ゆく年く・る年 冬の陣 師走明治座時代劇祭/板垣恭一&杉江大志インタビュー

Theater letter──不定期連載でお届けする、好きなものだけ集めた、舞台からの手紙。

 2011年、『SENGOKU NABE MATSURI新春戦国鍋祭~あんまり近づきすぎると斬られちゃうよ~』で産声をあげた、る・ひまわりプロデュース公演。その初演をはじめシリーズ最多を手がける演出家の板垣恭一さん。そして今年、数多の主演舞台を経て、二年ぶりにこのシリーズに出演する杉江大志さんが登場。
 お二人の対談とそれぞれの今の思いをここにお届け。

最善席20171225

板垣恭一&杉江大志 対談

 

型を作ることで心が寄り添う

──杉江さんは、2014年の『聖☆明治座・るの祭典〜あんまりカブると怒られちゃうよ〜』では森蘭丸役で出演、2015年の『滝口炎上』では大河内奈々子さん演じる、たまの異父弟の本庄宗資と、どちらかといえば可愛いらしい役でしたが、今回の木村重成は物語の核をにぎる存在です。
板垣:確かに今回、難しい役どころを託してます、ってこと……わかってるのかなあ……。
杉江:わかってます! わかっているけど、できていないのもわかっています……だから今、稽古場で怒られてます。
──怒られている……脚本を読まれていかがでしたか?
杉江:まず、木村重成という役がつかめなくて。「いろいろ企んでいる人だよ」と説明されて、その企む感じをどう出したらいいのかわからなくて苦労しています。いつもだったら、とっくにそういったことは終えて、というか、稽古初日には掴んでいて、次の段階に入っていたいところなんですが、そこにたどり着いていないので焦っています。
──確かに真意が見えない存在でもあります。
板垣:そう。だから、見えなくていいんです。そのままの役をやっていればいい。
──と、いうと?
板垣:この公演に限らずですが、役者さんが難しく考えてすぎてしまうことがあって、よく「隠している気持ちをどう演じたらいいですか?」と聞かれますが答えははっきりしていて、本心を隠している二重構造の場合、下は隠しているから演じなくていいんです。
 それを演じてしまったら見えてしまうから必要ありません、と。ただし、その隠しているフタをいつ開けるか?は脚本に書いてあるから、そこで出す。あとは「この一瞬だけ悪い顔をしてください」と、ちょっとだけフタをずらすタイミングを作ることで、お客さんが「あれ?」って思う……といった演出上の計算はしますが、それ以外はやらなくてもいいんです。
杉江:はい。
板垣:だから二重構造に限らず、演技というのは常に一番上を見せるものだということと、あと人はいっぺんに一つのことしかできない、だから、今、どちらを見せるべきかということを杉江くんには話しています。
杉江:……稽古場でもそのことは言っていただいていて……ただ、脚本を読んでいると、ずっと上を見せていて二重構造の下を見せる瞬間が見つけられないんです。
 だから僕自身が脚本に書かれている以外の場所で、その下を見せる瞬間、というのを見つけて出せたらいいんだと思うんですが……うう……見つからぬ……と。
──それを受けての質問です。とはいえ、いつかフタを開けるのであれば、二重構造の下も作っておかなければならないかと。
板垣:もちろん、それはそうです。でも誤解もありまして……。これ、大きく書いてほしいんですが、すべては『ガラスの仮面』の影響だと思うんですが(笑)、気持ちができたからといって演技ができるわけではありません。
──なんと!
板垣:確かに気持ちを作ることで演じることができることもありますが、それは稀(まれ)なことで、むしろ形ができることで、気持ちが引っ張られることのほうが絶対に多いんです。
杉江:ですが、たとえばあるシーンで、なにかを演じるにあたって考えることは必要だと思っていて。
板垣:もちろん、その「心」については考える必要はあります。
杉江:そうなんです。でも、今、その「心」ができていないことを板垣さんに見透かされてしまっていながら、稽古している状態で、怒られているところです……。
 ただ、そこで「ダメだなあ」と凹むのではなく。じゃあ、どうしたらいいのか、と試行錯誤しています。
板垣:うん、そうだね。役の気持ちを考えなくてはダメだし、もっと言うなら、役者として何をしたいの? なぜ、役者になったの? というところまで俺は突き詰めてしまうんだけど。だって、ちやほやされたいから役者になったんなら、そんな動機の人はすぐにいなくなくっちゃうからね。
──なかなかに手厳しい……実は2011年、雑誌の取材で『SENGOKU NABE MATSURI新春戦国鍋祭~あんまり近づきすぎると斬られちゃうよ~』でお話を伺った当時から同じことをおっしゃっています。
板垣:あ、そうでしたか(笑)。でも、なぜって俺たちは、役者さんたちに食わせてもらっているんだから、みんなが独り立ちできるようにすることは大切なことなんです。
杉江:……ありがたいことです。
板垣:ただ、手助けしかできないから。それに、これは若手俳優だから言う、ということではなくて、キャリアがある俳優の方だとしても聞かれたら同じことを答えます。なので、もし、今、言えることがあるとしたら「なにがわからないか?」をわかることが大切です……と、まるで稽古場の話みたいになってますが(笑)。
 ただ、僕は演出家だから形だけで作ることもできます。「ここで、この位置に行きなさい」とかね。でも、なぜそこに行くのかは自分で作って、自分の意思で行ってほしい。
──形で作ることができる、ということは演出家の方は、それが見えている、ということでしょうか。
板垣:刻一刻と状況は変わっていくものなので、常にわかる、というわけではありませんが、今、このときなら、これがいいだろうということはわかります。
杉江:なので、今、僕が追いついていなくて、おまえ、まだ、ここかよ、と怒られている、という状況です。
──ありがとうございます。最後にお互いに一言、お願いいたします。
杉江:前回出演から2年の間に少しは成長したかな……と思っていたら、意外とまだまだだったので初日まで、少しでもできるよう、全力を尽くします。
板垣:お、好感度をあげてきたな(笑)。
杉江:はい! まだ稽古半分残っていますので!!
板垣:今、ここががんばりどきです。ここを越えたら、ちがう景色が待っていると思うし、いいものを持っているので発揮できるのではないかと。
杉江:ありがとうございます……! なので、ぜひ、観に来てください。
板垣:よろしくお願いします。

 

板垣恭一さんインタビュー

 

現代を描くことが芝居の宿命です

 ──今回は演出だけでなく構成も手がけられています。脚本を拝読しましたが、これまでの史実にそった歴史上の人物の群像劇というだけでなく、安西慎太郎さん演じる片倉重長の葛藤や成長も描かれます。
板垣:そうですね。今回は、脚本にも参加していて、今まで通りバカバカしく楽しいこともやっているんだけど、お話もきっちり見せようと、というところでは少し変わってきていますね。
──変わってきている理由は?
板垣:脚本から参加するからには、そういった要素も盛り込みたいと思ったからです。あとは続いているから、できることが増えたというのもあります。
 プロデュース公演ではありますが、何度も出演してくれているお兄ちゃんたちが、新たに入ったキャストの面倒も見てくれて、たとえば稽古場で消化しきれないことがあると助言してくれたりして、今、疑似劇団みたいな空気ができあがっているんです。
──それはやはり、今までの積み重ねがあったからこそで、場が続くことで役者も育まれていったのではないかと感じます。
板垣:もし、そういうふうに見えているならありがたいことですね。
──それらを観て感じることですが、板垣さんの手がける舞台はキャスト全員に見せ場があります。
板垣:それは僕のこだわりです。役者を「その他大勢」で使うのがいやなんですね。そういう舞台を観るのも好きではないので。ただ、見せ場は作りますが、そこをどう活かすは役者の技量だと思います。同時に舞台は時代を映すものであるべきだと考えています。
──なぜでしょう。
板垣:昔はメディアが無かったから、芝居は娯楽でもあるけど世相を知る手段でもあったんですね。だからこそ生で見てほしいし、生である以上は現代を描かなければならないんです。だから、そういう意味では普遍的な話でもいいんです。だって、人の営みは変わらないから。
 あわせて、これは説明すると長くなってしまうのではぶきますが、僕は一時期、演出家を辞めていた時期があって、再び始めたときにやっぱり芝居というものの宿命として現代を描くべきだと思ったんです。今はDVDといった映像でも追体験できますが、やっぱり「今、観る」ことを大切にしたい。たとえば2015年の『晦日明治座 納め・る祭』で三上真史さん演じる坂上田村麻呂玉が他人の心の声が聞こえすぎてナーバスになっている……というのは、僕が案を出しましたが、実はSNSのことを指していて、人の声ばっかり気にしている現代人の病を現しています。
──あっ、なるほど……!
板垣:なので、今回も現代の人が陥っている病をテーマに盛り込んでいるので、そういったことも感じてもらえたらいいなと思っています。

 

杉江大志さんインタビュー

 

MAN WITH A KABUTO

 

今、恐ろしいと思っています

 ──久々の明治座出演です。
杉江:すっごい楽しみで、苦しんでいますけどそれも楽しんでいます。なにより年越えのカウントダウン公演があることがうれしくて。去年はそれがなかったから、家でテレビを観ていて「あれ、なんで、俺、ここにいるんだろう」って思っちゃったから(笑)。今年はうれしいです。
 今回、セットがすごくて、さらに明治座は舞台が廻るので自分がどこから出るのか、移動を覚えるのも大変です。でも、そういった経験ができるのもこの舞台ならではですし、なによりご覧になる方はとても楽しめると思います。
──常々、すてきだなと思っているのが、このシリーズで初めて明治座に足を運ぶお客さまもおられて、それによってひとつの観劇文化みたいなものが継承されていく、ということです。さらにキャストの方々も、撮影で紋付き袴を着ておられたりといろいろな経験をされています。
杉江:なかなかないですからね。でも、着物は好きなので、もっともっと着る機会があるといいなと思っています。
──第二部の各戦国芸能プロダクションから選りすぐりのアイドルメンバーが参加するという、ショー。「プロデュース1615」ではDTE(伊達エンターテインメント)所属の「MEN WITH A KABUTO」のメンバー、星鍬形として出演します。
杉江:兜の付喪神のユニットです(笑)。きっと、誰かが顕現させてくれたんでしょう。兜の思いを歌っています。
 改めて写真を見ると、すごくかっこいいですね……これ、メイクにこだわったんです。みんな、濃い目だったから、僕も「もっと濃くしてください。目元もパンダみたいにしてください」ってお願いしました(笑)。ダンスもキレキレですので、こちらも楽しみにしていてください。
──難しい役どころ、というなかで、先輩だけでなく豊臣秀頼役の永田崇人さんや真田幸村役の佐奈宏紀さんといった後輩のキャストも増えましたがいかがでしょう。
杉江:宏紀くんは若いですが肝がどっしり座っていて……恐ろしいです。
──恐ろしい……?
杉江:はい。今、自分がつまずいていることもあるからなんですが。演技に関して容赦ないというか。乳兄弟で、側近として僕が仕える豊臣秀頼役の崇人くんもすごくうまくて、お芝居が好きなんだな……という空気がひしひしと伝わってきて、ものすごく向き合っているな、と感じています。
 だからその分、いろんな提案も出てくるし、次々と投げかけてくれるので応えられないことにはがゆさも感じています……。
──そうして切磋琢磨されている環境も、素直に「恐ろしい」と言葉にできる、そのこともすてきです。さらに今回、豊臣組には淀殿役で宝塚トップスターの紫吹淳さんもおられます。
杉江:紫吹さんは眼を見て、芝居をすると食われそうになります……すごく圧を感じます。その紫吹さんと一緒にいる大野治長役の林剛史さんは関西弁でしゃべっていて、活き活きされています。おふたりのシーンは見た目とのギャップがおもしろいので、本筋とは離れたところでの見所だと思います。
──最後に一言、お願いします。
杉江:先日、まずは通して稽古をつけていただいたところです。最後まで通すことで木村重成がどう変化するのか、さらに、このシーンはこうだよ、こっちのシーンはこうだよ、といった型をつけていただいたので、この先はそれらをつないで、なぜそうなるのかを僕が自分で考えていかなければ……という感じです。
 今回、板垣さんにはとてもていねいに本読みから付き合っていただいています。だからこそ、演じることで返したいですし、ここから巻き返します! 初日を楽しみにしていてください。

 

板垣恭一/いたがき・きょういち 東京都出身。演出家。
日大芸術学部演劇学科、第三舞台を経て、フリーの演出家に。以降、数々のプロデュース公演を演出。映像ディレクターとしても活動。 2011年の『SENGOKU NABE MATSURI新春戦国鍋祭~あんまり近づきすぎると斬られちゃうよ~』からシリーズ最多の演出を手がける。

杉江大志/すぎえ・たいし 1992年5月7日生まれ。取材時、25歳。
ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン、一氏ユウジ役でデビュー。以後、さまざまな作品に出演、2017年にはミュージカル『スタミュ』 主演の星谷悠太役、『Messiah メサイア-悠久乃刻-』W主演の加々美いつき役など舞台を中心に活躍。

20171218る・ひまわり対談

取材・文・撮影/おーちようこ 2017年12月、都内稽古場収録

公演情報

ゆく年く・る年 冬の陣 師走明治座時代劇祭
公式サイト http://www.rutoshi.com/

る年祭 チラシ表-s

・2017/12/28(木) 〜 2017/12/31(日)  明治座(東京都)
・2018/1/13(土) 梅田芸術劇場メインホール(大阪府)

◆第一部 お芝居「SANADAMA・る」
伊達主従目線で真田一族と大坂の陣を描く、笑いあり、涙あり、歌あり、踊りありのエンターテインメント時代劇

◆第二部 ショー「プロデュース1615」
戦国武将たちで結成されたアイドルユニットによるLIVE ※日替わりゲストあり

構成・演出:板垣恭一
脚本:赤澤ムック

出演:安西慎太郎(W主演) 辻本祐樹(W主演)
佐奈宏紀 永田崇人 杉江大志 小沼将太 碕理人 白又敦
田中涼星 蒼木陣 滝川広大 小原悠輝 佐藤貴史 宮下雄也 井深克彦 中村龍介 二瓶拓也 加藤啓/
滝口幸広 林剛史 兼崎健太郎/
内藤大希 木ノ本嶺浩/
大山真志 原田優一/  
松村雄基/
紫吹淳

 

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