彼は、なに、に囚われていたのだろうか──安西慎太郎一人芝居「カプティウス」レビュー

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 しん、とした空間の中、安西慎太郎監修による前説が流れる。「これが終わったら、舞台が始まります」やがて、静かに暗転。
 描かれたのは太宰治の「人間失格」を底本とした、ある男の物語。読み進めていた小説の最後につづられた「人間失格」という言葉に激しく心動かされた男は、自身の半生を振り返り、果たして「人間失格」とはなんぞや? と、あがいてあがいてあがき抜く、85分間の葛藤と絶望と希望のめくるめく「演劇」だった──。 
 取材を通して知る限り「安西慎太郎」という俳優は礼儀正しく、穏やかな人である、普段は。ただ「演じる」という場面ではぐるり、と人格が変わる……あえて、言葉にすれば「正しく気が狂っている」である(褒めています)。その正体を余すこと無く晒したのが、初の一人芝居「カプティウス(囚人)」であったと、改めて思う。
 一人芝居と言いながらも、決して一人ではない。脚本と演出を手がけるのは下平慶祐。海外で演劇を学び、自身のオリジナルメソッドをいつか、自身の代で叶わずとも将来の日本演劇のスタンダードへと高めたいと願う若き演出家だ。 
 そんなふたりが選んだ空間は、高田馬場ラビネスト。客席数、およそ100にも満たない劇場は、並べられた椅子と演者が立つステージとの距離は、ほぼ0。そんな濃密な空間で、安西慎太郎は一人、現れた。
 彼が頭に叩き込んだ文字数は35,000文字。これがどのくらい凄まじいかと言うと、おそらく世にある一人芝居の約2倍。出演者が複数いる、ストレートプレイ1本分並の文字数だ。とんでもない。けれど、それをやってのけてしまうのが安西慎太郎であり、それをやってくれるだろうと託したのが下平慶祐なのである。
 暗転が明け、まばゆい光の中、静かに登場した男は、人間を失格する、ということはどういうことかを、己に問い始める。最初は静かに、徐々に苛烈に。やがて狂気に。モノクロの衣裳と煌々と照らされる真四角の舞台の中、たった一つのスツールをがたがたと動かしながら、己の半生を、恥を、傲慢さを、後悔を、赤裸々に吐き散らかす。ほとばしる言葉が痛い、哀しい、嬉しい、辛い、苦しい。言語が通じる、ということすらぶっ飛ばして感情があふれ、奔流となり、叩きつけられる。なんだ、これは? と理解するまもなく引きずり込まれる。
 男は己の心情を吐くだけ吐いて、吐きつくし、最後の最後の、いちばん最後に、とうとう心の奥底に厳重に仕舞い込んでいた想いを吐露する。
 「生きてください!」
 ああ、これは彼らなりの人生讃歌なのかもしれない……。 
 毎回終演後のトークでは、安西慎太郎と関わりの深いゲストが登場。なかでも、今、自身が「いちばん演出してほしい存在」と明かしたスズカツこと鈴木勝秀が登壇した日。
 鈴木は「若いときほど、一人芝居に挑戦したほうがいい。観ることができてよかった」と語り、観客に向け、断言した。
「今日、ここにいる観客は将来、安西慎太郎という役者が、たとえばハリウッドに進出したときに、この高田馬場の公演を観た、と誇っていい。それくらい価値がある公演だ」
 まさに。大きく頷くとともに、けれど正直に告白すると未だに、なにを観せられたのか、この原稿を書いている今もまだ、己の内で消化する途中でいる。けれど、飲み込み、ゆっくりと咀嚼し、余韻を味わうところまでが、彼らが目指した「演劇」ではないだろうか。そして、また板の上にいる安西慎太郎を観に行きたくなってしまうにちがいない──と、ここまで書いてふと思う。囚われたのは観客の方かもしれない、と。

撮影・文/おーちようこ

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最善席 安西慎太郎・下平慶祐 特別対談
安西慎太郎一人芝居「カプティウス」稽古場取材で明かされたことhttps://saizenseki.com/oochi/20200217/

安西慎太郎一人芝居「カプティウス」
https://captivus.jimdofree.com/

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