饗宴「世濁声~GOOD MORNING BEAUTIFUL MOUSE」 鈴木勝吾✕安西慎太郎 対談&稽古場レポ

2023年11月9日(木)~11月19日(日)で上演される、ふたり芝居
饗宴「世濁声~GOOD MORNING BEAUTIFUL MOUSE」初日に向け、公演会場にしてレストランでもある「DisGOONies」へ初乗船! 稽古中の鈴木勝吾さん、安西慎太郎さんにお話を伺いました。

なぜ、この「ふたり」だったのか?

──企画の立ち上がりを伺います。

鈴木:それはまず、一回、慎ちゃんから。本音でよろしく。

安西:まず一個、僕の中に「やりたいものをやりたい人とつくる」という、永遠のテーマがあって。それは人として尊敬というか敬愛、という言葉を使える人とやりたいな、という考えですが、「誰とやりたいか?」と考えたときに、ぱっと浮かんだのが、鈴木勝吾さんでした。

──それはいつ頃でしょう。

安西:年末くらいに思い立って、直接、会って、お話したら「ぜひやろう」と言ってくださってスタートしました。

──なぜ、鈴木勝吾さんだったのでしょう

安西:すばらしい役者で、すばらしい人間だから。

鈴木 もう少し細かく!

──さすがです、鈴木さん……はい、もう少し具体的にお伺いしたく

鈴木:そう、あんまりそういうの聞いたことないから。

安西:あー、そうですね。言わないですね。

──なので、この機会にぜひ。

安西:やっぱりシンプルに愛のある人だから、というのが一番強くて。物語を届ける上でも、役を演じる上でも、人間として行き生きていくためにも、すごい必要なことだと思うから。

──それはどういうときに感じるのでしょう。

安西:稽古場とか、どこでも、です。今回で言えば、スタッフさんへの接し方であったり、使う言葉の選び方、相手を思って伝わるように言い方を変えるとか、そういうところをしっかり考えたうえで行動しているんだな、って見ていてわかるんです。人と関わる上で、そういったことが必要だとわかってはいるけど僕はそこまでできないから、すごいなって思うんです。

──とのことですが、鈴木さんは安西さんからの連絡を受けて?

鈴木:率直にめちゃくちゃうれしかったですし、「え、やりたい」と思ったし、まんま声に出ていました。だから、すぐに具体的な相談を始めて、場所はどうするのか、スタッフは誰にお願いするのか、俺らが全部、費用を持ち出してゼロからやるのかとか、ひたすら話していきました。

──その鈴木さんにとって、安西さんは?

鈴木:「え、そんな芝居をするのに、今年、やっと30歳なの?」と驚いていました。同年代の役者のなかで群を抜いているというか、松田凌や宮崎秋人よりも年下なことに驚いたし。なによりも凌や秋人もすごくいい役者だけど、自分にとっては「後輩」という感覚があるんだけど、慎太郎はなんか俳優同志として出会っちゃったという感じです。
2019年のDisGOONie Presents Vol.5「Phantom words」で初めて共演して、対になる役でしたが、そのときから「うわ、こいつ、やばいな」みたいなことをずっと思っていて。そのうち、一緒に飲んだりするようになって、話してみれば人間的にもおもしろくて、すごく好きになっちゃった。だから、そんな奴から声をかけていただけたのはめちゃくちゃ光栄なことでした。

──そこから、おふたりで脚本を書かれることに?

鈴木:公演の告知には作・演出・出演としてふたりの名前がありますが、結果的には僕が書いたものにふたりで手を入れました。そこは、今日、ここでお話させてください。
当然、「脚本どうする?」という話になって、最初は誰かに書いていただこうか、と話していて。それこそ、僕らがずっとお世話になっている西田大輔さんや毛利亘宏さんにお願いするとか、いろいろ案を出すなかで、ひとつだけ心配があって。もしも、書いてもらった脚本が、本当にもしも、ですが「ちょっとちがうな」ってなったときにどうしようか、という話になって。

安西:脚本としてはいいものなんだけど、ここは変えたい、となったときに、僕らはどうするのか? と。

鈴木:絶対にないとは言えないし、それで困るのもちがうよね、となって。じゃあ、ふたりで書いて、ふたりで演出しようか、という話になりました。それが春くらいの話で、ふたりで決めた公演日から逆算して7月末を目標に互いに一本書こうと決めたんだけど、やっぱり俳優をやりながらだと難しくて。
結局、9月末には書き上がらないといろいろなことが間に合わないから、そこまでには絶対に書こう、と決めて……でも、書いていると、ちがうのがいいんじゃないかとか思っちゃって、書いては捨て、書いては捨て、を繰り返して。

安西:それ、すごくわかる。

鈴木:どちらかひとりが書く、って決めちゃうと、そいつが倒れたときに終わっちゃうからふたりとも書くと決めたし、ふたり芝居だから全部フィフティ・フィフティにしたかったところで、ぎりぎり書き上げたのが僕でした。もちろん慎太郎が書いていた脚本もあったので、二本合わせるとか、両方やってもいいよね、と案はあったけど西田さんから「合わせるのは良くない」という助言があって。
確かに異なる世界観を持つ者が書いたものだから、それはやめよう、でも、ただすけさんに音楽を依頼するとかゲストに声をかけるとか、いろいろな期限を考えたら、ここで決めるしかないね、という日程まで粘った結果、僕が書いたものをふたりで読みあって、ここはこれだね、こっちはこうだね、と話し合って最終的に完成しました。

──安西さんは鈴木さんの脚本を読んでいかがでしたか?

安西:すごい、と思いました。勝吾が書いた文というか、ひとつの言葉に至るまでの情熱がすごくて。内容はもちろん、誤解を恐れず言うなら、たとえ意味がわからなくても、この熱があるなら生きるな、というか、観る人の心は動くな、って感じました。

──確かに。今回の取材のために拝読しましたが、とにかく圧倒されてしまいました。鈴木勝吾、という人間のなかにこんな世界があるのか、と驚き。同時にこのおふたりの肉体を通して、どう立ち上がるのかと、奮えました。
同時に感じたのは「信頼」です。実に複雑で長い台詞がありますが互いが互いに役者として信じているから託せる、みたいな。

鈴木:それは大いにありましたね。書きながら「あー、これ、やばいかも」って。でも「慎太郎だしな」と最後まで書ききりました。きっと、これを書いても許されるだろうな、って。
最初は1時間半くらいの長さで、あとはゲストとのトークで考えていたんですが、最初の時点で2時間超えるな、ってわかって。それでも、これを説明し始めると長くなっちゃうな、と丸ごとカットしたシーンもあって。ただ、きっとこのシーンがなくても慎太郎はわかって演ってくれるだろうし、伝えてくれるだろうな、と思ったし、実際に稽古を通してもそうでした。ただ、演出しながら自分も演じているから、今、必死に台詞を覚えています(笑)。

濁世+濁声=よどみごえ、に込めた想い

──タイトルについてお聞きします。

鈴木:7月に共演していた舞台「Arcana Shadow」のときに、慎太郎が「発表したい」と言い出して。まだ脚本もなにもないのに? って思ったけど、ふたり芝居なのは決まっていたし方向性は話し合っていたから、じゃあタイトルだけ先に決めよう、と飲み屋で決めました(笑)。

安西:いろんなアイディアを出して。

鈴木:出しまくったねー。炎(ほむら)とか灯火とか、渇き、澱みとか、濁りとか出していくなかで、濁声(だくせい)は? 濁った声、いいじゃないかと。慎太郎がすごく気に入って、それにしようと決めかけたらスマホの変換に「濁世(じょくせ)」という単語が出てきて。仏教用語ですが、意味も字面もいい! ってなって。両方捨てがたくて「よどみ」もずっと残っていたので、じゃあ両方つなげようとなって「世濁声 (よどみごえ) 」というタイトルに決めました。

──そのタイトルから中身を?

鈴木:うーん……というか、ずっと話し合ってはいたので大きなテーマみたいなものはあって。それにふさわしいタイトルになったな、とは思いました。

──テーマとは?

鈴木:慎太郎とやるからには、自分の思いを正直に言おうと決めていたんですが。たとえば戦争が起こっている今の世界情勢から身近なところでは、コロナがあって激変したエンタメの世界、あるいは自分たち俳優の在り方とか、いろんなことが混沌としている中で「世濁声」は自分が考えていることはこれです、ということを見せる場所だということです。
これは僕の考え方ですが、俳優として作品に参加するときに主演だから、アンサンブルだから、といって立場がちがうとは思わなくてみんな、その作品のために集まっているはずなんです。慎太郎もそういった考え方だから一緒にやれる、というところがあって。ただ、残念なことだけれど作品のためではない目的の人もいるわけで。でも、そのなかで信じていることを、やってみせる、形にする、ということが大切だと考えているんです。
作中にも出てきますが、みんな、一人立つ、光の柱であれ、と願うんです。そこには優劣も大小もない、ということを届けたい。作中でダメだ、ダメだと嘆くけど、生きていこうよ、と。その意味をひとりひとりが考えようよ、と言いたいんです。

安西:僕は……ちょっと話がずれちゃうんですが、そもそも演劇、だけじゃなくて、なにかの作品を届けることになんの意味があるんだろうと思っちゃうことがあるんです。実は、それらがなくても世界って成立しているし。なんで、俺は必要なんだろうな、って思うことがあるんです。
たとえば「俳優」という仕事に関しても、お金を稼ぎたかったらもっとほかの道があるだろうし。売れる、というか、有名になるという言い方もなんですが、実際、そうでない人も多くて。もしかしたら、なんにもならないかもしれないものに命をかけているわけで。

鈴木:まじでお金のことを考えたら、演劇はすごく遠回りな方法だからね。

安西:でも、なんで俺はやってるのかな、って考えたときに、もしも俺が今、骨折していたとしたら医者に行けばいい。でも、病院で治せないものってあるよね、と思っていて。それは精神的なことともちがうんだけど……。

鈴木:潤いとか、光とか?

安西:そう。そういった豊かさみたいなものを届けられる仕事が僕らだと思っているんです。病院では処方されない、目には見えない処方箋、っていうものを与えられるののひとつが演劇というか、芸術的なことだと考えていて。勝吾もたぶん、そう思ってるんだろうな、っていう肌感があって。最初からそうだったのか、生きていくうちにそうなったのかはわからないんですけど……。

鈴木:俺はねえ、慎太郎みたいな、ヒネてる人間でもそう思っていることが今日、聞けてうれしい。

──ヒネているんですか?

安西:ヒネてますよ、だいぶ。

鈴木:俺はけっこう「あなたのために」とかハッピーなことを言っちゃうタイプだけど、慎太郎ってあえて言わないからね。でも、結局、なんで演劇をやってるかというと、そういうことだし。あとは純粋に表現者でありたい、という思いもあるんです。

──今日、お話を伺って、安西さんがとても鈴木さんを信頼していることがわかります。安心しきっているというか……。

安西:(無言でうなずく)

鈴木:そうか、俺は太陽だったのか……(安西さんを見て)まあ、月にも憧れるんだけどね。

安西:今日はね、勝吾の話を聞いていて、うん、そうだよな、ってずっと思っているんです。取材だから、おまえも話せよ、っていうことでもあるんですが、そう、うんうん、って、話がわかりすぎるんです。

──鈴木さんがご自身の言葉を明確に言語化されていることにも驚いています。

鈴木:それはね、言うことにしたんです。昔はとがっていて、態度で分かれよ、みたいなのがあって。いや、今もとがってはいるんだけど、だったら余計に、その理由を伝わるように言葉にして届ける努力が必要なんだな、ってわかったからです。

──それは、いつわかったのでしょうか。

鈴木:一言でいうと実にシンプルなことなんですが、たくさんの人に会ったからです。出会いと人だな、ってわかることが、俺がこの年まで生きてきた意味だとすら思うほどです。
本当にいろんな出会いがあって、話し出したら終わらないんだけど、自分が先輩の立場の座組にいて、ここ(DisGOONies)に乗船して海賊の兄貴たちに甘えさせてもらって、さらに座長という立場も経験させてもらって「作品を、作品たらしめること」をあらゆる角度から考える機会をいただけたからです。

──ご自身の中に軸ができた?

鈴木:軸というか、物差しかな。これは西田さんの言葉ですが「なにを恥とするか」ということです。だって恥ずかしいことはしたくないじゃないですか。もちろん、それは人によってちがうだろうけれど、俺は俺が恥とすることはしたくない。これまで出会った人、これから出会う人に対しても、恥ずかしい自分でいたくはない。それを物差しというのなら、慎太郎と俺は近いのかもしれないな、と思っています。

──稽古に入って、いかがでしょうか。

鈴木:慎太郎が不安になるくらい「なるほどね」とか「はい」とか「分かった」って言うんです。

安西:え、だって、わかるから。だって、ないんだもん、わかんないところが。勝吾の脚本で、勝吾が演出しているから、脚本と演出に乖離がないんで。明らかにこの台詞はおかしいだろうとか、不親切だな、と思ったら言いますけど。それもよほどのことがなければ、言わないですね。
役者って、書かれた脚本を体現することが仕事なんで、あんまり難しく考えないというか。もちろん考えはするんだけど、求められたことをやればいい、と思うから。そのときに別に観客に対して全部、わかりやすく説明する必要もないとも思っていて……ただ、真摯であれ、とは思うから、そこは絶対だけど。

鈴木:まあ、そういうとこ、慎太郎はドライだよね。そこは俺とはちがうところで好きなところなんだけど。

──最後に一言、お願いします。

安西:まだ稽古中ですし、本来なら終わってから言うことかもしれませんが、観客の方々も、関わってくれて助けてくれているスタッフも、もちろん我々もですが、やっぱり豊かになってほしいんです。見終わった後の人生につながるような……それはこの作品だけでなく、すべての作品がそうなればいいなと思っていますが、とにかく今はこの作品をいろんな意味で成功させるべく、がんばるしかないと思っています。

鈴木:今こそ言うべきことを詰め込んだ作品だと思っているので、なんでもいい。どんな形であれ、拒絶でもいいし、享受でもいい、刺激でも、潤いなのか照らされるのかわからない。救いであればいいと思うけど、そうでなかったとしても受け取ってほしいです。
今、この時代、この瞬間、ふたりでやるべきことをすべてやっている……という自負はあるので、それだけを胸に抱(いだ)いていらしてください。ただ、演出もやってるから、今から必死に台詞も覚えます(笑)。

──ありがとうございます。

 

稽古場レポ

台本を手にふたりが劇場となる店内をくるくると歩き回る。どう見えるか、なにを見せるか、を見つけ出すように、同じ会話をいろいろな場所で繰り返し、試していく。彼らの距離が近いのか、遠いのか、座るのか、立つのか、見下ろすのか、見上げるのか。それにより台詞がどう伝わるのか、心はどう動くのか、を互いに確認し続けていく。まるで見えないパスを出し合って会話しているかのようだ。

鈴木さんが「これはね、一見、肯定してるけど、実はもう、うんざりしてるんだよ」と感情の動きを伝える。と、安西さんの台詞の抑揚が変わる。決して「大きな声で」とか「強く」といった指示ではなく、ただ台詞の意図を伝える。それを安西さんが解釈して演じて、見せる。張り詰めた空気だが、決してぴりぴりしているわけではなく、心地よい緊張感で台詞の応酬が。位置を変え、声を出すタイミングを変え、互いが納得する感覚と間隔を探していく。そうして、ひとつのシーンを通し終える、が、終わりではない。

「じゃあ、俺、出るから」と鈴木さん。代わりに演出助手が入り、今、繰り広げられた台詞、動きをトレースしていく。その姿を外側から、ときに位置を変えながら、じっと見つめている。「この劇場は見え方、という観点でいくと可能性が広すぎて、どうとでも使えちゃうから、むしろ難しい。でも、こうしたい、ということを一緒に考えてくれる心強いスタッフもいてくれるので、当日、この空間がどうなるのか、それも楽しみにしていてください」と鈴木さん。あえて、手間ひまをかけ、ていねいに創られていく、この時間は彼らにとっても確かに豊かにちがいない。

2023年10月末に収録
取材・文・撮影/おーちようこ

饗宴「世濁声~GOOD MORNING BEAUTIFUL MOUSE」
作・演出/鈴木勝吾・安西慎太郎
音楽/ただすけ
公演日/2023年11月9日(木)~11月19日(日)
出演/鈴木勝吾/安西慎太郎
公式サイト/https://disgoonies.jp/show.html?code=0000064
※チケットは完売しています。

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