漫画×俳優の熱演が贈る『アクターズコミック』とは? 演者であり演出も手がける天羽尚吾ロングインタビュー!

 自身の世界観を大切に、舞台『弱虫ペダル』シリーズを始め、独自の存在感を放つ俳優の天羽尚吾さんが届けるのは、自ら演出と出演を果たす大好きな漫画の世界。

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Photographer:宮本七生
Hair and makeup:成谷充未
Stylist:Ryouske Ootomo

 

 主宰するのは『アクターズコミック』──「漫画に声をあててアニメーションのようにコマを動かすボイスコミックと俳優が演技する様子の映像を掛け合わせた新感覚の動画コンテンツ」(公式サイトより)。少人数、かつビデオリハーサル実施、単独収録といった新生活様式を織り込み制作されるメディアミックスは観て楽しく、聴いて心地いい新たなコンテンツだ。
 2020年7月に第1弾を配信。好評に付き、第2弾配信も決定! 主宰者として、演者として、「今」の想いを伺いました。

取材・文/おーちようこ

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「作品」を届けたい
その思いだけで進みました

──「アクターズコミック」はどのように生まれたのでしょうか?

天羽:もともと動画制作をやりたいと考えていました。それもトーク配信といったことではなく「作品」を届けたくて「自分ができること」を探していたんです。そのうちに自粛期間に入り、家にいる時間が増えて声を出す機会が減ったこともあって、好きな漫画を演じるように感情を入れて読んでいたんです。それで、漫画と演技が掛け合いする世界を創れないか? と考えました。 
 すでに朗読劇や無観客の演劇配信はいろいろ始まっていましたし、そこまで大掛かりではなく個人でできる範囲で、短くて手軽に楽しめるものがいいな、と思って動き出しました。そこで、まずは読みたい作品の候補を出して、出版社に問合せました。「アクターズコミック」という名前はそのときにひと目で内容がわかるよう付けました。

──おひとりで、ですか?

天羽:はい。読んでみたいな、と思う漫画の出版社の連絡先を調べて、「アクターズコミック」の説明をしました。でも、今までそんなことをしたことがなかったので失礼がないかとかどきどきしながら、電話したり、メールで問合せたりして。言葉で説明するだけでは内容をわかってもらえないだろうと思って、自分ひとりで演じた動画を作ったりもしました。

──すごい行動力です!

天羽:出演作が次々と上演中止になっていくなかで、なにかやりたい……待っていてくれる人がいるなら届けたい、という気持ちが強くて、手探りながらも動いていました。今思えば、それが自分の支えにもなっていたようにも感じます。
 漫画の許諾とともに一緒に出演してくれる俳優も探していて……ただ、これも初めてのことだったので、どういう形で依頼したらいいのか迷って、結局、自粛中でも連絡が取れて気心が知れた仲間に「こういうことをやりたいんだけど」と相談して、正式にオファーしました。
 
──2020年7月に『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』(ミナモトカズキ 著)『幽子さんは見られたい』(若林稔弥 著)、『普通の恋愛』(直正也 著)と第一弾となる三作を配信。ご自身が舞台で共演されている、小西成弥さんと八島諒さんが出演しています。

天羽:『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』を第一作目にしたのは、声を出して演じるからには会話中心で、ドラマティックなほうがいいな、と思ったからです。登場人物も同人作家とアイドルという極端な存在だったので、ふたりとも「おもしろそう!」と言ってくれて、すごい熱で演じてくれました。まったく未知なところで快諾してくれたことには今でも感謝しています。
 朗読の演出に収録方法、撮った映像と漫画のコマをどう構成するか? といったすべてが初めてでしたが、出演者はzoomで顔合わせ、ビデオリハーサルを行い、収録は俳優個別に僕がカメラを回しました。新生活様式にあわせて進めたことで、ひとつのフォーマットを作ることができたと感じています。
 
──さらに収録を終えてのインタビュー動画も楽しめます。

天羽:演じている姿とは別に素の姿も届けたくて、お願いしました。自分でやっているからこそ、いいなと思うことをどんどん取り入れていけました。

──制作の一方で、2020年4月に立ち上がった「舞台芸術を未来に繋ぐ基金」(以下みらい基金)の支援申請とこちらも積極的に行動しています。私は賛同人のひとりだったので、採択者のなかに天羽さんの名前を見つけて驚きました。結果、みらい基金の動画番組(MiraiCHANNEL:基金解説書〜第1回助成採択者編①)に出演していただくという機会にも恵まれました。

天羽:採択していただけてありがたかったです。動き出したときに「みらい基金」の存在を知り、もしも助けていただけるなら……と思って申請しました。なので支援決定の連絡をいただき、小さいながらも僕の活動が認められたことが、とても力になりました。いただいた支援金は機材購入や収録スタジオのレンタル料、キャストの出演料といったものに大切に使わせていただきました。

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演技も演出もすべて同じく
「生み出す」ことだから

──お話を伺うと、企画立ち上げからオファー、脚本執筆、演出、出演、編集とすべてを手掛けていますが、もともと、そういった経験があるのでしょうか。

天羽:実は僕、高校時代に仲間とミュージカルを作って上演していたんです。ムッシュ・ド・パリ(パリの死刑執行人)を題材にした『Cicatrice 終奏への布石という作品のダイジェストムービーが今も残っていますが、これが初の脚本で演出です。

──高校とのことですが本格的な舞台で、脚本、演出と作曲、さらに出演もしています! どういったキッカケでこの世界を目指すことになったのでしょう。

天羽:僕はよく覚えていないんですが、4歳のときに近所のダンス教室の窓越しにみんなが踊る姿を見て「やりたい!」と言ったらしく……それで通わせてもらったことが最初です。踊ることが楽しくて、ピアノも習っていたので音楽にも触れるようになって、演技することも学び、演出にも興味が湧きました。
 でも、まずは演技が先だな、と思っていたんですが、通っていた高校が創作活動に熱心で生徒の発表会みたいな機会があって。なら、やってみよう、と思いたって、在学中に3本作って上演しました。そこで、自分の手で世界を創る魅力を知ってしまったんですね……だから、いつかリメイクして上演したい。改めて「アクターズコミック」を立ち上げて実感していますが、僕は「生み出す」ことが好きなんです。演じることも、演出することも、構成を考えることも、使っている自分のパーツがちがうだけで、すべて同じ、と思うようになりました。

──自分のパーツがちがう、とは?

天羽:役を演じるときは作品全体に対しての目線は持たず、自分の心身を演出するという感じです。全体については演出家が見るものなので、どう在ったらいいのか、どう動かしたらいいのか……ということを考えます。頭を使うときと心と身体を使うときがあるけれど、どちらも創作だな、と。

──演じる話でいうと、なかでも2016年の舞台『弱虫ペダル』 総北新世代始動から出演されている京都伏見高校一年生の岸神小鞠が鮮烈でした。

天羽:シリーズを通して出演させていただいたこともあり、学ぶことがたくさんあった作品で、西田シャトナーさんの考え方がものすごく心に響いた作品でもあります。
 2013年にシャトナーさん原作の『ソラオの世界』に出演し、その独創的で熱のある世界観に圧倒されていました。ですが、舞台『弱虫ペダル』では、また新たな発想に触れたんです。

──どういったことでしょう。

天羽:原作の解釈についてです。役を演じる上で、僕らは実在する選手だと考えてほしい、渡辺航先生が描かれる『弱虫ペダル』は「先生が、実在する選手たちのレースを観戦して描いた世界だ」と思ってほしい、と言われて驚きました。
 先生の目を通した漫画から、どんなレースだったのかを想像してほしい。原作にない部分を創れ、ということではなく、紐解くことで役を広げてほしいと言われて衝撃を受けました。
 
──おもしろいです!

天羽:だから、漫画の小鞠は筋肉に執着が強くてフェチっぽく描かれていますが、外からそう見えているだけなんだと考えて演じていました。ひたすらに真っ直ぐに先輩である御堂筋翔への尊敬や筋肉に対する愛情、小鞠の揺らがない美意識といったものを見せたかった。だからシリーズを重ねるごとに、共演者の方々が「だんだんと小鞠が綺麗に見えてきた」って言ってくれて、志していたことが届いたのかな、って、とてもうれしかったです。
 常に心がけているのは、哀しい台詞を言うときに哀しそうな演技をするのではなく、なぜ哀しいのか? その理由を心に置くことで哀しみがあふれて、観る人に伝わる……といったことなんです。

──伝わる、というお話を受けて、2015年のミュージカル『八犬伝―東方八犬異聞―』の村雨が好きです。主人公・犬塚信乃の右腕に宿る伝説の妖刀で、外に放たれるときはカラスの姿でカタコトで話す、という役でしたが、黒い衣裳で舞うように動く姿が妖しくて美しくて、ひとり異なる空間がありました。

天羽:ありがとうございます……! 村雨はコンテンポラリーダンスを習っていたご縁で、光栄なことに「この役を演ってほしい」と声をかけていただきました。毎公演、人間の姿で登場する僕が動きや気配だけでどこまで表現できるのか……といったことに挑めた貴重な時間でした。
 このときも役を演じると同時に自分の心身で、この舞台のためだけの村雨を生み出している、という感覚がとても気持ちよかったんです。

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──現在、同じ思いで生み出された「アクターズコミック」第二弾が配信されています。

天羽:ありがたいことに第一弾が好評で続編を作ることができました。今回、大きかったのは先輩である鯨井康介さんにオファーして、ご出演していただけたことです。

──『ハッピーエンドアパートメント』(えすとえむ 著)で、小説家志望のルカ(小西成弥)と一緒に暮らすことになったFM局のDJ、ハビ(鯨井康介)との出会いが繰り広げられますが……無精髭の鯨井さんが実に魅力的でした。

天羽:そうなんです……! あんなにすてきに演じていただき、大きなものを受け取ったと思っています。編集していても思わずドキッとする瞬間があって、ああ、この一瞬の顔と声を届けたい……とわくわくしました。先輩で年上なので、収録のとき、ずっと緊張していたんです。でも、とても真摯に向き合ってくださって。「気にせず言ってこいよ!」と空気を作ってくれて、臆せずぶつかることができました。
 第二弾ということもあっていろいろとバージョンアップもしています。ヘアメイクさんを入れ、カメラワークも凝って、カット割りを工夫して、と思い描くことと実現できることの焦点があっていって、作るたびにピッタリくる感じがしています。

──最後に一言、お願いします。

天羽:今、この瞬間もとても苦しいときがあるし、不安にかられてしまうこともあります。でも、沈んでいるよりも届ける場を創ることのほうがずっといい。相変わらず全部、自分でやっているので大変ではあるんですけれどね(笑)。でも、今だから……いえ、むしろ、今しかできないことをやれていると感じています。
 応援していてくださる方々には、生身の姿をお届けするのはもう少し先になると思いますが「アクターズコミック」を楽しんでいただけたら幸せです。この記事で知ってくださった方は、ぜひ、気になる作品から観ていただけたら。このコンテンツを一緒に育ててほしいので「この作品を取り上げてほしい」、「この方に出てほしい」といったリクエストをお待ちしています。そして、出版社の方からの「こんな漫画があるんだけれど」というご連絡も大歓迎です……! 漫画のおもしろさの新しい届け方で、俳優の熱演とともにひとつの作品として届けているので、この機会にひとりでも多くの方に触れてほしいです。

天羽尚吾 あもう・しょうご
公式サイト http://amoshogo.com/
ツイッター @AmoShogo

アクターズコミック 公式サイト ◎チャンネル登録お願いします!
ツイッター @actorscomics 
連絡先 actorscomics@gmail.com

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2020年12月18日より第二弾配信中

ハッピーエンドアパートメント』(えすとえむ/リブレ)
繊細な描線でシネマティックな漫画を生みだす巨匠・えすとえむが描くオムニバスストーリー

出演 小西成弥✕鯨井康介

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#神奈川に住んでるエルフ』(鎧田/マイクロマガジン社)
神奈川あるある×現代ファンタジーの異色コラボレーションがSNSで大反響!

百瀬朔✕天羽尚吾✕杉山真宏(JB アナザーズ)

saizenseki20210130神奈川に住んでるエルフ情報解禁

マオの寄宿學校』(安斎かりん/白泉社)
「花とゆめ」の伝統が詰まった大人気作品、寄宿舎生活の青春グラフィティ!

出演 廣野凌大✕小西成弥✕天羽尚吾

saizenseki20210130マオの寄宿學校情報解禁

 

 

 

 

 

 

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