クラウン見習いは、いびつな笑顔で──舞台『象』初日コメント&レビュー到着! 4月16日夜公演、ライブ配信決定。
撮影:岩村美佳
レビュー:おーちようこ
昨日、安西慎太郎さん主演、小林且弥さん初演出の舞台『象』の幕が開いた。うん、実にしんどい、しんどい話だ! 事前に本サイトでの安西さんインタビューのため、台本を読み、なんだったら稽古も見学させていただいた……のに、だ! これからどうなるのか、知っているのに! 目の前の役者の静かに、静かに狂っていく気配に推され、身体がなんどもなんども、びくっ、となり、喉の奥が、ひっ、となり……役者ってすごい。
ぐるりと客席で囲まれた真ん中に伸びる、サーカスのはしご、そこから四方に向かって、ぴかぴかと頼りなく光る電飾が伸びる。ここはテントのなか。音楽は鈴木勝秀さんとのタッグでお馴染み、大嶋吾郎さん。けれど、曲が流れるのはわずか。ほぼ全編、淡々と会話だけで物語が進む……進む? いや、歪んでいく? 曲がっていく? 四方からふいに役者が現れて、通り抜けていく……ので、遅れて席に案内される観客さえ、まるで出演者のようだ(実際、演出? あ、ちがうのか、ってなり)。そう、ここは見世物小屋なんだ。
7人の登場人物が体現するのは、ともすれば社会かもしれない。縮図のような力関係とズルさと弱さと無関心と無神経が同居する。主演の安西慎太郎さんの演技はもちろんのこと、印象的な役ばかりなのだか、眞嶋秀斗さん演じる苫坂光が気になった。いや、観たらわかりますがすっごい、やなやつなんですよ。本当に胸糞悪い……んだけど、あれを演じきるって、実はものすごくしんどいんではないだろうか、と。最後の最後の本当に最後、一瞬だけ、こぼれそうになる、あるいはこぼれる? のだけれど、そこは配信で観てほしい。
その刹那にむけて、ぎゅーーーーっと、張り詰めて、張り詰めて……というこの空間が、小林且弥という演出家が求めたものなのだとしたら、また、別の作品を観たい、と思った。
帰り道。ときどき、なぜ、こんなにも心打ちひしがられてしまうのに、自分は劇場に通うのだろう、と思うことがある。けれど、それは後悔ではではなく、まだ、自分の心はこんなにも動く、ということを確かめに行くのかもしれない。
舞台「象」ライブ配信決定!
配信日:4月16日(土)16時開演の部 詳しくはこちらへ。
コメント到着!
◆演出:小林且弥
俳優として初めて板の上に立ったのが10数年前のこと。立場が変わって演出家としての初日を迎えるにあたり、その時感じた期待と不安、高揚感、緊張感などが10数年の時を経てあの時の想いとして自分の中に再生されています。でもやっぱり今回は素晴らしいキャスト、スタッフの力で不安よりも期待と高揚感の方があの時より大きいかも。
2度とはない初演出の舞台、是非皆様劇場にお越しください。
◆脚本:齋藤孝
初めての舞台、初めて誰かに託す脚本。
書き上げたものに手応えを感じたものの、一抹の不安はなかなか消えませんでした。自分で言うのもなんですが、真面目な性格は必要以上に推敲という名の迷走をさせます。
来る日も来る日もスターバックスで濃い目のコーヒーをおかわりし、店員に顔を覚えられ、「いつもありがとうございます」の挨拶に苦笑しながら、改訂を繰り返しました。
カフェインで練り上げられた脚本を、稽古を重ねる中で演出家と共にブラッシュアップし、俳優たちのひらめきをエッセンスに、象はいつの間にか精悍に形作られていきました。
不安の影はもうありません。
幾つもの困難を乗り越えて、いよいよ象は野に放たれます。円形の大地を縦横無尽に駆け回るその勇姿が、多くの人に目撃されることを心より願っております。
◆主演:安西慎太郎
色んな気持ちが混じっていますが今一番は、お客様の前にたてるということがすごく幸せだし尊いことだなということを改めて感じています。
その中で今回、且弥さんが演出ということでいつも以上に僕自身が役に対しても作品に対しても皆さんに対しても愛情を注いできたつもりです。僕が主演ではありますが、チームプレイの作品なので全員の雄姿を是非楽しみにしていただけたらと思います。
◆公演名:舞台「象」
◆演出:小林且弥
◆脚本:齋藤孝
◆出演:安西慎太郎、眞嶋秀斗、鎌滝恵利、伊藤裕一、伊藤修子、木ノ本嶺浩、大堀こういち
◆公演日程:2022年6日(水)~17日(日)
4月15日(金)18:00
4月16日(土)12:00/16:00
4月17日(日)11:00/15:00
※4月6日(水)~15日(金)14:00の回までの公演は、出演者の負傷により公演中止となりました。
◆会場:KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
◆公式HP:https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00611