあげるわけだから意思疎通ができていたほうがいいし、その一体感がより物語の世界観を際立たせることになると思うんです。
──そうして演じてきたなかで、大きな発見があった作品はありますか?
村井:最近では、今年出演した『ピカソとアインシュタイン〜星降る夜の奇跡〜』です。川平慈英さんと僕がスイッチキャストという、一つの舞台で入れ替わる役でした。これはWキャストとはちがって片方が出ているときに休んでいるのではなく、舞台上でふたりがスイッチングする……つまり、その場で役が入れ替わるんです。
──舞台上で!?
村井:はい。だから、僕が演じていた役を目の前で別の方が演じる姿を観ることが新鮮で。「あ、僕ってこんなふうに見えているのかな」とか考えて、すごくいろんな発見がありました。実は、Wキャストって『デスノート THE MUSICAL』が初めてなんです。2008年に出演したミュージカル『テニスの王子様』もWキャストでしたが、あのときは氷帝Aチーム、氷帝Bチームと完全に別れていたので、一部キャストが同じということではなくて。でも、今回は月だけが変わるから……きっと、悶々しながら稽古場にいるんだろうな、と思います。Wキャストの甲斐翔真くんの真っ直ぐな感じとか、初舞台に向けてどんなことをやってやろうか……とエネルギーがほとばしる感じを、尊敬しながらわくわくして眺めるんだろうな、とか今からあれこれ想像しています。
スイッチキャストは目の前に相手が居るけどWキャストは別々だからものすごく観て研究するか、まったく観ない……という選択もあり……ただ、僕、小心者だから、たぶん観ちゃうんですよ……(笑)。たとえばですが、ミュージカル『エリザベート』のWキャストも座組によって、ああ、可哀想だな、と思うこともあれば、もう、これは仕方ないよね……と思っちゃったりもする。同じ役なのにキャストによっていろんな見方ができることがおもしろい。だから、甲斐くんには甲斐くんの、僕は僕の演じ方を模索していくのかな、と思います。
座長だけれど座長ぶらない
だって独りではなにもできないから
──座長公演も多いですが、座長、ということで心がけることはありますか?
村井:僕自身、あまり座長ということにこだわりたくないし、同時にプリンシバル、アンサンブル、という呼び方にも抵抗があるんです。そもそも同じ作品の出演者なわけだから。
もちろん、人によっては与えられた役によって作品への関わり方が異なって当然、という方もおられるのはわかるんです。ただ、僕は座長かどうか? はあんまり考えないですね。ですが、自分の立場とは別に作品に対しての責任は感じます。たとえば僕が出ずっぱりで物語の中心になる作品が、残念なことに「つまらない」と言われたらそれは僕の責任で、作品をおもしろくする努力をします。一方で僕がそういった立場じゃなくて、出番や台詞が少ない役のときに「つまらない」と言われていたら……そこはものすごく正直に言ってしまえば、仕方ないかな、と思うんです。もちろん努力はしますが、そこはわりとシビアに考えますね。
──とても潔いです。
村井:どんな役も大切で、自分のできることは全部やる、ということで。それが、全部やっても難しいときがある……ということを知っているというか。
あとは座長に関して言えば、こだわらないと言ったとおり、座長だとしても座長ぶらないということは決めています。稽古場でも舞台上でもみんなとコミュケーションを取りたいから。むしろ取らないと不安になる性格なので自分の背中を見せるとかではなく、ずっとみんなと話して創っていきたい。ただ、今回はWキャストなので共演者の方々と関わる時間が半分になるわけだから、その分、より密度を濃くして付き合えたらと思います。
──「俳優」としてと同時に「人として」どう在るか? を大切にしているように感じます。
村井:……そうかなあ。ああ……でも、人って独りでは何もできないですからね。俺が、俺が、って言うなら独りで全部やってみろ、って正直、思いますもん(笑)。特に舞台はみんなで創るんじゃないと意味がないし、自分がやりたいことだけやればいい、という場所ではないから。でも、それは単に仲良くしたい、ということではないんですけれど。
だって、そこに「思い」があるから
でも、意識しなければ「思い」は生まれない
──演じることとともに「歌」が、ご自身の柱のひとつになっている印象があります。
村井:それはあります。おもしろいものでストレートプレイに出ていると、ときどき「この気持ちを歌ったらどうなるんだろう……」とか思っちゃうし。あるいは「この台詞を歌にしたらどうなるんだろう」とも思ったりして。でもね、ミュージカルに出ていると「この感情を台詞で言ったらどうなるのかな」とか、考えちゃう自分がいます。
──両方に出演されている方ならではの言葉です。それを受けて伺います。2010年、出演の『戦国鍋TV~なんとなく歴史が学べる映像~』では武将のキャラクターに成り切って歌うコーナーがありました。当時、そのなりきりがすばらしかったのですが、役として歌うこととミュージカルで役を演じることは異なりますか?
村井:あー……どちらも「役」がありますが、自分のなかでは明確に分かれていますね。その役によってちょっとだけ気持ち的に変えているんですが……説明が難しいんですけど。でも、ちがいます。それは歌い方を変える、とかそういうことでもなくて……うん、難しいな。
──もともと歌うことは好きだった?
村井:それが、そうでもないんです。「カラオケ、大好き!」みたいな人ではなかったので。だから、歌っていても、自分の根っこに演技があって、やっぱり、演じることが好きですね。
──演じることがおもしろい?
村井:はい。台本って小説よりも書いてあることが少ないんです。あるのは台詞と少しのト書きだけ。だから「これをどうしてやろうか? どう組み立ててやろうとか?」と考えることがすごくわくわくする。
すべてをどう演じるのかは僕たちに託されていると思っていて。演出家の方に「こういうのはどうでしょうか」とディスカッションできることが楽しくて、そこがたまらないんだな、と。
──俳優になろうと思い立ち、実際に行動に移し、続けている、この現実がすごいことです。
村井:それは「思い」がどこにあるか、っていうことなんです、きっと。
なぜなら「思い」って自然と生まれるものではないから。意識して、自発的に思わなければならないんです。だから観てくれる人が生んだ「思い」を受け取ることは幸せで、今度はその思いを僕が背負う、といった思いが生まれていって、その積み重ねだと思うから。
──思いが生まれてしまうほどの「なにか」を放っているからではないでしょうか。届いたことを実感する瞬間はありますか?
村井:ううん……これまた難しいなあ……これはまた別の話で、そこはお客さまの自由であってほしいんですよね。実感しなくてもいい、と言うと語弊がありますし、「届いた」と感じる瞬間はうれしいんですが。
ただ、時々あるのが……あの、流れスタンディングオベーション、っていうか、カーテンコールでなんとなく流れで観客の方々が立たざるを得ない、みたいなときがあるじゃないですか。でも、別に立たなくてもいいんですよ、むしろ、お気遣いなく、って思うんです。
──ああ……そういう気配は舞台上にも届いているんですね。
村井:それはやっぱり、ひとつの空間ですから、客席の熱も感じます。逆にスタンディングオベーションのなか座ったままの方って、それが意思表示だと思うんです。だから舞台上から見つけると、そうか……悔しいな、って思うことはありますけどね(笑)。でも、そういう方がいるのは当たり前だから。
──相手に届くかどうか、とは別に、ご自身の発信についてはいかがでしょう。
村井:発信する……と言えるかどうかはわからないんですが、舞台上で、今、発信しているな、と感じることはあります。とくに初日がいちばんビリビリします。それは、自分でも思ってもみなかったことができたり、気付かなかったことを見つけたりする瞬間です。だから、稽古はもちろん大切だけど、やっぱり百聞に一見はしかず、というか、百回の稽古よりも本番を一回、経験することが大きいんだな、って思います。
『デスノート THE MUSICAL』もどんな発信があるか、舞台上でどうビリビリくるか、が楽しみで仕方ありません。新たな劇場に初めて立つ機会で、共演もほとんど初めての方ばかりなので、新しい価値観に出会えたりするのかな、と楽しみです。
──舞台では緊張しますか?
村井:めちゃくちゃしますよ、緊張……ただ、どちらかというと大きい劇場のほうが緊張しないですね。むしろ、小さい方が緊張します。
それこそデビュー当時、2007年の舞台『LOVE ME DOLL!』は本当に小さい劇場で、客席が25席だったんです……!
──25席!?
村井:はい。本当に会議室みたいな広さで、すぐ目の前にお客さんがいてばっちり目が合うんですよ。そんな空間でわずか25人のために芝居をする……あの緊張に比べたら……あのときのしびれた感覚は今だに覚えています。
──怖さとともに、おもしろさも知ってしまった?
村井:それはあるかもしれませんね(笑)。その怖さがだんだんとおもしろさに変わっていったというか。
変な話ですが感覚が麻痺していって魅せられていってしまうというか、それで続けていってしまうのが役者のおかしなところです。
応援してくれる方々には
新たな俳優、新たな作品と出会ってほしい
──今回のように初の劇場だけでなく、村井さんを追いかけることで新たな場所を知ってしまう方は多いかと。物理的にも体感的にも未知の経験をしてしまうというか。
村井:だとしたら、とてもうれしいですね。僕は新しいことが好きなんです。応援してくださる方々を裏切りたいという思いはずっとあって、常にこれまでのイメージを全く逆にくつがえすような存在でいたいんです。だからまったく異なるイメージの役をいただくと、きたな……! とわくわくします。
それだけ演じる幅があると思っていただいていると受け止めていて、役者冥利に尽きます。異なる役を演じることを、楽しんでもらえることは僕の幸せでもあります。
──この役を演ってみたい、という出会いもあるのでしょうか。
村井:そうですね……海外で新作ミュージカルが上演されると、日本公演では自分が演りたい、といったことは思いますね。
最近だと来年の2月20日からイギリスのマンチェスターオペラハウスで上演されるミュージカル『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が気になっています。普段、あまり自分からこの役をやりたいとか言わないんですが、この作品はもともとの映画が大好きなので、もし、日本版が上演されるなら、主人公のマーティに挑戦したい。なので、来年、タイミングがあえば観劇に行きたいな、とか考えています。
──言霊として書いておきます!
村井:ありがとうございます(笑)。ただ、一方で僕は僕を応援してくださる方々に対して「僕だけ観てください」とは思わないんです。初めての俳優や初めての作品に触れて、新たな好きに出会ってもらいたくて、僕はその架け橋になりたい。
それがいつしか演劇という文化の、微力ながらも力になれるんじゃないかと思うので。だから、必ずしも僕を追いかけてください、と押し付けたくはないし、自由でいてほしいんです。
──そういった俯瞰の考え方はいつからでしょう。
村井:あー、いつからでしょう。でも……昔からですよ。だって、そうやって広がっていかないと僕らの居場所もなくなりますから。
ただ、年を経て僕自身も変わっていくし、応援してくださる方々の環境や思いも変わっていくことはわかっています。だから、いつか誰もいなくなったとしてもそこにすがるというか……甘えることなく在りたいとも思います。
──やぱり潔くて、きれいです。最後に一言、お願いします。
村井:初めましての方には、初めまして。いつも応援してくださる方には改めまして、村井良大です。
今回の『デスノート THE MUSICAL』は漫画の『デスノート』とミュージカルという文化をかけ合わせて完成する新しいエンターテインメント作品です。そこに僕らという新たなキャストをかけ合わせたときにどんな化学反応が在るのか、さらに新たな劇場で作り上げるからには、必ずおもしろいものをお届けする心構えでいます。
──言い切ってもらえることが幸せです。
村井:そこはもちろん、言わなければならないから。「新生」と謳っているだけに、まったくの新作のつもりで臨みます。どうぞ、楽しみにしていてください。劇場でお待ちしています。
村井良大 むらい・りょうた
1988年6月29日生まれ。東京都出身。取材時、31歳。
2006年俳優デビュー。2007年、テレビドラマ『風魔の小次郎』で初出演、初主演を果たす。主な出演作に2009年『仮面ライダーディケイド』、2010年『戦国鍋TV 〜なんとなく歴史が学べる映像〜』、2012年の舞台『弱虫ペダル』シリーズ、舞台『里見八犬伝』、2014年舞台『真田十勇士』、2016年の映画『真田十勇士』など幅広く活動。2015年には『RENT』の主演、マーク役でグランドミュージカルにも進出し、2017年にはブロードウェイ・ミュージカル「きみはいい人、チャーリー・ブラウン」の主演を務める。2020年1月にはフジテレビ開局60周年特別企画『教場』が放送される。
村井良大オフィシャルブログ https://lineblog.me/murai_ryouta/
インタビューを終えて
初めて観たのはテレビドラマ『風魔の小次郎』で、それから『仮面ライダーディケイド』を観て、初めて取材に伺ったのは、とある主演舞台の取材でした。その後も、舞台『弱虫ペダル』と取材の機会をいただいて、お話を伺うたびに、真っ直ぐな方だなあ、という印象が深くなり。今回、満を持して、この連載『舞台俳優は語る』の最終回を飾っていただきました。
撮影では「夜神月を意識してください」というカメラマンの言葉に、すっ、と鋭利な気配を放ち。一転して取材ではとてもきれいな笑顔を見せる。「今」だからこその、言葉と姿を届けられることに感謝します。
取材・文/おーちようこ
撮影/江藤はんな(SHERPA+)
ヘアメイク/Emiy スタイリング/秋山貴紀
禁無断転載。掲載の写真、記事、すべての権利は最善席に帰属します。
『デスノート THE MUSICAL』
公式サイト https://horipro-stage.jp/stage/deathnote2020/
期間:2020年1月20日(月)~2月9日(日)
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
音楽:フランク・ワイルドホーン
演出:栗山民也
歌詞:ジャック・マーフィー
脚本:アイヴァン・メンチェル
翻訳:徐賀世子
訳詞:高橋亜子
音楽監督・オーケストレーション:ジェイソン・ハウランド
音楽監督:塩田明弘
美術:二村周作
照明:勝柴次朗
音響:山本浩一
衣裳:有村淳
ヘアメイク:鎌田直樹
映像:上田大樹
振付:田井中智子
演出補:豊田めぐみ
歌唱指導:ちあきしん
舞台監督:加藤高
キャスト:村井良大 甲斐翔真 髙橋颯
吉柳咲良 西田ひらり
パク・ヘナ 横田栄司 今井清隆
川口竜也 小原悠輝 金子大介 鎌田誠樹 上條駿 長尾哲平 廣瀬真平 藤田宏樹 本多釈人 松谷嵐 渡辺崇人
石丸椎菜 大内唯 コリ伽路 華花 濵平奈津美 妃白ゆあ 町屋美咲 湊陽奈 森莉那