る・ひまわり✕明治座年末“祭”シリーズ番外編「明治座の変 麒麟にの・る」初の明治座演出に挑む、原田優一の心

 

 年末恒例ともなった、る・ひまわりと明治座がタッグを組んで贈る、“祭”シリーズ。9年目を迎える今年、「番外編」と銘打って上演されるのは、る・ひまわり✕明治座年末“祭”シリーズ番外編「明治座の変 麒麟にの・る」。今回、演出を手がけるのは、俳優・原田優一さん。
 ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウスなどで帝国劇場に立つ一方で、小劇場やオリジナルミュージカルの出演、演出も手がけている自身の「演出家」としての顔をここにお届け。

 

取材・撮影/おーちようこ

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オファーをいただいたときに
3秒、考えました

 

──明治座の初演出ですが、オファーとのこと、おめでとうございます。 
原田:びっくりしました……ただ、前回まで演出を手がけていた板垣恭一さんが、この年末は別の作品に参加されているということは聞いていたので、公演があるかどうかはさておき「年末は空いてますよ……」ということはなんとなくお伝えしていたんです(笑)。ただ、まさか演出のお話をいただくとは思わなくて……。
──ご自身が演出された、ミュージカル界を代表する俳優の方々とのミュージカルレビュー「KAKAI 歌会」を舞台プロデューサーがご覧になったということです。
原田:わたしに!? と思いましたが、ありがたいことですね……。
──即答でしたか?
原田:はい! あ、いえ、3秒だけ考えました。
──その心は?
原田:どうしよう、できるかな、うんやろう、の3秒です。
──すてきです。発表になった当時、なんといっても帝国劇場に立った経験がある方が、演出を手がけることがとてもおもしろいな、と思いました。
原田:あー……あんまり言われたことはなかったのですが、確かに舞台上からの客席の景色や空気を知っている演出家は少ないかもしれません。
 僕は、最終的に舞台とはお客さまとの会話であり、キャストとお客さまとの一個の空間ができて完成だと思っていて。空気が動くとか、緩む、といった瞬間を感じることができる、さらにそれが自分の放ったアクションで起こせる……みたいなことは役者だからこそ知りうることで、その経験がある、ということは演出にとってはひとつ、強みかもしれません。
──劇場の空気を動かす、といったことを経験しているからこそできることがあるかと。
原田:板垣さんがよく「ヒントを与える」という言い方をされるんですが、観客に「ここは笑ってくださいね」といった見方を教える……というか、どう楽しんだらいいか伝えることが大切だということをおっしゃっていて、そうだなあ、と思うんです。
 舞台って本当にどこを観てもよくて、1か所をチョイスして観るのも、引いて観るのも自由です。でもだからこそ、そこも含めて一回り大きな視点で空間を動かす、この舞台はどういう作品で、どういう方向へ誘(いざな)うかを伝えるのが役者の仕事であり、それがおもしろさでもあるので、演出としても出演者としても楽しんで臨みたいと思っています。
──ただ、そんなふうに実際に劇場で空気が動くかどうか?は、稽古場ではわからないのでは……。
原田:そうなんですよね。でも料理と同じというか、この味とこの味をかけあわせたらこういう味になる、みたいなことは舞台でもあって。
 例えば、笑いに関して言うと、稽古場で初めてやったときには全員が笑い転げていたことがだんだんとやりすぎて稽古終わりには誰一人笑わない、みたいなことが起こるんです。でも経験上、これは絶対に笑ってもらえるし、お客さまはわかってくれる、キャッチしてくれる、っていうことは役者だからわかる、みたいなところがあるんです。
──なるほど。公演時間も長く出演者も多いなかで、どのようなプランをお考えでしょうか。
原田:今回、明治座さんの舞台機構を余すところ無く使わせていただきたいと考えています。
 これまで演出をやってきたなかでの自分の強みは、あらゆるものを使いながらもスピーディに観せるというか、歌とともに、この人が、今、どんな心で、なぜここに立っているのかを伝えることができる、ということだと思っているんです。
──そのなかで原田テイスト、みたいなものはありますか?
原田:あー……きっと、ありますね。今、ここで、これ、というものははっきりとは言えないんですけれど……ただ、すっきり観せたい人なんですね。でも、すっきりのなかに雑多があってもいいので、役者を自由に泳がせるところとそうでないところは明確だと思います。
 繰り返しになりますが舞台はどこを観てもいいんです。ただ、その視線を操(あやつ)るのが演出の力だと考えていて、思わず、え、今、どうなったの? わ、どうなったの? えっ、これって……と畳みかけることや、いろんなことを駆使して、観客にわくわくしてほしい。
──すてきです……! 私たちは劇場に踊らされに行くので。
原田:ですよね! だから、そこには応えたいです。好きなところを観ていただいて構わないんですが、その視線を操ってエンターテインメントとして、音楽や装置、キャラクターの魅力を伝えて、そこに役者の演技力が乗ってくれたら、それはもう確実にいい作品になるので、そこは目指したいところです。

 

斜め上とか攻めた方向から提出する役者と
己の引き出しをぼん!と開け、どばばば、と見せる役者

 

──主演のおふたりについて伺います。稽古に入る前ですが、こうしたい、といった思いがありましたら、お聞かせください。
原田:ストーリーではキャラクターがけっこう真反対な役なんです。で、役者・平野良と安西慎太郎を観たときに、表現の仕方も個性も異なることがそれぞれの役にすごくマッチしている感じがしていて、それがうまく出たらいいなと思っています。ただ、だからこそ実は逆パターンも観てみたいな……という夢もあったりします(笑)。
──では、言霊として書いておきます。
原田:はい。で、平野くんは初めて共演する機会があって気付いたんですが、ちょっと僕と似ていて、演出家が求めるものに対して、けっこう斜め上とか攻めた方向から提出するんですね。
 一方で安西くんはまず、自分の引き出しをぼん! と開けて、どばばば、って観せてくれる。どちらも潔(いさぎよ)い役者だと思うので、今回、初共演することで異なる方向に広がって、初めての姿を観ることができたらいいな、と思っています。
──役者ならではの視点がおもしろいです。他の共演者の方についてはいかがでしょうか。
原田:初めましての方も多いんですが、シリーズ常連で空気をわかっている方も多いので、そこはすごく助けていただけると安心しています。そういった方々のお力を借りながら初めましての方がどういうパフォーマンスを得意とされるかを知っていけたらいいなと思います。
──俳優が演出だと、出演者は稽古場で最初に自分の演技を見せるのは怖いかもしれません……。
原田:ああー、それはちょっとあるかもしれなくて。「どんなふうに演出されるんですか……?」みたいなことは良く聞かれます(笑)。でも僕はあまり、ああして、こうして、というタイプではなくて「今、こういう風に見えてるよ」って言うだけです。
──余計怖いです……!
原田:でも、優しく言いますよ(笑)。だって、単に「今、僕からはこう見えているけれど、あなたはそう思って演ってた?」って、すりあわせするだけだから。
──そこで「こうしてほしい」といった、演出家としての意向はあるのでしょうか。
原田:いや……待ちますね。役者自身が「こうしたい」みたいなものが出てくるまで、僕、結構待ちます。
──それは、やはり演じる側でもあるから……?
原田:そうかもしれません。僕、どっちかというと不器用なので、一発でやれることが少ないんですね。でも、演じるための準備はすごくするんです。なので、同じように役者が準備しているであろうことに対しては報(むく)いたいんです。
 だから「皆さん、出して、出して。僕、待つよ」って思うし、言います。それは、これまで僕が演出を受けてきてそういうのがいいな、と感じたからで、なによりも言われるんじゃなくて、自分で発見したことは忘れないですから。ただ、厳密に言うと舞台上で演じてみて初めて発見することもありますが、僕はそれはしません。
──稽古場で発見しておきたい?
原田:はい。……ときどき「今日も発見がありました。明日も新たに生きます」といったカーテンコールの挨拶を聞くことがあるんですが、いや、それは毎日、同じチケット代を払って来てくださるお客さまに対してどうなの? と思っちゃう
 とはいえ舞台はやっぱり生物(なまもの)だから、毎日同じことをやっていても、お客さまの反応や共演者の空気で変わっていくことはあるし、それが発見につながることもある……とは思うんです。でも、それはやっぱり準備万端で挑んでこそ、だから。
──確かに、めいっぱいまで作り込んでいった結果の日々の変化と、足りないものを日々、見つけての変化はまるで意味がちがいます。
原田:そうです。なので、割と僕は先に作り込めるように渡しちゃいます、全部。段取りつけるのは早いです。それで、役者自身が考える時間を作ります。
──とてもおもしろいです。ミュージカルにご出演されているということで、第一部のお芝居での歌の演出も気になります。
原田:僕自身も歌うので「この情感を歌いたい」というのもあるし「このシーンは歌にしたほうが伝わりやすいな」というのもあります。
 今回、粟根まことさんがいらしてくださることでバリッと引き締まると思うし、粟根さんの歌も聴きたいし、椿鬼奴さんにも歌っていただきたいな、とも考えています。第二部の3.5次元舞台「LMS歌謡祭」のユニットや構成にも関わるので、これからいろいろ相談して進めたいです。
──今のお話で、ミュージカル初心者として教えを請うても良いでしょうか?
原田:はい、なんなりと。
──「歌にしたほうが伝わりやすい」とは?
原田:まず、ひとつに曲が流れると時間の流れが変わるんです。過去にも未来にもタイムスリップができるし、出会いから別れをストレートプレイなら30分かかるところが歌なら一曲で込められるという時短ができます。このシーンでなにを言いたいかを端的に伝えることができるし、メロディに乗せて一気に感情を高めることもできるんです。
 ただ、歌を入れるということは武器にもなるけれど、一方で足枷になることもあって、3分の曲が、30分もの長さを感じさせてしまうこともある。だから「歌」は特別なものではなく、僕にとってはひとつのツールです。だから、そこに関しては大切に注意を払って使います。
──ひょっとして作中に歌を入れるって、実はものすごく……?
原田:はい。難しいんです。
──お話を伺って、ますます楽しみになりました。実は、このシリーズで初めて明治座で観劇した方が多いと感じていて。それまでは格式のある劇場で、少々敷居が高かったのではないかと……それが、作品が続くことで身近で楽しい場所になり、ときには舞台の楽しみ方みたいなものも教わっている印象があります。そこで10周年を前に、新たな演出家の方が生まれることを目撃できるのは幸せなことだと感じています……と語ってしまいました。最後に演出家として、一言、お願いいたします。
原田:最初はコンサートの演出から、だんだんと物語のある作品を手がけるようになって今回の機会をいただきました。それまでは小劇場といった、ある意味、人力による見せ方が自分の得意なことだと思っていましたが、今回は大がかりな機構を使わせていただき人数も多くなります。ですが、お客さまに共感していただき、心が動いてしまうことを大切にするのは変わりません。
 史実を元にした作品なので結末は広く知られています。でも実は……という部分で、登場する者の温かさや人間味を大切に、なぜ、ここにいて、こんなことをしたのか。それぞれの思惑や、願いみたいなものを描くことで最終的には、お客さまが共感してくださる……というところに着地したいと思っています。
──もうひとつ、出演者としても一言、お願いします。なぜか徳川家康とルイス・フロイスの二役、演じられることに……。
原田:そうなんです! ことに徳川家康は冒頭から出演するオープニングアクトとして皆さまを乗せる空気を創る、という役なので、「がんばれっ、原田!」って思ってます。

 

原田優一 はらだ・ゆういち

1982年9月1日、埼玉県生まれ 
子役から活動を始め、NHK大河ドラマやミュージカル『レ・ミゼラブル』、『サウンド・オブ・ミュージック』等に出演。その後、『ベガーズ・オペラ』や『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス役、マリウス役、『ミス・サイゴン』クリス役、『マリー・アントワネット』ルイ16世役等ミュージカルを中心に出演している。る・ひまわり×明治座“祭”シリーズは4回の出演。演出は『KAKAI歌会』シリーズやオフブロードウェイ・ミュージカル『bare』などを手掛ける。

原田優一ツイッター @yuchan_yuchan_

公演情報

る・ひまわり✕明治座年末“祭”シリーズ番外編「明治座の変 麒麟にの・る」

2019年12月28日(土)~31日(火)明治座
第一部:芝居「麒麟にの・る」
第二部: 3.5次元舞台「LMS歌謡祭」
公式HP https://le-hen.jp/

 

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