久保田秀敏×水石亜飛夢「錆びつきジャックは死ぬほど死にたい」初日直前対談|Theater letter 02

死ねないからこそじわじわと苦しい……久保田秀敏×水石亜飛夢「錆びつきジャックは死ぬほど死にたい」初日直前スペシャル対談!

永久(とわ)に生きる──だから、見守る。
これは、かつて人間だったらしい機械人間ジャックの数千年に渡る物語。
ド派手にぶっ飛び、けれど繊細、心躍る舞台を届ける、劇団ポップンマッシュルームチキン野郎(PMC)がチケットぴあとタッグを組んだ、この舞台。その中身が気になって、本番5日前の稽古場に突撃。笑いが絶えず、けれど真摯な稽古風景とともに、初日直前対談をここにお届け。

 

最善席 錆びつきジャック

 

主演にして望まぬまま機械人間にされてしまったジャックを演じる久保田秀敏と、理由(わけ)あってジャックに見守られるサエない青年、正田幸雄を演じる水石亜飛夢のふたりが語る、役者としての発見と思いとは──。

 

互いについて、想うこと

 

──これからいよいよ、最終稽古に突入するということです。

久保田:実はポップンさんのイメージ的にもっとずっとぶっ飛んだ役かと思っていたら、すごく芯のある役でした。

水石:僕もなかなか演じたことのない役柄なので楽しいです。これまで触れたことのない世界観で、自分で「これはおもしろいのかな?」と思いながらやっているときも、周りの皆さんが笑ってくれるから、ああ、これでいいんだ、と確認できる……そういった環境が初めてで、すごく新鮮です。

久保田:確かに、不思議な世界観でメイクもしっかりしてもらって、衣装もすごく凝ったものを作っていただけて、初めてのことだらけなので出演できてよかったです。

水石:周りの皆さんの衣装はとても派手なんですが、ぼくは眼鏡でわりと普通の服装なので、客席の皆さんを作品世界に連れて行く役どころでもあるんです。
 舞台の上には一見、破茶目茶な世界が広がっていますが、内容は一本、筋が通っていて、心があったかくなるし、うれしくなる物語です。

久保田:ジャックは紀元前に生まれて、とある理由で機械人間にされて現代まで生きている存在で、いろんなことをどんどん忘れていってしまう……でも、幸福な気持ちは残っていて、だから寂しい。最初はコメディなんだけど、だんだんシリアスになっていて、実は今、稽古場で本当に泣いてしまうこともあります……。

水石:すごいんです! すごく難しいことをされている……感情がないわけではない、だけど機械で。
 その心の動きや内面は秀さん自身しかわからないことだけど、稽古場で秀さんが日に日に脚本の中に息づくジャックにどんどん近づいているのを感じています。それは僕だけでなく皆さんも同じで、観ていると一緒に切なくなってしまうし、心動いてしまう。もともとダンスもすごくうまくて身体表現の力が優れているので気持ちがあふれてくるのがわかるんです。

久保田:でも、みんなは踊るんだけど僕はなにもしないから「いいなー、踊りたいなー」って観ています(笑)。ただ、僕は今回、周りをつなぐ役だから、ばーんと派手に行くのではなくあえて抑えて演じています。
 大切な人の幸せを見守ることは幸せだけれど、みんな、いずれは死んでいってしまう……でもジャックは生き続けていく。これは「死」の物語で、死ねないからこそじわじわと苦しい。

水石:そういう意味では、神様みたいな存在です。

久保田:でも人間の部分もあるので、最後にジャックの抱いた感情をどう表現してどう伝えるか……どれくらい伝えられるかが鍵だと思っています。

水石:だから今までに見たことのない、秀さんを観ることができると思います。繊細でひとつひとつの表情がちがう……ひとつも見逃さないでほしいです。

──久保田さんから見た、水石さんはいかがでしょう。デビュー作である、2012年のミュージカル『テニスの王子様』から共演されています。

久保田:そっか、テニミュがデビュー作か。

水石:はい!

久保田:だとしたら「末恐ろしい」の一言です。ゼロからのスタートって、スポンジに例えるならものすごい量を吸収できるわけで。
 テニミュが終わってから久々の再会ですが、お世辞でも何でも無く改めてその成長っぷりがすごい。稽古場での立ち居振る舞いにも台詞ひとつにも軸があって「役者」を感じます。

水石:最初から観ていてくれる方から、そんな風に言っていただけるのはとてもうれしいです。

久保田:……と、持ち上げてみました!(笑)

水石:それでも、うれしいです!(笑)

──互いへのリスペクトとそこはかとない照れ(?)も感じられ、すてきです。

久保田:こうして、また会えたりするのはこの仕事のおもしろいところだと思いますね。

 

最善席 錆びつきジャック

最善席 錆びつきジャック

演出中の吹原幸太さん。

 

演出される、喜びを知る

 

──劇団主宰で脚本と演出を手がける吹原幸太さんによれば、今回の劇団客演を「サファリパークに猫を放り込む」と例えていましたが……。

久保田:稽古中盤でようやく水場に辿りつけて、一息付けたかな……という感じです(笑)。

水石:稽古場はとても楽しいんですが、すごく真面目で、とにかく皆さんの引き出しが多いんです。
 自分からは決して出てこない世界ががたくさんあって学ぶことだらけで、この期間にできるだけ手に入れようと、ものすごく意識して観ています。

久保田:笑いについて、ものすごく学んでいます。僕はどちらかというとボケたいタイプなんですが、それをやると「狙いに行っちゃっているように見える」と止められることが多くて。
 そうではなくて普通に会話している、その動きと台詞のギャップや間で笑いが起きる、というおもしろさを今、教わっています。今まで、そういったことを意識せずにコメディを観ていたけれど、0.0何秒かのズレで笑ってしまう、実にすごく緻密に計算された、こんなにも繊細なものなんだということを初めて知って驚いています。今まで「笑い」に苦手意識があったんですが、改めてその要素や組み立てを知り、視野が広がっているのを感じます。

水石:そうなんです。お笑いのコントといったものとはちがう。場面としての台詞に意味があって会話が成立していて、気持ちも込められているのに、互いの間やトーンで笑わせてしまう……そんな舞台を作り上げている、役者さんや演出する吹原さんはすごい。自分もいつか、そういったことをできるようになりたいと思います。

──実際に吹原さんの演出を受けて、いかがでしょう。

水石:吹原さんは的確に抑えて、わかりやすく言ってくれる方なんです。劇団員の方だけでなく、僕ら客演にも伝わる言葉を選んでくれる。だから、言われると「あっ、そうだな」と納得できて「確かにそういうところがあるな」と振り返ることができます。
 だから今回、笑いだけでなく技術的なことも含めて、役者として鍛えていただいている感じがします。

久保田:この例えがあっているかどうかわからないんですけど、吹原さんは僕ら役者にとっての、すごく良いお医者さんなんです。僕らはいろいろな舞台でいろいろな芝居をしていますが、そこでいろいろなクセを付けてしまう。それは、その舞台では必要だったけど次の舞台ではいらないものだったりする。
 吹原さんはそこを瞬時に見分けて、医者のように診断して、さらに分かるように言ってくれる。その言葉で僕らはいったん、ニュートラルに戻れます。稽古が続くと台詞もだんだん慣れてきて歌っちゃうことがあって、しゃべる、というより言いやすいリズムにハマっちゃうことがあるんですが、そういったことも見つけて言ってくれる……すごくありがたい存在です。

 

最善席 錆びつきジャック

最善席 錆びつきジャック

 

一緒に、破茶目茶になりましょう!

 

──たくさんのことを手に入した舞台だと感じますが、まもなく迎える初日に向けて一言、お願いします。

久保田:オムニバス形式の物語で、ジャックはその真中で人々をつなぎ、見守ります。いろいろなところでそれぞれの関係が浮かび上がり、観ていて「あっ」となるところも多いと思います。なので、繰り返し観てほしいです。

水石:題材がハロウィンで、機械人間で、一体、どんな話だろうと思っている方も多いと思いますが、歌あり、踊りあり、涙あり、笑いありと全部揃っているエンタメです。一歩、劇場に入ったら、もう否応なく作品世界に取り込まれてしまうと思いますが、さらに僕らもものすごく楽しませます!

久保田:おおいに混乱しに来てください。きっと笑ったり、泣いたりしてしまうと思うので、心のままに揺れてください。

 

彼らが紡ぐ、劇団ポップンマッシュルームぴあ野郎「錆びつきジャックは死ぬほど死にたい」は10月28日(水)〜11月3日(火・祝)、CBGKシブゲキ!! (東京)にて上演。

 

先週公開されたキャスト写真も、こちらにお届け。
「衣装で、頭のサイズまで計られたのは生まれて初めてです」と久保田さん。
「小道具もすべてひとつ、ひとつ手作りで愛情がこもっています」と水石さん。
実はそれぞれ、他にも演じる役が……あるかも!?

 

【ビジュアル画像】久保田秀敏(ジャック役)

最善席 錆びつきジャック(正田幸雄)

 

取材・文/おーちようこ 2015年10月23日(金)都内稽古場にて収録

取材後記:初日に向け、これから三日間がっつりと詰めて稽古を行うという直前にお話を伺いました。そのまま稽古も見学させていただきましたが、実はかつて私が写真集や『シャンゼリオンバイブル』なるムックを作らせていただいた、特別出演の萩野崇さんとものすごく久々にお会いして、ご挨拶。

なんと、演出の吹原さんが萩野さんのデビュー作で主演作で特撮史上最強の問題作(笑)『超光戦士シャンゼリオン』をこよなく愛しておられるという話から隅っこで、静かに盛り上がり。吹原さんの「僕らは今、燦然!中なんです」というお言葉に感じ入り……そして、久々に聞きました「サバじゃねえ!」。やや内輪受けなことをお詫びしつつ、萩野さんのお写真も掲載。超飛び道具な役で登場!

 

最善席 錆びつきジャック

 ※すべての記事と写真の無断転載はおやめください。

 

劇団ポップンマッシュルームぴあ野郎

「錆びつきジャックは死ぬほど死にたい」

公式サイト

チケット絶賛発売中! 当日券のご用意もあります。

公演日: 2015年10月28日(水)〜11月3日(火・祝)

会場:CBGKシブゲキ!!

作・演出・出演:吹原幸太

出演:久保田秀敏、愛加あゆ

 加藤慎吾、小岩崎小恵、サイショモンドダスト★、CR岡本物語、増田赤カブト、野口オリジナル、吉田翔吾、NPO法人、渡辺裕太、横尾下下、井上ほたてひも、高橋ゆき、吹原幸太(以上、ポップンマッシュルームチキン野郎)

美津乃あわ、今井孝祐、安倍康律、塩崎こうせい(X-QUEST)、土屋兼久(劇団6番シード)、清水ひめ乃

水石亜飛夢

特別出演:萩野 崇

アンサンブル出演:大石敦士、海雲千帆、木村圭介、田口真太朗、ハマサキカズユキ、原田将司、日向翔梧、諸星利紀(ペーチカトライブ)

 

錆びつきジャックは死ぬほど死にたい

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