安西慎太郎一人芝居「カプティウス」稽古場取材で明かされたこと

 ある日の都内スタジオ。そこではあまりにも真摯な稽古が繰り広げられていた──俳優・安西慎太郎が、盟友として組んだのは、脚本家で演出家の下平慶祐。「カプティウス」(囚人)と名付けられた作品を通して、果たしてふたりはどこに向かっているのだろう。

撮影・文:おーちようこ

20200217

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「まずは一幕の終わりまでいくよ。何かあったら止めるけど、特になければ、そのまま通します」
 脚本と演出を手がける下平慶祐さんの静かな声が稽古場の空間に響く。真ん中には一脚のイス。
 その周りを巡りながら、初の一人芝居に挑む安西慎太郎さんがとつとつと、あるいは傲慢にときに囁くように台詞を放つ。真っ黒な衣裳、異様なまでに長い言葉の羅列が、色をなし、形となり、意味を持つ。くるくると表情を変え、いろいろな“安西慎太郎”が現れては増殖していく……これは、なんだ?
 一幕を終え、下平さんがところどこでメモを取った内容をていねいに伝える。床にぺたり、と座り込んで、頷きなら、ひとつ、ひとつ、脚本に書き込んでいく安西さん。たとえば、放たれた台詞を、単語の通りの意味ではなく、隠された暗喩を感じさせるためには、どんなニュアンスで、テンションで言うべきか──台詞通りではない感情、動き通りではない感情、まるで言葉と動きと表情と、そこに宿る感情をばらばらに解体して、組み立てていく繰り返しだ。
 稽古風景の撮影後、頭に浮かんだたくさんの「?」を解くべく、二人にお話を伺った。

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安西慎太郎と下平慶祐は、出会ってしまった

──公演前なので詳細は控えますが、安西さんの動きに対して下平さんが細かく演出をつけていました。
 そこで浮かんだのは、この「動き」を創っているのは演出なのか、役者なのか、という疑問です。
下平:これは僕から説明したほうがいいと思うので答えると、主人公が持つ、ある種の病(やまい)によって生じてしまう身体的な動きと僕が演劇的に美しいと思う動きを付けています。今回は全方位に観客がいますが、そういった視線を意識せずに「居てもらう」ことに集中してもらっています。
──それを受けて驚くとともに、なんという難しいことを……と感じ入っています。というのも稽古を拝見していて、台詞に乗せられた感情と表情や身体の動きがばらばらな印象があったからです。
安西:そうですね。今回は特に台詞通りの感情とは異なる動きであったり、むしろ動きが心を表すような一瞬だらけです。病から発してしまう、ある意味、壊れている人の生理的な動きとほとばしる感情を乖離させて、思いを吐露するというか……だから、とてつもなく難しいです。
──台詞も恐ろしく多いです。
安西:そうなんです。最初の脚本をメールでもらったのが電車の中だったんです。だから軽く目を通そうとしたら……10Pくらい読んだところで、うわあ……ってなっちゃった。それは単に量が多いとか、これを覚えなくてはならない、ということよりも、すごい質量があるというか、
──太宰治の「人間失格」を底本とした一人舞台です。
下平:文学って、この世界に生まれてから長い時間、読みつがれている物語だから、そこに込められた意味は現代でも通じると考えていて。だから、ずっと文学作品を題材に創っていました。
 ただ、それを僕が考える演出で舞台にしたい……と、思ったときに、果たして体現できる役者がこの世に存在するのかな……と思っていたんです。でも、居た。安西慎太郎、という役者に出会ってしまったんです。

互いが「演劇を一緒にやりたい」と願いました

──その出会いについて伺います。
安西:僕が出演した、る・ひまわりさんの舞台『僕のリヴァ・る』で演出助手をしていました。
──お互いの第一印象は?
下平:僕は2.5次元作品に詳しくなかったんですが、それでも、すごく輝いた存在だということがわかったし、それこそ雲の上じゃないけど……ある意味、目標となった存在でした。
安西:僕は……あの、ちょっと嫌なことを言っていい?
下平:いいよ。
安西:垢抜けない青年でした。ごく普通で、稽古場で一言二言、交わすことはあったけど人間性もよくわからなくて。でも、後から、あのときもっと話しておけばよかった、と思う出来事があったんです。
──どういったことでしょう。
安西:彼の主宰する舞台に当時の事務所の後輩が出演していて、観る機会があったんです。そのときの題材が『星の王子さま』で、観客も巻き込んでの創り方や演出がすごくおもしろくて、終演後に初めて一緒にご飯を食べて、演劇だけでなくいろんな話をするうちに、あれ、ものすごく価値観が近いんじゃないか……と感じました。
 そこで初めて、“下平慶祐”という人間を個として意識したというか……それからですね。それまでずっと敬語だったのが、一気に距離が縮まったんです。その後も主宰する劇団の公演を観に行ったりしてました。
下平:でも僕はまだ、自分の劇団に客演してほしい、とは言えなかった。むしろ、どうしたら隣に並ぶことができるだろう、彼と同じ場所で演劇を創ることができるだろう……と、そればかりを考えていました。
──それで機会が訪れた?
安西:そうですね。僕がフリーで活動することになってからも、いろんな話をしていて、ますます、「演劇」というものを続けていくなかで、いつか一緒に演劇を創りたい、と思うようになりました。
下平:僕自身も応えられるかどうか、ではなく、“安西慎太郎”という役者が演劇を続けるなら、応えるんだ、という覚悟が生まれていったという感じです。
──すてきです。
安西:だから、一緒にやろう、って決めて。やるからには、応援してくださっている方々に感謝を返すには何がいちばん良いだろうと散々話し合って。
下平:ファンイベントという案も出たんですが、やっぱり演劇だろうと、安西慎太郎の「一人芝居」にこだわりたくて、と僕が譲りませんでした。

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応えてくれるから要望が止まらない

──実際に一緒に創り始めていかがでしょうか。
安西:……難しいですが、ものすごくおもしろいです。
下平:それでも、どんどん応えてくれるから次から次へと求めてしまっています。だから演出していても止まらないんです。
──お話を伺っていると、常々、演劇は総合芸術だと思っているので、安西慎太郎さんの一人芝居ではありますが、決して独りではない、と感じます。
下平:僕は総合芸術だとしても、足し算ではなく掛け算だと思っています。なぜなら最初の一人となる安西慎太郎がゼロならば、いくら大きな数を掛けてもゼロだから。足し算は仮に安西慎太郎がゼロでも合計は増えていくけれど、ゼロはずっとそのままだから。
──確かに……!
安西:そんなふうに思ってもらえることがうれしい。
下平:もっと言うなら、だいそれたことを言うかも知れないけれど演劇の国産メソッドを生み出したい。日本の演劇の教科書を創るところまで行きたいんです。
安西:もともと高みを目指していたのは知っていたけど、そんなことまで考えていたとは……今日、初めて知ったよ(笑)。
下平:初めて言ったね(笑)。
安西:でも、確かに、今の僕らの世代では無理かもしれないけれど……。
下平:ずっとずっと先、何百年も経った先で、僕らが始めたことが実を結んだらいいなと。ものすごく変わったことをしているという自覚もあるんだけれど。
安西:うん。それはある。でも、今、想像以上に、道を創っているんだ……とも思う。
下平:それはやっぱり、今も未来も、お客さまをとことん楽しませたいからで。
安西:ああ、それはある! 今回、主題歌とPVを創ったのも、この舞台に連なる作品世界を思いっきり堪能してほしいからで、僕自身がすべてに関わっていますが、ある意味、カンパニーなんです。
下平:幸せなことに志を同じくしてくれる人たちが集まっていてくれました。
安西:だからこそ全力を尽くしたいし、尽くすべきだし、そういったことが、実は人間が生きていくために必要だと感じているんです
──今日はたくさんの想いをありがとうございます。最後にひと言、お願いします。
安西:何年かに1回……または1年に一回……何か作りたいなと、やれたらなと……目指したいなと。
下平:やらなかったら、怒るよ。
安西:笑笑。魂使って作りました。これが僕らの第一歩なので見届けてください。

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安西慎太郎 一人芝居「カプティウス」
https://captivus.jimdofree.com/

2020年2月18日−2月23日(日)
高田馬場ラビネスト

脚本・演出 : 下平慶祐
底本:太宰治「人間失格」
出演:安西慎太郎

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