舞台芸術を未来に繋ぐ基金=Mirai Performing Arts Fund. が生涯続く、公益基金である理由

勝ち負けではなく「演劇」という文化のために
発起人・宋 元燮と賛同人代表・演出家の板垣恭一が語る

 

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コロナ禍に於いて様々なことが可視化されている。
そのひとつが「演劇」という文化の横のつながり、支援機関が存在しないという事実ではないだろうか。
そこで、どこよりも早く4月28日に発足した、演劇のために設立された公益基金・みらい基金──「舞台芸術を未来に繋ぐ基金=Mirai Performing Arts Fund. 」の発起人である宋 元燮さんと賛同人代表の一人である演出家の板垣恭一さんに立ち上げから現在までを伺った。

なお「みらい基金」の寄付は3,000円からで、リターンは領収書のみ、というシンプルさ。8月25日に一度、1億円を目指した寄付金募集の最終日を迎えるが、その後も活動を続けるとのこと。今後もその活動を見守りたい。

撮影・取材/おーちようこ


「演劇の支援組織がない」ことに気付きました

:2月末から自粛要請が始まった当時、僕自身も混乱していました。なので、まず自分の制作会社で予定していた公演を中止にして、でも、なんとかしたくて、無観客で配信を行いました。
──無観客上演の配信も増えましたが、2月はかなり早い段階です。
:演劇の制作を始めて、今年で4年目になりますが、もともとはCMを手掛けて映像作品を経ていたので制作映像の知識もあったから、対応できたのではないかと思います。
 ただ、徐々に自分の公演だけでなく演劇全体を応援したいという気持ちも生まれました。なによりも、まず演劇界が国に補償を求める方向で声を上げたことに対して違和感があって……そこで、調べていったら演劇界にはそういった横のつながりや働く人を守るといった組織や機能が見当たらない、ということにも気付いて。
──個々での演劇人が声明を発表する、ということはありましたが、連携は余り感じられませんでした。
:なので、そういったつながりや考え方が生まれたらいいなと思って、まず、自分で何ができるのか、を探しました。
──そこで、公益基金「舞台芸術を未来に繋ぐ基金=Mirai Performing Arts Fund. 」を立ち上げられます。
:あえて基金にしたのは、クラウドファンディングならアーティストの方が個々で行うだろうし、盛り上がったとしてもファンの方が集まってリターンでグッズなりを作って返して終わる、という一過性のものになると感じたからです。基金ならグッズ制作にお金を使わず領収書の発行だけで、寄付金のすべてを助成金に充てることができますし、この先も運営していくことができるから。
 さらに当時、ミニシアターエイドが話題になっていて。ただ、あちらは基本的には映画館に対しての応援だったので、「箱」ではなく、あまねく広く演劇に関わる人を対象にした何かを作りたいと考えました。そのうえで基金にすることで、国の助成金のように困っている人が申請する、という形になればいいな、と。
──「基金」という形に辿りに着くことがすごいです。
:もともと「基金」というものがあるのは知っていたので、いろいろと調べ始めました。その後、同じく発起人の杉本事務所の代表、杉本 宏さんとともに、公益基金を運営している公益財団法人パブリックリソース財団に相談したところ、実現可能だろうという話になって、立ち上げることを決めました。
──その、行動力に感嘆です。

発起人と賛同人代表のすてきな信頼関係

 

──俳優の伊礼彼方さんとともに、演出家の板垣恭一さんが賛同人代表を引き受けられます。
板垣:宋さんから電話をいただき、すぐに賛同しました。なぜなら僕は演劇は「仕事」だと考えていて、そういう話をずっと宋さんとしていたんです。
 誤解を恐れずに言うと、ずっと演劇は「アーティスト性」や「創造」といった言葉で彩られてきたけれど、運営体制によっては劇団ってものすごくブラック体質だし、とあるプロデューサーが言っていたけど「俳優という仕事はあっても、劇団員という仕事はない」という話もあって。
──そこは、これまでなんとなく避けてきた話ではあるかもしれないのですが事実かと……。
板垣:お金の話にとてもナイーブですよね。話題にすることを良しとしない、というか。むしろ、しないことが美徳みたいな空気があって、そこにものすごく違和感があったんです。
 そう思った理由をあげると、実は僕、演劇業界を一度、辞めているんです。で、辞めている間、映像の仕事をしていたんですが、そこで、お金の流れ、というものを理解したんです。至極当然のことですが、クライアントがいて、商品があって、納期がある。実際に誰がお金を払っていて、誰に向かって作っているのか、ということを初めて知ってから、再び演劇界に戻ったんです。だから宋さんが志していることもすぐにわかったし、むしろ、そういう動きが出てきたことが喜ばしいと思ったので、賛同人代表を引き受けました。

 

演劇が市民権を得られない、理由とは?

 

板垣:今の日本って三人称の舞台が少なくて、私小説の舞台が多いんですよね……これは、あくまでも、僕自身の考えですが、と前置きして。僕は自分が演劇を作るときにエンタメとしての楽しさとともに社会性を入れることを心がけていて。それは人と人との営みであり関係を描くことなんです。
 ただ、今は、そういう演劇が少ないと感じていて。たとえば、つかこうへいという人は自身の出自や戦争や見えない差別を可視化しながらも、でも「面と向かって言えないことがある」とわかったうえで、社会に問いかけながらも工夫しておもしろい作品を生み出していたと思うんです。でも、だんだんとそういう視点が少なくなっていって、いつしか自分の話を語る作品が増えていったように感じるんです。
確かに小説で言うと、1980年代の村上春樹さんの登場は印象的だった。
──その後、2000年には「セカイ系」と称される一人称で語られる作品が多数登場します。
板垣:そう。たぶん、それは歌も漫画も映画も同じで、結果、みんな「私の話しか語れない」という病に陥っている。それは社会情勢の問題であり、創作者個々人の資質とは別の問題だとは思っているんですが。
 だから他者との関わりについて説明ができなくて、社会的背景や歴史的事実に興味がないし、見えていないようにも映る。なので、当初、演劇人が保障の声を上げたときにものすごく叩かれたじゃないかなと?
──はい……。
板垣:あれは、社会とつながった上で、俯瞰の位置から見て「こういう社会的背景があるから助けてほしい」ではなく「今、自分が困っている」という視点で話しちゃったから「それはお前の事情だし、勝手でしょ」と受け止められてしまったのではないか……と、僕は思っているんです。
:それはあると思います。
──どこの立場で発言するか、ということでしょうか。
板垣:いや、困っている立場でいいと思うんですけど、その困っていることを社会と関連つけて説明できていないというか。まあ、社会が裕福で「自分のことだけを考えている」だけでよかった時代があって、それはきっと幸せなことだったと思うんですが、今はちがう、ということなのかな、って考えているんです。
 とはいえ、その流れが生んだ演劇もあるはずで、いいことなのかもしれないんだけれど、結果、社会や政治と関わって話をする経験が失われていて、今の状況を生んでいると思うし、自分たちがやっていることは経済活動なんだ、ということの自覚も生まれていないと感じるんです。だって「商業演劇」っていう言葉が、営利目的だ、と批判的な使われ方をした時代もあったけど、今となっては演劇も商業ですからね。でも、なぜか話題にすることにアレルギーがあって、お金の話をしないことが崇高だと思っている節がある。でも、そのなかで宋さんは数少ない、演劇=産業と考えて行動しているプロデューサーなんです。
:あー、そうですね。初めて板垣さんと食事をしたときから、ずっと産業の話しかしていないかもしれません。
板垣:だって、お金の話はとても大切なことだから。その宋さんが基金を立ち上げるとなったときに「賛同人に」という連絡には即答でした。

 

これはジャンルの競争ではなくて
演劇という文化を支えたいから

 

──実際に立ち上げての感想はいかがでしょうか。反響が気になります。
板垣:自分にとって、すごく良かったと思ったのは、いろんな人と出会えたことです。あとは、今、きっと世界中の演劇人が考えていることだと思うんだけど、「演劇って本当に要るの?」ということを考えるキッカケになりました。まあ、その答えは自分なりに出たので、別の場所で発表しますが。
 基金の活動については……とにかく、めちゃくちゃ忙しかった、ということだけお伝えしておきます。
──確かに……! 5月のみらい基金立ち上げから、公式YouTubeチャンネルで、毎週、水曜、木曜、金曜にテーマ別に番組を制作、毎月の特別番組と現在、40番組以上を配信。更に関連リリースの作成に各メディアに広報と、賛同人のひとりとして、少しだけお手伝いしましたが膨大な活動を続けています。
板垣:さらに、その配信の収録と編集を宋さんが一人で一手に引き受けているしね。
──そうなんですか!?
:実はそうなんです………。
──とんでもないことです! 板垣さんも弁護士の藤田香織さんと未来に繋ぐための対話 演劇と『法律』という対談連載をされています。
板垣:あれは僕個人が聞きたいことを聞いているだけなんで、楽しい連載です。今回、それらも含めて、全部、無償でやりたいと思う人が参加していることが、良かったな、と思うんです。対価があるとどこまでやろうかな、ってなっちゃうけど、無償だから自分の納得がいくところまでどこまでもやれる。
:それは感じました。ボランティアだから「関わりたい」と思っている、という人たちが集まってくれたことも発見だったし、僕がいちばん「すごいな、おもしろいな」と感じたのは演者やスタッフという演劇を作る側ではなくて、演劇を観る側、いわゆるファンの方々が参加してくれたことです。どのジャンルを観ている、応援しているではなく、とにかく「演劇が好きだ! もっと認知されてほしい」という思いで動いている方が参加してくれた、ということです。
 でも、当初は懐疑的な意見が多かったんですね。言ってしまうと「誰に届くのかがわからない」という声が多くて。ただ、実はそれが大切だと思っていて。「産業」と考えたときに「誰か」ではなく「演劇」というものを支えるための支援を目指しているので。繰り返しになりますが、特定の誰かに届けたいのであればすでに別の方法がたくさんあるので。
板垣:だからやってみてよかったのは、「演劇を支えたいと思う人」の存在がわかったことだと思います。最初、危惧していたのも、まさに「誰に行くかわからないところで寄付する人がいるのかどうか」ということだったから。
 だって現在、1億円という目標を掲げているけれど、達してはいないわけで。寄付してくださった方々には本当に感謝していますが、誰に届くかからないから寄付したくないという声もあることがわかった──これ、結局、演劇をそういう存在にしちゃったのは俺たち自身なんだよね、って思ったし。だって演劇が社会性を持っていたら「誰に行くか」とか関係なく寄付金は集まるはずなんです。
──むしろ、公益基金を立ち上げたことで「演劇」の社会的地位が可視化された……?
板垣:そう。だから、あえて言うと「演劇」というものを伝えきれなかったな……という反省と、それでも5,000万円もの寄付をしてくださった方々への感謝と、僕らが掲げている「舞台芸術にまつわる人たち」に支援したいという人や多くの賛同人と出会えたことは大きいと思っています。
 だって、これは競争ではないからね。1億円と掲げているけれど、達成しなかったから負け、という話ではなく「演劇」に対してどういうスタンスでいるか? という話なので。だから今回、第一回の採択者が発表になり、どういった人々に助成金が届いたのか? がわかることで目指した支援が見えたと思うし、こういう動きが生まれた、ということに意義があると思うんです。
:もちろん、ここにたどり着くまでには賛同人の間でも侃々諤々(カンカンガクガク)ありました。それこそいろんな議論が為されたし。でも、なによりもまず、この活動が大切だということは全員、わかっているからこそ、今、こうして続けていけているんです。
 そのなかで板垣さんも言っている通り、アーティストやスタッフ、制作側だけでなく観劇する人たちも含めて、この活動に共感する方々が存在していることはとても大きなことでした。
板垣:その上で役割分担的なことを言えば、企画力と全体を見る力がある宋さんがいて、外に対しての広告塔的な活動を伊礼彼方くんが担ってくれて、運営に対して気付いたことを言ったり動いたりする僕がいて、大変ではあったけれど結果的に何らかの成果を出せたという気はしています。

毎日、おいしいご飯を食べてほしいし
続けることが未来への財産となるんです

──新たな支援の形が立ち上がるとともに配信でアーカイブされていったコンテンツはのちのちの財産になっていくと思います。
板垣:そういってもらえるとうれしいですが……正直言って、大変でしたよ……っていうか、僕はさておき発起人の宋さんは、今も大変なままですが(笑)。
:今はまずMotionGalleryの最終日にあたる、8月25日(火)まで駆け抜けることが第一だと思っていて。ただ、続けてはいきたいと考えてはいます。
 これまでにない試みを始めていると思うし、小さかもしれないけれど、これがキッカケで演劇を支える動きができたらいいなと思っています。
板垣:それはそう。まずはいったん駆け抜けて、でも、これだけアーカイブされているので、できれば定期的に更新できたらいいよね、という話はしています。
──最後に一言、お願いします。
板垣:演劇界に宋さんという人が入ってきてくれて、こういうことを立ち上げてくれたことに少なくとも僕は感謝しているし、今は「みらい基金」に興味がなくとも、将来的に、ああ、こういう動きがあったんだ、って思う人たちが出てきてくれたらいいなと思うんです。
 繰り返しになるけれど、この基金がいいとか、あのクラファンがいいといった優劣ではなくて演劇に関わるあまねく人に届く公益基金でありたいから、その礎を作る一歩になれたらと。
:僕らがよく話しているのは「メニューの話ではなく、ご飯全体の話をしているんだ」ということです。
板垣:そう。ご飯は毎日、食べるもので、カレーもいいしパンもいい。外食もあればコンビニ弁当や自炊や、なんだったらカップ麺の日があっていいように、全部、その日、お腹が満たされたらいい。
 だからミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、2.5次元とたくさんあるけれど、演劇総てが生活に欠かせない、楽しみでありたくて、そのために何かをしようとしているのが、この基金です。
:そのことが伝わって、みんな、毎日、好きなご飯を食べるように、演劇を楽しんでもらえるようになってほしいと願っています。

2020年8月某日、都内収録

 

20200824_最善席

宋 元燮  conSept合同会社 https://www.consept-s.com/
板垣恭一 板垣恭一のブログ https://itata.exblog.jp/

舞台芸術を未来に繋ぐ基金=Mirai Performing Arts Fund. 

寄付金はこちらから。 https://www.butainomirai.org/

8月25日(火)20時より公式YouTubeチャンネルにてカウントダウンイベント生配信予定!https://www.butainomirai.org/mirai-channel-1

 

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