タクフェス第4弾公演『歌姫』黒羽麻璃央インタビュー|Theater letter 07

タクフェス第4弾公演『歌姫』レビュー

 

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 そこは、古びた映画館「オリオン座」のエントランス。土佐の漁場町にひっそりと佇む、この劇場は閉館の日を迎えていた。最後の上演作は1960年代に撮られた『歌姫』。この映画を観ようとはるばるやってきたのは小泉ひばりとその息子、旭。他界した父・勇一が最期に観たがっていた作品が上演されると知り、遠路はるばる訪れたのだ。
 なぜ、最後の上演が『歌姫』なのか──それが、この映画館の持ち主、松中鈴の遺言だったと知った、ひばりは父が、この劇場と関わりがあったのではないかと思う。

 やがて、最後の上映は幕を開ける。
 映画の舞台は昭和30年代。戦後、高度成長期で活気あふれる時代の、オリオン座。黒羽麻璃央が演じるのは、とある理由から夏休みにお遍路さんとして各地を回る、文学部の大学生・神宮寺くん。休憩に誘われて立ち寄ったこの劇場で、戦争で己の記憶を失ったまま従業員として働く四万十太郎と意気投合する。
 結果、夏休みの間、近くの民宿で働きながら映画館に通いつめ、『エデンの東』のジェームス・ディーンに魅せられて、髪型や衣装を真似ていつしか「ジェームス」と呼ばれるように。

 描かれるのは、人々の日々の営み。
 太郎を想う、館長の次女・鈴の健気さといじらしさが愛らしく。
 けれど、まったく気付く気配のない、太郎。
 そんな彼らをあたたかく見守る、両親。
 出産を控え帰省している姉夫婦に町の人々は今日も、にぎやかだ。
 そんななか、太郎の態度をもどかしく思うジェームスは、ともすれば唯一の理解者だったかもしれない……果たして、鈴の恋心は届くのか。

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 泣いて、笑って、笑って、泣いて、すべてが明かされた後、この物語を振り返ると……そこにはまた、ちがった景色が見えてくる。

 タクフェス第4弾公演『歌姫』は現在、大阪、札幌、東京公演を終了。この後、福岡、仙台と巡り、11月3日に新潟公演で千秋楽を迎える。

公式サイト:タクフェス第4弾公演『歌姫』

 

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黒羽麻璃央インタビュー

本公演で、ストレートプレイに挑戦した、黒羽麻璃央さん。
東京公演初日公開稽古後に、舞台の上で過ごす「日常」について、お話を伺いました。

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──会話劇で、自然体でいる演技に挑戦されています。ときにシリアス、あるいはコミカルにさまざまな表情を見せていただいて。
黒羽:改めて、お芝居の基盤みたいなものを学んでいると思っています。これまで、2.5次元といった、初めに「キャラクターありき」という役を演ってきたので、新しく得ることがたくさんありました。
──どんなことでしょう。
黒羽:特に稽古中、ずっと言われていたのは「生身の人間がそこにいたら、どう思うの?」ということです。いちばん驚いたのは「台本を進めるな」ということです……なんと言うのかな……確かに台本には次の台詞が書いてあるけど、それはあくまでも相手の言葉を受けて発せられるものであって、どこでそう思い、動くか、という。発見、認識、理解、行動と、それを身体で見せていくものであって、そこに書いてあるからと言って字面でお芝居するな、と。
──そこで伺いますが、毎回、神宮寺くんが告白した女性を太郎さんが根掘り葉掘り聞くというくだりがあります……丁々発止なやりとりが実に愉快なのですが、これは……。
黒羽:即興か、どうか? ですか(笑)。それは観ていただいた方の感想に託します。でも、たまに突然、ぶっこまれることもあるので、すごく学ばせてもらっています。
──その場面も含めて、作・演出・出演の宅間孝行さん演じる四万十太郎との絡みがいちばん多い役でもあります。
黒羽:そうですね。宅間さんとの場面、めっちゃ多いですね……なので影響、受けまくりです。それに、今更なんですが、この舞台の稽古で言われたことが、ああ、こういうことなんだなあ、と舞台の上で突然にわかる瞬間があったりして。遅いんですけどね(笑)。
──そうして、日々、変わっていくことが舞台という生の空間の醍醐味でもあるかと。
黒羽:はい。毎日、すごく、楽しいです。皆さん、いい先輩方ですごく良くしていただいて。いい環境に居させてもらっています。
──最後の場面も、思わず泣けます。
黒羽:あそこは丸ごと託してもらっていますね。気持ち一本勝負、と言われていて。「ジェームス、読んでくれ」って言われてから先は、あまり稽古をしなかったんです。それは僕だけでなく、全員が、毎回、新鮮な気持ちで演ることを大切にしているからなんですが。
──新鮮、といえば、日々、発見はありますか?
黒羽:客席に男性の方が多い舞台というのが珍しくて、新鮮です。同性に拍手をいただけることがなんか、うれしいです。
 それから、発見というか、心を大切にしているということを教わりました。たとえば「哀しい」という気持ちを伝えるときに、ただ泣けばいいのではなく、その前に、「なぜ、泣くのか?」を見せる。たとえば、ぐっと、こらえて、楽しいことがあったから、それを思い出して涙がこぼれるといったように、その裏側にある心を見せることが演じる、ということなんだと。
──心を見せる。
黒羽:そうです。俺、つい「形」で演ってしまいがちで。これまでが、どちらかといえば、カッコよく構えるとか、動くといったことを求められることが多かったから。今、改めて、その「形」にどう心を込めて行くのか? と毎日、考えて、積み重ねているところです。
──とてもすてきな経験をされています。
黒羽:はい。この先にまた「形」に重きを置く役を演じるときに、そこに、より深く心を込められたら、もっといろんなことを観ている人に届けられるかな、と。
──それだけに、よりたくさんの方に観ていただきたい舞台です。以前、お話を伺ったときにミュージカル『刀剣乱舞』当時、キャラから創るのではなく、自身の内から役を創る、ということを学んだと語っていました。
黒羽:それを今回、まさに実践して、体感している感じです。なので、この次の舞台がどんな作品になるのかはわかりませんが、そこで活かすことができたら……もっと、すごい……あー、でも、自分で言うのはちがうか……。
──いえ、きっと、糧になっているかと。
黒羽:はい……幅が広がっていると信じたいし、その姿を見せたいですね。この先、それを活かすも殺すも自分次第なので、心して臨みます。まずはこのタクフェス第4回公演『歌姫』がまだ続いていくので、千秋楽までジェームスこと神宮寺くんを演りきります。
──ありがとうございました。

 

東京初日公開稽古終演後、ロビーにて収録。 撮影・取材/おーちようこ

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