る・ひまわり✕明治座年末“祭”シリーズ番外編「明治座の変 麒麟にの・る」W主演、安西慎太郎の心
2019.12.18
年末恒例ともなった、る・ひまわりと明治座がタッグを組んで贈る、祭シリーズ。9年目を迎える今年、「番外編」と銘打って上演されるのは、る・ひまわり✕明治座年末“祭”シリーズ番外編「明治座の変 麒麟にの・る」。
前回、演出を手がける原田優一さんのインタビューに続きW主演のひとり、安西慎太郎さんの登場です。本作についてだけでなく役者として、お芝居について、2.5次元ついてと、広く深く、静かに熱く、燃える心を贈ります。
取材・撮影/おーちようこ
作品のために
嫌われに行こうと思ってます
──今回は平野良さんとW主演を努めます。
安西:今回、僕、とことん嫌われに行こうと思っているんです。なんというか、僕がお客さんからとても嫌われる……それが、作品がとても好かれることになると考えています。
──単に嫌なヤツを演じる、ということだけではなさそうですが。
安西:んー……僕、このシリーズでいちばん大切なのってバランス感覚だと考えていて。今回はW主演なので、平野良さんとのバランスを特に大事にしたいと思っています。
もともと、毎回、出演者が多いので、まとめるのが難しいんですよね。だからいつも以上に全員が、自分の役割、自分の居場所、バランス……というか、なにをやるべきで、なにをやってもよくて、なにをやったらダメか、といったことを個々がわかっていないと作品を壊すことになるし、自分の役を壊すことになると思っているんです。
──サッカーみたいですね……というか、チーム戦、というべきか。
安西:そう、チーム戦! みんなでパスを回していって、誰がゴールを決めなくちゃならない、みたいなことを全員がわかって、演っている感じがすごくして。
──ですが、以前に別作品で、舞台上の隣に立つ山崎銀之丞さんの気迫がすごくて押し負けないように、というお話をうかがいました。なので、チームワークといいつつもバチバチすることは必要なのではないでしょうか。
安西:それはもちろんあります。あのときの山崎さんはすごかったですね……確かにそういったバチバチした感じは必要で。初めましての方もおられるなかで、稽古場から「やってやんぞ」、「負けないぞ」みたいな空気も大切だと思います。
ただ、座長公演のときはバチバチ感はないですね……もっと全体を意識するというか。だから、そうでないときのほうが「やったるぜ」感みたいなものが強いですね。平野良さんとは初共演なので、どういう方かわからないんですが、それこそバランス感覚に優れているというか、料理するのがとても巧いんじゃないかな、と感じているので、僕はうまく料理してもらおうと思っています……というか、めちゃくちゃ演技が上手い印象があるので、そして、きっと単に上手いだけではないと思うので……実はちょっと久々に珍しく緊張しています。でも、だからこそ、良くんを本気にできたら、火をつけることができたらいいな、と狙っています。
──年の瀬の明治座という空間で、おふたりの丁丁発止を観ることができるのはうれしいです。
舞台プロデューサーによると「番外編」と銘打って、原田優一さんという新たな演出家を迎え、同年代での舞台を上演したい、と考えた、とのことです。そのなかで、安西さんは初参加当時の初本読みの第一声から全部出してぶつけてくる姿に、とてつもない熱量に圧倒された、とも。
安西:……すごくうれしいです。あの、良くんを本気にさせる、ってことは、僕も本気になる、ということで。ちょっと上から目線な発言になってしまうかもしれませんが、良くんの上手さ……だけじゃ太刀打ちできない感じとどう向き合うか……は考えています。だから、この舞台についてだけでなく演技についていっぱい話がしたいです。
──他の共演者のなかで気になる方はいますか?
安西:半分くらい初めましてで、あと半分は共演したことがあります。皆さん「安西くんってどんな人で、どんな芝居するのかな」って思ってくださると思うので、初めての人にも久々の人にも成長した姿を観せたいです。
気になるというか……井阪郁巳くんが……初めましてなんですが、なんか、もう、びっくり箱みたいな子で(笑)、おもしろくて、早く、お芝居を見てみたいな、って思いました。
──なぜでしょうか。
安西:初めて会ったときに、すごく普通に挨拶していたのになんかおもしろかったんですよ……稽古に入ってからまた印象は変わるかもしれないんですが、今、ちょっと気になっています。
舞台の上にいることが
いちばん嘘をつかずにいられる
──安西さんが初めて明治座に出演した2014年の『聖☆明治座・るの祭典〜あんまりカブると怒られちゃうよ〜』の囲み取材でのことです。ミュージカル『テニスの王子様』のDREAM LIVE 2014 inさいたまスーパーアリーナを終えたばかりだったので「明治座という劇場はいかがでしょう」ということを、お聞きました。
今思えば愚問だったな、と思うのですが「特に意識しないし、変わらない」といったことをおっしゃって。
安西:あー、僕、そんなことを答えてましたか……あの、明治座さんがどうでもいい、とかではなく、敬意はもちろんあるんです。
ただ、劇場の広さや格式みたいなものには臆せず、場所に関わらず挑む姿は同じというか。
──その揺らがない、柱というか、奥底に在る、よすが、はなんでしょう。
安西:……動じない、というか、めっちゃダサいことを言うと、舞台上がとにかく愉しいんですよ。緊張はしますけど、いちばん自分が嘘を付かないというか、ものすごく正直にいられる場所なんです。
ある意味、どんな役を演っても、どんな言葉を吐いても怒られない、ものすごく気持ちのいい場所なんです。
──びっくりしました……演じる、ということは、与えられた役になる、ということで、本人そのものではありません。ですが、役に乗せる気持ちにまったく嘘がないから愉しくて気持ちいい、というのは、もう「演じていない」のでは? ともすれば、そこに「役」として存在している、というか……。
安西:うーん……だから、ホントにすごくダッサい持論を言うと「演技」と「お芝居」は明確に乖離していると思うんです。
もっと言うと「お芝居」ってその場所にいることで、「演技」はその場にいるために使う技法なんです。で、説明が難しいんですが、僕は演技が上手くないんです。そして、上手くなりたいと思ったことがなくて。ただ、この場所に在ることが大好きで、ひたすらに在ることを求め続けてるだけなんです。でも、結果、それが今、いろいろなご縁や機会に恵まれているんだと思います。
──すごく、おもしろいです。それは自己完結しているのでしょうか。他者の評価は必要ですか? 誰かの評価が次の仕事につながっていくわけで、そこは自信になったりは……。
安西:します。評価されたら、ものすごくうれしいですし。ただ、注目されたり、騒がれるのは……あまり好きではないです。
──人前に出る仕事を選んでいるのに?
安西:あー、今、間違えました。ええと、認知されることと人気が出ることは違う、というか……認知されるのが苦手なんです。
──どう違うのでしょう。
安西:認知って単に広く知られているだけの人、というイメージがあって。人気ってそういった広さよりも深さというか……信用されている感じがするんです。だから、広く知られること自体は意識しないというか、知られたらそれはそれでありがたいんでしょうけれど、それよりも信用されている存在でいたいんですよね。
──なるほど……では本作と関係ない質問を。今年出演した『TRUMP』シリーズ『COCOON 月の翳り星ひとつ』は愉しかったですか?
安西:えええ!……すっげえ質問をしてきますね……えーと……愉しいという前に、脚本と演出を手がけられた末満健一さんという方の創る世界が久しぶりだったので、稽古に入った当初は感覚が鈍っているな、お芝居のアプローチの仕方を少し忘れていたな、と感じました。
ただ、稽古場でほかの役者さんへの言葉を聞いたり、演出を見ているうちに取り戻して、追いつくことはできた……かな、と。正直に言うと体力的にはものすごくキツくて、舞台上で死ぬんじゃないか、と毎日、思ってました。でも、お話をいただいて、お受けしたからにはなにかを得たいし、得られると思ったし、実際に得ることができたので、大きな糧にはなりました。
──真摯な回答、ありがとうございます。当時、宮崎秋人さん、三津谷亮さんとの鼎談取材で「安西慎太郎がすごい、という話をいろいろなところから聞く」とか「最初の本読みからとにかくすごかった」という話がリアルに飛び出していて。
そういった評価が自身にとって無関係なのではなく、けれどプレッシャーでもなく、糧になったり自覚になったりしているといいな、と思ったので。
安西:あー……なってます。糧に。純粋にうれしいし。うん、そういうふうに面と向かって言われることを聞く機会があまりないので、そうなのか、と思いましたが、結果……出ているのかなあ。出せているならうれしいなあ……。
──普段、喜怒哀楽を表に出すタイプでしょうか。
安西:出します。というか、顔に出ちゃうし、言います。隠せないんで。
──確かに、素直な方だな、と感じます。2017年の『ゆく年く・る年冬の陣 師走明治座時代劇祭』で、ゲストに髑髏城の七人~Season月《下弦の月》出演中の廣瀬智紀さんがいらしたときに「いいなあ! 僕、劇団☆新感線さんに出たいです!!!」と全身全霊で叫んでいる姿がすごい本気で、わ、この人、正直だ! と驚いた記憶が。
安西:いや、本当に出たいんです。だから言います。劇団☆新感線さん、安西慎太郎を出してください!!
──言霊として書かせていただきます。
もっともっと芝居にハマってほしい
僕らの世代にはそれが足りない……と思う
──座長として心がけることはありますか?
安西:座長、ではあるんですが、みんなで作品を創る一員でありたいです。なので、ここぞというときに座長として引っ張る、みたいなことはあっても、みんな一緒でいたい、とは思っていて。
みんな平等、というか、もちろん先輩への敬意は持っていますが、年末の年越しで、年忘れのにぎやかな公演に向けて、まずはキャスト、スタッフ全員が「この作品はおもしろいんだ」と自分たちが思える空気を良くんと創り上げて、そこにみんなが乗ってくれたら、とてもいい舞台に向かっていけたらいいなと思います。
──ひとつ掘ります。具体的に「この作品はおもしろいんだ」とは、どういうことでしょうか。
安西:うーん……とね、ハマっている、というか。子どもにオモチャを渡したときに、ずっと飽きずに遊んでいる、あるいは本来とは異なる遊び方を始める……というのがすてきだと思うんです。
それと同じように、この作品から離れられない、目が離せない、観ているといろんな解釈が生まれる……みたいな作品が「おもしろい」んだと思うんですよね。
──お話を伺っていると「俳優になりたい」という職業的なことよりも「舞台上に居たい、この場所が大好きだ」という強い思いが、今に続いているように感じます。
安西:それはあるかもしれません。僕……実は、常々、思っているのが……あの、言葉を選ぶかもしれないんですが、同年代の俳優に足りないのがそういうことかもしれない……と思っていて……ちょっと、今日の取材とずれちゃうんですけれど。
──ぜひ、聞きたいです。
安西:いや、あの……先輩たちの向き合い方が全部正しい、とも思ってはいないんです、と前置きして。ただ先輩たちって、ものすごく役と遊んで、全力でおもしろがって、ふざけているんです。
──あの……麒麟役の加藤啓さんとか?
安西:あー……啓さん、すごいですよ! 今回、「ヒロインの役、頑張らなくっちゃ(ハート)」って言っていて(全員爆笑)。まあ……確かに麒麟は逸話の存在で、作中でみんなが求めるんですけれど、その解釈がすごいな、って思っていて。
だから……うーん……同年代の俳優もこういうふうにもっともっと没頭して、役を楽しんで楽しんで、ふざけ倒してやっていけたらいいのになあ、って思うときがあるんです。
──あの……無我夢中になれる、努力できる……ということは才能のひとつではないかと思います。
安西:そうでしょうか……仮に、一ヶ月後に100キロ走らなければならない、となったら、がむしゃらにがんばるじゃないですか。でも、その環境に置かれないとやれない、ではなくて、環境がなくてもできていたい……け、ど、そうじゃない人が多いというか、圧倒的にチャレンジャーが足りない……というか。
誤解を恐れず言ってしまうと、舞台出演の本数を増やせばお金は生むかもしれないけど、それだけ作品と関わる時間や深さが減るというか。もちろん、それでも深く関わることができる方は居るんだと思うんですが僕らはまだまだ掘り下げることが必要だし、それをしても許される世代だと思っていて。そこで掘り下げないと、ただ時間と作品だけが消費されていってしまって成長できないんじゃないかな、とか思っちゃうんですよね…………すみません……こんな話をしてしまって。
──いえ、とても興味深いです。むしろ、そこまで深く考えていることに感じ入ります。
安西:……だからやっぱり、もっともっとハマってほしいというか。みんな、お芝居が大好きなんですよ。それはビシビシ伝わるんです。でも、深くハマることができないでいることが、この世代の弱みだと思っていて。
──なぜでしょうね……。
安西:なんでだろう……。
──……これは私感というか仮説ですが、2.5次元の作品で活躍される方が増えて、オリジナル作品の役への没入感よりも既存の役の再現力が求められているから、とか? ……ああ、でも、そこにオリジナリティを乗せる方もおられますね。
安西:あー……僕、2.5次元の作品、すごく好きなんですよ。ともすれば「ハイクオリティのモノマネだろ」みたいな言われ方されちゃうこともあるんですけれど、決してそんなことはなくて、今、日本の文化を支えるひとつになっていると思っているんです。
なので「2.5次元」だけしか演らずに「僕、2.5次元の世界代表になります」みたいな存在が出てきてほしいし、そこまで突き抜けた同世代にも出てきてほしいんです。でも今って、どこか2.5次元に自信がないというか、ちょっと自虐が入っていることがあって。むしろ誇りに思ってほしいし、無我夢中になってほしいというか……。
──わかる、というとおこがましいですが、ひとつ言うと、2.5次元が歌舞伎のように様式美や作法が磨き抜かれた世界観を確立するまでにもう少し時間がかかると感じていて、今はその過渡期かと。
安西:そうだと思います。だから、いいと思っていて。今、役者のなかでも、お客さまのなかでも「演劇は敷居が高くて、2.5次元は敷居が低い」みたいな空気があると感じているので、そんなふうに育っていく2.5次元を入り口にして、演劇を知ってもらってどんどん観にきていただいて、垣根を外すことを一緒にしていきたいな、って思うんです。
──すてきです。そこを受けて、いち観客としてお伝えすると、外していっていただいていると感じます。俳優の方々の出演作を追いかけて、いろんなところに連れて行ってもらっていて、それは初めての劇場であり、初めての演目であり、初めて出会う感情でもある。なので、そういった場所にいる方が演劇界の将来について深く考えていてくださることが幸せです。今回、演出を手がける原田優一さんも同じように深く考えている方ではないかと、先日、お話をうかがい感じました。
安西:それは、僕も感じています。演劇っていろんな方向で楽しめることがいいですよね。だから原田さんの演出もすごく楽しみなんです。まだ、顔合わせでお話したくらいなので、間違っていたら申し訳ないんですが、例えて言うなら、キャベツの千切りがすごく巧い、みたいな……印象があって。
──どういうことでしょう?
安西:すごく丁寧というか、緻密に決して穴は作らない、みたいな印象があって。無駄を作らないというか、だから、楽しみであり、怖いですね。
──安西さんが「緊張する」とか「怖い」と言うことが珍しいので、今日はとてもおもしろく。改めて今から楽しみです。最後に一言、お願いします。
安西:まずひとつに、この公演を「演劇」として認めてもらえる作品にしたいです。もうひとつは、たくさんの年末シリーズがありますが、どれも楽しかったけど今回がいちばん楽しいな、って言われたい……です。まあ、これは毎回、出させていただくたびに思っていることですが。
あと、僕、今回の第二部の番外編「3.5次元舞台~日本の歴史~」はかつてないくらい真面目にやってます。あるアーティストさんのアルバムジャケットを見ながら鏡の前で角度を確かめたりしました。毎回思うのは、どの曲に対してもリスペクトを忘れない、ということだと思っていて。そこを大切にして臨みたいです。
安西慎太郎 あんざい・しんたろう
1993年12月16日生まれ、神奈川県出身。取材時、25歳。
高校三年生当時、映画『ギルバート・グレイプ』を観て、レオナルド・ディカプリオの演技に衝撃を受けてこの世界を志す。主な出演作にミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン、舞台『K』シリーズ、TRUMPシリーズ『COCOON 月の翳り星ひとつ』など2.5次元からストレートプレイまで幅広く活動。今年9月には舞台『絢爛とか爛漫とか』で3週間公演で主演を務めた。来年2月、初となる安西慎太郎 一人芝居 舞台「カプティウス」上演。
安西慎太郎staffツイッター @anzaistaff
公演情報
る・ひまわり✕明治座年末“祭”シリーズ番外編「明治座の変 麒麟にの・る」
2019年12月28日(土)~31日(火)明治座
第一部:芝居「麒麟にの・る」
第二部: 3.5次元舞台「LMS歌謡祭」
公式HP https://le-hen.jp/